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第14話  転生3日目1-1

 

 今朝は昨日よりも早く目が覚めた。ベットから起き上がり部屋の窓を開けると、少し肌寒い風が室内に吹き込んでくる。外はまだ薄暗く、街もまだ人々が動き出していないため、遠くの小鳥達の僅かな囀りも聞き取れるほど静けさに包まれていた。


 昨日あれからアキと食事を取った後にいったん別れて、部屋に戻ってから彼女に必要そうなスキルと取得方法・これからのステイタス育成計画などを紙に書いているうちに結構いい時間になったので、そのままベットで眠ってしまった。


 幸い二軒隣の共同浴場は夜仕事をしていた人のために早朝からも営業しているそうなので、せっかくなので、今から行ってさっぱりすることにする。


 階段を降りて鍵を預けようと受付に近づくと、まだ会ったことはなかったが髪色以外がどことなく普段受付にいる女将さんに少し似た女の子がぼ~っとしながら座っていた。



「・・・・お出かけ?」


「えぇ、昨夜お風呂に入り損ねたので、今から行ってこようかと思いまして」


「・・・・ごゆっくり」



 そう言って鍵を受け取ると、少女は首を傾げながら手をヒラヒラと振ってくれた。なかなか個性的な女の子だったなと思いながら、宿屋を出て共同浴場に向かうことにした。


 目的地に到着すると、入り口で料金を支払い、さっそく汗を洗い流して湯船へと直行する。


 この時間に利用している人は少ないようで、広い湯船を完全に貸しきり状態であった。



「そういえば、石鹸の代わりのアブルの実は置いてあるけど、シャンプーやリンスとかは流石にないんだな。確かにゲーム時代もそういった物はなかったけれど、地球での材料は知っているからこっちでも再現したら売れるんじゃないかな?試しに今日材料を集めてみて作ってみるか」



 ゲーム時代にクラメンの錬金術のお師匠と一緒になって化粧品を開発して市場に流してみたところ、当時のNPCの貴族女性達からもの凄い数の発注がクランの経営する商会に舞い込んでくるという事件があったことを思い出した。どの世界でも女性の美への探求は変わらないみたいなので、今回も貴族向けと一般向けに商品開発するのも悪くはなさそうだ。密かに計画を立てているといい時間になったので、朝食を取りに宿へと戻って来た。


 宿に着くと、先ほどの少女はいなくなっており、代わりに受付には女将さんが座っていた。



「あら?ナタクさんお出かけをしていたんですか?」


「えぇ、ひとっ風呂浴びてきたところですよ。昨夜は書き物をしていたら、入り損ねてしまいましてね」


「あらあら、それじゃあアテナが鍵をお預かりしていたんですね。えぇと、はい鍵になります」


「さっきの女性はアテナさんって言うんですか。そういえば女将さんの名前も知らなかったですね」


「確かに自己紹介がまだでしたね。私はアンジュ・ガーランドと申します。よく食堂で給仕をしているのが長女のアルマ。先ほどナタクさんと会ったのが次女のアテナで、あの子は父親の影響で冒険者をやりながら空いた時間で宿屋を手伝ってくれてるんですよ。


 あと厨房で料理長を担当しているのが、私の旦那様でアーネストといいます。ちょっと強面の恥ずかしがり屋さんなので、厨房からあんまり店内には出ないんですけど、すごい男前なんですよ♪」



 (それから数分旦那様との惚気話を聞かされました。いやぁ、食事前なのにすでにおなか一杯になりそうです)



 やっと解放され、そのまま食堂に行くと、だんだん指定席になりかけている窓際の2人席でアキが座り、給仕をしてくれているアルマと楽しそうにおしゃべりをしていた。このまま他の席に座るのもおかしいので、アキの向かいの席に座り話に混ざることにした。



「おはようございます。なにやら楽しそうに話していましたね」


「先生!おはようございます。昨日あの後アルマさんとお友達になって、今も街のいろんな情報を教えてもらっていたんですよ」


「ナタクさん、おはようございます。そういえば名乗っていませんでしたね、アルマ・ガーランドです。しかし、ナタクさんも隅に置けませんね、こんな可愛らしい彼女さんがいるなんて♪」


「そのやり取りは昨日アンジュさんに思いっきりからかわれましたよ。彼女ではなくて弟子ですね、彼女とは同郷でして。昨日この街で偶然会えて、話を聞いてみると定宿が特に決まってなかったのでこちらを紹介したんですよ」


「あらら、すでにお母さんがいじっていたか!そういえば、さっきもお母さんと話してるのが見えましたけど、何を話していたんですか?」


「今朝方アンジュさんにそっくりなもう一人の女性に会いまして。その流れで家族全員分の自己紹介と旦那さんの惚気話を聞かされてました。今じゃ、まだ会った事のないアーネストさんの良い所を、10個は簡単に言えるようになりましたよ」


「あはは・・・それはご愁傷様です、お母さんお父さんにべた惚れですからね。ちなみに私もお父さん大好きですけど♪って、ナタクさん妹に会ったんですね。あの子も冒険者の中では結構有名らしいですよ。自慢の妹なんです!


 あの娘はお父さんに似たらしく“鷹の目のアテナ”なんて呼ばれていて、基本的に二の矢がいらないくらい正確に相手の弱点を射抜く弓の名手らしいですよ。家ではのんびり屋でよく寝てる大人しい子なので、ちょこっと心配してるんですけどね」



「それでは、朝食をお持ちしますね」と言ってアルマさんは厨房の方へと向かっていった。



「そういえば、アキのスキル育成計画表みたいなのを昨日作りましたので食事が終わったら読んでみて下さい。今日からさっそくビシバシ鍛えていくので頑張ってくださいね」


「えっ!もう用意してくれたんですか?分かりました、頑張りますので宜しくお願いします!」


「基本的には最初は街の中で“見習い”と“サブ職業”のレベル上げ、それと錬成関係の便利なスキル集めを中心におこなっていこうと思っています。ちなみに、あんまりお金は持ち合わせていないですよね?」


「はい、お恥ずかしながら最初に女神様からいただいたお金でやり繰りをしているので、そこまで余裕はないですね」


「分かりました、それでは最初は金策もできるやつからやっていきましょうか。まずは錬金術を上げていきたいと思いますので、午前中は材料集めをして、午後は錬金ギルドで錬成をしましょう。そういえばゲーム時代は錬金術は触っていましたか?」


「はい、スキルを覚えたくて等級4のポーション辺りまでは作れるくらいにまではやっていましたよ。ただ、それ以降はレシピやら製造工程が難しくて、一人では無理と挫折してましたが・・・・」


「了解です、そこまでできるのであれば大丈夫でしょう。まずは今日等級外ポーションを大量に作ってもらってスキル集めと金策をしていきましょうか」



 食事を終えると、アルマと受付にいたアンジュに声をかけてから宿の外に出た。



「それで、午前中は素材集めと仰られていましたが、街の外に収集に行くんですか?」


「いや、今日は街中で素材を買い集めてから錬金ギルドに向かいましょう。


 ちなみに、買う予定の素材は『動物系素材』と『薬草関連』、後は『油』と『石灰』、『はちみつ』と『香料』を少々それと魔石をちょっと多めに手に入れたいですね」


「それなら“冒険者ギルド”の素材卸売市場がよさそうですね。たしか魔石は冒険者ギルドの管轄なので、ギルドに行けば買えると思いますよ」


「よし、それでは冒険者ギルドに行きましょう!」


「はぁい!」


 噴水広場を抜け、昨日とは逆方向の東大通りの先にある冒険者ギルド目指して進んでいく。もうすでにギルドでクエストを受注し、街の外へと出かける冒険者の集団がちらほら進行方向から歩いてきている。その横を通り過ぎて彼らとは逆の方向に向かって歩いて行った。



「それにしても、もうかなりの数の冒険者がクエストを受け終えてるみたいだね。まだ朝の7時だと言うのに」


「アルマさん曰く、冒険者ギルドのクエストは早い者勝ちらしいので、皆さん結構早くからギルドを訪れて受注していくそうです。なので、冒険者専用カウンターは朝が一番混雑するみたいですよ。これはアテナさんの受け売りだそうです」



 (だから自分が風呂から帰ってきた時にはアテナさんがいなかったのか。しかし昨日のハゲタコさんのような無骨な大男達も、早起きして列をなして受付に並ぶ姿を想像すると少し面白いですね)


 そんなことを考えてると進んでいる方向に、錬金ギルドにも負けない規模を誇る立派な建物が見えてきた。


「あそこが“イグオール冒険者ギルド”ですね。たしか正面ゲートがギルドへの発注窓口とその他の総合窓口・向かって右側が素材卸売市場入り口・左側が冒険者専用の受注窓口入り口と素材の買い取り窓口だったはずです。


 なんか、冒険者と一般人がもめないように完全に分けられてるってアルマさん言ってましたよ。昔は酒場も併設されていたそうですが、争いごとが絶えなかったので撤去されたそうです。なんか予想していた異世界の冒険者ギルドとイメージ違いますよね」


「確かに、これならギルドに入った瞬間に絡まれて喧嘩になるお約束の流れはなさそうですね。まぁ、買い物しに来ただけで絡まれたりしても堪りませんけどね」


「確かに、そうですね」



 今日は買い物をしにきただけなので、買い付け人の商人達と一緒に卸売市場に向かって歩いてゆく。そこには昨日冒険者達によって集められた素材の山が所狭しと並べられており、販売専門のギルド職員の手によってドンドンと売り捌かれていた。


 ナタクも入り口で大きな箱を購入してそれを台車に載せ、目当てのアイテムを買い漁っていくのだが、途中で箱が一杯になるとそれをインベントリに収めて、また新たな箱にどんどんと素材達を詰めていく。最初はインベントリは最後に隠れながら使おうかと思っていたのだが、結構な数の商人達もアイテムボックスが付与されたバックやら指輪を使って商品を詰めていっていたので『それなら、ここでは隠さないでもいいか』と気にしないで使っていくことにした。大きな箱の3つ目がインベントリに消えたときにアキから不思議そうに声をかけられた。



「あの、先生?いったいどれだけお金をお持ちなんですか?いくら値段が安いからと言ってもう金貨5枚以上買われているみたいですけど・・・・」



「昨日で金貨8枚は超えましたね、いや~いい買い物ができてよかった。ゲーム時代よりだいぶ安く買えて大満足ですね。残りは魔石を買いに行きますか。確かここの階段を上った先のところでしたよね?」


「なんか、一日違う行動をしただけでここまでの格差が生まれるのを目の当たりすると、上位プレイヤーの理不尽なまでの性能の違いに脱帽しますね・・・・」


「何を言っていますか、俺のフレンドなんて銅貨1枚渡しただけで一年もしないうちに城を建てる人すらいますからね。俺なんてまだまだ可愛い方ですよ。それでは次に行きますよ」



「そういえば、そんな噂を聞いたことあります」と小声で呟いているのをスルーして、次は二階の魔石販売コーナーへと向かって行く。ちなみに、ここでは特に高価の物を買う必要はない。


 何せナタクは等級5のポーションを、アキナは等級外ポーションをそれぞれ作る予定なのだからそこまで良い魔石でなくても構わないのだ。


 小ぶりの魔石を大量に買い込んだところで資金が銀貨数枚まで減ってしまったので、ここで買い物を終了する。



「いや~買った買った。これで2日は素材を買い足さなくてもよさそうですね。明日は1日錬成に時間を使えそうです」


「あれだけの素材をたった2日で消費しきるのですか!?」


「職人さんはどれだけの時間を錬成に費やせるかが肝心ですよ。初めはできる限り街の外に出ないで自分の作業場に篭れた時間によって、終盤の力の差になりますからね。なので“見習い”の経験値稼ぎには困らないはずですよ」


「あの、クッションを作りたくなったので裁縫道具のお店に寄ってもいいですか?後、それにエンチャントで『疲労軽減』を付与してください」


「構いませんよ、できれば俺の分も作ってもらってもいいですか?あ、でもお金殆ど使っちゃったか」


「そこは勿論一緒にお作りますし、お金もいりません。というか私、全然お金使ってないのですけどいいんですか?私の材料までお金出してもらって、申し訳なくてしょうがないのですが・・・」


「そこは構いませんよ。むしろアキの錬成用の素材は昨日の採取で取ってきた素材の山がまだインベントリに大量に残ってますし、足りない分を多少買い足したぐらいなので問題ありません。


 それにインベントリの在庫処分が終わらないと困りますので積極的に使ってください。後、今日買ったのは等級5~4の素材になるので、これがなくなるころには何十倍の値段になって資金が回復してるので問題ありませんよ」


「つくづくすごい世界ですね」


「アキも今日から、仲間入りですけどね!」



 それから特に何事もなく裁縫ショップでクッションの材料と簡易裁縫セットを購入し、少し早いが昼食用に屋台でいくつか買い物をしてから、錬金ギルドへと向かうのであった。


職人さんはお金使いが荒い?(; ・`д・´)



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