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第53話

 

 今日は良く晴れた、絶好の屋台日和である。朝の出勤ラッシュを過ぎた噴水前の広場には、朝一番で親方率いる職人集団があっという間に仕上げてくれた新品同然に様変わりした三台の屋台が既に設置されており。手伝いに来てくれた若手の料理人達が、せっせと昼の仕込み作業をしてくれていた。



 (えっ?なんで、ベテランの料理人達がいないのかって?


 それについては、昨夜あの後に起こった出来事について、遡ってお話しする必要がありますね!)



 屋台についても無事に目処が立ち、他の細々した事もクリアできたので、残った時間を使って皆でトマト料理を肴に、前夜祭よろしく酒盛り大会が始まってしまった辺りからが、もう大変であった。年長者の料理人達も一緒になって飲み始めたので、若手のコック達が彼らに自分の作った料理を食べてもらえる絶好の機会(チャンス)と張り切って料理をしていたのだが、彼らに混じって調理させられていた、ウィルとアルヴェント以外は結構ボロクソに言われていた。


 ちなみにナタクは、飲兵衛(のんべい)達に捕まる前に二階へ上がり、冒険者達の待機スペースを借りて、錬金術を利用した魔導具作製を急ピッチでおこなっていた。簡単な魔導具といっても親方達が帰る前までに三台も仕上げなくてはならないので、飲みたい欲求を(こら)え黙々と作業に没頭していた。



 それと、アキナに明日催し物(イベント)で使う簡単な衣装を用意できないかとお願いしてみると、『せっかくなので、デザインは任せてください!きっと気に入ってもらえる物を作ってみせます!!』と、かなり張り切りながら準備しようとしていたので、アメリアが『それならうちにおいでよ』と言って、アキナをお城に連れて帰ることになった。



 そんなこんなで、酒盛りがお開きになる頃までにはなんとか魔導具を完成させることはできたのだが、一階に降りてみると数名が親方達によって完全に酔い潰されていた。流石は、大酒飲みで有名なドワーフ族達である。彼らに至っては、殆ど顔色を変えずにもの凄く良い笑顔で魔導具を受け取り帰っていった。



 それとリックだが、催し物の詳細を説明したところ食材の提供までしてくれることになり、他にも知り合いへの宣伝まで手伝ってくれると申し出てくれた。この世界では、まだスポンサーという概念はないはずなのだが、今回は先行投資のつもりで手伝いしてくれるらしい。


 それに、あれだけ飲兵衛達がいたにも関わらず、涼しい顔をしてマリーを背負って帰っていったので、よほど上手く立ち回ったのであろう。



 (この辺は社会人として是非見習いたいスキルですね。あっ、技とかじゃないですよ!)



 その後、無事だった若手のコック達と仕事中だからと律儀にお酒を飲まずに警備を担当してくれていたゴッツ達にお願いして、潰れた人達を送ってきてもらったのだが、ゴッツ達が帰ってきた時に『オフの時に絶対飲みに来るから、同じ料理を作ってくれ!』と涙ながらにお願いされた時は、少し笑ってしまった。



 てなわけで、年長組は二日酔いで酷い状態になっているため、若手のコック達にはナタクが指示を出して準備してもらっていたというわけだ。ちなみに、ウィルとアルヴェントは料理に明け暮れていたため、殆ど飲まずに無事でいたため、彼らには他の仕込みを頼んでおいた。



「おっはよう!パンを焼いて持ってきたよ」


「アルさん、おはようございます。お店の方は大丈夫そうですか?」


「平気平気、これを届けたら直ぐに戻る予定だし。それに、『僕達の出番』は夕方だからね」


「よろしくお願いします、“宣伝”はお任せください!」


「うんうん、期待しているよ。期間限定とはいえ、かなりの集客が見込めそうだしね。僕も張り切らせてもらうよ」


「そういえば、トーマスさんって大丈夫ですかね?昨日一番酷く酔い潰れていましたけど・・・・」


「僕もあんなに酔っ払ってるトーマスは初めてみたよ。昨日はよっぽど嬉しかったんじゃないかな?でもまぁ、居酒屋のオーナーが飲み過ぎて働けないとか意地でも言わないだろうから、たぶん平気でしょ!」



「そんじゃねぇ!」と言い残して、大量の焼きたてパンを置いてアルヴェントは自分のお店に帰っていっていった。トーマスの事は気になるが、此方も準備があるので無事である事を祈っておこう。


 ちなみに、アルヴェントから受け取った焼きたてのパンはまだ温かかったので、ナタクのインベントリに箱ごとしまって保管しておいた。アイテムボックス持ちの人に頼んでもいいのだが、それだと冷めてしまうからだ。



「ナタクさんお待たせしました。此方の仕込みも終わりましたので、手伝いに来ましたよ」


「ウィルさんもお疲れ様です。今さっきアルさんも来てパンを置いていってくれましたよ」


「それでは、彼はもう一つの準備に向かったのですかね?」


「ウィルさんも、今日の夕方は負けずに頑張ってください!」


「はい!やっとお店を開くことが出来ますからね。それに改装して殆ど新築の店みたいになりましたから、私も新しい店を立ち上げた気分で働かせてもらいますよ!」


「一応ここでは調理ギルドの彼等にメインで頑張ってもらいますので、張り切りすぎて彼らの活躍の機会を奪ってはだめですよ」


「あはは、了解です。昨夜はついつい頑張ってしまいましたからね。彼らには悪い事をしてしまいました。今日は指導メインでお手伝いさせてもらいます」


「後は、ジョンさんが残りの食材を持ってきてくれれば、材料の準備が整うんですが・・・・って来ましたね。ジョンさん、こっちです!!」


「いつっ・・・、悪い少し遅れたか?」


「いえ、丁度準備をしていたところです。って二日酔いが辛そうですが、大丈夫ですか?」


「流石に昨日は飲み過ぎた。ドワーフ連中がやたらと美味そうに酒を(あお)るもんだから、ついペースを合わせてしまったぜ。まだ少し頭が痛いが、直にそんなこと言ってられなくなるだろうし、騙し騙しやるとするさ」


「二日酔いにも効くはずなので、このポーションを飲んでおいてください」


「すまねぇ、恩に着る・・・・ふぅ。って、本当に頭の痛いのがなくなってきたんだが、こいつはどういった物なんだ?」


「あぁ・・・・大抵驚かれるので聞かない方がいいですよ。よく効く薬だと思っていてください」


「なんか恐ぇな。新薬か何か?」



 (いえいえ、ただの等級3の毒消しのポーションですよ、高品質の・・・・)



「そういやぁ、ソース類はさっき屋台の前にいた奴らに渡してきたが、パンの方はどうなっているんだ?」


「パンなら俺が預かっていますよ。さっきアルさんが届けてくれました」


「ってことは、アイツは自分の店に戻ったんだな?」


「アルさんはパン屋さんですし、朝からお店を開いているので大忙しでしょうからね。本当は普段昼から営業しているウィルさんにもお店を開かせてあげたかったんですけど、今は警備の関係上、夕方からの営業だけになってしまい申し訳ありません」


「いえいえ、むしろ私こそ色々頼ってしまって申し訳ないくらいです。それに、久しぶりに存分に料理を振舞うことが出来ると考えただけでも、夜も眠れないくらい楽しみだったので。今日から存分に働かせてもらいますよ」


「このイベントは期間限定の予定なので、直ぐに昼営業も再開できるようにしますね」


「そういや、アーネストはどうした?アイツも今日は手伝いに来んだろ?」


「師匠ならさっき私と一緒に此方に来たので、たぶんどこかで打ち合わせでもしてるんじゃないですかね?あっ、いました。揚げ物の屋台のところですね」


「アイツもザルだからな。羨ましい限りだぜ・・・・」


「さて、後はトーマスさんとアキ達が来れば営業が開始できそうなのですが、トーマスさんは大丈夫ですかね?」


「あぁ、やつなら俺がさっき会ったぜ。ほら、あそこの木の陰で項垂(うなだ)れてるのがそうだな。どうやら俺より酷い二日酔いみたいだ」


「いつの間に・・・・。ウィルさんすいません、このポーションを彼にも飲ませてきてもらっていいですか?」


「分かりました、それではちょっと行ってきますね」


「まぁ、気持ちは分らんでもないが。さてと、それじゃ俺はアーネストと一緒に若造達へ活を入れてくるとするかな!」



 (さて、後はアキ達が来れば全員揃いますね。というか、実はそちらも先ほどPTチャットで連絡があって、衣装を持ってウィルさんの店に着いてるらしいので、直に着替えてこちらに来るとは思うんですけどね。どんな衣装ができたのか実に楽しみです!


 それと、どうやらトーマスさんもポーションを飲んで復活できたようですね。昨日の彼は、酔っ払いながら「新しい魔導具を早く試してみたい!」と大声で言っておられたので、今日は存分にハンバーグを焼いてもらうといたしましょう!)



「せんせ~い!お待たせしました!!」



 (おっ、丁度アキ達も来たみたい・・・・って、アキはどんだけ頑張ったんですか!?)



 驚いたナタクが目にしたのは、リリィとレティが昨夜着ていた給仕服と同じタイプの服に身を包んだ、女性陣の姿であった。てっきり、簡単なエプロンを作ってみんなで着てくるのかと思っていたが、アキナの本気をナタクは完全に見誤っていたようだ。



「凄い頑張ってくれたんですね、お疲れ様でした」


「時間がありませんでしたので、これでもだいぶ簡略化してはいるんですけどね。せっかくなので私も含め、女性全員分を作ってみました。冒険者の方達も喜んで着てくれたんですが、アメリアさんとアテナさんに着せるのに苦労しまして。二人とも、もの凄く恥ずかしがるんですもん」


「いや!流石に、こんな可愛い服は私には似合わないだろう!」


「いえ、何処もおかしくはないですよ。むしろ似合いすぎていて暫く見つめていたくなるほどです。それに領主様が見たら、あまりの可愛さに気絶しそうですね」


「みみみ・・・見つめ・・・かっきゃわいひ(可愛い)!?」


「アキもとても素敵ですよ。でも、そんなに可愛いと誘拐されないか心配なので、あまり遠くに行ってはいけませんよ?もし変な男に声を掛けられたら直ぐに知らせてください、懲らしめにいきますから」


「ふふっ、ありがとうございます!それじゃ、なるべく先生の近くにいますね♪」


「それとアテナさんも・・・・って、どうしてそんなにテンション低いんですか?」


「・・・・逃げ切ったと思っていたのに、まさかこのタイミングでこの服を着せられるとは。うぅ」


「なに、訳わからないこと言ってるのよ。みんな同じ服なんだし恥ずかしくないでしょ!ナタクさん、お待たせしました」


「リリィさんも、おはようございます。今日は皆さんの指導をお願いしますね」


「任せてください!女性陣みんなで催し物を盛り上げて見せますよ!」



 さて、俺自身も少々驚かされてしまいましたが、これで全員無事に揃いましたね。それに、女性陣が到着したあたりから既に屋台の周りには『いったい、これから何が起こるのか?』と人が集まり始めているので、このままの勢いで催し物(イベント)を開演いたしましょう!!

僕、パン職人なんだけどなぁ。よっと!(`・ω・´)ノ


まぁまぁ、良し完成です!( ・`ー・´)旦


「「「す・・すげぇ・・・」」」(; ・`д・´)

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