第55話
「今日は気持ちいいくらい、よく売れたな。ほれ、サンドイッチだ。うちのは全部売り切れたから、そこで買ってきたヤツだかな」
「ジョンさんも、お疲れ様でした。予想以上の大繁盛でしたね」
「そりゃ、あんだけ目立つ格好で宣伝してりゃ注目もされるだろうよ。他の屋台連中には悪いことをしてしまったがな」
「『数量限定』で期間も短いですし、少しだけ我慢してもらいましょう。それに、“例”のチラシは配ったんですよね?」
「『ギルド主催の新レシピ勉強会』ってヤツだろ、もちろんだ。本番のオークションの時には、彼らに頑張ってもらう予定だからな。しっかり勧誘させてもらったさ」
「しかし、屋台で一つの料理に付き限定200食が、まさかこの速さで売れてしまうとは・・・・」
「ライバルが多い中で、人気の屋台でも昼に100食も売れれば大儲けだからな。こいつは十分異常だよ」
「残りの二日間はもっと数を増やして用意する予定ですけど、料理人以外の人員も増やした方がいいかもしれませんね」
「料理人の方は俺で何とかするが、確かに客の先導は何人か冒険者を雇って対処した方がいいだろうな」
「この感じだと、店舗にも少し人を回した方が良さそうですね。取り敢えず、これを食べ終わったら俺の方で手配してみますよ」
「了解だ。こっちも、もう何人か厨房のヘルプに回せないか当たってみるとするぜ。しっかし、このチラシは中々皮肉が利いていて面白いな!『調理ギルド所属の料理人限定!新レシピ勉強会』って、殆どの料理人はうちに所属しているに決まっているだろうに、態々限定と銘打って募集をかけるとは。コンゴの奴がこれを知ったら、さぞ顔を真っ赤にして怒りそうだ。この『トマト』みたいにな!」
「しかも、暫くは『トマト』をギルドと契約していない店舗には卸さない予定でいますからね。仮に、ギルドへ届けてあるレシピを無断で使用した場合は問答無用で罰せられますので、今度は国の法と戦ってもらいましょう」
「しかしよぉ、奴が他の料理人をオーナーにして店を構えたらどうするんだ?」
「その辺も、大丈夫だと思いますよ。調べればすぐ分かりますし、卸元は此方で押さえられますからね。それに、グスタフさんの件で既に領主様の顔へ泥を塗ってますから、彼の周辺はより厳しく監視されるんじゃないですか?」
「あぁ・・・・若様も不正を働く奴にはだいぶ厳しいお方だから、帰ってきたら大目玉確定だろうな」
「前回は法の小さな穴を使って逃げられましたが、次はそんなことはさせませんよ。さてと、それではちょっと出かけてきますね。ジョンさんは、今日はこの後トーマスさんのところの手伝いに行ってくれるんでしたっけ?」
「その予定だ。それでアーネストがアルのとこだな。俺達二人で、三日間は順番にヘルプに行くことになっている」
「なんかアーネストさんにもだいぶ無理をさせてしまっている気がするのですが、ご自身のお店の方は大丈夫なんでしょうか?」
「俺も気になって聞いてみたが、どうもその辺は大丈夫らしいぞ。仕込みもちゃんと本人がやっているし、そろそろ独り立ちしそうな奴もいるから、この機会に任せてみることにしたらしい。
それに、店の連中も兄弟子のウィルの事件を聞いてから、やたらと協力的らしくてな。自分達の分も代わりに兄弟子を助けてやってほしいと、むしろ頼まれたそうだ」
「なるほど・・・・それでは、アーネストさんには今回のお礼として、また新レシピでも渡して料理研究を楽しんでもらいますかね。丁度コンソメスープも完成しましたし」
「そいつは喜びそうだな、是非そうしてやってくれ!ちなみに、他にもあるなら俺も手伝うぞ?」
「ジョンさんもやってくれるのですか?そうですね・・・・それでは二人には『双璧をなす二種類の煮込み料理』に挑戦してもらいましょうか。ちなみに、赤と白どっちがいいですか?」
「おぉ、そんな面白そうなレシピがあるのか!それじゃ、俺は『トマト』の赤にするぜ!」
「分かりました。それでは明日に会うまでにレシピを書き上げておきますね。二種類とも凝りだすとかなり奥が深い料理なので、それだけ難易度も跳ね上がりますが、それに見合うだけの価値はあると思いますので、是非楽しんでみてください」
「俺まで悪いな、これはいい思い出になりそうだぜ。是非任せてくれ!」
ジョンはそう言い残して、笑いながら片づけ作業をしている他の料理人の所に向かって歩いていった。どうやら彼は、今回の事件の責任を取って、引退でも考えていそうである。
(ふっふふ、俺があんな腕のいい職人を野放しにする訳ないじゃないか!彼にはこれからもこの街で大いに活躍してもらわなくてはいけませんからね。後で上手く協力者を募って、辞められないようにして差し上げますよ!!)
「兄ちゃんよ・・・・。俺も人のことは言えねぇが、今だいぶ悪いこと考えてますって顔してたぞ」
「おっと失礼!こんな感じでどうでしょう?」
「まぁ、いいんじゃねぇか?セットで見ると胡散臭くてしょうがねえがな。それより、この後俺達はどうするよ。他の店の手伝いもするのか?」
「丁度そのことで、冒険者ギルドに依頼を出しに行こうと思っていたところなんですよ。ゴッツさん達は引き続きウィルさん家族の警護とお店の手伝いをしてもらうとして・・・・
今日から三日間、昼と夜にお客さんの先導と揉め事の火消しを頼めそうな冒険者に心当たりってありませんか?」
「特に護衛の仕事を含まねぇってんなら、姐さんの後輩団を招集するか?たぶんあいつらなら、喜んで参加するぞ」
「それでは人選をお任せしますね。せっかくなので、指名依頼でやらせてもらいましょう。その方がやる気も出そうですしね」
「そりゃ奴らにとっては初めての指名依頼になるだろうから喜ぶと思うが、そんなことしなくてもちゃんと雇えるぞ?」
「何事も経験です!それにお金は貯めこむよりも、面白いことに使った方が楽しいですしね」
「俺達の雇い主様は随分と気前がいいみたいだな。それで、何人ぐらい必要なんだ?」
「取り敢えず、ウィルさんの所はゴッツさん達で何とかなりそうなので、他の店舗に四人ずつ派遣したいですかね。仕事内容はさっき言ったように、三日間のお客様の先導と揉め事の火消しです」
「それなら、丁度四人PTで2組条件に合いそうなのがいるから、そいつらに頼むとしよう。両方ともブロンズのPTだな」
「了解です、ではお金を預けるのでギルドに依頼を出してきてください。これで足りますか?」
「はっはは、これだけあったら100人は同時に雇っても釣りがくるな!馬鹿な冗談はいいから、必要な分だけ預かってちょっくら行ってくるぜ。そんじゃ、また店でな!」
ゴッツはそう言って金貨を3枚だけ預かってから東大通りの方へ行ってしまった。そういえば、ゴッツ達に依頼した時もアキナに代わりに行ってもらったので、未だに冒険者を雇う時の相場をナタクは良く理解していなかった。彼からしたら、決して冗談のつもりはなかったのだが・・・・
イベントスタッフの追加で冒険者の方も何とかなりそうなので、自分も次の準備に取り掛かるとしよう。どうやら、片付けの方は料理人達の方で終わらせてくれるようなので、ナタク自身は一度錬金ギルドに戻って追加のトマトを収穫し、親方に先ほどの案を伝えて、他にもお城に行ってクロードに報告をしなくてはならないので、移動距離的にも中々ハードなスケジュールになりそうだ。
そういえばアメリアなのだが、なんでも男性客に声を掛けられた回数が今回女性陣の中で一番多かったらしく、いつもならばっさばっさと男共を切って捨ててしまいそうなところ、照れてしまっていつもの調子が出せず、その姿が更に可愛く見えるらしくて余計に追い払うのが大変だったそうだ。
まぁ、最後はゴッツの出動で事なきを得たらしいが、本当に今日の彼は大活躍である。ちなみに、二位はアキナだったらしい。
配慮が欠けてしまって申し訳なく思い、彼女達の所に謝りに行ったのだが、何故かそこで二人から『頭を撫でてくれたら許す』と口を揃えて言われてしまったので、お安い御用と暫く撫でさせてもらっていると、周辺から複数の刺すような殺気を一身に受けてしまい、背中に変な汗をかきながらもなんとか許してもらうことには成功した。
ただ、暫くはこういった服装は勘弁してほしいと、先にウィルのお店にアキナ達を連れて帰ってしまった。とっても似合っていたと思うのだが、今回は服の趣味が合わなかったようである。
それとアテナについてだが、彼女は自分の分の料理が残されていないことを知って、暫く膝を突いてショックを受けていたので、キャラメルをあげながら『ウィルさんのお店で何か作ってもらってはどうか?』と提案したところ、近くにいたリリィを横抱きに抱えてもの凄い速さでアキナ達を追い駆けて行ってしまった。あの細腕の何処にそんな力が隠されているのか、本当に不思議である。
さて、それでは一通り挨拶も済ませたので、俺も次の行動に移るといたしますか!次は店舗での販売ですからね。先ほどの催し物でどれだけ客足が増えるか、期待しながら待つといたしましょう!
これでどうでしょう!(*´∀`*)
(胡散臭せぇ・・・)(; ̄д ̄)




