幕間:とある少女の訓練記
SIDE:アキナ
早いもので、ここに来てから今日で五日が経過しました。
初日に先生から勧めていただいた『セミアシスト』での訓練も、初めこそ新しいモードに悪戦苦闘させられはしたものの、次第に身体へ馴染んでくると戦闘時の隙もだいぶ軽減できるようになり、今では自分の実力が目に見えて向上したのを肌で感じれるようになりました。
まぁ、それでも未だに先生へ一撃を入れることが出来ていないんですけどね。毎回惜しいところまではいくのですが、何時も後ちょっとのところで綺麗に躱されてしまうんですよ。例えるなら、空中に漂う落ち葉を手で掴もうとして逃げられる感覚でしょうか?
ただ、ご褒美の秘伝スキルにつきましては交渉の甲斐がありまして、この遠征中まで期間を延長することができましたので、後一週間、全力で頑張りたいと思います!
このように、自分に自信が付いたのも全て先生の指導スキルの高さのおかげなんですけどね。
先生は基本的に『アレは駄目!』『これは駄目!』とは言わずに、最初は私の好きなように打ち込ませてくれて、その中で良い攻撃や戦術を見つけると、褒めながら徹底的に長所を伸ばすといった育て方をしてくれます。
『自称:褒められて伸びる』タイプの私には、この育成方法が非常にマッチしたらしく、たった数日指導を受けただけで伸び悩んでいたのが嘘のように戦術の幅が広がり、今ならPVPの大会でもあんな無様なやられ方はしないんじゃないかと思えるところまで成長できました。
ただまぁ、調子にのってると直ぐにボコボコにされるんですけどね。
この天狗の鼻をへし折る役はアルンちゃんが担当してくれていて、先生との模擬戦&指導を受けた後におこなっている彼女との模擬戦で、もし私が少しでも甘い対応を見せてしまうと、それを悦楽した表情を隠すことなく、容赦なしで潰しに掛かってくるので全く油断がなりません。
と言いますか、このアルンちゃん。最初に模擬戦をした時はスキルに振り回されている初心者の動きそのものだったのに、二日目以降に再戦してみると、まるで別人のような動きになっていて驚きました。本人曰く、私と先生との模擬戦の動きをデータとしてインプットし、その動きを分析することで理想の身体の動かし方を獲得したそうで、普通の人間からするとかなり反則的な戦闘センスをお持ちのようです。
正直な話、明らかに手加減してくれている先生よりも、常に全力で挑んでくるアルンちゃんの方が恐怖を感じることが多かったりします。特に“人形使い”での職業適性があるらしい『メイス』を使い始めてからというもの、もう完全に私を殺しにかかっているんじゃないかと疑いたくなるくらい、動きがキレッキレなんですよ。一応、訓練用に用意された武器を使っているので当たってもダメージは1しか受けないんですが、あの速度で飛んでくる鈍器の恐怖は中々拭うことができません。
それと、初日の最後に説明を受けた『壁打ち』という名の訓練なのですが、確かに先生の仰られていた通り、物凄い速度で経験値がなだれ込んできたので、最初笑いが止まらなくなりました。流石に、始めて数時間程度で下位職の一つがカンストするとは思いもしませんでしたよ。
だって、普通は一つの職業を上げるのに何百匹という魔物を倒すか、職業ごとに用意された道場などを利用して時間を掛けてコツコツとレベルを積み上げていくはずなのに、数時間『扉さん』を専用の武器でポカポカ殴るだけで、視界の端に設置してあるシステムメッセージの欄が取得経験値と武器技能のレベルアップ表示で瞬く間に埋まってしまいますからね。まるで経験値のシャワー・・・・どころか、滝を浴びてる気分でした。
これでソールが稼げれば言うこと無しだったのですが、それでも単純作業が苦じゃなくなるほど楽しいというのは、精神衛生的にも非常に助かりました。
そういえば、先ほどから話に出ていたアルンちゃんなのですが、実は初日以外は殆ど私のサポートに回ってくれていたりします。
と言うのも、オートマタ製造に関わる機材のメンテナンスと素材の搬入さえ終らせてしまえば、後は入力した設計図通りに機械が自動で作成がおこなわれるらしいので、たまに進捗状況を確認しに行く以外は基本彼女も暇になるらしく、有り余る勤労意欲を消化するためにも、色々お手伝いをしてくれているというわけです。
ちなみに先生の方へも声掛けに行ったそうなのですが、鍛冶に没頭している先生の作業工程があまりに高度過ぎて、正直内容が理解できないために手の出しようがなかったそうです。
その気持ち、私も先生の弟子をやっているので、もの凄く共感できます。
ということで、私の方で訓練相手や裁縫時の助手などを色々頼んでいるのですが、流石は支援型アンドロイドとして最初設計されていただけあって、サポート能力はほぼ満点に近い活躍ぶりですし、家事においても完璧過ぎて何ら不満もありませんでした。そして何より見た目が非常に可愛らしいので、それだけで私の創作意欲に火がついてしまい、気がついた頃には彼女専用の『携帯型ドレッサー』の限度枠を大きく圧迫する始末です。
いやぁ、我ながらいい仕事ができました!
ただ、仕事以外で唯一不満を挙げるとすれば、先生との関係を毎日弄るのだけは勘弁してもらいたいぐらいです。もの凄く楽しそうに根掘り葉掘り聞かれますので、話を躱すのにも結構体力を持っていかれます。
そもそも、アメリアさん達との『抜け駆け禁止協定』がありますので、私から強いアプローチを掛けるのは控えるようにしているのですが、それでも協定規約:第八項に『先生側からのアクションはその限りではない』とあるので、期待しながらずっと待っているのですが、初日に一緒に手を繋いだ以上の出来事は未だに進展がないんですよね。
まぁ、『扉さん』へのダメージコントロールの関係で二人同時にここの施設を利用できないので、必然的に先生と会える時間も限られているんですけど。
てかアメリアさんで思い出しましたが、今回の遠征について先生が前もって関係各所へ連絡してくれたらしいので、ちゃんと彼女達にも話が伝わっているはずなのに、ライバルである二人が何も騒がずスムーズに出発できたのも、今思えばとても不気味に感じています。
本当に、先生は彼女達へ“直接”説明をしたのかな?
なんか、街に帰るのが少し恐くなってきました・・・・
待て待て~♪@=((*´∀`)ノシ
いやぁ~!?。 ゜(゜ノ´Д`゜)ノ゜。