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第59話

 

 正午の鐘と同じくして二日目の販売を開始したのだが、今日は出だしからしてかなり好調であった。特にこちら側から客引きをしなくても口コミでドンドンとお客が集まってくる光景は、経営陣サイドにいる者としては堪らなく嬉しい出来事に違いなかった。商品も飛ぶように売れていき、相乗効果で隣接した屋台達もかなり売り上げが伸びているようで、初日以上に皆の顔には笑顔が溢れていた。


 お客の先導も、今朝方、ナタクが街中を走り回っていた最中に親方達から受け取っていた『先導用のプラカード』や『残り個数がカウントできる看板』のおかげで、よりお客をスムーズに捌けるようになっているようにみえる。この感じだと、昨日より在庫を増やして販売しているはずが、更に早くに完売してしまうかもしれないと思える程、今日の売り場には勢いがあった。


 また、料理人達も普段は厨房にいるので、お客の数は注文の数を見て判断していたであろうが、屋台の場合は並んでいるお客との距離がとても近いこともあり、自分達の料理をここまで評価してくれているのを真近で感じることができるため、彼らもイキイキとして調理に励んでいた。



 その後も、襲撃や嫌がらせなどを警戒しながら販売を続けていたのだが、特にコンゴからと(おぼ)しき妨害などもなく。結局この時間には何も起こらずに、全ての商品を完売することができた。このまま何事もなく平穏に過ごせればいいのだが、昼の件で怒り心頭であろうことは目に見えているので、油断はしないでおいた方が良いだろう。


 これさえ無ければ、心から催し物(イベント)を楽しめたであろうに、本当に迷惑な話である。



「なんか拍子抜けしちゃったよ。朝の話を聞いていた限り、今日は絶対何か仕掛けてくるんじゃないかと思って離れたところで注意しながら見ていたのに、まさか何にも起こらないとはね」


「アメリアさん、不謹慎ですよ。はい先生、ジョンさんからの差し入れです。今日はスタッフ用に、別の食材を持ってきてくれていたそうですよ」


「昨日はアテナさんがだいぶ落ち込んでいましたからね。おっ、『トマトケチャップ』を使ったオリジナル料理ですか、とても美味しそうですね。


 そういえばコンゴさんですが、俺達が来る少し前に、既に此方で騒いでいたそうですよ」


「えっ、それは本当かい!?」


「何でも他の屋台と一緒に自分達も出店させろと言ってきたみたいなのですが、ジョンさんに断られたら暴れ始めたので、取り押さえて領兵に引き渡したそうです。まぁ、被害もなかったので、今回は厳重注意で帰されるとは思いますけどね」


「なんだ、もう来た後だったのか・・・・」


「ただ、相当怒っていそうなので、何か仕掛けてきそうなのには同感ですね。俺も、夜は外の警備を手伝おうかと思います」


「本当、行動力だけはありますよね。迷惑な方にですけど・・・・」



 ここでの本日の催し物(イベント)も終わったので、片付けて次の準備取り掛かるとしよう。それと、丁度アーネストとジョンが一緒にいたので、昨夜のうちに用意しておいた新レシピを『双璧をなす赤と白の二種類の煮込み料理』と煽り文句をつけて二人に手渡したところ、お互いライバル心むき出しにして低い声で笑い合っていたので、こちらの料理もかなり期待が持てそうである。



 それを一緒に見ていた若手料理人達がオロオロし始めていたが・・・・見なかったことにしよう。



 暫くして皆でウィルの店に戻ってくると、入り口の横で椅子にもたれかかりながらゴッツが眠たそうに座っていたので、お礼を言って短い時間ではあるが営業時間まで仮眠を取ってもらうことにした。彼には昨日から色々活躍してもらっているので、少しでも休んで体力を回復していただこう。


 ちなみに、今日の夕方からの警備の配置だが、男性陣が外で女性陣が建物内なのは変わらないが、建物正面に男性陣を配置して、裏通りを建物二階のテラス部分からアテナが、一階の勝手口付近をナタクが見張ることになっている。建物内部は直ぐに駆けつけられるし、今日はアーネストもいるので戦力的にも十分であろう。


 後は明るいうちに周辺確認をしながら過ごしていたのだが、途中で冒険者ギルドから護衛の助っ人として男性三人組が派遣されてきた。たぶんフィーリアが朝に説明し忘れたのはこのことだったのかもしれない。なんでも彼らの話によると、費用ギルド持ちで数日間雇えるそうだ。


 それにアテナ曰く、この人達も後輩団のメンバーらしく。お客の先導どころか戦力としても十分信頼できる人達らしいので、ありがたく護衛の補佐に加わってもらうおうと思う。PT名は『ウルフファング』といって、討伐系のクエストをメインに活動している人達らしい。



 そうして、いよいよ営業時間を迎えたのだが、予想とは裏腹にオープンを迎えてからも特に嫌がらせが起こる気配も感じられず。昨日以上のお客が来店されて大繁盛であった以外は、至って平和な時間が過ぎていた。てっきり彼の今までの行動からして、報復行為は直ぐにでもおこなわれると思っていたのだが、当てが外れてしまったみたいである。



「よっ!こっち(裏口側)もかなり暇みたいだが、これじゃ兄ちゃんも店の手伝いをしていた方が良かったんじゃないか?」


「彼の性格を考えると、仕掛けてくるとしたら今日の早い時間だと思っていたのですけどね。ゴッツさんは見回りですか?」


「まぁ、そんなとこだ。もう行列もなくなって手も空いたしな」


「さっき店の中を確認してきたら、もう用意していた『トマト』料理は全部完売したらしいのと、通常の食材の方もだいぶ残り少ないそうなので、今日は早めに店を閉めるって言っていましたね。間違いなく、今までで一番の売り上げなんだそうです」


「そりゃあんだけ客が並んでいたら、売り上げもいいだろうよ。俺も街の飲食店に行列ができるのなんて、昨日初めて見たからな。街の住人達も、相当珍しかったんじゃねぇか?」


「これと同じような光景が他にも2ヶ所で起こっていますからね、話題性は良さそうです。って、やっぱり行列って珍しいんですか?」


「いや、行列自体は結構あるが飲食店ってのが珍しいな。基本的に店が混んでいたら他の所に行くからよ。並んでも欲しいモノってぇと、お前さん達の作るポーションなんかはよく並んでる奴がいるな。他には、朝の冒険者ギルドの窓口とかだな」


「そういえば、毎朝ギルドの販売エリアで大混雑してるを忘れてました・・・・」


「ギルドで買えば他で買うより二割は安く手に入るからな。頻繁に使う冒険者にとってはありがてぇんだよ。できればもっと数を作ってくれると助かるんだが?」


「あはは、分かりました。今度からもう少し作る量を増やすとします。って、なにか飛んできましたね。小石?」


(あね)さんからの合図だな、少し隠れるぞ」



 どうやら待ち人が来てしまったみたいである。現れたのはフードを目深に被った小柄な人物で、ゴミをまとめて置いているエリアでガサゴソと何かを仕掛けているようであった。ただ、あそこは確か廃材なんかを置いている場所なので、腹を空かせて生ゴミを漁っている訳ではないだろう。


 ゴッツには反対側の通路を塞いでもらう為に、既に店を迂回してもらったのだが、様子を窺っていると男の足元で火の手が上がり始めたので、どうやら放火で間違いなさそうだ。



 (さて、それでは犯人を確保してしまいますか!)



「現行犯なので言い逃れはできませんよ、“放火魔”さん。大人しく捕まってくれると助かります」


「おっと、逃がさねぇぜ。しかし、建物が密集しているところで火遊びとは正気か?“普通”だったら大惨事になるところだぜ」


「っく!・・・・はっはは、俺に構っていてもいいのかな?そんなことをしている間にも火の手は拡大・・・・って、あれ?」


「あぁ、火事のことはあなたに心配されなくても大丈夫ですよ。最初から“対策”はちゃんとしていましたので」


「余所見とはいい度胸だなっ!!」


「ぐがぁ!!!」


「ほい、確保完了っと。建物密集エリアでの放火は極刑だから殺しても罪には問われねぇが、お前にはこれから色々喋ってもらわねぇといけないからなぁ」


「ナタクさん!!今の大きな音がいったい!?」



 ゴッツが殴った衝撃で放火魔が店の壁に吹き飛んでいったので、お店の中にも音が聞こえてしまったみたいである。店の中から続々と人が集まってきてしまった。



 ちなみに、どうして彼の放火が上手くいかなかったのか?


 種明かしをすると、実は事前にナタクの実験室で以前使用していた『炎結界の魔導具』を空き部屋に設置しなおして常時稼動させていたからになる。考えられる嫌がらせの中でもっとも最悪のケースとして放火も十分に考えられたので、用心の為に用意していたのだが、やはり設置していて正解であった。


 この魔導具も結構お高いだけあって性能は折り紙付きで、指定したエリア以外で蝋燭(ロウソク)の炎以上の火の手が上がると、自動的に消化するようあらかしめ指定しておいたのだが、見事にその役割を果たしてくれたようだ。


 この辺のエリアは建物がかなり密集しているため、火災が発生した場合大災害になりかねないため、流石にそこまではしてこないとも思っていたのだが、彼らにとってそんな事は関係はなかったようである。


 後は、捕まえた放火魔を領兵に引き渡して、コンゴとの因果関係が掴めれば彼もタダではすむまい。


 短絡的な性格をしているとは思っていたが、まさかここまで愚かであったとは・・・・


 一応冒険者の方達に指示を出し、他に不審者が近くにいないかの確認をしてもらってから他の人には店の中に戻ってもらったのだが、冒険者達が散開してからそれ程時間を空けずに、少し離れたところで女性の悲鳴のような声が聞こえてきた。



 (って、あの声はもしやリリィさん!?)



「誰か、リリィさんを見かけていませんか!?」


「いや、さっきまで私の隣にいたんだけど。まさか、今の声って!?」


「分かりませんが、たぶん表の通りの方です。直ぐに向かいましょう」



 (冒険者を周辺に散らしてしまったのが裏目に出ましたか。お願いですから無事でいてください!)



 祈るような思いで裏路地を抜けて表の大通りまでやってくると、そこには幌馬車にリリィを無理やり連れ込もうとする男と、それを必死に止めようと男の足にしがみ付く若手のコックの姿が見て取れた。


 しかし、それが道の真ん中辺りで起こっていたため、ナタク達が近付くまでにコックの男の子は振り払れ、猛スピードで大通りを門のある南方面に逃げられてしまいました。



 取り敢えず、ボロボロの状態のコックの男の子を治療してから話を聞こうとしたのだが、なにやら呼吸の仕方がおかしく、腕も肘の辺りから変な方向に向いていたので、たぶん肋骨と腕を折られてしまったのであろう。特に胸部の怪我の状態が酷く、直ぐにでも治療しないと命に関わりそうだったので、手持ちのポーションの中でもっとも等級の高い治癒のポーションを飲ませ、なんとか治療には成功したのだが、今度は泣きじゃくってしまって詳しい情報を得るのにかなり苦労をしてしまった。


 どうやら、放火魔を捕まえた時には確かにリリィは皆と一緒にいたらしいが、途中で遠くから此方を窺う男の姿を彼女だけが発見したらしく、単身彼女だけでその男を追いかけて行ってしまったようだ。


 その時、彼も近くで彼女が表通りに一人で向かう姿を目撃したので、急いで引き止めようと追いかけたそうなのだが、通りに出ると既に彼女が男に捕まっていたので、慌てて男にしがみ付いて、後は俺達が見ていた通りの結果になってしまったらしい。



 今回は彼女の勇気のある性格が裏目に出てしまった結果みたいですね。一難去ってまた一難・・・・


 しかも今度は誘拐と、かなり穏やかでない状況になってしまいました。取り敢えず、直ぐに皆を集めてに対策を立てるとしましょう!!

「「くっくく!」」( -∀-)(-∀- )


あわあわ・・・(゜Д゜;≡;゜д゜)


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