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第21話

 

 次はいよいよ職業レベルの上げ方について話を進めていくのだが、そもそも何故ナタクが他よりも攻略難易度の高い『グロブリンスの祠』を最初の修行場として選んだのかというと、ゲーム時代に新人団員を育成するための訓練カリキュラムを作製していた中に、丁度この施設を使った効率のよい訓練メニューがあったのを思い出したことが大きかった。


 無論、ここ以外にも王道と言える候補地は数多く存在はしていたが、そのどれもが既に発見されたダンジョンや遺跡を利用しておこなうため、そもそも冒険者登録を済ませていない自分達には基本立ち入りが制限されていたり、例え何とかしてダンジョンに入れたとしても、今度は現場で遭遇したライバル達との獲物の奪い合いや、最悪の場合、高額なダンジョン産のアイテムを巡って命のやり取りまで発展する可能性すらあったため、態々そのような物騒な場所で狩りをするよりも、自分達だけで独占できるこの環境の方が、何かと都合がよかったのも本音であった。



 (まぁ、領主様ならこちらの事情をある程度話せば、特別に他の場所も使用させてもらえたかもしれませんが、ここにはアルンもいましたからね。それにどうせ1000年以上放置されていた場所ですし、しばらくは自分達だけで便利に利用させてもらうとしましょう)



「それでは、今から職業レベルを上げるので“見習い”の職業も変更してしまいましょう」


「おっ、遂に“見習い”ともおさらばですか!」


「最近、色々あり過ぎて、ずっと放置しちゃっていましたからね」


「本当、お互いずっとバタバタしていましたもんねぇ」


「ですが、その甲斐あって得たモノも非常に多かったので、今日から遅れた分をしっかり取り返していきましょう。


 それで職業変更の手順なのですが、先ほど机に出した資料の中にアキの目指している忍者スタイルへの育成計画書も一緒に入れておいたので、始める前に一度ちゃんと目を通してみてください」


「りょうかいです。えっと、この中の・・・・あった、これですね。何々、私が最初に選ぶべき職業は・・・・ちょっと意外ですね、“槍使い”からですか」


「最短で下位職の“下忍”を出現させるだけならば、同じく下位職に該当する“剣士”か“短剣使い”のルートを開拓し、そこから中級職の“レンジャー”に近い育て方をするのがベストなんですけどね。


 ただし、それだと途中で腕力不足に陥るのと、後半になってからそちらに着手しようとすると、今度は“槍使い”でもらえるステータスボーナスに問題が出てきますので、なるべく早い段階での調整をしておいた方が楽なんですよ。


 他にも似た様な例で、忍術で使う魔力やMPなんかにもブーストが必要になるため、僅かな期間ですが“魔法使い”も上げることになるので、変更順はなるべく間違えないようにお願いします」


「私はステータスの調整ミスで、一度痛い目を見ていますからね。今度こそは失敗しないよう、二重三重に気を付けながら取り組みさせてもらいますとも・・・・」


「アキが俺に弟子入りした理由の一つが、これですもんね。責任を持ってしっかりと組み上げさせてもらったので、細かい数字なども確認してみてください。きっと、納得のいくステータスに仕上がっているはずですよ」


「本当だ、凄く細かく職業変更とステータスが書き込まれていますね・・・・


 ってこの資料、もしかして攻略サイトよりも細かくないですか?」


「ああいうところにあるモノは、なるべく利用者の手間が掛からないように職業変更が組まれていますからね。


 それらに比べて、俺が今回アキのために用意した資料は、流行(はやり)のモノとは殆ど対極の考えに位置する、手間を一切惜しまず忍者で最強を目指していた月影さんをモデルに組み上げましたので、内容は多少複雑になっていますが、それに見合った価値が必ずあるのは保障しますよ。


 それに、これは俺が自分用に組んだ侍の育成計画書になるんですが、こちらもアキにも負けないくらい細かく職業変更をする予定でいます。まぁ仲間内ではこちらの方が主流でしたので、自分ではあんまり違和感がありませんでしたけどね」


「先生達は、昔からこんなことをされていたのですか・・・・」


「しかも向こうでは殆どの人が中途半端なところからステータスを調整していましたが、今回は最初期の段階から色々弄れるだけあって、編成を考えるのも楽しくて仕方がありませんでしたよ」


「な・・・なるほど」と言いながらアキナは視線を資料へと落とし、再度それらを真剣に読み始めたので、待っている間に箱詰めされた武器達の荷解きを済ませながら、次の説明の準備をしておく。


 時折「おぉ!」や「これは!」といった呟きを発しながら目をキラキラさせて読み耽っているので、どうやら用意した育成計画書には十分気に入ってもらえたようである。



「ただでさえお強かったのに、更にここまで色々と厳選されていたんですね。あっ、この段階で俊敏力が伸びるんですか・・・・これを見ると、自分のステータスがどれだけ酷かったのかを痛感できます」


「レベルアップでもらえるステータスの総量には、一部例外を除いて殆ど差は出ないはずなんですけどね。ただ、不必要な能力にポイントを振ってしまっていると、同じレベルの人ともかなり違いが出てしまいますので、もしかしたらその差かもしれません。


 このように、どのタイミングで何の職業を上げるかによって、そのキャラクターの個性が決まってきますので、昔はこれだけでも良いお酒のツマミになりました。実際、夜な夜な仲間達と理想のステータスについて語り合うのは楽しかったですしね」


「“見習い”はその例外ってことですね。ところで職業を変更するのはいいのですが、どうやって職業レベルを上げていくのですか?」


「今回、アキには俺達の間で『壁打ち』と言われていたある特殊な訓練方法を試してもらう予定でいます。それとフィジカルレベルについては別途考えてありますので、そちらはアルンの準備が整うまで、もう暫くお待ちください」


「『壁打ち』っていうと、テニスとかの練習でやるヤツですか?」


「その認識で大体合っていますよ。ただし、ボールの代わりに直接壁を武器で殴ってもらうんですけどね」


「・・・・なんか、嫌な予感がしてきました」


「ふっふふ、それではご紹介致しましょう。今回俺達のお相手をしてくれるのは、そちらでバッチリとスタンバイされている、このダンジョンの入り口を守護する『扉さん』になります」


「『扉さん』?って、もしかしてそこにある禍々しい感じのヤツですか?」


「彼の名前は『ゲートキーパー』、種族で言うところのガーゴイルなんかと同じゴーレム亜種の魔物になりますね。レベルは35でHPはジャスト3万、このダンジョンにいる中ボスの一柱になります」


「はぇっ!?」


「元々、外からの侵入者を撃退するために設置された防衛用のゴーレムだったのですが、このエリアのダンジョン化に伴い、その影響をもれなく受けて魔物としての第二の人生をスタートさせてしまったみたいなんですよ」


「あの・・・・今の私達はまだフィジカルレベル1なので、現状逆立ちしたってそんな相手には勝てないと思うんですけど?


 それに、ゴーレム種が相手というなら下手をしなくても防御力が高すぎて攻撃がまったく通らないのでは?」


「なので、最初から倒すことは考えていませんね」


「あっ、もしや『壁打ち』って・・・・」


「お察しの通り、そのために用意した此方の武器を使って、ひたすら扉をノックして職業レベルを上げてしまおうという魂胆です。だから名前が『壁打ち』って言うんですよ」


「本当に壁を叩くからその名前だったんですね。確かに、自身より格上の魔物相手ならば得られる経験値もかなりの量が見込めますが・・・・」


「『そもそも攻撃が通らないと経験値がもらえないのでは?』って顔していますね」


「はい。他にも、そんなに強いボスが黙って殴られてくれることにも疑問があります」


「では、その辺も詳しく説明していきますね。


 まずこの『ゲートキーパー』なんですが、魔物へと昇華してしまった際に、ゴーレムであった頃の設定がそのまま受け継がれているらしく、『最初に500以上のダメージを受けるまで、防衛機能が作動しない』という少し変わった特性を所持しています。


 これは扉の開け閉めや荷物の運搬中に彼とぶつけてしまった際、防衛機能が直ぐに作動しないよう施された安全装置だったらしいのですが、魔物になってまでそのルールを律儀に守っているみたいなんですよ。


 それにこんな見た目をしていても、中身は(れっき)としたゴーレム種の魔物ですので、その種族特性である自己再生機能もちゃんと所持しているため、今の俺達がいくら頑張って起動条件まで削ろうとしたところで、まず火力が追いつくことはないでしょう。


 最後に攻撃がそもそも通るのかという問いですが、アキの懸念通り普通に殴っても相手の防御力のと自分達の攻撃力の“差”の関係で、通常の武器では間違いなく傷一つ付けられないはずなのですが、それを打開するために、今回ある特性を有した武器達を大量に用意させてもらいました」


「それが先ほど出された武器なんですね・・・・って、先生?


 これはどう見ても“シャベル”じゃありませんか?こっちなんて、ただの“つるはし”ですよね?」


「いえいえ、これでも暦とした“片手剣”ですよ。ちなみに、こっちの“つるはし”に見えるのは“両手斧”ですね。他にも形は少々個性的ですが、槍や棍棒など今回の訓練で使うであろう武器は一通り揃えておきました。


 まぁ見て分かるの通り、採掘用ツールを再度武器に仕立て直したモノになるんですけどね。これは『プレイヤーが魔物相手に採掘ツールで攻撃してもダメージが1だけしか入らない』という規制システムを逆手にとって悪用し・・・・利用した、安全かつ効率よく職業レベルを上げれる訓練法になります」


「今、しっかり『悪用』って言いましたよね。てか、よくこんなズル賢い方法を思いつきましたね・・・・」


「システムの粗捜(あらさが)しも、“ハイジン”さんの(たしな)みの一つですからね。ただまぁ、この方法を思いついた頃には自分達は下位の職業レベルを全部上げきっていたので、新人団員の育成にしか使ったことはなかったんですけど。


 これを試した子達の話では、面白いくらい簡単に職業レベルがポンポン上がったらしいので、個人的にもこれを利用するのを楽しみにしていたんですよ」


「もう何度目か分かりませんが、本当に同じゲームをしていたのか疑わしくなるレベルでぶっ飛んだ遊び方をされていますよね、先生達って・・・・」


「それだけこのゲームの自由度が高かったってことですかね。それに新人達が垢バンされても可哀想でしたので、ちゃんと運営にもダイレクトメールで問い合わせはしていたので、ルール的にも問題なかったはずです。まぁ、かなりグレーだとは思いますが」


「普通に遊んでる人には、こんな方法思いつきませんって・・・・」



 さて、これでアルンの準備が整う来週までの訓練内容が全て出揃いましたので、後はアルンも含めた訓練場の利用順や模擬戦の時刻を決めて、各自作業に取り掛かると致しましょうか!


 って、あれ?またアキが、どこか遠い目をしていますね。


 はて、何ででしょ?

先生、本当に同じゲームをやってました?(´・ω・`;)


もちろんですっ!(*´∀`*)

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