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第10話

 

 当初の予定では、荷解きをある程度済ませてから直ぐに次の目的地へ移動しようかと考えていたのだが、思いのほか建物の内見(ないけん)に時間が掛かってしまったため、自然と真新しいダイニングで早めの昼食を取ってから出かけようという話になった。


 それに、アキナには事前に遠征中の食料を街で大量に買い込んでもらっていたので、準備自体もそれ程時間を掛けずに食卓を用意できることもこの状況を後押ししていた。何より彼女自身も早く新築のキッチンを使ってみたいのか、まるで子犬が嬉しそうに尻尾をブンブン振っいている幻影が見えてきそうなくらいご機嫌なのが丸分かりであった。



「まさか、水道の蛇口や冷蔵庫までも完備されてるとは思いませんでした。もしかして、トイレも水洗だったりしますか?」


「良く分かりましたね。ちなみに、中の仕組みなどは向こうの世界と若干異なりますが、使い方と機能はほぼ一緒のはずですよ。これらもゲームの頃にクランで販売していた商品の一部になりますね」


「私達なんて手漕ぎポンプを現役でありがた~く使っていたのに・・・・


 それに、これらの商品を市場(しじょう)で見たことありませんよ?」


「あれ?でも確かに売り上げは毎月あがっていたし、NPCの職人まで雇って結構な台数を出荷していたのですが・・・・


 ということはゲームの時はプレイヤーにではなく、直接買い手が付きそうな貴族や商人に絞って取引をしていたのかもしれませんね。なにせ元締めは、あのクラマス(クランマスター)でしたので」


「そういえば、今と違ってプレイヤーはお風呂やトイレなんかに行く必要もありませんでしたもんね。アイテムもインベントリに入れておけば腐りませんし」


「そうなんですよね。だから俺も最初、クラマスに商品開発を依頼された時に『こんなの作ってどうするんだろ?』って疑問だったのですが、なるほどそういうことだったのか」


「はぁ・・・・それにしても、先生達はゲームの頃からこんな便利な空間で生活していたんですね」


「一応、これらの魔導具も現在ガレットさんにお願いして生産ラインを確保してもらっている最中ですので、ある程度体制が確立できたら順番に公開していく予定ですけどね。ここにあるのは、その試作品です」


「なんか先生一人いるだけで、文明レベルが物凄い速さで進化している気がします。水道なんてガレットさん辺りに見せたら仰天するんじゃないですか?」


「確かにとても喜んでもらえそうですが、実は調べてみるとそこまでという訳でもなさそうなんですよ。なにせ生活水用の水路なんかは、北の山脈から遺跡を利用して引っぱってきているモノが既に存在しているので、後は各所に貯水槽とポンプを設置してあげれば直ぐにでも運用が可能ぽいですからね。


 ほら、街の中心部にある噴水がその確たる証拠です。まぁ、水路が行き届いていないところは、未だに井戸を使ってるみたいなので、その辺のインフラ整備は、領主様に丸投げする予定ですけどね。


 それに、これがこの世界に俺が呼ばれた理由でもありますから、これからも自重しないで色々やっていくつもりです」


「もうそんな所まで調べてたんですか・・・・領主様達、ふぁいとです」


「まだまだ、やりたいことが山積みですからね。さて、それではそろそろ食事の用意を済ませてしまいますか」


「っと、そうでした。ではでは、お昼のメニューはどれにしましょうか?丁度、アーネストさんの所にお願いしに行ったらジョンさんまでいて、そのまま二人で競うように調理してもらえたので、なんか予定よりもかなりたくさん料理あるんですよ」


「二人とも、前回の料理対決がかなり気に入ったみたいですからね。これから月一ペースで、他の料理人も巻き込んだ料理対決を開催するみたいですよ。ちなみに、また二人には二種類の対になるレシピを渡しておいたので、次回も面白いことになると思います」


「また先生が裏で仕掛けているんですね・・・・」


「『細工は流々仕上げを御覧じろ』ってね。後は一流の料理人達の腕に期待しましょう。それと今日はこの後運動をする予定なので、さっぱりとした『コンソメスープのポトフ』と軽めの惣菜にしましょうか。何気に、これが俺の一番の好物になり始めている気がします」


「あっ、それ私も分かります。アーネストさんのスープは絶品ですもんね!」



 それからアキナと二人で準備を進めて、用意した食事を楽しみ始めたのだが、食卓に並んだ全ての料理が、それぞれこの街で知り合った一流の料理人達の手によって調理された一級品ばかりが集まっていたため、もしかしなくても街のどのレストランで出されるランチよりも豪華になってしまった感が否めなかった。



「もうこれ、街での生活よりも充実してますよね。あっ、アルさんの新作パンもこれまた美味しい♪」


「まぁ身体を鍛えるのに、住居や食事でストレスを増やしてもいいことはありませんからね。それに、ここの施設は今後も利用価値があるので、先行投資としても悪くはありませんし」


「次に向かうは訓練施設でしたっけ?そちらにも何か建てたりしているんですか?」


「いや、そっちは元々あるモノを利用しておこなう予定なので、施設には“まだ”何も手を加えてはいませんね。まぁ、色々と準備はしていますが」


「“まだ”ですか・・・・さっき一週間分くらいは驚かされたので、もうお腹はいっぱいですよ?」


「まだまだ用意している半分程度なので、アキにはもう少し付き合ってもらいますよ。寧ろこれからが本番なので」


「うぅ、これで半分って先生どんだけ気合入れて準備していたんですか・・・・」


「祭り事には手を抜かない主義なので。この後は、先に錬金術関連の用事を済ませて、それが終わりしだい戦闘訓練会場へご案内しますね」


「錬金術というと、いよいよお米様の栽培準備を始めるってヤツですか?」


「そうですよ、お米様のための田んぼ・・・・こっちでは畑になりますが。その準備を、なるべく早めに済ませておきたいんですよ。そちらも、結構準備に時間が掛かるはずなので」


「分かりました。それならば、お米様のために直ぐにでも行動に移りましょう!それに最近運動しなさ過ぎてかなりピンチな気がしますので、これ以上スプーンを動かす前にさっさと片付けて、お出かけの準備をしちゃいましょう!」


「えっ、俺はもう少しだけおかわりを「先生、使い終わった食器を持ってきてください。パパッとまとめて私が洗っちゃいますよ!」あっ、はい。ありがとうございます・・・・」



 お米様の話を聞いて、既に目の色が変わっているアキナには逆らえず、テーブルに置いてあった鍋から手を引っ込めながら、トボトボと彼女のもとへと空いた食器を運ぶナタクであった。


 実のところ、最近仕事が忙し過ぎて碌に食事や睡眠を取っていなかったことに加え、ここ数日は鍛冶仕事も連日こなした関係で、自分は寧ろ少し痩せた気がしていたのだが、そのことをアキナに伝える勇気は、残念ながら今の彼には持ち合わせてはいなかった。



 (どうやら、このまま食後のお茶を楽しむ時間も無さそうですね。とほほ・・・・)



 軽く出かける準備を済ませてから建物の外に出てみると、丁度正午になったためか、雲に隠れることもなく元気そうな太陽が一段と高い位置から煌々と辺りを照らし続けていた。ただ、森の外とはだいぶ気温差を感じるので、これこそ、この場所に特殊な仕掛けが施されている証拠であろう。



「それで、今からどちらに向かうんですか?まさか、また霧の中に逆戻りです?」


「いえいえ、すぐそこの泉の近くに一ヵ所洞窟があるんですけど、今から向かうのはそこの奥になりますね」


「洞窟ですか!なんかやっと冒険らしくなってきましたね!!」


「まぁ、確かに冒険ぽいかな?中を見たらもっと驚くと思いますよ」


「サプライズの続きですね!なんかワクワクしてきました♪」



 そのままアキナを連れて泉の周りを反時計回りにぐるりと歩いていると、周りに自生している木々を抜けた先に小高い丘とその一部に小さめな空洞が開いた場所が現れ、その付近にはところどころに石畳のようなモノが見え隠れしていた。


 この場所こそが、古代の人々が霧の守護結界という仰々しいギミックまで用意して秘匿しようとしていた心臓部であり、自分達が目指していた目的地でもあった。



「ここが今回お世話になる予定の『グロブリンスの祠』という遺跡系ダンジョンになります。一応、本来のダンジョンの入り口はこの奥になるのですが、この付近はその影響を受けているため、建造物の一部が当時のまま残っているんですよ」


「戦闘訓練って、やっぱり隠しダンジョンだったんですね」


「まぁ、そんなところです。ただ、最初は敵の現れない安全なエリアだけを選んで進んでいくので、ご安心ください」


「しかし、これだけ古そうな未発見ダンジョンで魔物の集団暴走(スタンピート)が確認されていないということは、その土地の保守を目的に作られた防衛型のダンジョンか、入り口がまだ完全に塞がっている大型の浸潤型ダンジョンってところですか?」


「アキの読み通り、ここは防衛型のダンジョンで間違いありませんよ。しかも、1000年以上昔に生成されたかなり力を蓄えたタイプのダンジョンになりますので、完全攻略推奨レベル35~45のフルPTと、この辺りにしてはかなり高めの難易度となっています」


「それじゃ、今の私達だけじゃ攻略なんて100%不可能ではないですか?間違いなく、敵に会っただけでも瞬殺されますよね!?」


「確かに、“今”の二人では攻略は難しいですけど、今回はあくまで攻略ではなく、安全な戦闘訓練を目的に来ただけですので、そこまで心配する必要もありませんよ。それに、目的のモノも戦闘をしないで手に入るはずですので」


「はぁ・・・・」


「まぁ、不安になる気持ちも理解できますけどね。アキには“できない無理”をさせないつもりなので、安心して任せてください」


「・・・・分かりました。先生の事は誰よりも信頼してますから!」



 ふむ。今日はやけにアキからの信頼度が高い気がするのですが・・・・まぁいいでしょう。それに何時も以上に肝が据わっているように感じるのも、きっと戦闘訓練前で気が高ぶっているからなのかもしれませんしね。


 それでは、楽しい洞窟探検にレッツゴーです!!

おっ米様~♪(*´∇`)


旦(・ω・`;)トボトボ

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