第50話
後はこの儲け話を裁縫ギルドへ持ってゆき、リックを交えて細かい打ち合わせをする必要もあるのだが、向こうにもかなり“利”のある話になるので、よほどのことがない限り商談の席には着いてくれるであろう。
仮に、商談に失敗したとしても他の手段も用意しているので心配はないのだが、そちらは利益が大きくなる分、仕事がかなり忙しくなり過ぎるのと、他の職人達との軋轢で敵も作りやすいため、できるだけ妥協点も用意して裁縫ギルドを巻き込めるよう、上手く立ち回らせてもらうつもりではいる。
そういえば、一緒に取引する予定の“ワンピース”についてだが、マリーとの話し合いの結果、今回は下着と同じ方法を使って取引させてもらうことになった。此方も貴族用と一般向けのモノで材質やデザインを多少変更して、レシピを広めていくらしい。
というのも、今回アキナが作製したタイプの製品は、どれも刺繍や飾り付けが豪華になり過ぎしまっているため、間違いなく貴族でないと買い手が付かないらしい。一般向けで売り出すには、もっとシンプルに作らないと採算が取れないそうだ。
「って、やっぱりアメリアさんって領主様の娘さんだったんですね。道理でお会いしたことがあると思いましたよ・・・・
以前お城でお見かけした時と、服装や髪色が違われたので直ぐには気付けませんでした。ご無礼を、お許しください」
「別に隠してはいないんだけど、街中では錬金術師のアメリアとして生活しているからね。それに服装も、最近、アキナ君が作ってくれたモノに替えたばかりだし、髪色もシャンプーとリンスを使い始めてから、自分でも驚くほど見違えたんだよ。確かナタク君の話だと、ここも取引先の候補に挙がっていたよね?」
「はい、ナタク君からお誘いを受けておりますので、今度、領主様がお帰りになられましたら、説明会に参加させていただく予定をしております。アメリアお嬢様」
「リック、止めてくれ。街中では彼らの先輩として活動しているから、あまり堅苦しいのはごめんなんだよ」
「分かりました。では、普通に喋らせていただきますね」
「あぁ、そうしてくれた方が助かる。それに、私は貴族として偉ぶる気もサラサラないからね」
「アメリアさんって、こんなに気さくな方だったんですね。公爵令嬢であられるので、もっと近寄りがたい方なのかと思っていました」
「私は元からこんな性格だよ。それに、錬金術師として毎日研究に明け暮れているから、殆ど研究室で過ごしているしね。貴族の女性っぽくないのは認めるけど、生き方を変えるつもりもないよ」
「俺は今のアメリアさんの方がイキイキしてて素敵だと思うので、そのままでもいいのではないかと思いますけどね。それに、あの領主様がアメリアさんの嫌がる事を無理やり押し付けるとは思えませんし。たぶんこれに関しては、外から文句を言われても力でねじ伏せるんじゃないですかね?」
「確かに、簡単に想像できてしまいました・・・・」
「素敵・・・そうか、素敵か♪」
「・・・・なんとなく事情を察してしまいました、パパ」
「マリー、言ってはいけないよ。これは当人達の問題だからね」
「それにしても、アメリアさんはそういった服装もよく似合いますね。とても清楚で素敵ですよ」
「あ・・・・ありがとう。えへへっ!」
「アメリアさんは手足も長いので、こういった服装もよく映えますよね。それに胸回りもアメリアさん専用に図って立体裁断で仕立てたモノなので、着膨れ感もしませんし。元々ウエストも引き締まっているので、メリハリがついてよりシルエットが美しく見えます」
「そ・・・そうかな、なんか皆から褒められると照れてしまうよ。それにしても、こういったドレス風の服は、膝下丈のモノしか見たことが無かったけど、これは膝上丈なんだね」
「あぁ、ミーシャさんのはそういうタイプでしたね。アメリアさんの場合は、足に引っかかる丈のスカートはあまり好まないと思ったので、少し短めにして生地に立体感を持たせてふんわりとした形にしてみたのですが、長い方がよろしかったですか?」
「いや、こっちの方が断然好みだね。流石はアキナ君だよ、これから私の着る服は全部君に頼みたいくらいさ」
「是非、お任せください!色々作っちゃいますよ」
「それはそうと、彼女達はさっきから何で部屋の隅で固まっているんだい?」
「あぁ、それはですね。まさか自分達が着ていた服がそんなに高いものだと思っていなかったらしくて、汚さないようにと動けなくなっちゃったみたいです。普通に買ったら一人頭金貨5~10枚はしますからね」
「さっきプレゼントしますよって言ったらとても喜ばれていたのに、全員に返却を希望されて少しショックです・・・・」
「まぁ、値段が値段なだけに気後れするのは仕方がないですよ。私も早く脱いで店頭に飾っておきたいくらいですし」
「やっぱり新品の洋服って高いからね。皆もナタク君みたいなお金持ちの彼氏を見つけて買ってもらうしかないね!」
「先生なら値段を見ないでポンポン買いそうですよね」
「本当に必要なモノには糸目は付けませんが、最近はアキに怒られるのでなるべく節約しながら買い物をしているんですよ?」
「先生?このところ、支払い金額が金貨数百枚単位の買い物ばっかりが続いているんですけど?
あれは節約してるとは言いませんからね?」
「お金の使い方まで男前だったんですね・・・・」
「まぁ、それだけ稼いでる彼が凄いんだけどね。それに、どうせ父上が帰ってきたらまた凄い金額を稼ぎそうだし」
「ご期待に応えられるかは分かりませんが、本当近いうちに帰って来てもらわないと領主様待ちの仕事が溜まって困っているんですよね。クロードさんとも相談して、許可待ちの状態で止めている物も結構あるのですが、そろそろ領主様の睡眠時間がピンチな気がします」
「本当にどうしたんでしょうか?予定より、かなり遅れていますよね?」
「なんか家に届いた手紙を読むと、向こうで新しい仕事を押し付けられて、色んな調整に四苦八苦しているみたいだね。まぁ、帰ってきたらきたで更に忙しくなりそうだけど」
(お仕事なら仕方がありませんね。ただ、予定より数週間帰りが遅れているので、通常業務にもかなり支障が出てそうなんですよね。今回もアメリアさんとガレットさんにお願いして、面会をねじ込んでもらいましょうか?)
「っと、そうだった!もう一つリックさんにもお願いがあることを忘れていました」
「うん、私にかい?」
「スイール村の畑の土を持ってきて欲しいんですよ。その土地に適した最後の改良をするのに、どうしても必要になるので。最初にもらった鉢植えのモノは、植え替えの際にここの土と混ぜて使ってしまったので、調整用には使えなくて」
「そんなことならお安い御用さ。丁度明後日にはそっちの方面に買い付けにまた出かけるつもりだから、その時にもらってきてあげるよ。ちなみに、まだ村長さんには報告しない方がいいよね?」
「領主様次第なので、最悪ぬか喜びさせてしまっても可哀想ですしね」
「了解だ、それでは暈して伝えておくよ。早くいい報告ができるといいね」
「そうですね。その為にも、一日でも早く領主様に認めてもらえるよう頑張ります!」
「そういえば、この後『トマト』を使った料理を食べさせてくれるんだっけ?」
「えぇ、この街の腕利きの料理人を集めて色々試してもらっていますからね。彼らなら、直にでも美味しい料理を完成させてくれることでしょう。それに、『トマト』を使った調味料の開発も同時にお願いしているので、それが完成しましたらリックさんにはまた商談に応じてもらわないといけませんね」
「おぉ、あれは調味料にもなるのかい!そういえばソース用のモノも開発したって言っていたね。是非此方からもお願いしたいくらいだよ。いやぁ、本当に待ち遠しいな」
「ラハンで勝負するのに武器は、たくさんあった方がいいですからね。期待していてください」
楽しい商談も無事に済んだことだし、後は彼らをウィルの店に招待するだけなのだが、時間的にはまだ予定よりも一時間ぐらいの猶予がありそうだ。モデルをしてくれていた女性達も他の部屋で着替えを済ませて戻ってきたのだが、やはりワンピースは流石に受け取れないと断られてしまったが、下着だけはアキナの頑張りによってどうにか受け取ってもらえて、皆とても喜んでいた。特に、ノイと言う女性の喜び方は他よりも大きく、涙を流しながら何度もアキナにお礼を言って握手をしていたのが、とても印象的だった。
(彼女はそんなに気に入ったのでしょうか?)
「そういえば、アメリアさんは着替えとかってどうしたんですか?」
「あぁ、最近手荷物を持ち歩くのが億劫に感じてね。丁度家にアイテムボックス付きの指輪が一つ余っていたから、自分用に借りることにしたんだよ。流石にスキルホルダー達より容量は小さいけれど、無いよりはだいぶマシだからね。君達二人はスキルを持っているんだろ?」
「一応取得はしていますが、今は容量が少ないですね。なので箱を利用して誤魔化しながら使っています」
「うん、箱を何に使うんだい?」
「えっと、これはちょっとした裏技なんですけど。同じ規格の箱を用意してアイテムボックスに収納すると、大きさに応じてスタックすることができるんですよ。ただし、箱×1と表示されるので、目当ての物を取り出すのが少し大変なんですが、ある程度種類別に違う大きさの箱を用意しておくと便利ですよ。俺も素材なんかを買い集める時は、この方法を使っていますね」
「私も布や完成品などは分けて収納していますが、直ぐに使わない物や嵩張る素材などはこの方法を利用していますね」
「そんな便利な方法があったのか。今度からそうやって利用しようかな・・・・」
「ナタク君、今の話は本当かい!?」
「あれ?商人さん達ってこの方法を使っていないのですか?冒険者ギルドに買い付けに来ている方で、この方法を使っている方もいたと思うのですが?」
「たぶんナタク君が見たのは、代々スキルホルダーの家系の商人達だと思うよ。そうか、彼らが思った以上に荷物を運べるにはそんなカラクリがあったのか・・・・」
「たぶん、この情報を知っていても秘匿して広めないようにしていたんじゃないかな?リズやアテナもこんな便利な方法なのに使っていなかったからね」
「確かに、知ってるのと知らないのではかなり違いますしね。それに、同じ規格の箱を使わないとこの方法は使えませんから、余計に気付かれづらかったのかも知れません」
「いい情報を本当にありがとう。さっそく試してきてみたいのだが、もしよければ色々教えてもらってもいいかな?」
「構いませんよ。アイテムボックスが付与されているアイテムはお持ちですか?」
「あぁ、三階にいくつか取り扱っているよ。さっそく向かうとしよう」
この後、何故かアイテムボックスの裏技講座が始まってしまったのだが、リックやアメリアもかなり喜んでいたので良しとしよう。しかし、こういった知識も秘伝として今まで隠されていたようだ。そういえば、木工ギルドで教えた方法もかなり驚かれていたのを思い出す。これらの方法は、随分と前からネットに公開されていた技法なので、プレイヤーの中では割と常識になっていたが、確かに知られるまでは情報を持っている人がかなり有利であるのは事実である。
それでは、頃合を見て似たような知識も順次公開していくとしますか。この後の産業の発展を考えると、世の中便利になってもらった方が何かと都合がいいですからね!
ありがとうございます、うわぁ~ん!
(*´∇`)ノヾ(> <。)
・・・・?(´・ω・`;)




