第28話
※第二層の説明に大きな誤りがあったため、該当部分を削除させて頂きました。(2019/7/25)
このアルカディアの世界におけるダンジョンには、大きく分けて二つのタイプが存在した。
それが、防衛型と浸潤型のダンジョンである。
まず防衛型についてだが、こちらはこの世界でもっとも多く確認されているタイプのダンジョンとなっており。その大きな特徴としてまず挙げられるのが、最初に生成された基本的な構造や生息する魔物の種族などが、時間経過で特に変化することが無いことである。
またこのタイプは比較的安定しており、仮にダンジョンの発見が遅れ長い間放置されたとしても、守護する魔物のレベルが上がったり再配置の間隔がより短縮される程度で済むため、むしろ早期に発見できた若いダンジョンなどは攻略自体が禁止され、内部から収穫できる魔物素材の質をより高めようと考える統治者もいるほどであった。
ただし、発生直後からダンジョンの大きさが変わることがない代わりに、宝箱からの出現するアイテムも同じような品しかドロップしないため、戦闘を避けがちな宝探しを生業とする者達にはあまり人気が無く。むしろ魔物の再POPの間隔が圧倒的に早いことを利用した育成をメインに考えるプレイヤーや、軍隊の修練場として。あるいは、単純に魔物から得られるドロップアイテムの収益を狙った冒険者などが、好んでこの場所を攻略していた。
そしてもう一方の浸潤型のダンジョンについてだが、こちらは発生条件の成り立ちからして特殊であるため未だに謎も多く。ある者は『防衛型ダンジョンが二つ同時に重なったことによって、無限にその規模を増大させ続けるようになってしまった』といった主張をしていたり、また『防衛型のダンジョンに複数の龍脈が重なり合ってしまったため、莫大なエネルギーの供給過多が発生した結果だ』などと持論を展開する学者も多く存在していた。
そして数ある仮説の一つに『浸潤型のダンジョンにはそれぞれダンジョンマスターが存在しており、その者が日々ダンジョンを創り変えているのでは?』といった突拍子のないモノまでもが存在するが、その真相を確かめた者は未だかつて誰一人としていないため、どれも推測の域を脱するモノではなかった。
ただ現状分かっているのは、この浸潤型のダンジョンでは年単位でダンジョン領域の拡張が確認されていること。また、内部構造も日々進化をし続けてる性質から防衛型よりも難易度が高く評価されており、宝箱からドロップするアイテムも多種多様であるため、得られる富を狙って集まった人々によって態々ダンジョンの上に『迷宮都市』が造られることも多く。一攫千金を夢見る冒険者の憧れの場所としても、とても人気が高かった。
だが、ここで一つ気をつけなくてはいけない大きな特徴がこの浸潤型のダンジョンには存在した。
それが魔物部屋と魔物の集団暴走である。
この二つはこの浸潤型ダンジョンのみで確認されている特異な現象で、その原因としてもっとも有力視されているのが、魔物の再POPに防衛型と違って浸潤型では湧き数に特に決まった上限などが設定されていないために、運悪くダンジョン拡張時に何処へも入り口が繋がっていない部屋などが生成されてしまうと、その場所へ時間を掛けて大量の魔物がPOPをし続けてしまい、やがてモンスターハウスが完成してしまうのではないかと言われていた。
また一番最悪なケースとして、その現象がダンジョンの入り口で起こってしまうと、誰にも認知されぬままダンジョン全体で魔物が湧き続けてしまい。何かの拍子にその箍が外れてしまった結果、厄災とまでいわれるスタンピートが発生するのではないかと噂されていた。
そして今回、ナタク達によってこじ開けられた『グロブリンスの祠』だが、地上と唯一繋がるはずの扉が破壊された段階で中から魔物が溢れ出なかったことを鑑みるに、どうやらこのダンジョンはナタクの記憶と合致する防衛型でほぼ間違い無さそうであった。
「これだけ待っても魔物が出てこないのであれば、取り敢えず第一関門は突破と見ていいでしょう。事前情報と違って、もしこのタイミングで魔物が溢れていたら、慌てて通路へ逃げ込んで『キュプロクス』に道を塞いで耐えてもらうしか手の打ちようがありませんでしたからね」
「スタンピートの引き金を引くとか、笑い話にもなりませんしね・・・・」
「まぁゲートキーパーの成長度合いで、その可能性も限りなく低かったと予想できてはいましたがね。それに、この森一帯でゴーレム系の魔物が出没すると言う噂も聞かなかったので他の入り口が開いてしまったということ無さそうですから、安心して防衛型ダンジョンを堪能させてもらうとしましょう」
『どうやら扉のすぐ内側にも敵対ユニットは存在していないようです。これもマスターの情報通りかと』
「ではここからはアルン達を先頭に、事前に決めたルートで攻略をしていきましょう。まずは状況把握に努めます」
「りょうかいです。マッピングや罠解除も得意なのでお任せください」
『殿は“ポーン”にさせておきますね。それでは遺跡探検、出発進行です!』
それぞれ戦闘準備を済ませ、『キュプロクス』を先頭にダンジョン内部へ侵入していくと、最初にナタク達を出迎えたエリアは外の神殿のような造りとはまたかけ離れた、向こうの世界でいう工場の作業現場のような様相となっていた。
「なんかいきなり『ザ・生産施設!』って感じな場所に出ましたね。でもミニマップに敵性ユニットの表示もありませんので、ここは安全地帯と考えていいのかな?」
「どうやら防衛型ダンジョンのセオリーは守ってくれてるみたいですね。ちなみに、この階層は『生産』を担当していたエリアになっていたはずです」
『私の記憶にある施設の内部構造より、かなり広くなってる印象ですね。ですが設備の大まかな配置などは以前のままのようなので、単にダンジョン化に伴い戦闘スペースが新たに設けられたといった感じでしょうか?』
「ここの機材も気になるところですが、今はぐっと堪えて探索を進めていきましょう。アルン、後でここら辺の機材は全部分解して内部構造をしっかりと記憶しておいてください。素材が揃いましたら、造ってもらう予定ですので」
『了解いたしました』
「そんな面倒なことをせずに、そのままこの機材を持ち出してしまえばよいのでは?」
「そうしたいのは山々なんですが、どうやら扉の奥にある機材はダンジョンが創り出した精巧なオブジェと置き換わってるみたいなので、持ち出すことができないんですよ。以前も同じようなことを試みて、失敗したってことがあったので」
『私がいた部屋の機材だけはどうにか状態保存のエンチャントで守られていたようですが、ここは全部駄目だったみたいですね』
「ただし、オブジェと言っても造りは本物と同じ構造をしていますので、内部構造さえ調べてしまえば再現することも可能ですからね。これも遺跡系ダンジョン調査の醍醐味ですよ」
「せ、先生って本当に逞しいですよね・・・・」
今回の探索ルートは最短距離を進行して攻略をしたりするのではなく、ミニマップの機能を活用して正確なダンジョン内の地図を作製したり、敵の種類や強さの確認と再POPの時間計測、更にはトレジャーハントもする計画でいるため、できるだけ第一層を歩き回って多くの情報を集める予定でいた。
そんなこんなで最初のエリアを抜けると直ぐに、次のエリアでどうやらダンジョンが用意した魔物らしき集団を目視で確認することができたため、まずはスキルが一番育っているアキナが鑑定を入れつつ、ナタクが用意した資料と見比べて違いが無いかを調べることにした。
「ゴーレム種の“オートマトン”、名前が『グラスカットマン』でレベルが30~32の合計4体の集団ですか。なんかゴーレムっていうよりは、人が乗って操作するタイプの芝刈機に、無理やり人型の胴体をくっつけたような見た目をしていますね」
『元々ここは人型ゴーレムの研究をしていた施設になるのですが、戦争の激化に伴い工業用に使われていた機材までも改造して兵器にできないかという研究もされていたので、変わった形のゴーレムがいるのもその為ではないかと思われます。ただ、あそこまで歪なタイプは私も見たことが無いので、たぶん試作機をダンジョンコアが魔物として運用しているのではないかと考えられます。
それに製品として型番が存在するタイプには、全て種族名が“オートマタ”になっているはずですので』
「取り敢えず、『キュプロクス』に一旦攻撃を仕掛けてもらって様子を見てみましょうか。それに俺の記憶が正しければ、この“オートマトン”シリーズの敵は非常に脆かった覚えがあるので、『キュプロクス』であれば圧倒して倒せるはずです」
「あっ、あの敵ってシリーズモノなんですね・・・・」
『この捨て駒チックな特攻命令、実に私好みです!それでは『キュプロクス』ちゃん、マスターのオーダーに応えて敵を華麗に蹴散らしてしまいなさい!!』
アルンの号令と共に駆け出した『キュプロクス』が『グラスカットマン』の集団の最も手前にいた一体へ助走をつけた横薙ぎのスマッシュを炸裂させると、『キュプロクス』の接近に臨戦態勢を取ることに成功はした様子であったが、無慈悲な金属の塊が繰り出すその圧倒的な破壊力に抗うこと適わず、たった一発の攻撃で『グラスカットマン』のHPはその1/3も削り取られてしまい。また、その衝撃の余波も留まることなく、後方に構えていたもう一体までも巻き込んで壁に激突し、二体まとめて追加の大ダメージを負ってしまっていた。
「ひ・・・ひどい・・・・」
「やっぱり問題は無さそうですね。それじゃ、アルンも好きに殴りに行っていいですよ」
『了解しました。では、一足先に楽しませてもらってきます』
その後、『グラスカットマン』達にとってはただの地獄でしかない殴殺劇が繰り広げられたのだが、一つだけ問題点を挙げるとすれば、あまりにアルン達の殲滅速度が速すぎたため、ナタクとアキナが攻撃する暇が殆ど無かったことであろう。
ソール集めとしては上々の滑り出しであったが、自分達のスキル上げにとっては致命的な結果でもあったため、この後ナタクがまた新たな訓練方法を考える羽目になるのだが、そのことに気付くのはもう少しだけ先のお話である。
どぉーん!!((((* ̄∇ ̄*)ノ
すっ、すとらーいく!(;´゜Д゜)ゞ
う、う~ん(´・ω・`;)
(どうしよう、脆すぎて攻撃する暇が無い)