第58話
店の外にいた護衛の冒険者達にも一旦集まってもらい、先ほどガロンに教えてもらった情報を共有した後、ゴッツを除く男性陣には予定通り昼までしっかりと仮眠を取ってもらい、女性陣にはより警戒して警備に当たるよう頼んでおいた。
また、一番狙われているであろうウィル一家には、今日から暫くの間、一人で屋外を出歩くことを禁止させてもらい、なるべく冒険者の方達と共に行動をするよう注意を促しておく。
本音を言えば、ウィルには昼の催し物も休んでもらい、夕方の営業に専念してもらった方が護衛側としては助かるのだが、本人たっての希望もあり、そのまま催し物参加を継続することとなった。昨日よりも冒険者の数をだいぶ増やしたので、その辺りは上手く調整して対策するとしよう。
それとナタク自身の配置なのだが、本来であれば皆とここに残って共に行動したいところなのだが、催し物の発起人でもありプロデューサーのような立場を任されている関係で、午前中だけでも色々な場所に一度顔を出す必要があるため、一旦護衛の任務からは外させてもらった。ただ、心配し過ぎても皆に失礼なので、ここは信頼して任せ、自分の役割をきっちりと果たすよう努力する方向へと考えを改めた。
その後、アキナに冒険者達への差し入れを預けた後、予定を消化すべく午前中を使ってトマトの回収・植え替えにパンの受け取り、リックの所での打ち合わせや食材の配達など、他にも数件の用事を片付け、やっとの思いでウィルの店に帰って来れたのは、催し物開始一時間前になってからだった。
「只今戻りました・・・・こちらで変わりはありませんでしたか?」
「やぁ、ナタク君お帰り!」
「先生、お疲れ様でした。どうぞ、冷たいお水です」
「なんか兄ちゃんが一番疲れてそうだな。こっちは特に何もなかったぜ。それと差し入れサンキューな、あれを飲んだら眠気が吹き飛んだぜ!」
「それは良かった・・・・ちょっと午前中に色んな所に顔を出さなくてはいけなかったので、街中を少々走り回ってきましたよ。お蔭様で、今日回る場所は大体巡ってきたので、これで残りの時間は皆さんと一緒にいられそうです」
「それでよ、結局催し物中の護衛配置はどうするだ?流石に店にも人を残すんだろ?」
「昼の催し物中は広場に昨日雇った冒険者達もいるので、男性陣にはここに残って建物警備をお願いするとして、女性陣は昨日同様お客の先導をしながら、リリィさん達の護衛をお願いします。それと・・・って、あれ?レティさんが起きてる!?」
「うふふ、おはようございます。お昼に皆で楽しそうなことをしているみたいだったから、お父さんにお願いして、起こしてもらったの」
「私がいくら頑張っても起きないくせに、何故かお父さんだと直ぐに目を覚ますんですよね、うちの母・・・・」
「あはは・・・・それでは、女性陣はなるべくこの二人から離れないようにお願いします」
「そうなると、ウィルの旦那はどうするよ?」
「ウィルさんの近くにはアーネストさんもいますので、あちらでは彼にお願いするつもりです。それに、あの方は今日はそのままこの店のヘルプに来てくれる予定ですからね」
「なるほどな、そりゃ安心だわ」
「アメリアさんも今日は平服でいいので、屋台周りの警戒をお願いします。もし不審な奴がいたら蹴飛ばしちゃってください」
「良かった!今日はあれを着なくていいんだね、了解さ」
「・・・・ねぇねぇナタク、私は?」
「それでは・・・・っ!アテナさんには、なるべくリリィさんの近くにいて欲しいので、またあの服装でお願いします。流石に平服で一緒にいると不自然ですから・・・・ね」
「・・・・うぅ、了解。アメリア、なんかズルい!」
(アテナさん、ごめんなさい!アキから発せられた『せめてアテナちゃんだけにはあの洋服を着せて!』という無言のプレッシャーに耐え切れませんでした。ですが、ちょっと可哀想だったので、彼女には始まる前に屋台料理をそれぞれ三人前ずつ食べれる権利で手を打ってもらいました。それで少しは機嫌が戻ったかな?)
「そういえば、アメリアさん。ガロンさんの娘さんって、どうなりました?
治療は無事に、成功しましたか?」
「そうそう!帰ってきたらナタク君へ一番に話そうと思っていたのに、店にいなかったから伝えそびれていたよ。成功も成功、大成功ってやつさ!念のため、今は医者の診察を受けに行ってもらってるけど、元気に走り回っていたから完治と言っても問題無いはずさ!」
「ガロンの奴が、あんなに人目を気にしないで大泣きしているのを俺も初めて見たぜ。釣られてこっちまでホロっときちまったぐらいだ」
「それに彼、娘さんの為にかなり無理をしながら大金を用意していたらしくてね。お礼に集めたお金を全部受け取って欲しいって言われたから『それはロスカちゃんの為に使ってくれ、私は貴重なデータと彼女が笑ってくれただけで満足さ』って言って帰ってきたよ。
研究者として、自分の薬であそこまで喜ばれると気分がいいしね。こういう時は錬金術師をやっていて良かったって実感できるよ。いい患者を見つけてくれてありがとね!」
「いやぁ、あの時のねぇちゃんはマジで男前だったぜ!」
その後暫く、アメリアの男前発言を皆で褒めちぎっていたのだが、彼女は頑張って平静を装っていたが、チラッと見える彼女の耳は非常に真っ赤に変わっていたので、実は相当照れていたのではないだろうか?
それでは時間も差し迫ってきていたので、広場の方へと移動する。今日はゴッツ達男性陣が警備の関係でウィルの店に待機となるので、自分も今回からは客引きではなく、お客の先導兼火消し部隊として頑張る予定だ。
ちなみに、昨日と同様このまま白衣姿で手伝おうとしたのだが、女性陣から待ったがかかり、また『ソムリエエプロン』姿で過ごして欲しいと強い要望があったので、急遽この格好で参加させてもらうことになった。
確かに、飲食を扱うならばこっちの方が断然お客の印象も良いであろう。
こうして、着替えを終えた女性陣と共に広場までやって来てみると、屋台の前にはまだ営業前だというにも拘らず、少なくない行列ができあがっており。また、自分達が使っている屋台のすぐ近くにも他の屋台が隣接して立ち並んでいた。確かここは、調理ギルド専用の場所だと聞いていたのだが、特に揉めている様子もなかったので、ジョンが許可を出したのであろう。というか、昨日までなかったテーブルや椅子まで近くの木陰に設置されていたので、宛らちょっとした“野外フードコート”と化していた。
「ジョンさんお疲れ様です、今日もお手伝いをしに来ましたよ」
「おぉ、お前さんか。ちょっと抜けるが、そのまま気合入れて準備しろよ!」
「「「はい!!」」」
「すまねぇ。本当はお前さんに許可とってからやろうと思っていたんだが、是非とも一緒に店をやらせて欲しいって、他の屋台連中に頼まれちまってな。時間もあまりなかったから、勝手に許可をさせてもらったぞ」
「いえいえ、むしろお祭りみたいで面白そうですね。こういった変化は大歓迎ですよ」
「良かった、怒られたらどうしようかと思ってたからな。それと、一応“ギルド所属の料理人”が出してる屋台だけに、近くで店を出すことを許しといたぜ」
「ということは、条件に合わなくて断った人もいるんですね?」
「あぁ、例のアイツだな!よくもまぁ抜け抜けと頼んできたもんだと思ったぜ。案の定、断ったら取り乱し始めたから、被害が出る前に冒険者に取り押さえてもらって、今さっき領兵に引き取ってもらったところだ。あれはかなり笑えたぞ!」
「それは残念、此方も見逃してしまいましたか。聞いた話によると、破門を言い渡した時もかなり面白かったらしいですね?」
「そういや、あれもだいぶ笑える顔だったな!って、何でそのことをお前さんが知ってるんだ?」
「ある情報提供者に、こっそり教えてもらいました。なんでも、昨夜ウィルさんの店にいるメンバー全員へ殺害命令が彼の口から発せられたらしいですよ」
「そりゃ穏やかじゃねぇな・・・・ここに来て大丈夫だったのか?」
「一応対策はさせてもらっていますし、催し物への参加はウィルさんたっての希望でしたからね。確かにこれは中々経験できないことなので、できる限り叶えてあげるつもりです。それに、ジョンさんのおかげで暫くは安全そうですしね」
「それもそうだな。何せあいつは今頃領兵の詰め所で、たっぷりとお灸を据えられてる真っ最中だろうしな。狙ってやった訳ではないが、役に立ててよかったぜ!」
わっはは!と二人で楽しく笑いあった後に、時間もそれ程なかったのでウィルにはさっそく料理人達に合流してもらい、残ったメンバーと新たに雇った冒険者達と軽い打ち合わせを済ませた後に、気合を入れて屋台をオープンさせたのであった。
さぁ、お祭り二日目もしっかり楽しんでいきましょう!!
「「わっはは!!」」(*´∀`)(´∀`*)
何だかんだであの2人って仲いいですよね(´・ω・`)
そうだねぇ~(*゜ー゜)




