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第25話

 

 フィジカルの準備を終えてからそれほど時間を置かずに、隣の部屋へと出かけたアルンが大きめなクッションのようなモノを両手に抱え、ナタク達の下まで戻ってきた。落ち着いた様子から察するに、どうやら向こうでの用事も問題なく済んだようである。



「お待たせいたしました。マスターに頼まれていたこの子も、無事に調整が完了していたので連れて参りましたよ」


「アルンちゃん、お帰りなさい・・・・ってその丸い物体は何ですか?」


「ご苦労様です、アキには紹介がまだでしたね。この子はキメラスライムの『スラキチ』さんといいます。アルンが封印されていた部屋に丁度良い大きさの培養器が設置されていたのを見つけていたので、彼女に頼んで使えるようにしてもらっていたんですよ」


「外部に多少埃が溜まっていた程度で、損傷箇所も特に見受けられませんでしたから、ちゃんと状態保存のエンチャント効果が生きていたようですね。培養液の循環も正常値を示していたので、軽い点検だけで済んだのは幸いでした」


「キメラ用の培養器って素材からして高級品なので、無事な個体があって助かりました」


「培養器って、もしかしてあの壁際にいっぱい設置されていたヤツですか?私にはただのオブジェにしか見えませんでしたよ。先生ってキメラ錬成の知識もお持ちだったんですね」


「この分野の研究はお師匠に課題を出されていたため、スライムだけは錬成を試みたことがあったんですよ。それにとても多くの用途で使える研究でしたので、せっかくの機会ですし、此方の世界でも存分に活躍してもらおうかと思いまして」


「その話はどこかで・・・・あっ、確か先生がドロモンさんの名前で提出したレポートのヤツですよね?」


「おぉ、よく憶えていましたね」


「そりゃ、先生があんなに楽しそうに隣でレポート作成をされていたので、気になって少し読ませてもらいましたから。まぁ、私には難しすぎたので直ぐにリタイアしましたが・・・・」


「要は、あそこに出てくるスライムの雛形となるのがこのスラキチさんという訳です。一応厳選した素材を使って誕生させたので、レベル1でもかなり高スペックに仕上がっていますよ」


「私がいただいた上位の魔石よりも、かなり上質な物をお使いでしたもんね」


「スラキチさんの場合、それがスライムの核と融合して新たな肉体が生成されますからね。ここで出し惜しみをすると後々後悔することになるので、一切妥協はしませんでしたよ。それにアルンに与えた物も、ちゃんと必要分を計算して渡していたので、決して出し渋ったわけではありませんよ?」


「しかし、キメラスライムって初めて見ましたが表面に変わった紋章が刻まれているんですね」


「刻まれた紋章は“隷属紋”と言って、キメラやテイム状態の魔物に必ず浮かび上がる印になります。ちなみにスラキチさんの正確な種族名は『ピュアスライム』と言いまして、様々な種類へ進化することができる少し変わった特徴を持ったスライム種となってます。取り敢えず、当面の目標は畑の維持管理に特化した『ガーデンスライム』への進化ってところですかね」


「やっぱり畑の労働力狙いなんですね。まぁ、何となくそんな気はしていましたけど・・・・」


「ただ流石にある程度育つまでは戦力になりませんので、今日のところはこの子にポーター(荷物持ち)の役割を任せてしまおうかと考えています。それにこの前のお礼としてリックさんに頂いた、アイテムボックスの指輪もありますしね」


「あぁ、あの最近まで先生の予備倉庫として使っていたヤツですか」


「それにある程度育ってくると、今度は戦力としても期待が持てるんですよ。厳しい厳選の結果、回復系と水撃系の魔法も使えますし、更にレベルが上がってくると、今度は格闘技も憶えてくれますので」


「うわぁ、本当に高性能なんですね」


「それに今日潜る予定のダンジョン第一層にはレベル30~35の個体しか出てこないはずなので、アルンと彼女が操るオートマタの無双状態になると思いますからね。俺達がまともに戦い始めるのは、3日目以降になるんじゃないかな?」


「だからあんなに投擲物が用意されていたんですね。それじゃ、私は投擲と弱体スキルの底上げでも頑張るとしますか。先生はその間、どうされるんですか?」


「侍にも一応は射撃特性が付いているので、接近戦が可能なレベルになるまでは弓の熟練度上げでもしていようかと考えています。ですが、俺自身があまり遠距離武器が得意ではないので、ある程度目処がついたら早々に受け流しとカウンターのスキル上げに切り替えようかなと。それに此方には優秀なデバフ持ちのアキがいますしね」


「思ってた以上に、責任重大な任務が用意されてた!?


 分かりました、レジストされないよう頑張ります!!」


「では、そろそろ私もオートマタの召喚を始めるといたしましょうか。スラキチさんも、危ないのでマスター達の後ろに隠れていてください」



 そう言ってアルンが腰を落としてスラキチを地面へと降ろすと、『おうよ!』と言わんばかりにその場でピョンと一跳ねして、言われた通りにナタク達の後方へと移動してきた。個体によっては、例え“隷属紋”があろうと反抗的な態度を取るモノもそれなりにいるのだが、主人以外の命令もちゃんと聞いてくれるところから、スラキチはわりと従順な性格をしているようだ。



「ちゃんとこちらの言ってることも理解できるんですね」


「キメラやテイムした魔物などは、紋章を伝ってこちらの意図を汲み取ることができますので、ある程度のことであれば理解を示してくれるはずですよ」


「へぇ、そうなのですか。スラキチさん、これからよろしくお願いしますね!」



 アキナの呼びかけにも再度その場でピョンと跳ねて答えたので、これが彼なりの肯定の仕方なのであろう。


 そんなことを話しているうちにアルンもオートマタ召喚の準備を終えたようで、現在彼女の前方には巨大な魔方陣が展開されており、古代ラスティア言語で綴られた聖句のような内容の詠唱を、まるで歌でも歌っているかのような清澄な雰囲気を纏いながら、粛々と儀式を始めていた。



「アルンちゃん、凄く綺麗な歌声ですね」


「本人曰く、召喚時の演出も研究者達が著名な作曲家や舞台演出家に依頼して、こだわり抜いて創ったんだって言っていましたからね。それに“人形使い(ゴーレムマスター)”という職業も、最初は召喚師をモデルに創られたんだそうですよ」


「なんか、それだけだけでも凄くお金がかかってそうです・・・・」


「滅んだとはいえど、研究を開始した当時は世界屈指の魔導大国だったらしいので、研究資金もそれなりに豊富だったんでしょうね。ただ直ぐに魔族との戦争が勃発しまして、後は歴史の通りになったというわけです。あっ、アルンが睨んでるので少し黙りますか」



『せっかくの見せ場なんです!』と言いたげな表情を浮かべるアルンに再び視線を戻すと、丁度魔法陣への魔力供給が終わったタイミングらしく。今度はそこから光の柱が幾重にも伸び始め、陣の中心部から徐々に呼び出されたオートマタが浮かび上がってくるところであった。


 この辺りは召喚師と若干異なり、あちらはあふれ出たマナの光を集結させて依り代を形成し精霊を顕現させるのに対して、此方のゴーレムマスターは既に出来上がった個体を他の場所から転移させるイメージと言った方が分かりやすいかもしれない。



 召喚に応じ現れたオートマタは、漆黒の西洋鎧らしきフルプレートに身を包んだ一つ目が特徴的な、人型をした体長3mを優に超えるであろう偉丈夫然とした容姿をしていた。


 また、その逞しい左腕には騎士(ナイト)職の者達が好んで使うその巨体の半分以上を覆い隠せてしまうほどの大きさのカイトシールドを装備しており。そしてその反対側の手には成人男性並みの大きさを誇る戦棍(メイス)と呼ばれる、先端部分の巨大なラグビーボールのような形状をした金属塊に、更なる攻撃力増強ためにプラスされたのであろう出縁やスパイクといった金属でできた棘状の突起が幾重にも散りばめられた、特殊な形状をした武器が装備されていた。


 さらに、盾にはドラゴン、戦棍には女神と天使、そして鎧には巨大な獅子といったモチーフの素晴らしい彫刻が金やその他の金属を使って美しく装飾されており、遠目からでもこの巨人が間違いなく只者ではない様子は一目瞭然であった。



「ふっふふ、お待たせしました。此方が私が操ることになるオートマタが一体、機体名を『キュプロクス』といいます!」


「これは“ルーク”タイプのオートマタですね。確か『中級職』の“重装騎士(ガーティアン)”というナイトの派生職業を保持していたはずですよ」


「・・・・なんか物凄く強そうですね」


「そりゃこのダンジョンの奥地で待ち構えてる大ボスと、全く同タイプの機体になりますからね」


「私が黒の“ルーク”で『ケニー』ちゃんは白の“ルーク”を使えますので、同じタイプなのは至極当然ですね」


「ちなみに、ボスとしてはこの機体とほぼ同程度のモノがもう一体用意されています。初めてこのダンジョンの攻略した時は、本当に苦労をさせられましたよ。何せ六人しかダンジョンに入れないうえに、これを操るアルンの妹ちゃんまで同時に襲い掛かってきましたからね」


「これが二体って・・・・先生達、よく無事に倒せましたね」


「実際に、かなり苦戦をしながら情報を集めてやっと倒せたって感じでしたよ。結局マラソンしながら一体をデバフで削りつつ、その間にサブタンクとアタッカーでもう一体を全力で倒すっていう作戦が一番しっくりきましたね。


 ちなみに、メインタンクは護衛の二体を倒しきるまでは、遠くの場所で妹ちゃんにタコ殴りにされながら耐えてもらっていました。オートマタが近づくと、彼女にモリモリ回復されてしまうので」


「ふむふむ、流石は我が妹ですね。向こうのマスター達をそこまで手玉に取りながら蹂躙するとは・・・・私も姉として、負けてはいられません」


「あはは・・・・ってことは、アルンちゃんもこの強そうなオートマタをもう一体召喚できるってことですか?」


「いえ。アルンは他のオートマタを同時に召喚できる代わりに、特殊ユニットの二体目召喚はレベルが高く設定されてるみたいなんですよ。確か、“ルーク”の場合はレベル60以降だったかな?


 ただ、これから召喚するはずの“ポーン”であればレベル40でもう1体を呼べるはずなので、近日中には何とかなるはずですよ」


「私も準備をたくさん頑張りましたので、早くこの子達で大暴れしたいものですね。それでは、続きもサクッと終わらせてしまいますよ!」



 その後、ハイテンションになったアルンに呼び出された“ポーン”であるが、“ルーク”の時ほどインパクトが無かったため詳細は省くが、“ルーク”とよく似た細身のフルプレートに身を包み、両手にはそれぞれ鍛え抜かれた手斧(フランシスカ)が誇らしげに装備されていた。


 また体長はナタクと同程度であり、先ほどの“ルーク”に比べるとどうしても華奢な印象を受けてしまいがちだが、この機体も装備や部位破壊を得意とする『中位職』の“戦士(ウォリアー)”の職業を持っているため、決して侮れない性能を保持していた。



 さて、用意に時間が掛かってしまいましたが、これでいよいよダンジョンへと突入ですね。


 アルンもかなりテンションが上がっているみたいなので、彼女にはこの後の大立ち回りに是非期待させてもらいましょう!

ところで、何で名前がスラキチさんなんですか?(´・ω・`)


昔やってたゲームの相棒の名前ですね!(*´﹀`*)

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