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第7話

 

 錬金ギルドへ到着すると、毎朝のようにおこなわれている販売エリアの混雑振りもだいぶ落ち着きを取り戻している様子で、今は職員達も交代で休憩に入ってるらしく、何処か閑散とした雰囲気をしていた。


 たぶん今の時間であれば、アキナも実験室に戻り昼食を取りながら戦闘用装備のデザインを作画している頃だと思われるが、集中しているところを邪魔しても悪いので、そちらには寄らずに直接ガレットのいる執務室へと向かうとしよう。


 元々アポイントを取っていたので、部屋の前に着いたところで魔導具を操作して自分の来訪を告げると、返事より先に扉の解除音が聞こえてきたため、どうやら直ぐに入っても問題なさそうだ。



「失礼します。この前の魔導具の件でお伺いしました」


「おぉ坊主、待っとったぞ。ほれ、さっそく決まった内容を話してやるからこっちに来て座れ。今、お茶とお菓子も用意しようじゃないか」


「ありがとうございます。って、今日は随分と機嫌が良いですね」


「かっかか!なぁに、今回は大きな仕事を我々錬金ギルドが主導でおこなえるからな。それに、中々の利益が絡む関係で頑固者の鍛冶ギルドも無下にせんかったし、普段なら文句ばっかり言ってくる彫金細工ギルドの連中も大人しかったから、かなりスムーズに話が進められたわい。これも、全て坊主のおかげじゃな!」


「ということは、あの話が上手く纏まりそうなのですね」


「もちろんじゃ!昨日の段階で大筋の打ち合わせは終わったから、後は各ギルドで担当する箇所のパーツを作り、来週中には試作品第一号が完成する予定じゃ。そこで問題がなければ、工場を確保して量産態勢に入るという流れじゃな。


 お前さんが自分の利益を放棄するという暴挙に出たおかげで、作れば作るだけ大きな利益が各ギルドに入るもんだから、皆かなりノリ気じゃったぞ。しかし、今更ながら本当にあの条件で良かったのかい?」


「えぇ、問題ありませんよ。あくまで今回は“各ギルドとの協力体制”の切っ掛けができれば良かったので。前例ができれば、次の仕事に繋げやすいですからね」


「協力関係作りのために、あえて自分の利益を放棄して次からの本命に繋げたということか、実にお前さんらしい発想じゃな。しかし、最初に利益を取らなかったのだから、次もその条件でやらせろと他が言ってきたらどうするんじゃ?」


「その場合は、せっかく築いた関係を壊すことになるのであまり使いたくはないのですが、どうしてもという時は一度バッサリ手を切ってあげればいいんじゃないでしょうか?


 相手としても、こちらと一緒に仕事をすれば大きな利益を得られるということが分かっている訳ですからね。その手を離されることに、強い抵抗感を覚えるはずです。


 それに、いくら上が意固地になろうとも下が付いてこないか、または従ったとしても強い不信感を持つようになるのではないかと」


「坊主は中々恐ろしい事を考えるな・・・・」


「よっぽど酷い相手にしか、この手は使いませんけどね。といいますか、あまり一人勝ちするのも良くないんで、なるべく利益を分配して多くの人の生活に余裕が生まれればと考えています。そうすれば、色々と創作意欲も湧いてきますからね」


「・・・・やはり、お前さんは貴族を目指した方がいいんじゃないか?間違いなく向いておると思うぞ?」


「自分は生涯研究者でいたいので、貴族になりたいとは思いませんね。それに、今なら領主様のような大物が後ろ盾になってくれているので、そうそう他所の貴族の方にちょっかいをかけられる心配もないでしょうし」


「貴族をしながら研究者を続ければよいだろうに。まぁ、当主になるとしがらみや付き合いも増えるだろうから、研究時間をそちらに取られるのも確かだとは思うがな」


「それに、中途半端に爵位を持ってしまうと権力を振りかざした大貴族の方に研究を奪われる可能性も大いに考えられますからね。その分、領主様の庇護下で好き勝手に研究させてもらえる方がよっぽど安全だと思います」


「まぁ、うちに喧嘩を売るほど気合の入っている馬鹿はそうはいないだろうからな」


「それに下手に領地なんかを持ってしまうと、そちらにも労力を割かなくてはなりませんからね。『餅は餅屋に』、素人が下手なりに頑張るよりも、自分の得意な分野で頑張っている方が有意義というものです」


「餅?」


「あぁ、今のは俺の故郷の諺で『適材適所、専門分野は専門家に』という意味です。今度また穀物の研究をしますので、その時にレポートを持ってきますね。餅とはその穀物を加工して作る保存食みたいなモノです」


「もう次の研究を決めておるのか・・・・」


「そのためにも明後日から二週間ほど街を留守にする予定でいます。お土産、楽しみにしていてくださいね」


「ワシはもう嫌な予感しかしないのだが・・・・というか、お前さん何処かに出かけるのか?」


「それ程遠くにというわけではないですが、最近は研究ばかりで身体を動かしていなかったので、この機会に“少し”真剣に剣を振ってこようかと思いまして。ですので、先ほどの案件は宜しくお願いしますね。いい結果に繋がるよう応援しています」


「そっちは大船に乗ったつもりで任せておけ。これ程の仕事を駄目にするほど、まだまだ耄碌(もうろく)はしとらんからな。


 ・・・・ちなみに、そこにはお前さん一人で行くのかい?」


「いえ、今回はアキの戦闘面の強化も課題の一つなので一緒に連れて行くつもりですが・・・・


 何か彼女に急ぎの用事でもありましたか?」


「(こりゃアメリアに知れたら相当荒れそうじゃな)いや、なんでもない。ただ、なるべく早く帰ってきてくれると助かるのぉ」


「??」



 その後、簡単な打ち合わせを済ませてから執務室を後にしたが、最後の方でガレットが頭を押さえながらブツブツ独り言を喋っていたが、あれはいったい何だったのだろうか?


 これで残りの用事はリズベットに仕事の引継ぎをお願いするだけとなったので、たぶんそこにいるであろうアメリアの実験室にこのままお邪魔することにした。


 ギルド本館の長い階段を降り終え、自分の部屋の隣にあるアメリアの実験室の前までやって来たのだが、前回と同じ失態を繰り返さぬように心がけながら部屋の入り口に設置されている魔導具に手を伸ばそうとしていると、丁度タイミング良く部屋の扉が開かれ、今まさに呼び出そうとしていたリズベットが顔を出してきた。



「それじゃ、買出しに行ってきますね。・・・・って、あれ?


 ナタクさんじゃないですか、こんにちは。アメリアさんに会いに来たのですか?」


「こんにちは、今日はリズベットさんに用事があってきました。例のトマトの件ですね」


「あぁ、明後日からの栽培の監督と調理ギルドへの配達の話ですよね?」


「リズベットさんは今からお出かけでしたか?もしあれでしたら、時間をずらしますけど?」


「いえ、特に問題ないですよ。少なくなった備品の補充と、私用の研究材料の買い出しに行くだけでしたので。それに、アメリアさんも今は新しい研究に夢中ですし、私も少し前に大きな実験が終わったばかりなので、特に急ぎの仕事もありませんからね。


 買出しのついでに、ミーシャでも冷やかしに行こうかと思っていたくらいなので、暇といえば暇ですね」


「あはは・・・・では、今から栽培に使うアイテムと必要事項が書かれた書類をお渡ししても大丈夫ですか?」


「はい!それではお預かりしてアイテムボックスに保管しておきますね。しかし、ナタクさんもお忙しいですよね。また領主様のところで別のお仕事ですか?」


「いえ、今回はアキも連れて街の外で次の研究の準備をする予定です。ついでに鈍った身体を少し鍛え直してこようかと考えていますね」


「えっ。ということは、二週間も街にいないってことですか!それも二人で!?」


「一応そうなりますね。ただ領内にはいるので、帰ろうと思えば直ぐに戻ってはこれますけど」


「あわわ・・・・ちなみに、アメリアさんやミーシャにはそのことは?」


「特に話してはいませんよ。それに領主様とガレットさんにはお話してあるので、仕事に関しては問題ないはずですが?」


「いや、仕事は大丈夫でも他の・・・・っといけない、私は傍観者でした!


 分かりました、それではお二人が“お出かけになってから”、私からそれとなく彼女達に伝えておきますね!」


「・・・・はぁ、お願いします?」


「お任せください!ナタクさんもアキナさんと存分に楽しんできてくださいね。私もこちらで色々と頑張らせていただきますので♪」



 (楽しむも何も、ただ研究の準備とレベル上げ目的の戦闘訓練をするだけの予定なんですけど??


 まぁ、リズベットさんもかなりトマトの栽培を気に入ってくれているみたいなので、今回も安心して任せられそうでよかったです。もしかしたら、彼女は品種改良の研究に向いているかもしれないので、今度色々教えるのも面白いかもしれませんね)



 そんなことを考えながら、リズベットへ栽培に必要なアイテムの受け渡しが無事に済んだことにより、これで予定していた街での用事は全て終えることができた。後は、戦闘用装備の準備をしているアキナのところで打ち合わせを終えさえすれば、また楽しい鍛冶作業に戻ることができると、浮かれ気分で自分の実験室へ戻っていったナタクであったが・・・・


 先ほどのリズベットとのやり取りを、(のち)に心の底から後悔することになろうとは、彼女の意図を完全に読み違えていたこの時のナタクには知る由もなかった。

むっふふ!これは楽しくなりそうですね(*´∀`*)


??(´・ω・`)

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