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第5話

 

 領主の指示で城内にいる鑑定持ちをクロードが呼びに向かったので、その間に軽く世間話をしながら過ごすことになった。ここ最近は事件やら急ぎの仕事などが立て続けに起こっていたために聞きそびれていた案件も多々あり、お茶請けのネタとしてもちょうど良いタイミングであろう。



「そういえば、今回の王都視察で予定より帰りが遅くなっていたのは、向こうで何か問題があったのですか?」


「あぁ、そのことか。確かに現王から少々面倒な仕事を押し付け・・・・いや、任されたということもあるのだが、細々とした所用が重なった結果だ。ほれ、モーリスの叙爵(じょしゃく)があっただろう、それも理由の一つだ。まぁ、この件については、元々想定していたモノより大事になってしまったことが原因ではあるがな。


 他にも私が遅刻したせいで、妻のご機嫌取りに少しばかり時間が掛かってしまってな。お前も、妻を持ったら色々と気をつけた方がいいぞ・・・・」


「心に留めておきます。では、奥方にお目にかかる機会はもう暫く先になりそうですね。俺はてっきり、今回は領主様と奥方がご一緒に王都からお帰りになると思っていましたので、少し残念です。できれば、近いうちにアキの手がけている事業を紹介できればと考えていたのですが・・・・」


「報告書にあった、新しい女性の衣服についてか。それに関しては、オークションの時期までには戻って来るはずだから、その時にでも話してやるといいだろう。実際、妻も娘のアメリアが書いた手紙を読んで、とても興味を示していたようだしな。


 それに、彼女も大貴族の妻として中々忙しい立場でもあるのだよ。仕事の都合で領地に戻らなければいけなかった私の代わりに、向こうでの情報収集を兼ねて普段会えない貴族達との交流を図ってくれていたり、他にも祭りで大物貴族を王都からこの街に招待するために、彼女が向こうに残って私の名代(みょうだい)を勤めてくれたりと、中々大変なのだよ。


 ちなみに、誰が来るかは警備上明かせないが、先方もお前に会うのを“とても”楽しみにしているみたいなので、十分に覚悟しておくように」


「領主様が大物と言うと、結構限られると思うのですが?


 って、凄く楽しそうな顔していますね・・・・」


「お前には毎回やられっぱなしだからな、少しは動揺して私を楽しませてくれたまえ。


 まっ、失礼の無いように多少のフォローはしてやるつもりだから安心するといい!はっはは!!」



 (ぐぬぬ、やはりこの人はアメリアさんの親だけあって、こういう時の笑い方はそっくりですね。後、ちゃんとヒントもくれる辺りも良く似ています)



「分かりました・・・・それでは“万全の準備”をさせて挑ませてもらいます」


「ちょっと待て。お前が頑張ると、私は酷い目に遭うのを忘れて「失礼します。旦那様、資材管理官のライズ殿をお連れしました」いやっ、今はそれどころじゃ!?」



 その後、慌て始めた領主を何時ものようにクロードが華麗に()なしつつ、なんとか落ち着かせたところで鑑定持ちとして呼ばれたライズによって一つずつ鑑定作業がおこなわれていった。


 彼の鑑定結果とナタクが用意した納品書に一切の不備がないことが確認できたところで、驚きの表情を隠し切れないでいた資材管理官の彼を部屋の外へ見送った後、本格的な商品説明を始めさせてもらうこととなった。



「それでは、此方の武器達の性能と注意点について説明させていただきます。と言いましても、これらの武器は攻撃力が“多少”高いだけの青銅(ブロンズ)製品なんですけどね」


「そもそも、ブロンズの武器で二段階上の(スチール)並みの攻撃力があること自体がおかしいのだが?」


「確かに打ち直しによって“攻撃力だけ”は優秀なのですが、大前提として武器の耐久値に大きな問題がありまして。正直、同じ攻撃力ならばスチール製品を使った方が遥かに長持ちですし、中位職をお持ちの方が命を預ける相棒として選ぶにしては心許ないので、やはり使用適正レベルの駆け出しの方が使うくらいしか用途のない武器となってます。それに使用する際の耐久値の劣化も、防御力の低い相手であれば、そこまで問題にならないでしょうしね」


「しかし駆け出しの段階でこれだけ攻撃力の高い武器を持ってしまうと、本人が自分が特別強いと勘違いしてしまいそうですな」


「その辺の見極めは領主様の慧眼(けいがん)にお任せいたします。正直、今回は炉の状況を確認するために打っただけですので、ブロンズ製品は早々に打ち止めの予定ですしね」


「・・・・ちなみに、スチールなどで打ち直した場合でもお前はここまでの付与が可能なのか?」


「流石にブロンズのように簡単にとはいきませんが、スチールであれば以前からかなりの数を打っていたので、得意分野になりますね。なにせ、刀鍛冶は“鋼”からが本番ですので」


「街で一部の親方連中しか打つことができないスチールの製造にもかかわらず、それの打ち直しすら得意と言ってのけるか。他のヤツが言ったなら『嘘をつくな!』と言いたいところだが、お前の場合はこれまでやらかしてきた実績があるからな・・・・


 よし、ならば試しに私に騎士剣を一振り、いや予備も含めて二振り打ってくれないか?予算はお前に任せるから最高のモノを作ってみてくれ」


「おっ!作製依頼ですね、勿論喜んでやらせてもらいますとも。それでしたら、現在領主様が愛用している剣を一度見せていただければ、それの握りや重心バランスに近いモノを作れますが、いかがでしょうか?」


「なに?一度見せるだけでよいのか?」


「はい。後はできたモノを一度手に取ってもらい、その場で微調整を加えれば直ぐにご用意できると思います。ただ、暫く出かける予定がありますので、受け渡しなどはその後になってしまいますが・・・・」


「それくらい待つのは別に構わん。それに、普通の鍛冶師に作製を頼んだとしても、武具の作製にはそれなりに時間が掛かるものだしな。ほら、これが私の相棒だ」



 そうして近くに置いてあった剣を領主から直接手渡されたのだが、彼の立場的にダンジョン産のマジックアイテムや派手な装飾を施されているモノを使っていると勝手に予想していたのだが、鞘から出てきた刀身はスチール製で、多少見栄えの良い装飾は施されているが、それは観賞用のモノとは程遠い、無骨で実戦向きの作りをした騎士剣であった。


 また相棒と言うだけあって日頃から実に丁寧な手入れが施されているのも細部に見て取れ、柄の部分にも日頃訓練などで使い込まれていることが分かる革のバンテージが滑り止めとして巻かれていたので、彼が見た目よりも機能性を重視する人物であることが、この剣からはひしひし感じ取ることができた。



 (そういえば領主様はアーネストさんと同じ、元ゴールドクラスの冒険者でも在られたので、見た目重視の装備が戦場では悪目立ち以外なんの役にも立たないことを、十分に理解しているようですね。それに、適正レベルのモノをちゃんと選んでいるところも鍛冶師として好感が持てます。


 これは純粋に職人の腕を試されていると見ていいでしょう。それでは、領主様にも俺の本職である鍛冶師の腕前を見てもらえる絶好の機会なので、“少し”気合を入れて作らせてもらいましょうかね。ふっふふ、どんな付与や性能を付けるか、今からとっても楽しみです!)



 その後、領主の許可を得て、その場で軽く振ってみたり、剣の重さのバランスを計測するための道具を使い正確な数字のメモを取り、最後に希望する付与の種類等を聞いてから、お借りしていた剣を彼へと返却した。



「装飾はそこまで派手にならない程度の実戦向きに仕上げ、付与は俺に任せてもらっていいんですね?」


「あぁ、それで構わん。どんな物ができるのかは楽しみにさせてもらうとしよう。もし私の眼鏡に適ったら、今後も様々な作製依頼を出させてもらおうではないか」


「では、期待に応えられるように頑張らせていただきます。それと、クロードさんも戦闘職をお持ちですよね?


 もしよろしければ、この機会に何か一緒に作りましょうか?」


「ほぉ、よく(わたくし)が戦闘職持ちだと判りましたね」


「領主様もそうですが、ある程度戦闘職を修めている人は、雰囲気や立ち振る舞いが違いますからね」


「ご指摘の通り私は少々武術の心得がございますが、残念ながら無手を主体とした戦闘技術を(たしな)んでおりますゆえ、残念ですが今回はご遠慮させていただきます」


「クロードはアメリアの師匠だからな。拳がそのまま最大の武器になるんだ」


「そうだったんですか」


「ほっほほ。旦那様の側付きは中々体力が要りますからな。老骨の身ながら、無理をしない程度に今も鍛えさせていただいております」


「おかげで、昔からクロードの拳骨(げんこつ)は誰よりも痛いがな」


「そこは叱られないよう、立派に振舞っていただきませんと」


「あはは・・・・それでは、これからガレットさんのところでも打ち合わせがありますので、俺はここらで失礼させていただきます。次回お会いするのは二週間後なると思われますが、それまでにはご依頼された品は用意しておきますので、もう暫くお待ちください」


「なんだ、母上のところにも予定があるのか」


「あちらには調理用魔導具の製造レシピを公開したので、それについての話し合いですね」


「母上もここ数日忙しそうにしていたのはその為か。どうせお前のことだから、有益な情報を格安で公開してしまったんだろ?」


「よく分かりますね、その通りです。とはいっても基本的な技術しか使われていないモノなので、個人的にはそこから発展型のレシピが生まれてくれることを期待して、あえて技術料を取っていないだけなんですけどね。そのせいで、研究が続けられない人が出るとつまらないので」


「普通は有益な基本レシピを開発できたら、それだけで一生食べていけると喜ぶものなのだが・・・・」



 何故か、今朝のアキと同じように領主様までも何か諦めた顔をされてしまいましたが、本当に大した技術は公開していませんよ?


 さて、それではここでの仕事も終わりましたので、次は錬金ギルドに向かうとしましょう!

ちょっと待て、今はそれどころじゃ!?(; ・`д・´)


旦那様、時間が押してますのでお静かに(*´﹀`*)


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