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第51話

 

 せっかくなので、『インベントリ』と『アイテムボックス』の違いについて述べておこう。まず、ナタクやアキナが使っている『インベントリ』についてだが、こちらは元々プレイヤー達がゲームの頃から使用していた便利な収納機能の一つで、『アイテムボックス』との大きな違いは、時間経過によるアイテムの経年劣化が起きないことや“フィジカル”の上昇によって持てる枠が増えるといった点になる。


 一方『アイテムボックス』はそのスキルを持っている人、(ある)いはスキルが付与されているマジックアイテムに付いている魔石などの『魔力』に応じて持てる枠に違いが現れ、以前アテナが他のスキルホルダーよりも“容量が多い”と言われていたのは、このことが関係している。


 ちなみに、此方のスキルは条件さえクリアすればプレイヤーでも習得可能であったため、もっと大量にアイテムを持ち運びたいと考えている商人や職人を選択して遊んでいたプレイヤー達を中心に、両方を上手く使い分けている者まで存在していた。



 それと、これは推測になるのだが、類似のスキルを作ってまでプレイヤーにこの能力を与えたのには、ゲームの頃に選択していた“職業”によって、プレイヤー間でアイテムの持てる量に違いが出ないようにするために、女神様が態々新しく用意したのではないだろうか。


 確かにゲームとして考えてみると、『魔力』を必要としない戦士職を選んで遊んでいる者と、魔法使いの職業を選んでいる者とで持てる量に大きな違いを設けてしまうと、少なからず戦士職から苦情がきてしまうであろう。特に職人系の職業を遊ぶ者にとっては、持てる最大容量が多いに越したことはないので、より多くの人に多種多様な職業を選んでもらうために、その辺の調整をあの方が骨を折ってくれていたのかもしない。



 それと1枠の容量についてなのだが、こちらはどちらのスキルも共通で、例えば薬草のような片手で持てるほどの大きさの物は『99個』スタックして持ち歩くことができるが、先ほど話に出ていた大きな箱のようなモノになると、その大きさに応じてスタックできる最大量が変化してくる。例を挙げると、大きなみかん箱サイズの大きさで大体1枠『12個』くらいとなる。


 ただし、素材など中には一枠丸々1つを使用して大きな物を運べたりもできるので、一概にこれだけの容量があると言うのは難しいのだが、上手く使えば思った以上に荷物を運搬できるのが、このスキルの強みである。



 実は、木工ギルドで以前教えた裏技に『家のパーツ』をギルド本部で作製して、それをアイテムボックス持ちの人に運んでもらうという方法を親方達に教えたところ、腕の良い職人を態々現地にバラバラに派遣しなくて済んだと大いに喜んでもらえたという出来事があった。


 この方法はプレイヤー達の間では『ブロック建築法』と名づけられて、広く使われていた方法なのだが、どうやら此方の世界ではまだ発見すらされていなかった新情報であったようだ。



 一通りリックとアメリアに『アイテムボックス』についての説明を済ませ、持っていた空き箱を渡して実際に体験してもらうと、特にリックにとても喜ばれた。確かに、商人にとってこの方法は、単純に荷物を運べる量が増えるのと同時に、荷物の量を少なく見せることや襲われるリスクが減らすことにも繋がるので、喜ばれるのも当然であろう。


 このような情報は、今度学校を開いた時にでも、一緒に教えるのも悪くないかもしれない。



「いやぁ、素晴らしい知識を教えてくれてありがとう。これだけでも、金貨を払っても惜しくない情報だったよ」


「ナタク君、この方法はリズにも教えていいだろうか?」


「喜んでいただけて何よりです。構いませんので、是非教えてあげてください」


「しかし、『アイテムボックス』ってこんな性能もあったんだね。同じアイテムをスタックできるということは知っていたけど、まさか中身が違う箱まで纏めて収納できるとは・・・・」


「まぁ箱の規格を揃える他にも、“そのまま”では中身を直接取り出すことはできませんので、一度アイテムを外に出現させる手間はありますけどね」


「ナタク君、この便利さに比べたら、そんな些細な問題は気にならないさ」


「それでは、そろそろ良い時間になってきたので、トマト料理を食べに出かけましょうか」


「もうそんな時間か。ちょっと待っていてくれるかな?出かける前に従業員に指示だけ出してくるからさ」


「了解です。それでは、マリーさんも一緒に連れてきてもらってもいいですか?たぶん彼女が喜びそうな物も向こうで見れますので」


「マリーもだね、了解だ。それでは少しだけ失礼するよ」


「俺達は店の外でお待ちしてますね」



 それでは、自分達も移動を開始しよう。たぶんアキナはまだマリーに捕まっているだろうから、リックが一緒に連れて来てくれるであろう。



「そういえば、アキナ君は何処にいったんだい?」


「アキなら先ほどマリーさんから他に作製した洋服は持っていないかと聞かれていたので、さっきの部屋に残って色々話をしているんだと思いますよ。どうやらマリーさんは今回の取引を抜きにしても、アキの作った洋服に強く興味があるみたいですしね」


「そうだったのか。しかし、君達の故郷って本当に便利な知識がいっぱいあったんだね」


「中には秘匿されている情報もありますが、公開されてるモノもかなり多かったですからね。さっきのアイテムボックスについての知識なんかは、向こうでは結構有名でしたから」



 そんなこんなでアメリアと店の前で雑談していると、暫くしてからリックがアキナ達を連れて戻ってきた。後ろの二人もかなりご機嫌な様子なので、どうやらお互いに実りのある話ができたのであろう。それと、お店の方も従業員が残りの締め作業をしてくれるらしく、今日は二人とも心置きなく料理を楽しむことができると、リックが嬉しそうに語っていた。



「その『トマト』料理を出してくれるお店というのはここから近いのかい?よかったら、馬車も手配できるけど?」


「ここからなら、それほど時間を掛けずに到着できますよ。中央通りを噴水広場の方向に歩いて直ぐのところにありますので」


「この辺りは、私と取引しているところも多いからね。もしかしたら知り合いのお店かな?」


「『ラ・デューチェ』っていう麺料理のお店なんですがご存知ですか?」


「おぉ、知ってるよ。確か一年くらい前にできた新しいお店だね。当初はうちの女性従業員にもとても人気で、よく食べに出かけていたよ」


「私も、以前はよく行っていましたね。ですが、最近は入ろうとすると変な人にからまれることが多くて、女性だけでは行きづらくなってしまったんですよ」


「やっぱり、妨害されていたんですね。申し訳ありません、もうそういったことは起こさせないようにしますので、是非またいらして下さい。一応、俺があそこのオーナーになりましたので」


「えっ、ナタクさんって料理店のオーナーにもなっているんですか!?」


「頭に“仮の”が付きますけどね。訳あって暫くの間、俺に任せてもらえることになったんですよ。それに、そこの料理人は元々腕利きの方でしたからね。妨害さえなければ凄い繁盛店になっていてもおかしくなかったので、もうライバル店の好きなようにはさせるつもりもありません。ほら、見えてきました。あそこが・・・・って、あれ?なんか、新築みたいになっていませんか?」


「うわっ、本当だ。昼前に店を出た時は普通だったのに」


「先生・・・・何かなさいましたか?」


「いやいや、俺はずっと皆と一緒にいたじゃないですか!“今回は”俺じゃないですよ」


「確かに、これは新築並に綺麗だね。しかも、だいぶ丁寧な仕事振りが見て取れるから、相当熟練の職人さんが手がけたんじゃないかい?ほら、この辺なんて繋ぎ目が分からないくらい正確に仕上げてあるよ」


「確かに、ゾラムさんと親方に修理は頼みましたが。まさか、ここまで本気で修理してくれるとは・・・・」


「これは、修理と言うより改装ってレベルだと思うけど?」


「ウィルさん、大丈夫でしょうか?立ったまま気絶とかしていないか心配です」


「と・・・・取り敢えず、店の中に入ってみましょう。もしかしたら、親方達がまだいるかもしれませんし」



 確かに、他にガタがきている所も一緒に見てやるとは言っていたが、まさかここまで完璧な仕事をするとは予想外であった。これだけの仕事量をたった数時間で終わらせることなんて、上位プレイヤーでも出来る人を探す方が難しいだろう。


 以前よりかなり豪華で存在感のある扉を開けて建物の中に入ると、そこには店内の隅々まで綺麗に改装が施されて、まるで他の新店舗に間違えて足を踏み入れてしまったのではないかと思うくらいに様変わりした風景が目の前に飛び込んできた。


 そんな店の一角で親方とゾラム、そして木工ギルドで何度か一緒に仕事をしたことのあるドワーフの職人達が、リリィによって運ばれてくる大量の料理とお酒を美味しそうに平らげてる真っ最中であった。流石に、この仕事量は二人ではなかったようだ。



「みなさん、只今帰りました。凄く様変わりしましたね、一瞬入った店を間違えたかと思いましたよ」


「おぉ、ナタクか!注文通り夜までにキッチリ直してやったぞ!どうだ、すげぇだろ!!」


「本当は俺達兄弟だけでやるつもりだったんだがな。材料を取りに戻った時にこいつらに見つかってしまってよぉ。そんな楽しそうな現場なら俺達も混ぜろって、暇な職人共が勝手に付いて来てきちまったんだわ!」


「親方とゾラムさんが同じ現場とか、そんな面白い仕事があるなんて聞いたからには見逃す訳にはいかねぇだろ!しかも、こんな美味い飯と酒までご馳走になれるとは、やっぱり付いてきて正解だったぜ!」


「ロッジさんも来てくれていたんですね。でも今日ってギルドはお休みだったんじゃないですか?」


「おぉよ!だからギルドの作業小屋で、こいつらと酒盛りの準備をしてたんだよ」


「まさか休日の作業小屋でそんな企みをする馬鹿がいるとは思っても見なかったからな、完全に油断したぞ!」


「おかげで、いい勉強をさせてもらったぜ。やっぱ、お前絡みの仕事は面白いな!またこういうのがあったら、今度は隠さず俺達にも教えろよ!!」


「「「そうだそうだ!俺達も混ぜやがれ!」」」


「それでは、今度から遠慮なく声を掛けさせてもらいますね。でも、忙しくなっても知りませんよ?」


「がっはっは!ドワーフの職人は仕事してナンボだっ、任せておけ!!」



 (しかし、木工ギルドで知り合ったドワーフの職人さんばかりが集まりましたね。このままだとお酒が足りなくなりそうなので、誰かに買い足しに行ってもらうとしますか)



「な・・・ナタクさんお帰りなさい」


「ウィルさん只今戻りました。って、なんか痩せて見えますけど大丈夫ですか?」


「ナタクさんの帰りなさい!お父さんは職人さんの仕事振りに顔を青くしているだけなので気にしないでいいですよ。料理自体は完璧にこなしてるみたいなので。


 それにしても、ドワーフの職人さんってほんと凄いですね。あっという間にお店が綺麗になっていくのは、見ていてとっても面白かったです!」


「あ・・あはははは・・・・(素人の私でも知っているような木工ギルドのトップクラスの職人さんが全員揃っちゃっているんですが!本当に、ナタクさんって何者なんですか!?)」


「ここにいる人達はギルドで仲良くなった職人さん達ですね。あっ、何方か手の空いてる方がいましたら、お酒を追加で買ってきてもらってもいいですか?この分だと直ぐに飲みきってしまいそうなので、樽でいくつかお願いします」


「・・・・じゃあ、アイテムボックスあるから私が行くね。ゴッツ、品目選びは任せた」


「了解でさぁ。それじゃ兄ちゃん、俺は付き添いで出かけてくるな。ちなみにお前さん達がいない時間は、特になんもなかったぜ」


「ありがとうございます、ではよろしく頼みますね」



 さて、帰ってきてから少々面食らってしまいましたが、それではリックさんへの料理説明という名の接待を開始させていただくとしますか。親方達も楽しそうに飲み食いされてますので、せっかくですので、この後予定している明日のイベントの試食会にも彼らに参加してもらうとしますかね!

(ついに、オールスター勢揃い!?)( ̄□ ̄;)!!


わぁ、お店がピカピカだぁ♪( ´▽`*)


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