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第19話

 

「ところで、アキは向こうの世界で格闘技などの経験はありましたか?」


「格闘技・・・・ですか?えっと、私は学生時代は全て文化部に所属していたので、そういった経験はありませんね。


 もうちょっと詳しく話しますと、中学の頃は母の勧めで吹奏楽部と趣味の手芸部を掛け持ちしていましたが、高校に入ってからはもう将来就きたい職業も決めていたので、部活などには入らずにデザインの勉強がてら叔母の経営しているアパレル系の会社で見習いの見習い?みたいなアルバイトをずっとしていました」


「ということは、アキがこちらに来る前に勤めていたっていうのは・・・・」


「いえいえ。確かに『将来うちを継いでもらうからね!』とよく冗談は言われていましたが、社会人になってからは他所(よそ)でしっかりと修行してきなさいと、叔母の友人がやっている大手の事務所を紹介されて、そこでずっと働かせてもらっていたんですよ」


「あぁ、それがこの前言っていた社長さんのところなんですね」


「ですです。それと、これは格闘技と直接関係はありませんが、気分転換にジムへはよく通っていましたね。まぁ、繁忙期(はんぼうき)になると結構サボっていましたが・・・・


 こんなのでも、参考になりますか?」


「格闘技の話は戦闘の説明に使おうと思っていただけなので、“ある・なし”だけでも十分だったのですが、アキって思っていた以上に充実した生活を送っていたんですね」


「わりと身体を動かすのは好きでしたからね。流石に現役アスリートの子達には敵いませんでしたけど」


「俺の方はここ数年、殆ど運動らしい運動はしていませんでしたよ。たまの休みも大概、此方に出向いてたので」


「MMOあるあるってヤツですね。私もこれを始めてから、休日の外出頻度が極端に下がりましたもん」


「ただ、これで遊んでいれば身体を強制的に休めましたので、週明けはだいぶ楽でしたけどね。やはり社会人にとって、休日にしっかりとした睡眠効果を得られるのは、非常に助かっていました」


「気持ちは分かりますけど・・・・あれ、この場合は不健康になるのかな?」


「あはは・・・・話が脱線しましたね。それでは本題へ入ります」


「あっ、はい!お願いします!!」


「まず大前提として、アシストを利用した際に通常攻撃を選択しようとすると『その道の達人の攻撃を模した斬撃を繰り出すことができる』というのは、アキも知っていますね?」


「それがこのゲームの売りでもありましたしね。『戦闘初心者でも楽々狩が体験できます!』ってヤツでしたっけ?


 私も最初の頃はアシストにだいぶ振り回されていましたが、今では全く違和感なく体を動かすことができますよ」


「なら、そのアシストが何段階かに変更できるのもご存知でしたか?」


「う~んと、ちょっと待ってくださいね。確か・・・・『フルアシスト』『セミアシスト』『マニュアル』の三段階に変更可能なんでしたっけ?


 私は特に変更していなかったはずなので、デフォルトの『フルアシスト』を使っていたはずです」


「少し疑問に思ったのですが、アキは何故『セミアシスト』などを使っていなかったのですか?


 あそこまでの戦いができるのなら、間違いなくそちらの方が向いてると思うのですが?」


「そうなのですか?私は単に周りで他のモードを使っている人がいなかったのと、知り合いの中では他の二つのモードは『要らない子』認定を受けていたので、殆ど試さずに敬遠していました」


「どうやら“また”攻略サイトの罠に引っかかっていたみたいですね。分かりました、それではその辺も含めて説明していきます。


 まず、よく勘違いされていたことなんですが『セミアシスト』や『マニュアル』を使うと上手く斬撃が発動できなくなったり、酷いところだと戦闘スキルまでもが使用できなくなるとサイトなどで騒がれていましたが・・・・実はあれ、とんでもない誤解でして。


 実際は技の発動タイミングやキャンセルなどが自由に選択できるようになったり、他にも戦術の幅がかなり広まるような便利なシステムが色々盛り込まれていたんですよ。


ちなみに、以前にアキが試した時はどのように感じましたか?」


「う~ん、なんて表現すればいいんでしょうか。今まで箱の中にきっちり収まっていた物が、急に仕切りが無くなってしまったみたいな?


 でも、実際に私がモード変更を試した時も、全然上手く斬撃が発動しませんでしたよ?」


「もしかして、これらを試したのってゲームを初めたての頃だったりしませんか?」


「そう言われれば、確かにゲームを始めて1~2ヶ月の頃だったと思います。丁度ギルドに入ったのもその辺りでしたしね」


「やはりそうでしたか。それでは、上手く扱えなくても仕方がありませんね。なにせ、この二つのモードを使いこなすには、まず元になる動きを完全に把握していないといけませんので」


「なんか聞いているだけでも、とてもハードルが高く感じますね。しかし、斬撃のアシストが出る気配が全くしなかったのは本当ですよ?」


「その原因にも少々心当たりがありますので、今から順番に説明しますね」



 解説のために同じ武器の方が解かりやすいだろうということで、一旦自分の使っていた武器を机に置き、アキナの使っていた忍者刀を一本借りると、軽く素振りをして感覚を確かめてから、話の続きへと戻っていった。



「それではまず『フルアシスト』についての解説をしていきますが、このモードを使っての斬撃を選択しようとした際、たまに選択ができない斬撃が生まれる場面があるはずなのですが、それは何故起こるか分かりますか?」


「えっと、たぶんその人の姿勢に無理が掛かっているからじゃないですか?


 例えば、左手に持っている忍者刀で相手を攻撃しようとした際に、先に右手で攻撃をしていると身体の向きによって相手の左側面への斬撃が選べないと表示される時があったはずです」



「え~っと、こんな感じの場合です」とアキナが右足を前に出して半身になって構えてみせた。確かに、この姿勢からでは『フルアシスト』の場合は左手での相手の左側面への攻撃は体勢に無理がかかり選択肢から消えてしまうはずだ。



「まさしく、そのような状況ですね。元々アシストのかかる斬撃のモーションは予め用意されていた達人の攻撃パターンを模して作られているので、それに該当しない動きは自動的に選べないようプログラミングされているからになります。


 そのせいで、攻撃の種類が限定されやすくなるというデメリットが付随してしまっているわけですが、アキの攻撃の読まれやすさもこれが原因しているじゃないかと考えれます」


「どうしてそれが攻撃の読まれやすさに繋がるんですか?


 確かに選択肢のいくつかは潰れますが、決して少なくない攻撃パターンが存在しますよね?」


「では、もう少し掘り下げて話してみましょう。そもそもアシストを使った斬撃とは『決まったモーションからの攻撃』しか選択できていないために、ある程度攻撃に目が慣れている者だと、攻撃の『始点』の動きを見るだけで、その後に続く『動作』と『終点』が予想ができてしまうんですよ。


 例えば、アキが最初に放ってきた“サイドステップ”からの左『逆袈裟切り』ですが、実はあの状況で『フルアシスト』を使って攻撃すると、体勢に無理がかかるために右からの先制攻撃が選択できなくなるはずなので、この段階で九つある攻撃の選択肢の内三つが使用不可能となります。


 更に、腕を下げる構えをしていたせいで『兜割り』と『袈裟切り』も選択肢から除外されますし、それに加え『突き』と『返し切り』のモーションもあれほど肉薄してしまうと、これまた使用できなくなっているはずです。


 それで最後に残された選択肢は『水平切り』と『逆袈裟切り』の二つになりますが、攻撃が飛んでくる方向がこれだけ限定できるのであれば、後は一番可能性の高い方から潰していけばいいだけなので、回避も容易になるというわけです。


 といいますか、この二つは同じ回避行動で対応できますからね」


「それで死角からの攻撃なのに、あんなに完璧に避けられたのですか・・・・」


「あれはワザと死角を作ってアキを誘導していので、最初の構えからして罠ですよ」


「なっ!?」


「このように、攻撃モーションが判りやすいだけでも対人戦ではこれだけ不利になるので、上位プレイヤーに該当する人達で『フルアシスト』を使っている人は殆どいなかったりします。口の悪い人だと『補助輪付き』なんて揶揄している人もいましたね」


「ほっ・・・・補助輪ですか」


「なので、そんなハンデを背負っている状態でPVP大会の本戦に出場し、なおかつ一回戦を突破できる実力を持っているってことは、正直かなり凄いことなのですが・・・・


 って、項垂(うなだ)れてますが大丈夫ですか?」


「知らなかったとはいえ、そんな風に思われていたとは・・・・うぅ、恥ずかしい」


「まぁ、これからはちゃんとした戦い方を教えていきますので、その点は安心してついてきてください。


 それに、最後の攻撃は実に見事でしたよ。しかも、あれにはアシスト機能が一切使われていなかったので、もしあの時、俺の反応が少しでも遅れていたならば、結果は違ったモノになっていたでしょう。


 あれは、カウンター技を再現したモノですよね?」


「はぃ・・・・先生がこの前見せてくれた『破拳』を、忍者刀で再現してみました。そういえば、無我夢中で攻撃していたので斬撃の有無は特に気にしていませんでしたね」


「既にあれだけ動けるなら、たぶん『セミアシスト』モードも数週間でそれなりに使えるようになると思いますよ」


「ちなみに、先生はどのモードを使っていらっしゃるんですか?」


「俺は慣らしが終わった段階から『マニュアル』モードに変えていますね。一応昔に剣道を習っていたので、それをベースに色々構成を組んでいます。もちろん、最初は『フルアシスト』のお世話にもなっていましたけどね。お手本として、かなり優秀な教材なので」


「『マニュアル』モードって、確か格闘技経験者専用って言われていたはずですが、先生ってもしかして○○流剣術の師範とかだったりしませんよね?」


「ご期待に応えられなくて非常に残念ですが、子供の頃にスポーツ○年団という地区の同好会で少し習っていただけですよ。ただ、『セミアシスト』と『マニュアル』モードには『フルアシスト』以上の利点がありましたので、それを使いたいがために早い段階で移行していたのは確かです」


「あれ、何か良い特典があったんですか?」


「それはもう色々と。まず、この二つのモードはアシストの縛りが薄い分、攻撃のモーションを読まれずらいのと、少し不恰好だろうが幾つかの要点さえちゃんと抑えていればちゃんと斬撃を繰り出すことが可能になりますからね。


 他にも、攻撃を途中で自由にキャンセルできるというモノもありまして、これが早めに此方のモードに切り替えた理由の一つでもあります。そもそも相手の前で『失敗した攻撃を最後まで振り切る』という行為が、武術を習っていた者として、どうしても納得ができませんでしたので」


「そういえば普通に斬撃を出すと、当たろうが外れようが全く同じモーションを取りますもんね」


「そして、もっとも素晴らしいと思える利点が、アシストを薄くした代わりに強化された“加速思考”と言われる特殊能力の向上です」


「“加速思考”・・・・って確か、死にそうになった時なんかに周囲の時間がゆっくりに感じるってヤツでしたっけ?」


「だいたいその認識であってますが、特に強く現れるのが命の危機に瀕している時や、集中力がある一定値を超えた際に発動する、アバター固有の能力ですね。


 近い表現で例えるなら、スポーツ選手が稀に入るといわれている“ゾーン”のようなモノになります」



 と言いますか、これが『セミオート』と『マニュアル』を選択したくなる最大の利点なんですがね。


 さて、それではこれからアキにその素晴らしさを存分にプレゼンさせてもらうとしましょう!



そもそも、叔母には立派な跡継ぎ息子がいましたしね(о´∀`о)


(アキナさん、それって息子の嫁候補だったのでは?)(´・ω・`;)


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