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第60話

 

「・・・・リリィが(さら)われたって本当!?」


「えぇ。取り敢えず、店の中に入って対策を練りましょう」



 近くに散開していた冒険者達も次第に店へと戻ってきたので、来店してくれていたお客には申し訳なかったが、店を一旦閉めさせてもらうことにした。ただ幸いなことに、既にラストオーダーは済んでおり、残っていたのも常連ばかりだったので協力的でとても助かった。これが開店直後であったなら大混乱であっただったろうし、ウィルも調理どころではなかったであろう。


 話を聞いて、不安に押し潰れそうになっているウィル夫婦をアキナが懸命に(なぐさ)めていたので、一先ずアメリアに頼んで領兵への通報と、ゴッツには今朝この店にやって来たガロンをもう一度呼んで来るようお願いしておいた。状況とタイミングから考えて、犯人の親玉はコンゴがもっとも疑わしかったので、今は少しでも情報が欲しかった。


 二人が戻ってくる間に今の自分達にできること、これからしなくてはならないことを考えながら、向かいに建っているコンゴの店を睨みつける。


 黒幕の目星は付いているのに、直ぐに取り押さえに行けないのが、実にもどかしい。


 一応彼の部下と思しき人物の確保と、誘拐犯の一人の名前は鑑定で既に入手できてはいるが、白を切られたり自棄(やけ)を起こされる可能性もあるので、リリィの所在が判明するまで迂闊に踏み込むことすら、ままならなかった。


 せめて彼女が捕まっている場所が分かれば、此方からの動きようもあるのだが・・・・・



「ナタク君、領兵を呼んできたよ!それとクロードにも連絡してもらって、一日だけでも朝から街の入り口の全てで検問をしてくれないか頼んでおいた。幸い、今は全ての門は閉まっているからね。これで街からは出られない筈さ!」


「ありがとうございます。って領兵さん、結構多いですね」


「事情を説明したらやけに協力的でね。なんでも、この前父上と一緒に森へ増援に向かおうとしてくれていた部隊の人達らしいよ」


「こっちも呼んできたぜ、声かけたら是非手伝わせてほしいってよ!」


「朝は世話になった。俺に分かることであれば何でも聞いてくれ」


「ガロンさんも助かります。さっそくなのですが、そこに転がっている放火魔と“ホセ・マルガス”という男性を知りませんか?」


「放火までしやがったのか、あの馬鹿・・・・そこで縛られてる芋虫は“イバン・ゲルクス”だな。確かコンゴに雇われていたフリーの魔法使いの男だ。それとホセはチンピラの纏め役をしていた男の名前だが、そいつの名前をどこで手に入れたんだ?」


「リリィさんが攫われた時、馬車のところにいたのがその人物でした。何とかその人だけは鑑定をかけることができたんですよ」


「もう犯人はアイツらで間違いねぇんだろ?今すぐとっ捕まえに行こうぜ!」


「そうしたいのは山々なんですが、現在リリィさんが何処にいるかが問題なんですよね。どうせコンゴ達を問い詰めても白を切るでしょうから、突入して直ぐにリリィさんを確保できないと、今度は自棄を起こされて、彼女がさらに危害を加えられる可能性があるんですよ。


 それと、馬車は南に走っていったので方向からして向かいの店舗にいないことだけは確定しているんですが・・・・ガロンさん、リリィさんが連れ攫われた先にどこか心当たりってありませんか?」


「いくつか候補はあるが、絞り込むのは難しいかもしれないぞ?まずは、疑わしいのは奴の住んでいる屋敷が南門から中央大通りを少し進んだところにあるのと、その少し近くに手下が寝泊りに使っている建物があるな。


 後は街の南西に奴が所有している倉庫、それとヤツの実家が経営している商家の支店も中央大通りに一ヵ所ある、これも南門の近くだ」


「その四ヵ所のどこかですか・・・・」


「それに、途中で馬車を降りて移動されると、さらに候補地が増えることになると思う。何せ奴には相当悪い“お友達”が多いみたいだからな・・・・すまない、茶化すつもりはなかったんだ」


「いえ、ありがとうございます、参考になりました。しかしそうなると、早期に発見するのがかなり難しくなりそうですね・・・・?」



 不意に、自分の上着の裾を誰かに引っ張られていることに気が付いた。『何だろう?』と、そちらを振り返ると、すぐ近くにアテナがやって来ており、ナタクを見上げながら何か喋りたそうな顔をしていた。



「アテナさんどうしました?」


「・・・・私に少し当てがある。ただ、朝にならないと呼べないから少し待ってほしいけど」


(あね)さん、“あの二人(・・・・)”を此処に呼ぶんですかい?」


「・・・・うん。正確にはあの子達に頼んで、仲間に探してもらうの」


「“あの二人”とはなんですか?」


「・・・・私のあいぼ~!」


「姐さんの切り札の一つだな!まぁ、朝になれば分かると思うぜ。冒険者達の間では、それなりに有名だからな」


「となると、その間に先ほどの四ヵ所と向かいの店だけでも見張りを付けておいた方がいいかもしれんな」



 (なんでしょう?皆さん“あの二人”を呼べば何とかなるって感じになっていますが、そんなに凄い方でもいるんですかね?それに、朝にならないといけないとは、いったい・・・・)



 取り敢えず、今できることを片付けてしまおう。まずは先ほど挙がった場所の監視と、それとリリィを発見できた時の突入準備。それと、これ以上の嫌がらせは今日はしてこないと思うが、一応アーネストにはお店に残ってもらい、ウィル達も自分でリリィを探しに出歩いて二次被害に合わないよう、領兵に頼んで数人掛りで警護してもらうことにした。



 そういえば、領兵がいるのだから現場の指揮権は彼らに(ゆだ)ねた方がいいのかと思って聞いてみたのだが、この場に居た全員の推薦と、特にアメリアからの強い後押しがあり、そのままナタクが指揮を継続することとなった。それに、領主お抱えの錬金術師という立場もそれなりの地位があるらしく、能力さえあれば営利目的以外であれば領兵を動かしても問題ないそうだ。


 そのため、領兵達もかなり協力的に動いてくれ、冒険者と共に各地に散って監視任務に付いてくれている。それにしても随分と連携するのがスムーズなので感心していると、なんでも普段から定期的にこの街では領軍と冒険者ギルドが協力して、連携訓練などを密に執り行われているからなんだそうだ。他の街ではそこまで訓練したりはしていないそうなのだが、これも領主のご采配の賜物なんだとか。


 それに、冒険者達や領兵も領主のことをかなり尊敬しているらしく、どちらの仕事にも理解のある上司が纏め上げているので、お互い適材適所で使ってもらえるので不満もとても少ないらしい。



 (そういえば、あの人もアーネストさんと同じ元ゴールドクラスの冒険者でしたっけ)



 夜明けまでまだ時間があったので、その間にコンゴが有しているであろう戦力の情報と候補の四ヵ所の建物の地形、繋がりのありそうな組織・陣営等の情報をガロンから聞き出し、領兵の隊長を含めて捕らわれた彼女を見つけ出した際の救出プランなどを練っていた時に、ふと“ある”アイテムの存在を思い出したので、思い切って救出作戦に加えてみることにした。


 この方法なら上手くすれば、無傷で彼ら一味を捕縛することも可能であるし、彼女が傷つけられる心配もかなり少なくできるはずだ。それに、散々嫌がらせをしてきた彼らに仕返しをするのにも最適だったので、作戦としても悪くないであろう。


 そんなこんなで集中しながら話し合いをしていると、作戦も無事に計画できた頃には空が薄っすらと白け始めていた。



 アテナは人が殆どいない道の真ん中までゆっくりと歩いて行くと、一呼吸おいた後にある“呪文”を唱え始めました。



『・・・・契約者の名において命ずる。思考と記憶を司る二対一体の小さき旅人よ、我が呼びかけに答えこの場にて顕現せよ!』



 (あぁ、なるほど。彼女が魔力が人より多く、エルフの先祖返りと話は聞いていましたが、まさかエルフでも珍しい、“あの職業”までも引き継いでいたのですね)



『・・・・召喚(サモン):精霊フギン・ムニン!!』



 アテナがそう唱えると、彼女の前に大きめな魔法陣が展開され、魔力の波動を周囲に撒きながら虹色の光があふれ出すと、それが次第に形を現し始め、そこには物語に出てくる妖精を思わせる姿をした小さいながらも漆黒の翼を持つ二柱の女の子が、朝日を浴びながらその場に顕現した。


『召喚師』、たぶんアテナの職業はこれで間違いないだろう。そういえば、彼女に鑑定を使ったことがなかったので、てっきりアーネストと同じ狩人かと思っていたが、まさかかなりのレアに分類される職業の持ち主であったとは。それに人型を保った精霊を顕現させたところを見ると、彼女は下級職の“精霊術師”ではなく、中位職の“召喚師”であるようだ。


 それにしても、『フギン・ムニン』とは・・・・


 昔、知り合いにどうしても契約したい子がいるから協力して欲しいと頼まれた事のある、ちょっと変わった精霊だったはずだ。攻撃面では一切使えない精霊ではあるが、『情報収集』に関しては上位の精霊でも太刀打ち出来ないほどの力を持つ、特殊な個体だと聞いたことがあった。しかも、名前からして亜種や同種族などではなく、オリジナルの精霊であるようだ。



『おはようなの、あてな!』


『おはよう・・・まだねむいです』


『まったく、ムニンはお寝坊さんなの』


「・・・・二人ともおはよう。さっそくだけどお仕事頼んでもいいかな?」


『あいあい、ドンっとこいなの!』


『りょうかいです~』



 どうやら、情報収集のエキスパートの精霊まで今回は味方に付いてくれるみたいですね。それでは、リリィさん捜索&救出作戦を開始するといたしますか!

フギンなの♪q(≧∀≦*)p


ムニンです~ヾ(*´Ο`*)/


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