第15話 転生3日目1-2
お昼前には錬金ギルドに到着することができた。ナタクは昨日の内に個人専用の実験室を得ることができたので、今日はそちらで作業する予定なのだが、アキナがまだここのギルドの登録を済ませていないことを思い出した。そういえば、普通に登録した場合は講習と研修がけっこう長い時間設定されていたはずだ。
「アキには、最悪テストを先に受けてもらうことになるかもしれません。ゲーム時代と比べてギルド登録の難易度が上がっているみたいなので、交渉はしてみますけれど、昨日俺が受けたテストか講習を受けなくてはならないことを、つい失念していました」
「そうなのですか。ちなみにテストだと、どんなところが出るのですか?」
「筆記試験は、ゲーム時代の攻略サイトでいう中級錬金術師レシピ辺りまでの知識があれば合格できると思います。実技では最高等級3まで作れる材料が置かれている中で自分が作れる一番難易度の高いアイテムの作製でしたね」
「むむむぅ、筆記は何とかなりそうですが実技の方が問題ですね。今はまだ、錬金術師すら発現できていないので、ちょっと難しいかもしれません。先ほども言いましたがゲーム時代ですら錬金術は等級4止まりだったので」
「まぁ、今日は登録できなくても、また後日テストを受けに来てもいいですしね。等級4までいけるのであればブロンズクラス相当のはずなので、一応聞いてみて今日は俺の実験室でレベル上げとスキル集めを頑張りましょう」
「分かりました、頑張ります!」
錬金術ギルド本館の総合窓口へ向かうと、そこには今日もミーシャが座っていたので、声を掛けることにした。
「ミーシャさんこんにちは。今日は同郷の者で、俺の弟子を連れてきたんですが、ちょっとお話を聞いてもよろしいですか?」
「あ、ナタク様こんにち・・・ってすごい美人さん!!失礼しました。お話とは何でしょうか?」
「昨日街で偶然弟子に会えたので久しぶりに腕を見てみたくてギルドに連れてきたのですが、ギルド登録していない者を実験室に連れて行っても大丈夫でしょうか?それと、腕が鈍っていなければブロンズクラスの試験を受けさせたいと思っているのですが、可能ですか?」
「はい、ナタク様はゴールドクラスなのでシルバークラスまでの試験の推薦状が発行できますから、ブロンズクラスなら問題なく申請できますよ。ちなみに、あまり部外者を実験室に長時間招き入れるのはまずいので、まずはアイアンクラスでの登録をお勧めしますね」
「その場合は講習会と研修でしたっけ?」
「はい、本来はそうなりますが今回の場合ナタク様が監修をすることが条件で、先にアイアンクラスのギルドカードを発行することができますよ。あくまであの講習は『誤った知識を覚えさせないため』のものなので。
ギルドの上級研究員であるゴールドクラスの錬金術師が指導するなら、変な話ギルド職員が高説たれるより、ずっと価値がありますので」
「成程、助かりました。少なくてもブロンズクラスの腕はあるはずなので、最悪、昨日俺の受けたテストをやらせるべきかと悩んでいまして。なんとかなりそうで助かりました」
「い・・・いえ。あのテストだけは勘弁してください。昨日のあれは若干トラウマになってて、昨夜はだいぶ魘されましたから。私が職員になって、最大の失態でした・・・・」
「あはは・・・・、確かにあのアメリアさんは酷かったですからね。では、彼女の登録をお願いしていいですか?この後は俺の実験室で結構な数の錬成を予定しているので、カードができたら声を掛けていただきたいのですが」
「承りました。それではこちらに必要事項をご記入ください。カード作製にはしばらく時間がかかりますので、できましたら私がナタクさんの実験室までお持ちしますね。たぶん3時間もあれば届けられると思いますので」
「ありがとうございます、私はナタク先生の弟子のアキナっていいます。これから宜しくお願いしますね!」
「私は錬金ギルド職員のミーシャです、もしギルド施設や設備等で判らないことがあったら何でも聞いてください。いつでも駆けつけますので!こちらこそ宜しくお願いします」
(なんだろう。お互い笑顔なのに、二人の間で目には見えないはずの火花が散っている幻覚が・・・・。こんなエフェクトありましたっけ?)
「それでは、カードの方よろしくお願いします。俺達は先に自分の実験室の方に行っていますね」
「ぐぬぬぅ、分かりました。超特急でお持ちしますので少々お待ちください。必ず、すぐ行きますからね!」
無事にアキナのギルドカードが手に入りそうで、ほっとしながら二人で実験室へと向かうことにする。
「先生、ミーシャさんって可愛い人でしたね」
「えっ?そうですね。仕事ぶりも真面目だし、若いのにしっかりしてて凄いと思います。ちょっと無理して背伸びしてる感じは、確かに見ていて可愛いらしいですね」
「そうですか、可愛らしいですか!ふんだぁ!」
(あれ?アキが急に不機嫌になったぞ、何故だ??)
不機嫌になったアキを宥めながら、研究棟の自身の実験室へと到着した。
「ここが先生のお部屋ですか?って、なんでもうこんな立派な設備の部屋を手に入れてるんですか?人前だったからツッコミを我慢しましたが、そもそもゴールドクラスっていくらなんでも早すぎません!?」
「いやぁ、昨日はだいぶ“はっちゃけ”ましたからね。先ほどミーシャさんが言ってたテストもそうなんですが、少し長くなるので食事しながらお教えしますよ」
せっかくなので、森で収穫したハーブを何種類かブレンドし茶葉を作製し、パリムの実を丁寧にカットしてその皮もお茶にいれて即席のハーブティーを作製して振舞った。
どうも、自分一人のためにここまでの作業をするのはめんどくさいのに、誰かのためにと思うと途端に手の込んだ物を作りたくなるのは謎である。昨日みたいに一人で食事をしていたら、間違いなくパンと水で終わりだったであろう。
「あ、このお茶すごくおいしいです」
「これは、この世界のお茶で『レイモール』という物になりますね。効果は精神安定と疲労軽減だったかな?薬としても使われることがあるのですが、この味が結構好きで、昔も結構作って飲んでましたね」
これから話す内容のこともあり、この効果は有用であろう。それから屋台で買ってきたサンドイッチのようなものを食べながら昨日の出来事について話すことにした。話してる最中、アキの様子を窺ってみたが驚き半分呆れ半分といった感じであった。
「つまり、誤って受けたテストで満点取った挙句。用意されていた素材を使って、本来作ることのできない等級2のポーションを作りだし、そのレシピまで公開。なおかつ作製困難な薬の、さらに上位で作製しやすい素材の新レシピを再現させた功績でゴールドクラスになったと・・・・」
「そういうことになりますね。いやぁ、昨日は楽しかったですね」
「なんか、ツッコミいれるのも馬鹿らしくなるくらい先生やらかしてますね。これが『全部嘘でした』って言われた方がまだ信じられますよ。そもそも、転生して2日でどうやったら等級2のポーションが作れるんですか、何もかもが足りませんよね?」
「そこは秘伝になりますのでまだ教えられませんね。というか、まず教えたとしても再現できないってのが本音ですけど。最低でも最上位の生産職の最高ランクのレシピを失敗しないで作れるようにならなくては成功できないみたいですよ。俺の所属していたクランでもこれができる人は自分ともう1人だけでしたから」
「先生がすごい人なのは改めて分かりました。それで、今日は何から手をつけたらいいでしょうか?」
「そうですね、今朝渡したスキル育成計画のうち、裁縫師に必要そうだったスキルを書き出したものがあったはずなんですが今持ってますか?」
「ちょっと待ってくださいね。えっと、これですね。ありました!」
アキナスキル取得予定表
裁縫師用、他職有用スキル
“錬金術”
『安定化』 :錬成時、安定性の変動がしばらく起こらない。
『添加』 :対象に任意の物質を注入する。
『定着』 :対象に別の製品を加工する際に安定性の変動が起きづらくなる。
『分解』 :対象から指定した素材を取り出すことができる。
“画家”
『イメージ』 :自分の考えを作製対象に正確に付与する。
『色彩』 :対象をより美しく見せる効果あり。品質を上げる。
『観察』 :対象の状態を確認することで練成の精度を上げる。
『繊細なタッチ』:細かい作業の成功率が上昇する。
“音楽家”
『鋭敏な感覚』 :対象の耐久値変動が一定時間読み取れるようになる。
『リズミカル』 :一定のリズムで作業精度が上昇する。
『調整』 :錬成の安定性を減少させる代わりに、指定箇所の修正をおこなう事ができる。
『超感覚』 :一瞬先の作業結果を知ることができる。
“彫金細工師”
『精密作業』 :細かい作業で対象への加工技術が上昇する。
『金属加工』 :金属パーツを使用した際、加工技術が上昇する。
『細分化』 :作成中の作業を分割しておこなう事ができる。
『集中』 :作製作業の安定化が大幅に上昇する。
「そうそう、これですね。ここに書かれているスキルを取得しておけば、裁縫師で上位職への転職が多少は楽になるはずです。なのでまずここに書いてある職業をスキル取得までやってもらう予定です。ちなみに、全て下位の“サブ職業”になりますので上限がLv20ですから、努力次第で数ヶ月で取り終えることが可能だと思いますよ」
「はい、先生!すでに眩暈がしてきました」
「大丈夫、俺もここに書いてあるスキルは欲しいので一緒に頑張りましょう!ちなみに、特殊な設備が必要な職業と中級の職業はここには記載してないのでこれの倍以上は取得する予定なので楽しんで錬成していきましょう」
「やっぱり、上位プレイヤーの方はどこかおかしいです・・・・」
「それはほめ言葉として取っておきましょう。なぜ、ゲーム時代にプレイヤーの逆転現象が起こったかというと。実は、職人さん達冒険そっちのけで初めはこんなことをしていたからです。
それでステータスをガン上げした挙句、先駆者達が切り開いた安全な道をお金と情報でガチガチにブーストして一気に抜き返したんですよ。なかなか気分爽快でしたね、まさに『ウサギと亀』そのものでした」
「汚い!職人さんが汚いですよ、先生!!」
「『散々馬鹿にしていた職人プレイヤーに全てを抜かれるのってどんな気持ち?』ってやつでしたね。
でもその前は酷いもので、その当時戦闘職一本でやってたプレイヤー達に『俺達が攻略して世界を救っているんだから、てめぇらは俺らに奉仕するべきだ!』とか言って職人から強奪行為や踏み倒しなどを何度も繰り返されていましたからね。そもそもメインストーリーもないのに、攻略ってなに言ってるんだって思いますけど。
職人達には職人達の言い分もちゃんとあるんですよ。実際に、かなり馬鹿にされたり迫害されていた時期があったわけですしね、ついに逆転できたときはほんと気分爽快でしたよ。
ちなみに、そういった悪質なプレイヤー達は、終盤には盗賊までに落ちぶれてPK行為を繰り返す迷惑集団に成り下がりましたからね。昔、散々苛められた職人達で徒党を組んで何度も見つけてはボコボコにして遊んでました。いやぁ、あれも楽しかったなぁ」
「あれ?途中まで職人さん哀れんでいたけど、やっぱり職人さんも十分酷いですよ!?」
「因果応報ってやつです。なので俺達職人連中は全力でやり返しましたけどね」
「私はその逆転現象が落ち着いてから始めた人間でしたけど、そんな世紀末みたいな世界勘弁して欲しいですね。平和になってから始めてよかった・・・・」
「そもそも、この世界は育成に凄い時間がかかりますので、手っ取り早く『俺最強!』見たいなプレイをするとすぐに詰んでしまいますからね。すべて気長にやっていくのが続けるコツでした。それが現実になってもこれは変わりませんよ」
「千里の道も一歩から・・・ですか。分りました、頑張ります!」
さて、アキもやる気になってくれたし。それでは楽しい錬成の時間と参りますか!
悪いPCにはお仕置きじゃ~!( っ・∀・)≡⊃ ゜∀゜)・∵.