第3話
先ほど問題となった乙女の極秘事項の入手先についてだが、全てを話してしまうと“アキナのため”に用意したサプライズも全て明かさなくてはならないのだと告げたところで、何とか追求から逃れることに成功した。
だが代償として、相応の体力と精神力は奪われる羽目になったが・・・・
何故か途中で彼女の機嫌が急に良くなった場面があったので、もしかしたら必死に弁解していた中のどれかに、彼女の溜飲を下げるポイントがあったのだろう。
そのことも踏まえた上で、今後の地雷を踏み抜いてしまった時の対処法を確立できるればと、この時ナタクは考えていた。ここ暫くは鳴りを潜めているが、もはや逃れることが難しくなった“女難の相さん”は勤勉で有らせられるので、備えておいて絶対損はないはずだ。
漸く落ち着いて話が出来るようになったので、話題を変えるためにも、これからの準備に必要な情報をアキナから聞きだすことにした。
「そういえば、アキの忍者装備を作るに当たって、ゲーム時代のプレイスタイルについて詳しく聞いてもいいですか?
忍者という職業は侍と違って、取得したスキルやステータスの上げ方によって、装備にかなり違いが出てきますので」
「う~ん、そう言われましてもって感じですね。得意武器や立ち回りについてってことでしょうか?」
「そうか、一般的に1つのPTに同じタイプの支援型を多数入れることは、ほとんどないですからね。
解かりました、それではアキにとっては復習になることも多いかもしれませんが、その辺についても詳しく解説していきますね。その中に、自分に合ったプレイスタイルがあったら教えてください」
「はい!宜しくお願いします」
「では、“忍者”という職業について説明していきます。
まず、一般的にこの職業は支援型として見られがちですが、実際は大きく分けて三つの成長パターンが存在します。
一つ目『術士タイプ』
基本的にこれが忍者としてもっとも有名な立ち回り方で、“デバフ”効果を相手に一定時間与えることで相手の動きを鈍らせる、ジャマーとしての役割を担うタイプになります。
これは忍者の敵に与える“デバフ”効果が、他の職業に比べてとても優秀であるため、『弱体屋』としてのイメージが浸透してしまった結果、多くの人に支援型として認知される切っ掛けとなった働き方ですね。
それに『魔力』を特化させたこのタイプの場合、本家の魔法使い達にも負けない魔導アタッカーとしても十分に活躍することが可能だったりします。召喚師のように魔力依存の“口寄せの術”を使い、契約している使い魔と一緒に戦うことも出来るのも、このタイプの魅力の一つですね。
ただし、PT戦闘で大いに活躍することができる反面、ソロの殲滅力が他に比べてあまり高くないので、同格以上との戦闘はなるべく避けることをお勧めします。まぁ、ゲームの頃は弱体を掛け続けてマラソンという手法もあったのですが、今は単純なAIとの戦闘ではなくなったので、無理をしないで素直に撤退した方が良いでしょう。
次に二つ目『近接アタッカータイプ』
意外に思われるかもしれませんが、実はこの“忍者”という職業、片手剣タイプの武器を使用した際の攻撃間隔が、現在までに確認されている職業の中でもっとも短いんだそうです。それに、二刀流を扱える職業でもあるので、ステータス次第でその瞬間火力は驚異的といっても過言ではありません。
そして、その攻撃スピードを活かすために、このタイプは『腕力』『器用さ』『俊敏力』を『2:4:4』もしくは『3:4:3』の割合でステータスを上げていくのですが、どちらかと言うと『一撃に賭ける』のではなく『手数とクリティカル』で勝負していくスタイルになります。
使用武器は、この職業でもっとも攻撃力を出せる『忍者刀』一択。二刀流で、とにかく早く殴って削っていくという立ち回りですね。ちなみに、対人戦闘特化型とも言われていているので、PT戦だろうがソロだろうが、その強さは敵からしたら脅威そのものでしょうね。
しかし、大型の魔物と対峙した際はクリティカルを上手く当てないと火力不足に陥りやすいというデメリットもあります。この辺はアメリアさんの“拳闘士”と似たところがありますね。
それと、このタイプは『魔力』上げている余裕がないので、“デバフ”は殆どレジストされて期待できないため、純粋な近接アタッカーという扱いになります。
そして最後が『バランスタイプ』
個人的には、このタイプの忍者がもっとも強いと思うのですが、要は先に述べた二つのタイプを合わせたような戦闘スタイルを指しです。両方の長所を上手く取り入れてステータスを上げることができれば、特化型よりもかなり出来る仕事が多い忍者を育てることができますね。
ただ問題があって、このタイプを選ぶとステータス管理がとても複雑になってしまうため、メインの職業の他にも様々な職業を決まった順番で複数上げる必要が出てくるので、初期の育成にかなりの時間と手間が掛かります。
しかも、ステータスの上げ方を間違えると器用貧乏になってしまう恐れがあるので、上級者向けの育成スタイルと言っていいでしょう。ちなみに、以前クラン所属の忍者クラスの人に、ステータス上げの方法は教えてもらっているので、もしアキがこのタイプを選んだとしても、しっかりと導くことが可能ですので安心してください。
長くなってしまいましたが、以上が“忍者”のざっくりとした解説になります。
それで、アキはこの中だとどのタイプに属していましたか?」
「よく専門外の職業で、これだけ詳しい知識がありますね。えっと、私は三つ目のバランスタイプになると思います。といいますか、まさに先生の仰られた通り、ステータス上げに失敗した器用貧乏な忍者でしたね」
「そういえば、アキは初めて会った時にもステータスで困っていたと言っていましたね。しかし、なんで一般的にマイナーなバランスタイプを選んでいたか、参考にまでに教えてもらってもいいですか?」
「構いませんよ。と言っても私の場合はとっても単純で、ゲームを始めた時にどの職業をメインにするかを決め兼ねて色んな職業に手を出していたんですが、やっと自分に合った“忍者”の職業に出会った頃には、ステータスがかなり平坦な状態になっていたんですよ。
その後も、フレンドの手伝いなんかをしながら必要に応じて色んな職業を気にしないで上げ続けていたら、上忍に手が届くようになった頃には、もう完全に手遅れな状態になっていまして・・・・
ただ、色んな職業を経験していたおかげで、レイドなどでは『指揮官』として、これまでの経験を活かすことができたので、全てが無駄であったとは言えないんですけどね。
でも、流石にあそこまで上げてしまった後だと、『職業リセット』をする勇気もなかったので、結局そのままプレイを続けることにしたんですよ。それにその頃には、サブ職業の裁縫師もかなり育っていましたからね」
「なるほど、そういうことですか」
「はい。なので今回こそは特化型を選ぶのもアリかなと思っていたのですが、先生の話を聞いて少し『バランスタイプ』に興味が湧きました!あの不遇だったスタイルが、一番強いって本当ですか?」
「本当ですよ。むしろ、うちのクランの忍者は“ある人”の影響で、殆どこのタイプでしたからね。
アキは“月影”っていうプレイヤーに心当たりはありませんか?主に個人戦型PVPの大会なんかで活躍していた、忍者系職業の上位ランカーの人だったんですけど?」
「もちろん知っています!動画が凄く有名でしたし!!って、あの人も先生のクランの方だったんですか!?」
「大会であれだけ大暴れしておきながら、『これじゃ忍べない・・・・』とよく嘆いていた、少し変わった面白い人でしたね。この人の戦闘スタイルが『バランスタイプ』でした」
「私も公式大会の動画とかを参考にさせてもらっていたのですが、あの人ってマンガや映画の主人公みたいにとっても強かったので、てっきり何かの特化型だと思っていましたよ。って、『バランスタイプ』でもあんな動きができるものなのですか?」
「あの人の場合、ステータスをかなり緻密に計算しながらレベルを上げていましたからね。それに、ステータスの足りない箇所はうちのクランの職人集団が全力でサポートして埋めていたので、個人のプレイヤースキルと相まって、無類の強さを誇っていましたね。
ちなみに、あの人の相談にのりながら刀と鎧はずっと二人三脚で俺が作製していたので、その時のノウハウを活かして、アキにもかなりいい品を用意してあげられる自信がありますよ」
「あの・・・・同じ装備を渡されたとしても、あの動きを完璧にマネできる自信が無いのですけど?」
「中身が違うのだから、同じ動きができないのは当然なので大丈夫ですよ。それに訓練法も一緒に考えていたので、それも参考にして一緒にアキに合ったスタイルを考えていきましょう!」
「少し不安ですが・・・・頑張りますのでご指導お願いいたします」
「任せてください。それで最初の話に戻るのですが、結局アキの得意武器って何になりますか?」
「得意武器ですか?私は、利き手で投げ物や忍術の印を結ぶので、基本デバフ特化のクナイを装備して、左手は忍者刀を使っていました。本当は月影さんの動画みたいに『状況に応じて忍者刀の二刀流』ってのもやってみたかったのですが、あんなにスムーズにアイテム交換ができなかったので、途中で泣く泣く断念しました」
「あぁ、あの武器切り替えの速さの秘訣は、『携帯型ドレッサー』の武器専用タイプを利用した方法ですからね、あれが無いと難しいかと思います。それに、あっちは腕輪に触らなくても装備変更が可能でしたから。
分かりました、それではそちらも一緒に作ってみます。それがあるなら忍者刀の二刀流も可能ですしね」
「やっぱり普通の方法ではなかったんですね・・・・」
「月影さんに『インベントリを使った武器変更だと、どうしてもタイムラグがあるから、魔導具の力でどうにかできないか?』と言われて作り出したアイテムでしたからね。あの人もだいぶ試行錯誤してたみたいですよ」
「注文されてポンっと創れる先生もどうかと思いますが・・・・
って、そのアイテム絶対お高いですよね!?」
「こっちは非売品にしていたので、そもそも値段は付けていませんね。もし、あえて値段を付けるとしたら・・・・やっぱり気にしない方がいいですよ!」
「先生が値段を教えるのを躊躇するとか、恐怖でしかないんですけど!?」
「まっ、武器とかの装備品に関しては任せてください。職人の腕に賭けて、絶対気に入る物を仕上げてご覧に入れます」
「そこは全く疑っていません!むしろどんな恐ろしい装備を渡されるのか、気になるくらいですっ!」
ふむ。アキにそんなにも期待してもらえるなら、先生として“少し”頑張って作らせてもらうとしますかね!さて、知りたかった情報も聞けたので、それでは今日も一日張り切って活動を始めるとしますか!!
ふぅ、やっと解放された(´・ω・`;)
私のためのサプライズ・・・(*/▽\*)




