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第1話 プロローグ

 

 “リマリアの華”と称され、メスティア王国でも屈指の美しさを誇る“領都イグオール”


 この街の城壁から北西へ暫し離れた場所に、その大きな屋敷は存在していた。


 元々ここは、リマリア領を治めている領主が領軍第二訓練所へ視察に赴いた際の休憩地として建造された施設であり、利用者の安全を考慮し、有事の際には隣接した訓練所から領兵が駆けつけるよう考え抜かれた立地となっていた。また、高価な防護結界までもが敷設されており、強固な城壁の外にある施設にしては珍しく、よほどの策がない限りここを攻め落とすは容易でないことは、想像に(かた)くなかった。



 そんな屋敷の敷地内にある庭園には、これまた一流の職人の手によって景観にマッチした真新しいレンガ造りの建造物が新設で建てられており。この近くで耳を澄ますと、施設内から高純度の金属同士がぶつかり合う時に発する『キィーン、キィーン』という甲高い音が、ここ数日昼夜問わずに鳴り響いていた。


 この施設こそが、那戳(ナタク)本人が欲して止まなかった、この世界に転生してから初となる彼専用の『鍛冶場』であり、漸くこの施設の使用許可が領主から下りたため、『三日間だけ自由にさせてください』という置手紙を残し、彼は数日この工房に引き()もっていた。



 しかし、何故このような事態になったかというと、これにはナタクと領主の間で“ある”取り決めが成された結果であった。


 では、その取り決めの内容とは?


 実は数週間前に急遽モーリス夫妻の新居となる屋敷を領主が気前よく褒賞として用意することになり、その見事な辣腕(らつわん)をフルに活かし殆どの手配は瞬く間に済ませてしまったのだが、肝心の“新”ラングリッジ男爵邸となる屋敷に勤められるほどの技量を持った使用人を、この短時間で幾人も集めることが適わず、彼としても大変困った状況に陥っていたそうなのだ。


 そこで近々ナタク達の屋敷で働く予定となっていた使用人達をそちらで雇用し、「申し訳ないが此方には再度募集を掛けるので、暫く待ってくれないか?」という相談がナタクに持ちかけられた。


 勿論、領主側の急な申し出のため、もし受けてくれるのであれば多少時間は掛かるがかなり条件の良い人材を公爵家が責任を持って選考し、教育を施してくれるというオマケ付きである。


 実のところナタク自身はそこまで屋敷の使用を急いでいた訳でもなく、この後二週間ほど“ある場所”へと遠征に出かける予定もしていたため、実際この話に関しては無条件で取引に応じても何も問題なかった。


 ただ施設自体は既に完成していたので、「『鍛冶場』だけでも先に使わせてくれないか?」と領主に掛け合ってみたところ、それに関してはあっさりと使用許可が下り。しかも別に狙っていたわけでもないのに領主へ恩を売り自分の受け持っていた仕事までも領主へ押し付けることに成功したため、むしろ内心喜んでいたくらいであった。


 それに領主自身も無理な頼みを聞いてくれた彼への負い目もあったため、“多少”の仕事を引き継ぐことには(やぶさ)かではなかったのだが、やっと殆どの仕事が片付きかけていた領主の執務室へ、新たな机と共に大量の書類の山が次々と運ばれてきた時には「アイツは鬼か!!」という悲鳴にも似た叫び声が部屋の外まで響いたそうだ。


 ちなみに、その声を聞いて急ぎ駆けつけてきた者達へは、クロードが落ち着いた笑顔で対処したため大事にならなくて済んだというのは余談である。





 SIDE:アキナ


 ナタクからの伝言で、約束の日時までに連絡が無かった場合『鍛冶場』まで迎えに来て欲しいと頼まれていたアキナが、初めて自分達師弟がこれから住むことになるであろう屋敷を訪れたのは、初夏の日差しが降り注ぎ、明け方に比べ僅かに周りの気温が上がり始めた、そんな時刻であった。


 事前に大きな屋敷であることはナタクから聞いていたので、それなりの覚悟を持ってこの場所を訪れたアキナではあったが、そのあまりに立派な屋敷の佇まいに若干気後れしそうになりつつ、ミニマップを頼りにナタクを探してみると、どうやら彼はこの屋敷の庭に併設されている“ある建物”の内部にいるようであった。



 ため息とも取れる深呼吸をした後に、意を決してナタクがいるであろう建物の扉をノックしてみたが、いくら待っても中からの返事は返ってこず。不思議に思い扉に手を掛けると、鍵は特に掛かってはいなかったので、恐る恐る室内に入ってみることにした。



 施設の設備から察するに、この場所が以前ナタクが嬉しそうに説明していた『鍛冶場』なのであろう。そのため内部はさぞかし熱気に包まれているかと思いきや、どうやら炉の炎はだいぶ前から落とされていたようで、むしろ外に比べてもこちらの方が涼しいと感じるくらいに、ひんやりとしていた。


 室内は普段から仕事道具を大事に扱っている彼らしく、使った道具が散乱しているどころか、整然と種類別に分けられ所定の位置であろう場所に手入れまで施されて収められていた。


 また、完成品を収納するために用意されているであろう隣接した部屋には、“大量”の武器達が種類別に鞘などで梱包され、こちらも綺麗に並べられているのも発見できた。


 そう“大量”にである。


 まるでここが武器屋の倉庫か何かと勘違いしてしまいそうな、それほどの武器が此処には収められていた。



 ここで思い出して欲しい。このナタクという男がこれまでにやらかしてきた数々の出来事を。


 そして、その彼が以前に何の職業をメインにして活動していたと言っていたのかを。



 アキナは元々あまり強い武器にこだわりを持っていなかったため、名刀や業物といったレア武器といわれる装備には縁遠いプレイスタイルの人物であった。それでも、自分が使ったことのある武器の大体の等級や攻撃力などは頭に入っていたので、ここにある武器達がどれだけふざけた性能をしているのかは、一度手に取って鑑定してみただけでも直ぐに理解するだけの知識は持ち合わせていた。



 アイテム名


 青銅の短剣【真打】(高品質)


 打ち直したことにより性能が向上した、青銅で鍛え抜かれた短剣。


 攻撃力:20(10×2)


 特殊効果:--


 作成者:那戳(ナタク)



 エンチャント等はまだ施されていないようだが、それでもこの性能自体が“異常”であるのは、武器に疎い自分でも理解することができた。


 通常、街で売られている『青銅の短剣』とは、お金の無い駆け出しの冒険者達が一番最初にお世話になる武器として、もっとも手頃でよく選ばれている品である。アキナの記憶が正しければその攻撃力は『8』であるはずであった。ただ、これはノーマル品の値なので、高品質のモノなら性能が『10』まで伸びる。


 そして、もう一つ気になるのが【真打】なる文字であった。これは武器職人固有の技法で、プレイヤーメイドの作品やダンジョン産で手に入いる魔法が付与された一部の武器までにも加工が施せ、『一度そのアイテムを打ち直すことにより、攻撃力を1~2倍へ高める事ができる』といったモノになる。


 これを聞けば、絶対に打ち直したモノを装備すべきと考える人が多いと思うが、実際はそんなに甘いモノではない。これだけの恩恵を得るためには、それに見合った代償が付いて回るためである。


 ただし、この錬成には特殊なアイテム等を追加で用意する必要も無く、打ち直したい武器と腕の良い職人、そしてそれに適した『鍛冶場』さえあれば挑戦することができるのだが、問題はその『リスク』と『難易度』についてであった。



 まず『リスク』についての話だが、打ち直しに失敗した場合、そのアイテムは完全に失われることになる。そう、素材すら返ってくることは無く、完全に砕けて元には戻らなくなってしまうのだ。また、一度打ち直しを実行したアイテムを再度打ち直そうとしても、此方も100%失敗してしまう。


 なので、この錬成を試す場合はそれ相応の覚悟を持って挑まなくてはならず、もし途中で怖気づいて止まってしまうと、二度と素材としたアイテムを使ってその先をみることが出来なくなるのだ。



 そして『難易度』であるが、『攻撃力1,1~1,2倍』までならば“まだ”良心的な成功率ではあるらしいのだが、それ以上を目指そうとするならば、一気に成功率が激減し、かなりの覚悟を持って挑まなくてはならなくなる。しかも、素材の武器等級が高ければ高いほどその『難易度』も跳ね上がるのだと、昔自分が所属していたクランの鍛冶師から教えてもらったことがあった。


 ただし、腕の良い職人であれば、その成功率も多少は緩和されるとも聞いたことがあるので、もしかすると自分の師匠であるナタクであればとも考えてもみたが、それにしてもこの短剣の攻撃力が異常であるのは明白であった。


 それもそのはず、この短剣の攻撃力は攻撃力『20』なのだから。


 要するに、最初に高品質の短剣を用意し、それを打ち直しによって、この素材の“限界値”まで能力を高めたということになるのだ。



 はっきり言って、ゲームの頃も含めて攻撃力が2倍まで到達した武器を手に取ったのは、アキナ自身は初めての経験であった。これが鍛冶で作れる武器で、もっとも簡単なレシピであったとしてもだ。


 アキナにこの錬成の難しさを教えてくれた鍛冶職人の話を信じるならば、彼の腕では攻撃力2倍の武器を作ろうとするならば1/1000の確率を覚悟しなくてはいけないと言っていたのを憶えていた。これは1000回挑戦すれば必ず1本は作ることができるというわけではなく、全て真面目に錬成に取り組んだとしても1000回に1本作れる“かも”しれないという確率なんだそうだ。


 それほど難しいとされている錬成を、自分の師匠は“量産”していたのである。


 一応、まだ手前にあった幾つかの武器を軽く鑑定してみただけなのだが、その全てに【真打】の文字と、攻撃力『×2』が付与されていたので、きっとここに並べられている武器達には同じ加工が施されているに違いない。


 やはり、少しでも目を離すとこの人はとんでもないことを平然とやってのけてしまう。


 取り敢えず、三日ぶりに会う自慢の師匠を問いただす最初のネタはこれで決定であろう。


 さて、これ程のやらかしを当たり前の様にやってしまった彼は一体何処にいるのであろうか?


 ミニマップを頼りに室内を探してみると、部屋の奥に設置されている木製のベンチの上で気持ち良さそうに眠りに就いている彼の姿を確認することができた。



 さぁ、また賑やかな一日が始まりますよ!今日の先生は、次は何で私を驚かしてくれるのか、今からとっても楽しみです!!




またか!またなのか!?( ̄□ ̄;)


ほっほほ((´∀`*))


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