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第22話

 

 一つの偉大な文明の終わりと共に、その存在を歴史の闇へと忘れ去られてしまった過去を持つ『グロブリンスの祠』と言う名の古代遺跡。元は教会と研究施設という二つの特性を合わせ持ったラスティア王朝屈指の重要拠点であったその場所は、施設内で研究されていた情報の秘匿性の高さと予め備わっていた防衛システムの優秀さが災いし、貴重な文化財が多数眠っているにもかかわらず今日(こんにち)に至るまで、誰の目にも留まることのなく地中深くで悠久の眠りに就いていた。


 そもそも何故このような遺跡が存在するのかと言うと、以前に女神ユーミアがナタクへと告げていたように、アルカディアの世界では絶えず激しい戦争や種族紛争がおこなわれていたために、ここと似たような施設が他にも世界各所に点在していた。


 しかしながら、それらの多くは当時の(いくさ)の爪跡や盗掘、あるいは長らく放置され続けたことによる風化が元となり本来あるべき姿・機能を完全に失ってしまっている物が殆どであり、辛うじて施設の体を成していたとしても今度は正しい使い方などを失伝(しつでん)してしまっているケースも多々あるため、今では観光地のオブジェとしてや偶像崇拝の象徴としてだけ扱われている物さえ中には存在していた。



 そんな不遇の遺跡が多い中、この場所のようにダンジョン化を果たして風化を(まぬが)れたモノや、はたまた何らかの偶然が重なった結果として当時の面影をそのままに現存する場所も少なからずあるため、何時の頃かこうした場所へ自らの命を掛け金として一攫千金を目指すトレジャーハンティングを生業(なりわい)とする屈強な猛者達が現れ始めた。


 そんな命知らずの若者達を纏め上げできた組織こそがこの世界最初の冒険者ギルドであり、傭兵とはまたひと味違ったその伝統は今も色濃く受継がれ、今日も多くの後輩達が世界各地で活躍をしている。



 そして本日、そのセキュリティの高さゆえに腕利きの冒険者達にすらその存在を知られることもなく、長きに渡り放置され続けていたこの『グロブリンスの祠』にも、遂に久方振りの賑わいが今まさに巻き起ころうとしていた。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




「隙あり!今度こそ取ったぁぁっ!!」


「ほいっと、まぁ70点ってところですかね。と言いますか、せっかく後ろを取ったのに掛け声出したら台無しですよ?」


「はぅ、そうでした!って、先生も縄跳びじゃないんですから、そんな簡単そうに避けないでください!」


「いやいや、避けないと俺の負けになっちゃいますからね?」


「あと30秒ですよ~、アキナ様ふぁいとで~す」


「うぅ・・・・アルンちゃんまで、そんな生暖かい目で私を見つめないでください」



 現在時刻は八日目の朝日が木々の頭を越えた頃。


 湖畔特有の朝靄もスッキリと晴れ、付近の鳥達が元気良く(さえず)りながら拠点の前でパンくずを撒いているアルンの下へと集まる最中(さなか)、少し離れた広場では今日も日課となりつつある、朝の稽古に励むナタクとアキナの姿がそこにはあった。


 当初予定していた通り、ナタクとアキナは模擬戦と言う名の対人訓練をかかさず朝と夕方におこなうようになっていたのだが、彼女は未だに彼へと攻撃を当てられずにいた。無論、攻撃スキルを駆使すればデバフ職人と名高い“忍者”系の職業を選択している彼女がここまで苦戦することも無いのだが、戦闘技術の向上のためにとあえて初日におこなったルールのままに、戦闘訓練を継続していた。



「お時間です。お疲れ様でした」


「ぜぇはぁ。あっ、ありがとうございました。


 ・・・・ぐすん、また一本も入れられませんでした」


「お疲れ様です。アキも十分に惜しい動きが出来るようになってきているので、このまま行けば直に成果が現れると思いますよ」


「はぃ・・・・頑張ります」


「あぁ、凹んで打ちひしがれているアキナ様もこれまた素敵ですねぇ」


「・・・・アキもだいぶアルンに気に入られましたね」


「これは素直に喜んでいいのか微妙なところですが、とても仲良くさせてもらっています」


「おっと失礼しました。それでは私は朝食の準備に戻りますので、反省会が終わりましたらダイニングの方までお越しください。先に行ってスープを温め直して参ります」


「了解です。すぐに行きますのでテーブルに並べ始めておいてください」



「畏まりました」とアルンは頭を軽く下げると、そのまま拠点の中へと入って行った。


 彼女が目覚めてからというもの、ナタク達の身の回りの世話は全て彼女がおこなってくれるようになったのだが、食事も出来合いの物だけでは二人の栄養が偏ってしまうからと言って暇を見つけては近くの森で野草やキノコ類を取ってきてくれるようになり。はたまたナタクが鍛錬の合間に実験ができるようにと密かに設置してあった“銭喰らい”にも興味を示し始め、気が付けば予定外の野菜の研究まで一緒にさせられるようになったため、今では食卓が単に豪華になっただけではなく、その日の疲労や栄養バランスまでも考慮された完璧に近い料理達が食卓を彩るまでに進化していた。


 そして未だ彼女の勤労意欲が衰える様子は微塵もなく。日夜労働に勤しむ姿は素直に感謝して止まないのではあるが、何分“銭喰らい”とアルンの維持に掛かる魔石の消費量がここ数日で鰻登りに跳ね上がっているため、早急に手を打たねば「いつかアキナの雷が落ちそうだなぁ」と内心焦り始めるナタクであった。



「さてと、それでは反省会に移りますが、先ほどの戦いで何か気になったところとかありましたか?」


「はいはいっ!昨日の模擬戦の後にアルンちゃんにも協力してもらって攻撃パターンをいくつも増やしたのに、それでもかすりもしない先生の回避能力が今一番気になっています!!」


「それについては以前にも話しましたが、単に戦い慣れているだけですね。特にタンク以外の前衛は無駄なダメージを受けるのはご法度ですので、直向(ひたむき)にその鍛錬に励んだ結果です。定石さえ完璧に覚えきってしまえば、アキもこれくらいは動けるようになりますよ。


 他に、何かありませんか?」


「流石に、自分が先生のように動けるビジョンが今は全く想像できないのですが・・・・他にですか?


 う~んと、ステータスの関係で攻撃間隔の向上は暫く見込めそうにありませんので、あとは戦闘効率の追究をするのを控えめにしてフェイントなどで揺さぶりをかける方向にシフトするくらいしか今のところは思いつきませんね。ただ、今日もいくつか攻略のヒントに繋がりそうな感覚は掴めましたので、また夕方までに調整して試させてもらおうかと思います」


「アキの戦い方は『フルアシスト』を長らく使っていた影響か、まだまだ構成の組み方がスタンダード寄りなところがありますからね。ここで緩急を付けてみるのは悪くない選択だと思います。それに戦闘中の動きも隙がだいぶ減ってきましたので、着々と戦闘技術の上達が進んでいそうですね」


「それは自分でもかなり実感できていますね。伸び悩んでいたのが本当嘘みたいに、今では試してみたい事でいっぱいです!」


「楽しんでいただけていて何よりです。それと、今日はこの後また新しい訓練を始めますので楽しみにしていてください」


「あれ、今日も“壁打ち”訓練をするんじゃないんですか?」


「お待たせして申し訳ありませんでしたが、昨夜遅くに漸くアルンの戦闘準備が整いましたので、今日からソール集めも同時に始められそうなんですよ」


「おぉ!!ということは、いよいよ扉の先のダンジョンへ突入するんですね!!」


「取り敢えずは、朝食の後にブリーフィングを開いて装備や注意事項の確認などをしてからにはなりますけどね」


「それは楽しみですね!先生、早く朝食を食べてダンジョンへ出かけましょう!!


 アルンちゃん、今日は白パンをもう一つ追加でお願いします~!」


「あらら、もう行っちゃいましたか。本当はアバターの特性ついても少し話しておくつもりだったのですが、食後にでもゆっくり説明するといたしますか」



 腰のベルトに引っ掛けてあった手拭いを使い、軽く汗を拭いながらナタクも建物の中に入っていくと、ダイニングに置かれている大きなテーブルの上には既に殆どの料理が並んでおり、丁度最後のスープをアルンが食卓へと運んでいるタイミングであった。


 どうやら先に部屋に入ったアキナは、キッチンの方で何か別のことをしているようだ。



「先生も飲み物はお茶で大丈夫ですか?」


「そうですね、でしたら昨夜の内にパレンのスライスを紅茶に入れて冷やしておいたので、今日はそちらをお願いします」


「なるほど、アイスレモンティーですね。それじゃ、私もそれにしよっと!」


主人(マスター)の生み出す魔導具は本当にどれも優秀でございますね。私が生み出された当時でも、ここまで充実した設備は中々お目にかかれなかったと記憶しています」


「まだまだ改良途中の試作機なんですけどね。アルンの作れる『錬金基盤』があればもっと上位の機能を追加できますので、今後の活躍に期待していますよ」


「確かに『錬金基盤』の製造に必要な知識は有しておりますが、それにはまず『精密作業台』が必要となりますよ?」


「えぇ、なので当面の第一目標はそちらの確保を優先に、そのついでとしてソールの荒稼ぎを計画しています」


「あっ、ソールの方がついでなんですね・・・・」



 料理も並び終えたので、“三人”揃って席に着き出来立ての朝食を食べ始めることにした。ちなみに、アルンは魔石の摂取を定期的におこなっているので、態々食品からのエネルギー吸収は今のところ必要はなかったりするのだが、現代日本出身者である二人にとって、完全に同世代にしか見えない少女を席の後ろに侍らせたまま自分達だけで食事を取るという行為がどうにも耐えられなくなり、今では嗜好の一環でよいからと彼女にも席に着いてもらい、一緒に食事を楽しようになっていた。



「しかし、元々豪華だった食卓が更に進化するとは思いませんでしたよ。パンに塗るのも最初はバターだけでしたのに、いつの間にかジャムまで用意されていますし・・・・」


「アルンが森で野いちごやベリーを見つけてきましたからね。次に探しに行った時に苗ごと持ってきてもらえたので、品種改良で普通のイチゴやブルーベリーなんかの試作に挑戦してみたんですよ。ただ、思いつきで始めた研究になるのであちらの果実と比べると格段に味は落ちるんですけどね。まぁ、砂糖を使えるジャムならば、今のところは特に問題無さそうです」


「普通だったらその野いちご達をそのまま美味しく食べる方向で努力をすると思うのですが、その辺はやっぱり先生ですね」


「手に入ったのがそのまま食べるには酸味が強い品種だったので、どちらにしても工夫は必要でしたけどね。それより俺は、食卓にしれっと出されているスクランブルエッグの方が気になりますよ。確か卵なんかは持って来ていませんでしたよね?」


「そちらも私が散策途中に見つけたものになりますね。どうやら近くに野生のドードー種が多く生息しているみたいですので、現在餌付けを開始して卵の安定供給ができないかと画策中であります」


「あぁ、それで最近アルンちゃんは毎朝鳥達にエサをあげていたんですね」


「ここは外敵が全く侵入できない立地なので、縄張りを出たがらない彼らにとっては住みやすい環境なんでしょうね。それならばお屋敷に鳥小屋を建ててあるので、良さそうなのがいたら手懐けておいてくれると助かります」


「承りました、それでは後で良さそうな子達を探しておきますね」


「なんか普通は大きな街から離れた途端に何かと不便に感じるはずなのに、私達って日にちが経つにつれてより快適になっていますよね」


「アキのご指摘はもっともですが、慣れない野山で丸々二週間テント生活で過ごすのは聞いただけでも辛そうでしたからね。備えあれば憂いなしってことで、細かいことは気にしたら負けですよ」



 さてと、食事も済みましたのでそれでは待ちに待ったダンジョンを使ったソール集めの準備に取り掛かるとしましょうか。なにせ、戦闘用品の更新や他にも色々話しておかなければいけないこともありますので、これからもっと忙しくなりますよ!


しかし、よく卵なんて取れましたね(´・ω・`)


あの子達、基本アホの子なのでちょろいです(* ̄ー ̄*)ニヤリッ

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