第17話 転生3日目1-4
それではまず、等級5ポーションを作ってしまおう。ひとまず今回はアキナと同じく『治癒のポーション』と『スタミナポーション』を各50本の予定だ。陣は描き直しになるのだが、材料は等級外ポーションの材料に動物性の素材を混ぜるだけなので、揃えるのは比較的楽に済む。
いつもの様にあっという間に陣を描き終えたので、そのまま錬成作業へと移行する。とは言っても、難易度も等級外ポーションとさほど変わらないのと、若干錬成の安定性が落ちる程度なので、二時間もかからずに問題なく100本程の錬成が完了してしまった。今回も前回同様全て高品質で仕上げることができた。
『この感じだと等級4ぐらいまでなら全品、高品質を維持できそうだなぁ』と考えながら後ろの机を見てみると、アキナが楽しそうに錬成作業を続けていた。どうやら途中で追い越してしまったようで、出荷箱の中を見ると、だいたい60本目程を完成させたところであった。
錬成を見る限り、いくつかスキルも覚えているみたいなので、嬉しそうに錬成作業を繰り返している光景はなんだか非常に微笑ましかった。次の錬成に入る前に、お昼に出したお茶をまた淹れ直して差し入れをしておく。
さて、それでは俺の方は次の錬成に取り掛かるとしますか。
まずは基本となりそうな『石鹸』から作っていくことにする。それに、材料も全て既存のレシピで作製可能だ。たぶん素材から考えても錬成陣は等級5のポーションを作った時のものを使い回せるはずなので、そのまま使っていくことにする。駄目ならば描き直せばいい話しだ。
石鹸の起源はとても古く、元々は釜戸の付近で動物を焼いた時に出た油と薪の灰が合わさってできたものが始まりなんだそうだ。すなわち、油とアルカリ性の物質の化学変化で作ることができるので、まずは石灰からアルカリ性化合物を精製していくことにする。
錬成陣に買ってきた『石灰岩』と実験室に備蓄されている『蒸留水』を使って『重曹』を作製する。
このレシピはゲームの時にも既に存在していたし、作業難易度的にも難しくないので、特に問題なく作製することができた。しかも無駄に高品質品である。
そして、できたばかりの『重曹』に今度は魔石を追加して再度錬成し『苛性ソーダ』を作製していく。『苛性ソーダ』はゲーム時代はガラス系の錬成に使っていたが、まさか別の用途で使うことになるとは思ってもみなかった。これで、材料の一つのアルカリ性化合物の完成である。地球の科学者が聞いたら呆れるほど簡単に作れてしまった。
次は『油』の作製になるのだが、市販されていた『油』は混ぜ物が多く、品質もあまりよろしくなかったので、こちらも自分で錬成することにする。
こちらの世界でよく『油』の材料となる植物でナリブーの実というものがある。これの種を割って出てきた種子を絞ることで錬成しなくても『油』を得ることができるのだが、今回は時間節約のため錬成でぱぱっと作製してしまう。錬成陣にナリブーの実と空の瓶を置いてさくっと錬成し、更にできたものに魔石を追加して『グリセリン』とそれ以外に残った『油(グリセリン-)』に分解しておく。『グリセリン』はこの後でリンスの材料になってもらうので大事に保管することにする。
さて、ここからが問題である。今までに石鹸は作成したことはないのでレシピ自体は存在はしていない。そもそもゲーム時代はアブルの実で特に問題なかったので、石鹸を作るという発想がなかったのだが、こちらが現実になるとやはりアブルの実ではだいぶ物足りなく感じてしまった。やっぱり風呂ではアワアワで洗わないと違和感があるし、洗い終りの爽快感がまったくアブルの実にはなかったのだ。
「さてと、地球での材料は揃えましたので、後は錬成するだけなんですが。これは上手くいくのかな?」
最悪材料は揃っているので、後はここから錬成に頼らず手作りでもいいのだが、せっかく異世界定番と言える便利な錬金術があるのだから、是非これで試してみたい。それに、新レシピ発見は職人さんにとって代えがたい喜びでもあるのだ。その誘惑に駆られたこともあって、今回は錬金術で試してみることにする。
『錬成材料からいって、そこまで難易度の高い物ではないのだから、絶対に成功するはず』そう心に言い聞かせて錬成陣の上に素材を置いていく。まずは『油(グリセリン-)』『苛性ソーダ』それと香り付けのためにお茶にも使ったミントとパリムの実の皮を置いてみる。
「それではいってみますか。転生初、新レシピ開発の第一弾!上手くいってくださいよ!」
祈りを込めて錬成を試みる。錬成陣の中を観察してみると最初は安定していたのだが香料代わりに複数入れた素材が反発し合って暴走しかけているので、錬成が失敗しないように上手くスキルを加えながら安定性を保たせて錬成を続けていく。そして最後に大きな輝きと共に、錬成が無事に完了した。この最後に大きく輝くのは新レシピを開発できた合図なので期待を込めて陣の真ん中に置かれた、淡く透き通った赤い完成品を鑑定してみる。
アイテム名
『アルカリ石鹸』(パリムミントの香り)×3
アルカリ性の石鹸。汚れがよく落ちる。使用すると良い香りがする。
作成者:那戳 <新レシピ解放>
(よし!新レシピとして作製できたぞ!!)
どうやら単一の香りではなかったため作製難易度が上がってしまったようだ。この感動をアキナにも伝えようと後ろを振り向くと、彼女はどうやら自分の錬成に没頭していて、さっきの光に気づかなかったようである。今だニコニコ楽しそうに錬成を続けていた。
まぁ新レシピといっても石鹸だし。そこまで喜ぶこともないかと、苦笑いをして次の錬成に取り掛かることにした。
(べ・・別に寂しくなんかないんだからね・・・・、ぐすん)
続いて此方も初レシピになるはずの『シャンプー』を作っていく。こちらもレシピはないが、石鹸が作れたので、たぶん問題なく作れるだろう。まずはせっかくなので空の瓶を錬成で香水瓶のような形に変形させる。この大きさの石鹸1つ使えばサイズ的に2本は作れそうなので、もう一本同じものを作製する。
今回は素材を錬成する必要はないので、後はこのまま錬成陣に並べる。
先ほど作った『石鹸』『蒸留水』『ハチミツ』それと香り付きの物は素材として錬成すると匂いが飛んでしまうことがあるので、香料として市場で買った『バラの香油』を少量加える。素材はこれでいけるはず、それと先ほど用意した瓶を2本並べて準備完了である。
錬成を開始してみると、こちらは驚くほどあっさりと錬成が完了し、最後に大きく輝いて陣の中には瓶に詰まったシャンプーが完成していた。やはり香料は絞った方がよさそうだ。
アイテム名
『シャンプー』(バラの香り)×2
頭髪専用の薬剤、汚れがよく落ちる。髪への修復効果小。使用すると良い香りがする。
作成者:那戳 <新レシピ解放>
(ふっふふ、連続新レシピ解放できましたね!)
このテンションのまま次へと、ドンドン突き進むことにする。
最後は『リンス』の予定だ。こちらは理屈から言えばそこまで難しいことはない。要は、髪に残ったアルカリ成分を酸性の物で中和し、更に保護に適した素材を用意すればいいのだから。
まずはシャンプー同様、こちらも2本分空き瓶を加工して香水瓶の様な形に作製する。まったくシャンプーと同じだと紛らわしいので、こっちは少し丸みの強い形にしてみた。
今回使うのは市場で見つけたレモンに似た『パレンの実』を使用する。味もレモンそっくりなので問題なくいけるはずだ。ただ、このまま使うと成分が強すぎるのと匂いが強いのでせっかくのシャンプーの香りを食ってしまいかねないので錬成して『クエン酸』を作ることにする。残ったものは、甘い果物のような物になるので、後でお茶の材料にするのもいいだろう。
錬成陣に今作った『クエン酸』用意してあった『グリセリン』『ハチミツ』香料としてシャンプーにも使った『バラの香油』『香水瓶型の容器』2本をセットして錬成を開始する。
こちらも驚くほどあっさりと、大きく輝いた後に練成が完了した。
アイテム名
『リンス』(バラの香り)×2
頭髪専用の薬剤、髪への修復効果大。使用すると良い香りがする。
作成者:那戳 <新レシピ解放>
取り敢えず、これで予定の錬成はすべて終了した。道具を片付けながら、先ほどクエン酸を抜かれて甘みだけの残ったパレンの実を薄くスライスしてハーブティーに入れて楽しむことにする。
(ふむ、甘くて良い香りのお茶を淹れることができたな)
「やっと終わった!疲れました・・・」
どうやらアキナも錬成が終了したみたいである。丁度お茶を淹れたばかりだったので、彼女にもカップに注いで手渡した。
「ありがとうございます。今度は甘いお茶なんですね、これもとっても美味しいです!」
「錬成の残った材料で作ってみたんですが、なかなか良い物ができました。アキもお疲れ様です」
「先生もポーション作り終わったんですか?」
「えぇ、先ほど終わってひと息ついてたところですよ。パリムの実でも剥きましょうか?」
「わぁい、お願いします!」
パリムの実を包丁で剥きながら、この後の予定を考えているとドアから来客を告げるチャイムがなった。そういえば、ミーシャが後でアキナのギルドカードを持ってきてくれる予定だったことを思い出し、特に確認もしないままドアのロックを解除してしまった。
そうすると、勢いよく扉が開き左脇にグッタリしたミーシャを抱えたアメリアが満面の笑みで室内に突入してきた。
「ナタク君がまっ昼間から美人の彼女を実験室に連れ込んで、小さなお子様には言えないような巡るめく愛の楽園を繰り広げているって言うのは本当かい!!」
アキナが盛大にお茶を噴いている。自分も危うく指を切り落としかけた・・・・
「するわけないでしょ!!てか、何しにきたんですか!!!」
「なんだ、やっぱりガセ情報か。せっかく『初めて彼女を家に連れ込んでイチャつこうとしたのに、タイミングよく母親が乱入してくる思春期の男の子』っていう遊びができると思ったのに。いやぁ、まったくもって残念だよ。っけ」
「随分と具体的な遊びですね!!てか、抱えられたミーシャさんは、いったいどうしたんですか?」
「あぁ、これかい?これは君の実験室の扉にへばり付いて中の様子を伺ってたから、捕獲してごうも・・・お話をして、どういった状況になっているかを聞いただけさ」
「参考までに、どういった方法で聞き出したんですか?」
「なぁに、ちょっと10分ばかし椅子に縛り付けて、くすぐり続けたら素直に全部はいてくれたよ!ただ、腰が砕けて立てないそうなので担いできただけさ!」
毎回毎回本当に彼女はついてない。そもそも、部屋の扉は防音のため、いくら耳つけても聞こえないと思うんだが・・・・
「冗談はさておき、君がアキナ君か!いや~本当に美人さんじゃないか、よろしくね。私は錬金ギルド二級研究員のアメリア・ローレンスだ。ナタク君の隣の実験室が私の部屋だから気軽に訪ねて来てくれたまえ、歓迎するよ」
「・・ごほ。はじめまして、アキナといいます。ナタク先生に弟子入りをして今は錬金術を学んでいます、こちらこそどうぞよろしくお願いします」
「声も可愛いじゃないか、ナタク君も隅に置けないねぇ。あ、お茶をしていたのかい?私にも一杯いただけないだろうか?自分の実験室の引越しの荷解きがなかなか終わらなくてね。茶葉がどこにあるかも解らない状況で、ろくにお茶も飲めていないのだよ」
「構いませんよ、自家製のブレンドのハーブティーなんですがよろしいですか?」
「おぉ、いいね。ハーブティーも私は好きだよ。いったいどんな味が楽しめるかワクワクするね」
苦笑いしながらお茶請けのパリムの実を差し出して、それからハーブティーを人数分用意していく。勿論やっとのことで椅子に座れたミーシャの分もちゃんと用意する。
(この人は本当に昨日からずっと不憫だ・・・・)
お茶の準備をしている最中に、ふとアメリアを見て、良い事を思いついてしまった。休憩を挟んで錬成を続ける予定だったが、予定を繰り上げて“ある実験”をしてしまおう!
はっはは~私の再登場だよ!ヾ(*´∀`*)ノ