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第16話

 


「確かこの先にダンジョンエリアが設置されているんですよね?私も、そろそろ奇襲や罠への警戒をしておいた方がいいですか?」



 先ほどの礼拝堂まで戻り、前回通らなかった“左側通路”を覗き込みながら不安そうにアキナが質問を投げかけてきた。確かに、今の自分達にとってここはかなり難易度の高いダンジョンに該当するのと、彼女にとっては初めて訪れた場所でもあるため、その考えは至極(しごく)もっともであった。



「今のところは、まだ心配しなくて大丈夫ですよ、そういった類の仕掛けはもう少し進んだところにある大きな扉の先からになるので。それに本格的な戦闘は、アルンの準備が整う来週以降になると思いますし」



 通常このような場所では、探知スキルを多く持っているスカウト(探査)系職業の者がPTの先頭に立って周囲の警戒を担当するのだが、今回はアキナの不安を払拭するために、ナタクがその役を買って出て奥へ奥へと進んでいた。



「でも、今から戦闘訓練をするんですよね?敵と戦わないんですか?」


「ここに来る前にも少しお話しましたが、このダンジョンの攻略推奨レベルは35~45になるので、今の俺達が行っても何もできずに返り討ち遭うのが関の山ですからね。そのための下準備を、今から一週間掛けてみっちりとおこなう予定なんですよ」


「もう嫌な予感しかしないのですが・・・・」


「まぁまぁ、そう言わずに。っと話している間に着きましたね、ここがこれからお世話になる『グロブリンスの祠』のダンジョン入り口になります」



 ナタクに紹介されたその場所は、自分達が今しがた入ってきた通路の出入り口と部屋の一番奥に設置されていた巨大な扉以外に何もない、かなり殺風景な空間が広がっていた。また、その扉のデザインもかなり変わっており、先ほどの礼拝堂に飾られていた壁画が天界の楽園をイメージして創られたものだとしたら、此方の扉はまさに『地獄への入り口』を模したであろう、実におどろおどろしい印象を与える見た目をしており、ちょっとした運動場並みの広々とした場所にそれだけがただポツンと置かれている光景は、余計にその存在の異質さを際立たせていた。



「ここはさっきの部屋と違って、また神殿ぽい造りに戻りましたね」


「元々ここの施設全体が神殿をモチーフに造られていますからね。たぶん、アルンがいた部屋も機材を全部取っ払ってしまえば、ここと似たような壁材が見えるはずですよ」


「あそこは壁一面よく分からない機材のオンパレードでしたもんね」


「確か、最初は別の用途で用意されていた研究スペースに、戦争の激化に伴い無理やりあのように機材を運び入れて改築したとか。そんな話を以前アルンから聞いた覚えがあります」


「だからあんなに、ごちゃっとしていたんですか」


「当時はだいぶ切羽詰っていたみたいですからね。その辺の事情は、歴史の勉強がてらアルンに色々質問してみると、面白い話がたくさん聞けて楽しいですよ。彼女自身も自分語りが大好きな娘なので」


「それでは今度、アルンちゃんを捕まえてゆっくりと聞いてみることにします。ところで、さきほどから部屋の奥に見えているあのおっかない扉が、先生が言っていた“本当”のダンジョンの入り口ってヤツですか?」


「アキの言う通り、あそこの奥からが正式なダンジョンエリアになりますね。でもまぁ、ある理由から今の俺達では奥に進めないんですけど」


「なんかデザインからして恐いので、今は聞かないことにします。でもそうなると、ここが今進める最終到達地点になるんですよね?もしかして、また隠し通路とかがあったりするんですか?」


「いえ、ここが本日の目的地で間違いないですよ。それで、今日からここで戦闘訓練をおこなおう予定なんですが、ひとまず本格的におこなう前に今のアキの戦闘スタイルを見極めるためにも、これから俺と軽い模擬戦をやってもらおうかと思います」


「えっ、先生と模擬戦ですか!」


「そもそも俺は、まだアキの戦い方を正確に把握できていませんしね。ですので、一回しっかりと戦ってみて、そこから武器の選択から職業の育て方、習得スキルなどのアドバイスを・・・・


 って、思ってた以上に嬉しそうですね?」


「はい!なんたって、上位プレイヤーの方から直接指導を受けられるチャンスなんて滅多にありませんからね。それに、私も先生の対人戦闘ってのをまだちゃんと見たことがなかったので、今からとってもワクワクしてます!」


「そんなに喜んでもらえるなら、もっと早くからやっておくべきでしたね」


「先生のおかげでサブ職業の大切さも十分に理解できましたので、それに関しては問題無しです!それで、模擬戦のルールはどうなさいますか?」


「それなんですが、実は俺達のクランで実戦形式の訓練の前に必ずおこなっていた組手があるので、今回はそちらから試してみたいと思います。今から、それに使う道具を出しますね」



 そう告げると、ナタクはインベントリから大きめなテーブルと、箱に入った“特殊な形状”をした武器達をその上に順番に並べ始めた。



「先生、こちらは?」


「このアイテムは訓練用に開発した特殊武器でして、とある貴族のご子息に剣術指南をして欲しいとクラン経由で俺宛に依頼(クエスト)が届いた際に、『実戦形式で教えて欲しいが、あまり痛いのは駄目(NG)』という少々面倒な注文を付けられましてね。試行錯誤の結果『与えるダメージが必ず1になる』という一風変わった能力を持つアイテムを作らされたことがあったのですよ。


 まぁ、材料は訓練用の木剣などに特殊な薬液を吹きかけてスポンジ状に固めるだけなので、作製難易度自体はそれ程難しくないのですが、これの配合にえらく手間取りまして。


 ちなみに、アイテム名は『チャンバラブレード・シリーズ』といいまして、試作品の段階でクラマスが面白がって名付けたモノがそのまま定着してしまったんですよ」


「本当に色々やってますよね、先生達って。でも、その名前はとっても分かりやすいかも。


 しかし、そんなに便利そうなアイテムなのに全然聞いたことがありませんが、これもプレイヤーには卸していなかったのですか?」


「プレイヤーはこんなアイテムを頼らなくとも、仮に訓練中に死んでしまっても何度でも復活が可能でしたからね。実戦形式の訓練もローリスクでおこなえたので、プレイヤー向けに売り出すことは早々に諦めて、こちらもNPCの騎士団やら兵隊を多く抱える団体を中心に、クラマスに頼んで売りさばいてもらっていたんですよ」


「あぁ、言われてみれば・・・・」


「ただ、安全マージンを図るにはもってこいのアイテムなので、今回はコイツらを存分に活用していくつもりです。それに仕様上、武器の見た目が多少不恰好になってしまいますが、ちゃんとそれぞれの職業に見合った武器にコーティングすることが可能ですしね」


「別に凄く膨れてるわけではないので、言うほど不恰好でもない気がしますけど?これが忍者刀で、こっちが苦無(クナイ)ですよね。先生はそちらの刀を使われるんですか?」


「最初はこの二本差を使うつもりですが、訓練に応じて他のも使ってアキのお相手する予定でいます。同じ武器相手だけだと偏った訓練しか出来ませんからね。


 ちなみにルールですが、5分以内に相手より先に5発攻撃を与えた方の勝ちとします。ただし、戦闘スキルや投擲・魔法の類は使用禁止で、唯一下位の移動系(回避等)スキルに該当するモノだけは使用可能とします。


 訓練の目的としては、回避力の向上と戦闘時での連撃(コンボ)の組み立て練習ですね」


「りょうかいです。ということは、通常攻撃系の技と回避スキルを駆使して戦えばいいってことですね」


「それと、特別ルールがありまして『頭部』『頚部』『左胸部(心臓)』のこの三箇所に攻撃がヒットした場合は問答無用で一発アウトになりますのでご注意を。こちらは所謂“即死判定”というヤツです」


「通常戦闘で『大怪我(クリティカル)』になる部分ですもんね、分かりました!」


「本当はこれに、ステータス減少系の装備も使用するのですが、今回に限っては特に問題ないでしょう。最後に、アキには初めてこのルールでの戦ってもらうので、ハンデとして『何処でもいいので俺に一撃入れられたら、アキの勝ち』というのも追加しますね」


「先生・・・・いくらなんでもそんな有利なハンデを貰っていいのですか?私、これでも上位職の上忍だったんですよ?」


「おっ、アキは中々自信ありそうですね」


「自信といいますか、二刀流相手に両手武器で被弾無しで戦い続けるって、いくら技術があっても不可能じゃありませんか?それにお互いスキルが使えないのなら、手数の多い私の方が圧倒的に有利な気がしますが・・・・」


「まぁ、それ込みでのハンデなのでお気になさらず。ちゃんとした試合にしてみせますよ。ただ、アキが負い目を感じて戦闘に集中できないのでは困りますので、やる気を出させるご褒美も付けましょう。


 もし今回アキが勝ったら、俺と月影さんで昔に考案したオリジナルの『秘伝スキル』を一つを教えるってのはいかがでしょうか?」


「えっ!!『秘伝スキル』を教えてくれるのですか!?」


「少々習得には訓練が必要ですが、まず初見では見破られる心配の無い、とても優秀なスキルですね。残念ながら対人戦用の技なので、この前のような大虎戦では使えませんが、俺もわりとよく使用しているスキルの一つですよ」


「そんなこと聞いたら、是が非でも欲しくなるに決まっているじゃないですか!先生、言質(げんち)は取りましたからね、もう変更は無しですよ!!」


「望むところです。って、いくらなんでも喜びすぎではありませんか?先に断っておきますが、『秘伝スキル』といっても中位クラスのスキルですからね?」


「中位でも上位でも関係ないです!私達ライトユーザーにとって、上位プレイヤー達の『秘伝スキル』は高嶺の花でしたからね。中にはお金をいくら出しても教えてもらえないモノも多かったので、その一つを教えてもらえることすら、私にとっては大・大・大事件なんです!!」


「うちのクランはこれで商売はしてませんでしたけど、確かにプレイヤーメイドの魔法やスキルはどれも高額商品ですからね」


「そうなんですよ!だからこのビッグチャンスは絶対モノにしてみせます!!


 ・・・・ちなみに、さっきのビンタはポイントになりませんか?」


「もちろん、なりません。冗談を言ってないで、さっそく準備に取り掛かりますよ」


「あぅ!やっぱり駄目ですか・・・・」


「そういえば忍者装備を一通り出してみましたが、アキは今回“忍者刀の二刀流”でいいんですか?前に聞いた時は、忍者刀とクナイのセットだと聞いていましたが?」


「えっとそれはですね、元々右手のクナイは投擲用でもあったので、それが禁止ならばリーチを活かせる忍者刀の方がまだ可能性があるなぁって思いまして。といいますか、普通にやったら短刀系で先生の間合いにすら入れる気がしませんし」


「今回はアキの戦闘スタイルを見ることが目的なので、打ち込ませないとかはしませんが、なるべく実戦に近い戦いを想定してやらせてもらいますね。まぁ、忍術や投擲が使えないってのはかなり不利な条件なので、ハンデもそれなりにしたんですけどね」


「戦術の幅は確かに狭まりますが、そんなこと言ってたら実戦なんてできませんからね。限られた状況の中でもベストを尽くすのがコマンダーの役目ですから、弱音なんかは言ってられません!」


「アキは本当に良い指揮官だったみたいですね。それでは俺もベストを尽くせるよう、頑張らせていただきましょうか」


「いや・・・・ご褒美もあるので、先生はほどほどで構いませんよ?」


「いえいえ。弟子が本気で学びたがっているのに、それに応えない師匠はいませんからね。それでは、試合開始の合図はコイントスをしますので、準備が整ったら始めましょう!」


「あぅ、また余計なことを言ってしまった・・・・が仕方ない。今日は意地でも先生から一本決めさせて貰います!!」



 入り口付近から少し離れた広場へと移動し、お互い向かい合う形でそれぞれ手にした武器を共に構える。今思えば、二人が転生してからまともな対人戦をするはこれが初めてになるのだが、いつもの甘さは既に二人から消え、代わりに放たれているプレッシャーは歴戦の戦士ですら目を向けずにはいられないほどのモノへと高まっていった。



 (やはり上位クラスの職業を持っていただけあって、アキも戦闘態勢になると普段からは想像できないほどの凄みを持っていますね。これもアバターの一つの特徴なんでしょうが・・・・


 いやはや、どうやらこれは自分が思っていた以上に楽しい戦いになりそうです!)



 ナタクは懐から硬貨を取り出すと、特に改めて宣言することなくそれを指で弾き、放物線を描き重力に従いながらゆっくりと確実に二人の中間地点へと落下するそれを見つめながら、高ぶる気持ちを抑えつつ、今か今かとその時を待つ。



 そして、ついに時は動き出す。



 硬貨が地面を叩き、『キィィィィィン!!!!』という金属音が木霊する。



 いざ、尋常(じんじょう)に・・・・・・・・・



「「勝負!!」」

いざ!( ー`дー´)


勝負です!!( `・ω・´)キリッ

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