第62話 1-1
廊下にもある程度煙幕を散布し終えたので、一旦屋敷の外に出てみると、既にかなりの人数が外にいたメンバーに捕縛されていた。この様子なら、後は煙を除去してから捕らわれたリリィを迎えに行ってもよいであろう。
「兄ちゃんよぉ、もうそろそろいいんじゃねぇか?」
「えぇ、丁度それを確認しに戻って来たところです。ちなみに、コンゴは逃げて来ましたか?」
「いや、今のところ確認出来ていないな。ただコイツらの状況から察するに、間違いなく酷いことにはなっていそうだがな」
「それでは今から煙を除去しますので、アテナさんとゴッツさんは地下へ向かってリリィさんの救出をお願いします。残りのメンバーは逃げ遅れた人の確保とコンゴさんの捜索に向かいましょう。ガロンさん、建物の案内を頼みます」
「あぁ、任せてくれ」
「ナタク君、私も君と一緒に捜索に加わってもいいかい?」
「アメリアさんには此方に残って現場指揮をと思ったのですが、それではアメリアさんと隊長さんも俺達と一緒に来てください。一応無力化は出来ているとは思いますが、不意を衝かれないよう、気をつけてくださいね」
「「「了解!」」」
(では、突入前に煙の除去から開始するとしますか)
とはいっても、此方も持ってきた魔導具を建物内で起動するだけなので、実はそこまで手間ではない。エントランスに入ると、まずインベントリに保管していた『空気清浄機』の魔導具を取り出し、効果範囲を建物内に設定してからスイッチを押すと、瞬く間に充満していた煙が機械によって吸いだされていった。
(やっぱり便利ではないか、なんでこれが売れなかったんだろう・・・・)
煙が除去されると、先ほど廊下で煙幕をばら撒きに行った際には気が付かなかったが、逃げ遅れてしまった人達が廊下や部屋の入り口付近で苦悶の表情を浮かべ、呻き声を上げながら倒れこんでいる姿が確認できた。いくら敵対してるとはいえ死なれても後味が悪いので、追加で『解毒のポーション』を渡し、領兵に頼んで彼らを運び出して介抱するように頼んでおいた。煙を焚いていた時間もそれ程長くは無かったので、万が一これで死ぬことはないだろう。
建物の一階部分は領兵と冒険者達で調べてくれるそうなので、ナタク達は二階部分を見て回ることにした。階段を上がり二部屋ほど見回り空振りに終わった後、今度は建物西側の奥の部屋に入ろうとすると、微かにだが扉付近で人の気配を感じ取ったので、手で開けるのを諦め思いっきり蹴破って中に入ってみると、外れた扉に当たったのか鈍い音と共に鼻頭を押さえながら蹲る大柄の男の姿がそこにあった。どうやら煙を吸ったせいで上手く気配を消し損ねていたみたいである。
武器を持って抵抗されると困るので、アメリアとガロンの流れるような連携によってある程度ボコボコにしてもらい、気絶状態になってから彼の顔を確認してみると、なんとこの男がリリィを攫った際にコックの子に暴力を振るっていた“ホゼ”その人であった。
なので縛り上げた後に、調味料の研究用に作ってあった大量の生唐辛子ペーストが入った瓶を取り出し、中身を気絶している彼の口の中に流し込んで吐き出さないように布で口を塞いでおいた。
(少年、ほんの“少し”ですが仇は取りましたよ!)
直ぐに気絶から目を覚しジタバタ暴れ始めた彼のことはそのまま放っておいて、引き続き部屋を中を捜索してみると、同じ部屋の中で本命のコンゴを発見することが出来た。というか、寝巻き姿で暖炉に顔を突っ込んだ状態のまま倒れていたのだが、彼は一体何がしたかったのだろうか?
暖炉からコンゴを引き摺り出してロープで縛り上げ、ホゼ共々一緒に来ていた領兵に頼んで外に運び出してもらった後、ついでに暖炉の中も確認してみると、そこには結構な量の書類と本が数冊乱雑に投げ込まれていた。たぶん彼はこれを燃やして処分するつもりだったみたいである。
まぁ、『炎結界の魔導具』がそれを許さなかったみたいだが・・・・
「自分で怪しい書類を見つけやすくするとは、やはりアイツは馬鹿なのか?」
「少し読んだだけでも解る不正書類のオンパレードじゃないか。よくもまぁ、こんなに手元に残していたものだね」
「こっちの本は裏帳簿みたいですね。金額もかなり細かく書き込まれているみたいなので、よっぽどお金が好きだったんでしょう。あぁ、こっちのは去年の分か」
「あの人は、何故ここにこれらを隠そうとしたんでしょうか?」
「たぶん隠そうとしたんじゃなくて、燃やしてしまおうとしていたみたいですね。ほら、そこに火をつける道具も落ちてますし」
「先生の魔導具に邪魔されたんですね・・・・」
「これは別に狙ってはいませんでしたが、かなりの大収穫ですね。領主様とクロードさんに良いお土産が出来ました」
「また父上の執務室が書類の山で溢れそうだね。さて、これで捕り物はお終いかな?後はリリィ君の無事が確認できればいいのだけれど」
「そうですね、一旦表に出て状況を確認しましょう」
本当は、もう少しガサ入れをして色々調べ回りたかったのだが、それは本来の目的から外れてしまっているので、後は本職の領兵達に任せるとしよう。ちなみに、部屋を出る前に見つけた隠し部屋っぽい場所も彼らに伝えておいたので、後で何が出てくるか実に楽しみである。
外に出てみると既にリリィはアテナ達によって救助されており、一時はいきなり煙が上がってパニック状態になっていたみたいなのだが、他の人が煙を吸って苦しみだしているのに自分だけは全く被害がなかったので、「何故?」と不思議に思っていたところにアテナ達が突入して助けてくれたのだと、だいぶ興奮気味に話してくれた。
本当は直ぐにでも両親の元に帰してあげたかったのだが、この後、聞き取り調査などもあると思うので、ゴッツのPTメンバーに頼んで先に彼女の無事をウィル夫妻に伝えに行くようにお願いしておいた。きっと、あちらも彼女の安否情報を心待ちにしているであろう。彼女が無事でいてくれて、本当に良かった。
そして、件のコンゴなのだが・・・・・
「貴様ら、俺にこんなことをしてただで済むと思うなよ!」
話を出来るようにする為ある程度回復させた途端に、大声で悪態をつきながら癇癪を起こし始めたんだそうだ。彼は今の状況が全く理解できていないらしい。
唯でさえ誘拐の現行犯であり、その他にも十分余罪が揃っているというのに、この期に及んでまだ自分が無事に助かると思っているようだ。
「コンゴさん数日振りですね。随分と元気に色々仰っていますが、自分の置かれた状況を理解できていますか?」
「お前はあの時の忌々しい錬金術師か!貴様のせいで、俺はかなりの赤字を被ったんだぞ!直ぐに弁償しやがれ!!」
「それは、あなたがグスタフさんから買い取った契約書の話ですよね?」
「そうだ!あれは本当はもう200・・・いや、金貨500枚以上はするはずのモノだったんだ!!それをお前のせいで・・・・俺には負債分を請求する正当な権利があるはずだ!」
「それなら、領主様に掛け合って裁判でも起こしてください。正面きってお相手いたします」
「くっ・・・そ、それに俺が調理ギルドを破門になったのもお前が裏で何か仕掛けたんだろ!調べは付いているんだからな!!」
「それはあなたの日頃のおこないでしょう、それを俺のせいにされても困ります」
「五月蝿い五月蝿い!!とにかく、お前だけは絶対許さないからな!!」
「人の店に恐喝・器物破損・放火・更には人攫いまでしておいて、未だに反省の色すらありませんか。俺のことを恨むのは勝手ですが、まずは自分のこれまでのおこないを悔い改めてはどうですか?」
「ふっははは・・・・俺に悔い改めろってか!ならその言葉、そっくりそのままお前に返してやる。どうやらお前らは知らないみたいだから教えてやるが、俺はある高貴な貴族の血を継いでいる存在だ。そんな俺にこんな事をしたと公にしてみろ!貴様らのような下等な下民を処遇なんて、虫を踏み殺すように簡単なんだよ。
それに、ここの領主がいくら公爵だろうと、下民のために俺の親父と事を構える度胸なんてあるわけないだろう?精々今だけでも偽の勝利に酔いしれるがいいさ。後で、死ぬほどの後悔させてやるからな!」
「貴様、よくも父上を侮辱してくれたな。この「ほぉ、どうやら私は随分と腑抜けに思われているらしいな」っ!!」
「「「領主様!?」」」
「領主様、ご帰還されていたのですか?」
「街に着いたのは、今しがただ。部下達と夜通し馬車を走らせ帰ってみれば、入り口で検問がおこなわれていたから何事かと思ったぞ。それに街で誘拐騒ぎがあったとかで、アメリアが領兵と一緒に捜査に参加してると聞いたので、慌てて情報を集めてここに来たのだが、どうやら犯人は捕まえた後だったみたいだな」
「ついでに、ここでこんな面白い物も見つけましたよ」
「ほほぉ・・・・俺の街で随分と愉快なことをしていたようだな。モーリス、直ぐにこの書類をクロードの所に届けて、不正を働いた輩を全員捕まえ私の前に連れて来い!!」
「はっ!!」
「これだけでもかなりの大罪だが、人攫いまでしているのか・・・・」
「他にも街の中央通り付近で放火をしたり、アメリアさんも含めた殺害命令なんかも出していたみたいですよ」
「どうやらこいつは、今直ぐにでも死にたいらしいな」
「そんなの出鱈目だ!!領主よ、俺の話を聞いてくれ!俺はハインリッヒ侯爵家の血を引く「父上、ナタク君の言ってることは本当さ。私も現場にいたから、ローレンス家の名に誓って証言させてもらうよ」っ!?」
「それでは後でじっくり話を聞かせてもらうとするか。一先ず、こいつの口を塞いで牢へ繋いでおけ!私の街で不正を働いておいて、貴族の血縁者であるから助かるなどと思われることすら腹立だしい。しっかり処罰してやるから、覚悟しておけ!!」
領主にそう言い放たれ、反論しようとコンゴはまた喚き始めたのだが、直ぐに領兵に口を塞がれどこかへ連れて行かれてしまった。まぁ、領主が帰ってきたなら後は任せてしまって大丈夫であろう。
「それにしても、私の為にアメリアがあんなにも怒りを顕にしてくれて、パパはとっても感動したよ。しかも、少し見ない間にこんなに可愛らしい服装をするようになって。パパ、もう嬉しくて涙が・・・・」
「あはは・・・・父上お帰りなさいませ。お仕事お疲れ様でした」
「うむ、気遣いありがとう。私も早く街に帰りたかったんだが、王都で予定外の仕事が立て続けに入ってしまってね。中々帰れなかったんだ。私が不在だった時に、何か変わりはなかったかい?」
「「「・・・・」」」
「・・・・なぜそこで全員顔を逸らす?まさか、他にも何かあったのか?」
「口で説明するより、父上の執務室に行かれた方が理解しやすいと思います。特にナタク君が色々と・・・・ねぇ」
「また君か・・・・はぁ、取り敢えず状況を確認次第使いを寄越すから、今日は連絡が付く場所にいるように」
「それでしたら色々説明しなくてはいけないモノもありますので、夜までに資料を作製してお城へお伺いさせていただきたく思うのですが、いかかでしょうか?」
「まぁ、それでもいいか。元々、今日明日は徹夜で仕事をする羽目になるのは覚悟していたからな」
残念な事に今日明日どころか、昨日の段階で数週間は不眠不休で働いても無くなりそうにない仕事量が溜まってると、クロードさんが仰っていましたけどね。それに、俺も早く承認してほしい書類がたくさん溜まっていますし、領主様にはこの後大いに頑張っていただくとしましょう!
っ!!!!!(:″*゜;)
お代わりいります?(*´∀`*)旦




