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第8話

 

 転生したての頃の大地を優しく包み込んでいくような心地のよい春の日差しは、初夏特有のより熱を帯びた力強いものへと移り変わり、目前に広がる大平原からはまだ早朝だというのに虫達の大演奏会が、今にも始まろうとしていた。


 あれから時間は進み、いよいよ遠征に向かう当日の朝となった。


 あの後、アキナと合流してからさっそく戦闘用装備の詳細についての話し合いをおこない、自分達の納得のいくデザインが決定したので、後はお互いある程度の工程まで作業を進めておくことにして残りの時間を心置きなく鍛冶作業へと費やしてると、気が付けばあっという間に予定の日時となっていた。



 今日はアキナとの集合場所にイグオールの街の西大通りにある巨大ゲートを指定していたので、人込みを避けてあえて街には入らず、ゲートの近くに植えられた街路樹の下でのんびりと待たせてもらっていると、ゲートの方から何時もの浴衣のようなデザインの羽織にスカートを合わせた姿の彼女が小走りで向かってくるが確認できた。どうやら腰には領主から頂いた短剣を二本吊るしていたので、しっかりと武装もしてきたようだ。



「すいません、お待たせしました!」


「俺も先ほど着いたばかりなので、そこまで待っていませんよ」


「よかったぁ。ちょっと早めに出てきたつもりだったのですが、ミニマップに先生の姿が表示されていて慌ててしまいましたよ」


「今回はお互い早めに来過ぎてしまったみたいですね。それではさっそく出発しますが、忘れ物とかは大丈夫そうですか?」


「う~んと、事前に先生に頼まれていた物は全部インベントリにしまってありますし、裁縫道具から細々した物まで一通り確認して持ってきましたので、たぶん大丈夫なはずです!


 それに、心の準備もバッチリ済ませてきました!!」


「(戦闘訓練の心得とかの話かな?)了解です、それではさっそく向かうとしましょうか」


「っと、そうだ。事前に野営道具なんかは要らないと言われていたので、今回はそっち系は何も用意してこなかったのですが、本当に大丈夫でしょうか?」


「そちらは俺の方で用意してあるので問題ありませんよ。それに、ここから結構近くなので、何度か先に行ってもう設営も終わらせてありますので」


「あらら、そうだったんですね」


「元々そこはゲーム時代にクランが独占していたエリアでしたからね。勝手知ったるってヤツですよ」


「クランで独占していたということは、何処かに隠されてたエリアなんですか?」


「ふっふふ、それは後のお楽しみということで!」


「例の“サプライズ”ってヤツですね。では、私も楽しみにさせていただきます!」



 二人揃ったのでそのまま街の外へ向かって歩き始めたわけだが、このところお互い別行動が多かったので、移動中の時間を使って世間話でもしながら、その間の情報のすり合わせをおこなっていくことにした。



 (『報告』『連絡』『相談』は大切ですからね!)



「そういえば、アキはここ数日錬金ギルドで寝泊りをしていたんでしたっけ?」


「はい、お言葉に甘えてありがたく使わせてもらっていました。他の宿屋を探そうかとも考えたのですが、なんだかんだで防犯面や照明に防音設備、それに加えて大きなお風呂まで完備されていて、下手な宿屋へ泊まるよりもよほど快適ですからね。


 それに、食事もインベントリ内に買い溜めしておけば問題ありませんので、アメリアさんがよく泊りがけで研究している意味がよく分かりましたよ。先生の方は、お城やお屋敷の鍛冶場でしたよね?」


「お城では殆ど書類仕事や会議を夜遅くまでしていたので、眠くなったら用意してもらった部屋で仮眠を取るくらいでしたね。まぁ、色々な事業を同時に立ち上げていたので、最初からこうなるだろうとは思っていましたけど。


 それに鍛冶場にも仮眠室は設けてありましたが、大抵ベットまで辿り着けずにそのままベンチで寝てました」


「お願いですから、身体を壊さないでくださいね?」


「あはは・・・・善処します。ただ、おかげでどちらも満足のいく仕事ができたので、これで心置きなく次の作業に移れそうです」


「それで今日は結局どちらまで行かれるんですか?話せる範囲でいいので、教えてください」


「目的地は、イグオールの街を北西に進んだ先にある森林地帯ですね。そこの一角に、面白い隠しエリアが存在するんですよ」


「あれ?西というとこの前行った採石場があった森と同じとこですか?」


「確かに近くですが、もっと森の奥になりますね」


「う~ん、何処だろ?」



 他にも色々と話している間に森の入り口まで到着したのだが、今回はこの前の大型魔物騒ぎで通った道とはまた違うルートで進入していくため、用意していた『魔除けの香』を焚きながら森を進んでいくことにした。本来この周辺に出没する魔物は駆け出しの冒険者達がターゲットにするレベルのモノばかりなので態々高価な香を焚く必要もなかったのだが、これは目的地に着くまでに邪魔が入って時間を取られるのを嫌った一つの安全策でもあった。


 暫く舗装されていない獣道を迷いもせずにサクサクと進んでいくと、漸く木々に囲まれた小さな広場に到着した。ここが今から向かうエリアのチェックポイントなので、ここまで来れば後もう少しで目的地である。



「なんだか雰囲気の良い場所ですね。森林浴って感じです」


「俺が転生した場所も、確かこんなところでしたね。目的地もすぐそこですよ」


「本当に街から近かったんですね。泊りがけで二週間と聞いていたので、私はてっきり馬車で何日も!ってのを想像していましたよ」


「そういった場所もあるにはあるのですが、錬金術関連でどうしてもここに用事があったのですよ」


「そういえば、レベル上げの方がついでだって(おっしゃ)ってましたもんね」


「ちゃんと経験値も美味しいので、その点も安心してください。それでは今からこの先へ進むのですが、ここから暫く俺と手を繋いでもらってもいいですか?」


「はぅ、手ですか!?」


「実はこの先に、ちょっとした仕掛けがありまして。この『古びた指輪』というアイテムを装備していないと、エリアの外に追い出されてしまう仕掛けになっているんですよ。


 ちなみに、ここから先は『霧隠れの森』とか『迷いの森』と言われている場所になるのですが、アキもゲーム時代にこういった場所をご存知ありませんでしたか?」


「噂では『エルフの隠れ里』や『隠しダンジョン』なんかがあるのではないかって言われていたところですよね?


 って、先生はなんでそんな重要そうなアイテムを持っているのですか!?」


「この指輪ですか?これは本来この森に生息するゴブリンやオーク種がかなりの低確率で落とすレアアイテムなんですけど、この前の大型魔物騒ぎの時に運よく灰の中から発見できたので回収しておいたんですよ。


 もしかしたらヤツが食事をするために襲った獲物の中に、この指輪を所持していた個体がいたのかもしれませんね。


 一応大虎のドロップ品扱いでしたので領主様に渡してはいたのですが、使い方を知らないと何の変哲もない無いただの安っぽい指輪にしか見えませんので、鑑定が済んでからその日の内に返却してもらって保管していたんですよ。いやぁ、探す手間が省けて本当に助かりました」


「先生って、そういう所は抜け目ないですよね・・・・」


「そもそも、ゲーム時代にこの森に生息する魔物を数千体倒しても最初の1つしか出ませんでしたからね。もしかしたら、最初から1つしか存在しないアイテムだったのかもしれません。まぁ、中に入れればいくつか入手する方法もあるんですけどね」


「今そんなことしたら、確実に森の魔物が全滅しますって。てか、よくそんなアイテムを知っていましたね?」


「入手方法は別として、この指輪の知識は他のクエストで発見された古文書の解読で得たモノなのですが、所謂(いわゆる)『チェーンクエスト』というヤツになりますね。それを運よく俺達のクランが見つけていたということです。今から向かうエリアも、クランで独占できていたのはそういった理由があるんですよ」


「古文書というと、偶にクエスト報酬や遺跡からの発掘品として入手できる、よく分からない文字で書かれた古ぼけた本のことですか?」


「時代や場所によって書かれている言語は異なりますが、大体その認識で合っていますよ」


「あれって、その言語ごとに習得している学者さんを捜し当てなくちゃいけなかったので、私達はスルーしてオークションやバザーで売ってしまっていましたよ。あのアイテムにそんな特典があったとは・・・・


 一度だけチャレンジした時も、良くわからないアイテムの作り方で凄くがっかりした記憶があります」


「古文書って、大半がガラクタやハズレ魔法の習得方法だったりもしますからね。ただ、中には本当に有益な情報が書かれた物もありましたので、当時はうちのクランリーダーが率先して買い集めて、俺の所まで持ってきてくれていたんですよ」


「えっと、先生の所に持ってきてどうするんですか?」


「あれ、言ってませんでしたっけ?俺はゲーム時代に『古代ラスティア言語』『魔族共通語』『森エルフ語』を習得していましたので、古文書のいくつかは学者さん抜きでも翻訳が可能だったんですよ。


 他にも、レアな言語として『まじゅう語』が少し分かりますね。代表的なものとしてはゴブリンやオーク、オーガなんかが使っている言語になります」


「あの古文書ってプレイヤーが自力で解読できるモノだったんですね・・・・」


「元々学生時代から語学にはまっていましたからね。あの頃は短期留学も頻繁に行っていましたし、知らない言語を覚えるのが楽しくて仕方がありませんでしたから。語学習得は俺のゲーム以外のもう一つの趣味なので、片っ端から調べて翻訳していたというわけです」


「あっ、そういえば留学の話は前に聞いた記憶が・・・・先生って何とかリンガルだったんですね」


「アキが言いたいのは“マルチリンガル”ですかね?他にも“ポリグロット”とかも言いますが、まぁその辺の違いは今はいいでしょう。ヨーロッパ圏に住んでる人なんかはお隣の国と地続きなので、結構何ヶ国語を話せる人が多かったりしますよ。ほら、喫茶店などで名札に国旗のマークをたくさん付けてる人とかがそうですね」


「あっ!確かにヨーロッパ旅行で喫茶店に入った時に、日本語がお上手な店員さんに会ったことがありました。あそこのカプチーノは絶品でしたね♪」


「観光地以外で日本語を話せる人は結構珍しいですけどね。ヨーロッパなら英語・イタリア語・ドイツ語・フランス語・ポルトガル語なんかが通じるところは多いです」


「私が行ったのは観光地だけでしたね。そこでガイド本片手に、拙い英語とジェスチャーでゴリ押ししていました。その時に先生みたいな人が一緒にいてくれればどれだけ楽だったか・・・・」


「それも海外旅行の醍醐味ではありますけどね。ただ、あんまり露骨にするとスリの標的にされますけど」


「なんか、知らぬ間に結構危ないことをしていたんですね。被害に合わなくて良かったです」


「さて雑談はこの辺にして、そろそろ向かうとしましょうか」


「あっ、はい!宜しくお願いします!!」



 あの、アキナさん。その握り方だと、ただの握手なのですが?


 そこまで緊張されると、なんだか此方まで恥ずかしくなってくるのですが・・・・まぁいいでしょう。ここからは少し道順も複雑ですし、ギミックもありますからね。役得ということで、さっそく森の奥へと出発しましょう!

宜しくお願いします!\(*>▽\*)


(何か違う・・・)(;´・ω・`)ノ

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