第62話 1-2
領主が街に帰ってきたのであれば、これ以上不慣れな自分が現場の指揮する必要もないので、今度こそ全権を専門家達に託すことにした。ただし、領主もまだ街に着いたばかりなので、状況の引継ぎをするためにもナタクとアメリアだけは暫く現場に残り、他の人達には後日詳しい聞き取り調査がおこなわれるそうだ。
何故アメリアも残されたのかというと、今回の事件で、現場の領兵達だけであればナタクの名の下で指揮を執っていても特に問題はなかったそうなのだが、ここ以外にも検問や警備強化などで多くの兵を動かしていたため、もしこの事件を後々国の機関に報告する場合、色々と問題になりそうであった為、作戦全体の指揮官をローレンス家を代表してアメリアがおこなったていたことにして、ナタクは作戦参謀兼現場指揮官代理に就いていたという扱いにするらしい。
苦肉の策とはいえ、随分と長い役職を得てしまったものだ。
なので、事件解決の功績を大々的に称えることが出来なくなってしまうため、後日、他の形で報いさせてもらうと領主から直接言われたのだが、正直な話、ナタク自身は軍事指揮権などに全く興味もなく。今回の場合は皆から頼まれので指揮を執っていただけであって、功績と言われて少し困ってしまった。
だがその時、この後に控える領主との交渉事が多く控えているのを思い出したので、今回は遠慮せずに『貸し一つで結構ですよ』と伝えておくことにした。
(ただ、伝えた後に、もの凄く嫌そうな顔をされてしまいましたけどね)
それと、今回の事件での被害者であるリリィについてなのだが、事件の主要な犯人達が軒並み捕縛されていたので、領主の配慮によって領兵の護衛付きでウィル夫妻の下へ帰らされ、後日に他の者達と一緒に話を聞くこととなった。どうやら同じ娘を持つ親として、早く両親を安心させてやりたかったようだ。なので、アキナやゴッツ達にもリリィと一緒に先に帰ってもらい、自分達も居残り組みとしてさっさと勤めを果たしてしまうことにした。
「・・・・とまぁ、これが今回の事件までの大まかな流れになります」
「となると、その契約書の事件も考慮しながら考えねばならん訳か。そちらの資料は?」
「既にクロードさんにレポートにしてお渡ししてありますので、お城の方で確認できるかと思います。他の証拠品等も提出してあるので、今は手元にありませんね」
「まずは城に戻ってそれらを確認しろということか・・・・それと、他にも何かあるのだな?」
「そっちも結構大変なことになっていましたよ、父上。なんたって、ナタク君が最近“かなり”頑張っていましたからね」
「中には急ぎの用件もあるのですが、一旦資料やサンプルなども集めてこないといけませんので、夜にお城へお伺いした際に、また詳しく説明させていただきたく思います」
「ふむ・・・・なんか嫌な予感がしてきたな。取り敢えず、私は城に戻って留守中に起こった出来事を確認していくとするか。アメリアも私と来るか?」
「いえ、今日はナタク君が主催した催し物の最終日になりますので、そちらを手伝いに行こうかと思います。それに君のことだから、イベントを中止にするつもりはないんだろ?」
「ウィルさんのところはどうするか決めかねていますけど、他はそのまま決行する予定ですね」
「なんだ、その催し物とは?っと、私はそれどころではなかったな。では、くれぐれも気を付けるようにな!」
そう言い残し、領主は現場にいた領兵の隊長になにやら指示を出してから、城の方へと戻っていった。これから大変だと思うが、是非お仕事を頑張っていただけるよう祈っておこう。
なむなむ・・・・
「父上・・・・あの執務室の机を見たら何と言うかな?」
「俺が一昨日お伺いした時には、既に今ある机だけでは載せきれなくて、臨時で新しい机を二台ほど運び込んでいましたからね。俺も、あそこまでの書類の山は初めて見ましたよ」
「あはは・・・・その山にかなり貢献している君がよく言うよ。それじゃ、私達もお店に戻るとしようか」
そんなわけで、ナタク達も挨拶を済ませてからウィルの店まで帰ってきたのだが、店内に入るとなにやらとても美味しそうな匂いが漂っていた。これはアーネストにレシピを渡した時に最初に作ってもらった、『コンソメスープのポトフ』であろうか。先に帰っていたアキナ達も、幸せそうに食事を楽しんでいた。
「思ったより遅かったな、お前達も食べるか?」
「もちろん、いただきますよ」
「そういえば昨日の昼から何も食べていなかったね。この香りのせいで急にお腹が空いてきたよ」
「それでは、直ぐに用意するとしよう。それと、作戦が上手くいったみたいで良かった。俺からも礼を言わせてくれ」
「いえいえ、上手くいったのはここにいる皆さんのおかげです。それより、ウィルさん達はどうされました?ここには居られないみたいですけど」
「先触れで無事保護されたのは聞いていたんだが、娘の元気な姿を見て緊張の糸が解けたんだろう。三人で抱き合って泣き始めてしまったから、少しは寝るように言って先ほど二階に上がってもらったところだ。二人とも、お前達にかなり感謝していたぞ」
「かなり不安だったと思いますしね、無事に助けられて良かったです」
「うんうん、今ぐらいはゆっくりさせてあげようじゃないか!」
「さて、それでは料理を運んでくるから席に着いて待っていてくれ」
「先生、アメリアさん!こっちで一緒に食べましょう!」
「・・・・うまうまぁ。やっぱりパパの料理が世界一!」
アテナのあまりに幸せそうな顔を見て、思わずアメリアと二人で笑ってしまった。その後、直ぐに料理も運ばれてきたので、食欲をそそる香りの良いポトフを一口すすると、以前作ってもらったモノでも十分過ぎるくらい美味しかったはずなのに、今回は更にその数段上くらいの味へと仕上がっていた。
本当に、彼の料理は何処まで美味しくなっていくのであろうか?というか、これは他の料理人達にも言えることなのだが、最近は彼らに料理を作ってもらう度に腕が上がっていってるような気がする。
それと催し物の話なのだが、アーネストは引き続き参加してもらえるとは予想していたが、なんとウィルも参加の意志を固めていたらしく、ナタク達がポトフを食べ終わる頃には二階から降りてきて、ナタク達に涙ぐみながらお礼を述べた後、彼と同様やる気に満ちたコック達と共に今日の分の仕込み作業を始め出した。なんでも、今は感謝の気持ちを込めて全力で料理に向き合いたいんだそうだ。
まったく、彼らだって徹夜と心労で疲れがかなり溜まっているだろうに。どうやら、根っからの職人魂を持っているみたいである。それならば、彼らがこの後も元気に働けるように、自分もストックしてあるスタミナポーションを大判振る舞いしようと思う。自分自身もこういった無茶は嫌いではないないし、ポーションなんて無くなればまた作ればいいのだから!
それでは自分も、領主との話し合いに向けた準備を始めていくとしよう。
とはいっても、事件の方は殆ど片付いたので、後はジョンを辞めさせない為の裏工作を少々。それと『トマト』の素晴らしさを領主にも体験してもらう為に、レシピを渡した料理人達に最高の一品をそれぞれ作ってもらい、それを披露することで交渉を円滑に進めさせてもらおうとも企画している。
ふっふふ、今回の切り札も中々に強力ですよ!
紙って積み上げると山になるんですね(´-ω-`)
それにしても、あれは酷いと思うけどね(・ω・`;)




