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第12話  転生2日目1-8

 

 さて、それではギルド本館で先ほどの料金を受け取って今日は、宿屋に帰ることにする。


「ナタク君はてっきり夜通し錬成に明け暮れるのかと思っていたのに、もう帰ってしまうのかい?」


「それも考えてはいたのですが、このペースで錬成をしていると途中で必要な材料が何種類か足りなくなってしまいそうだったので。今日のところは早めに休んで、明日の早朝こちらに来る前に冒険者ギルドに寄ってから、残りの材料を買い足してこようかと考えています。


 それに、等級5辺りを錬成するのに、動物系素材が欲しいんですよね」


「成程ね、それでは私は実験室に帰るとするかな。まだ、引越しが若干残っているからね。リズを叩き起こして、頑張ってもらわないと!」



 (はははぁ・・・リズベットさん頑張ってください。俺も陰ながら応援してます)



 料金は金貨1枚をくずしてもらってから、革袋に詰めてインベントリへ収納する。


 そろそろ夕暮れ時という事もあり、仕事帰りの人々や街の外で活動していた冒険者達の帰宅ラッシュと重なり、大通りはそれなりに賑わっていた。朝の風景と異なり屋台は閉まっていたが、逆に道の両サイドの酒場が開いており、大いに活気づいていた。




 あちらこちらから漂う良い香りを楽しみながら、今日は宿でワインでも飲んでみようかなと考えて歩いていると、丁度通りがかった横の飲み屋で一際大きな音がした後、すぐに中からフードを被った女性が飛び出てきた。


 何事かと、道の真ん中でその出来事に目を向けると、フードの女性は少し慌てながら辺りを見回した後、一瞬自分と目が合うと、なぜかそのまま一目散にこちらに駆け寄り、後ろに隠れてこう喋りかけてきた。



「お願いします、暴漢に追われています。助けてください!」



 (どうしよう、100%厄介ごとだ。あっ、店からずぶ濡れのハゲ頭で、いかにも『俺、チョイ悪冒険者やってます!』風の男と、その取り巻きっぽい仲間がこちらにやって来た)


「このクソアマ!よくもジョッキで俺の頭を殴りやがったな!ぜってぇ許さねぇからな!!!」



 成程、あのずぶ濡れなのはエールでもぶっ掛けられてなったらしい。というか、怒りすぎて顔まで真っ赤になっていて、まるで茹でたタコのようだ。取り敢えず、状況確認のために後ろの女性に話を聞いてみる。



「一応聞いておきますが。頭を殴られたって言ってますけど、どういった経緯で今の状況になったんですか?」


「店に入った途端に、あのハゲがお尻触ってきたんです。なのでテーブルに置いてあったジョッキで頭をぶん殴ってやりました!」



 (はい、飛び切りスマイルでとんでもないことが聞けました。ハゲタコさんの自業自得なのは分かったけど、何で俺の後ろに隠れるかな?もうちょっと行った所に領兵さんの駐在所があるのに)



「取り敢えず、ハゲタ・・・オジさん。ちょっとは落ち着いて話し合いをしませんか?」


「ソイツはてめぇの女か!よくも調子にのってやらかしやがったな!まずはお前からボコボコにして、後ろのクソアマもズタボロにひん剥いてひーひー言わせてやる!!それとな、俺はオジさんじゃねぇし、ハゲではなくて剃ってるんだぁぁ!!!」



 (いやぁ、どうしよ。完全に話し聞かない系の人だ。しかも自分が逃げたら、どうやら後ろの女性がR-18の世界にご招待されそうだから逃げるわけにもいかなくなったし。その間にも、相手の男はナタクを殴らんと距離を詰めてきている。ナタク自身は正直、今はあまり戦闘面では目立つつもりはなかったのだが・・・・)



 (仕方ない、腹をくくりますか)



 ナタクの顔面を狙う大振りで繰り出される右手の拳を、自身の左手の甲で綺麗に受け流し、滑る様な体捌きで相手の懐に潜り込む。その勢いを殺さずに相手の鳩尾に右の肘で強打し、衝撃でひるんだ相手の腕をつかみ取って、身体を回転させてそのまま相手を力いっぱい地面へと叩きつけた。これはゲーム時代“格闘家”の対人専用のカウンタースキルである『落葉(ラクヨウ)』という技になる。


 効果は敵対者の攻撃力に自分の攻撃力を上乗せして地面に叩き付ける技なのだが、スタン効果と相手の攻撃力が高いほど大ダメージが入るという、下級職のスキルながら、中々に使い勝手が良い。


 もちろん、ナタクは現在“格闘家”ではないのでその技は習得していない。ではなぜ技が発動したかというと今セットされている職業の“見習い”に秘密があった。


 叩きつけられた男を観察してみると、白目を剥いてピクピク痙攣しているので、どうやら下が石畳だったせいでクリティカルが運よく(悪く?)入ってしまって、スタン効果の上位の“昏倒”状態になってしまったようだ。「まぁ、頑丈そうだし、死にはしないだろ」と男の前で考えていると、そういえば取り巻きもいたっけなと思いだし、そちらを見ると青い顔をして棒立ちになっていた。



 一応「まだ、やる?」と聞いてみると、首を激しく横に振っていたので、男を回収して帰ってもらうことにした。「これに懲りたらセクハラはしちゃだめですよ」と気絶してるので聞こえてはいないと思うが、一応声がけをしてから先ほどの女性のところまでゆっくり歩いて戻った。


 周りの野次馬から拍手喝采を浴びているため、まさかここで『なぜ俺の後ろに隠れたのですか?』と問い詰める訳にもいかず、しょうがないので当たり障りなく話をしてからこの場をとんずらする事に決めた。



「お怪我はありませんか?」


「ありがとうございました。やっぱり思った通り、上位プレイヤーの“転生者”の方はお強いですね!」



 (はい!この女性ともっと話さなければいけない事案が発生しちゃったぞ!やったね!!)



「・・・・と、取り敢えず二人で話せる場所へ行きませんか?ここは人の目があり過ぎますので」



 (そこの野次馬の人達!これナンパじゃないから、黄色い歓声は勘弁してください。ナタクさんは平静を装うのに必死なだけですから!!)



「はい!それでは近くに良いお店がありますので、そちらに行きましょう」



 これ以上周りの目に耐え切れなくなったので、足早に女性が知っているという店に入ることにした。


 大通りから小道に少し入ったところにあったその喫茶店は、大通りの喧騒が嘘のように静かで優しい時間が流れていそうな空間であった。


 取り敢えず、入り口で飲み物を注文してから席に座り、お茶が届いてから話し始めることにしたのだが、フードをはずした女性は、最初に感じていた雰囲気よりもだいぶ若く、今の自分と同じくらいの歳の少女であった。



「私の名前はアキナと言います。あなたと同じ転生者になりますね」



 そう彼女が切り出したことによって、口に含んだお茶を噴出しそうになった。先制ジャブではなく、いきなり渾身のストレートをぶち込まれた気分だ。



「一つ確認しておかなくてはならない事があるのですが。なぜ、俺が転生者だと判ったのですか?」


「あぁ、それはですね。今朝方、通りを散策中に偶然黒髪の男性を見かけて思わず鑑定をかけたら、称号欄に転生者って表示されてたからですよ!


 私以外にもこの街に転生者が流れ着いてたのかと思ったら、嬉しくなっちゃったので話しかけようと思ったんですが、あなたがすごいビックリされて辺りを警戒しだしたので、思わず声をかけそびれちゃいました。


 その後、少し目を放した隙にその場所から居なくなっていたので、この辺一帯を探し回っていたのですよ。ちなみに、その時ここの喫茶店を見つけたんですけど、いい雰囲気で気に入っちゃいました。


 それで、あの店にも探しに入ったのですが、セクハラハゲ親父にお尻触られて、全然見つからないイライラと、お尻触られた不快感で思わず全力でぶん殴ってしまって。


 殴った後に『こりゃまずい』と思って外に逃げたら、目の前に探していたあなたが立っていたので、思わず後ろに隠れてしまいました。冷静に考えればかなり迷惑な行為でしたよね、巻き込んでしまい申し訳ありませんでした」



 成程、朝の気配はこの人だったのか。しかし、称号を外すの忘れていたとは随分間抜けな理由で正体がばれていたとは・・・・


 危機管理意識がまだ甘かったようだ、気を付けよう。そういえばこの世界の住人で黒髪が多いのはここから結構離れた地域だったか、そっちもすっかり忘れてた。



「いえ、お互い無事だったの問題ありませんよ。しかし、鑑定で俺を見たのであればフィジカルを上げていないほぼ初期ステイタス状態であること、職業が“見習い”なので、まだまだ弱いことが判っていましたよね?なのに、なぜ俺が強いと先ほど仰られたのですか?」



「え?だって“わざと”フィジカルを上げないで見習いのレベルをあげているんじゃないんですか?この情報を知っているって事はこの世界がゲームだった頃の上位プレイヤーだったって事ですよね?」



 このアキナという女性も間違いなく事情を知っている上位プレイヤーの一人で間違いなさそうだ。確かに、俺は“わざと”フィジカルを上げていない。それに、それには彼女が述べたように職業の“見習い”が大きく関係してくる。



 この“見習い”という職業、実はもの凄いメリットとデメリットが存在する。



 まずはデメリットから話していこう。


 この職業はゲーム時代一番最初職業欄にセットされているアバター固有の職業になるのだが、殆どのプレイヤーはすぐに他の職業に変えてしまっていた。デメリットが中々に大きいためだ。



 ①“職業”のレベルカンストが10までしかないこと


 他の下級職業がLv20まで上げられるのに対して、“見習い”のカンストはLv10までとなっている。これはメリットの話を聞いてくれれば、なぜデメリットなのか解るので待って欲しい。



 ②職業のレベルを上げるのに通常の職業に比べて約3倍の職業経験値が必要なこと。


 本来であれば、これはデメリットの中でも比較的軽いもので、“見習い”は他の職業よりも経験値を稼ぐのが楽で、それほど苦にならないはずだった。


 それはなぜかというと、“サブ職業”の作業をしていても経験値を得ることができるからだ。他の作業をしながら一緒にレベルを上げることができるので、経験値を多く必要でも特に問題にならない。


 しかしこの情報はつい最近発見されたので、知らないプレイヤーからすれば、ただただ無駄にレベル上げに時間がかかると思われていた。



 ③“見習い”でフィジカルを上げた時の成長率極端に低いこと


 これが、この職業最大のデメリットとなり、誰もが“見習い”を避けていた理由になる。



 前に紹介した“剣士”という職業を覚えているだろうか?


 HP:D MP:G 筋力:C 体力:D 器用さ:E 俊敏力:E 魔力:G 魔耐性:F 精神:F


 これは剣士の状態で、フィジカルを上げた場合のステイタスの成長率だ。



 それでは“見習い”でフィジカルを上げた場合はどうなるかというと、



 HP:G MP:G 筋力:G 体力:G 器用さ:G 俊敏力:G 魔力:G 魔耐性:G 精神:G



 全てが最低値でしかステイタスが上昇しないのである。ゲーム時代このことを知らないで最初に“見習い”でステイタスを上げてしまったプレイヤーからかなりの苦情が寄せられたが、今までに運営側からの変更は特になされなかった。



 そのため、ゲーム時代は“運営の罠”や“職業・初見殺し”とプレイヤーから呼ばれていた。



 なので殆どのプレイヤーからカンストまでレベルを上げてもらえる事もなく、すぐに他の職業に変更されてしまっていた。しかも、この“見習い”一度職業欄から外してしまうと二度と選択はできなかった。


 だが、実は一部のプレイヤーだけが知っている攻略サイトにも載せられることがないメリットも、ちゃんと存在していた。



 実はこの“見習い”、他のどの職種よりも、職業レベルアップ時のボーナスステイタスの伸びが良い。



 例を挙げよう。


 剣士の場合は“職業”のレベルが上がった場合


 HP+5 筋力+1 体力+1


 この3ヶ所でステイタスが加算される。


 これは他の下級“職業”全てに共通で言える事で、“どこかしらのステータス”に三ヶ所ボーナスステータスが加算される。  




 ただし、例外である“見習い”はどうかというと。


 HP:+5 MP:+5 筋力:+1 体力:+1 器用さ:+1 俊敏力:+1 


 魔力:+1 魔耐性:+1 精神:+1


 なんと、計9ヶ所のステイタスが加算される。


 このように他の“職業”ではありえないほど、ダントツでボーナス値が高いのだ。



 なので、デメリットの①にあった職業レベルがLv10でカンストなのがデメリットとなる。



 更に、もう一つ大きなメリットが存在する。それは先ほどの戦闘でナタクがみせた“格闘家”の『落葉(ラクヨウ)』というスキルを使った時のように、まだ覚えていない職業の技でも正確にその技のモーションを取ることで他の職業のスキルを借りることができるという点である。ただし、これは“下級職業”の技に限られる。


 しかし、“見習い”のまま何度スキルを使ってもスキルを習得するところまではできない。しかし、“スキルの発現”の状態でステータス欄に残すことは可能なので、後でそのスキルに適応する職業をセットし直してスキルを使い続けることでスキルを正式に覚えることもできる。



 ではここで、なぜ“見習い”のメリットが発見されないのかについても話しておこう。


 これはゲームが発売された初期の頃なのだが。サービス開始直後に、攻略サイトや掲示板に注意喚起がなされたため、“見習い”を使い続けるプレイヤーがまったくいなくなってしまった。


 それでも検証のためにと続けていたプレイヤーもいたのだが、ステイタス上昇の複雑さ・必要経験値の多さ・フィジカルのステイタス上昇との勘違いなどが重なり、同じ時間を使うならば他の職業を上げたほうが良いと結論付けられてしまったことが上げられる。さらに、この時には“サブ職業”と一緒に経験値が得られることは発見されていなかった。



 それでも、中にはかなり核心に迫ったプレイヤーも存在したのだが、殆どのプレイヤーから嘘つき扱いされてゲーム内・掲示板共に叩かれてしまいゲームを去ってしまっていたのだ。


 この様に、様々な事情が重なり、いろんな意味で不遇の“職業”として君臨し続けるはめになったのが、この“見習い”という“職業”なのである。



 ちなみに、このメリットを発見したのは、偶然里帰りした際に、サブアカを作ってのんびりしようとした一人の上位プレイヤーによって発見されたのだが。いまさら公表したところで上位プレイヤー達に恩恵もなく、公表したことにより、もしまた上位プレイヤーの総入れ替えが起こるかもしれないと警戒して、ごく一部のプレイヤーにしか情報が回らなかったのである。



 さて、このように情報を知っているということはその限られたプレイヤーということになる。では、いったいこのアキナと名乗ったこの少女は何者なのだろうか。

ぐえぇ・・・_(:З」 ∠)_


まだやる(´・ω・`)?


ぶんぶん((°д°; 三 ;°д°))

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