第44話
「「「美味い!!」」」
出来立ての料理を運んでさっそくみんなに食べてもらったのだが、一同最初の言葉は全て揃ってこの言葉から始まった。確かに、塩系の料理しか知らない彼らにとって、今日出している料理はトマトソースという“全く未知なる味”になるので、新鮮さも加わってだいぶ評価が高いようだ。
それに、この世界では錬成を利用して調理がなされるので、作った料理人の腕がダイレクトに料理に反映される分、一段と味のグレードも上がっているのであろう。実は自分もこっそり“マニュアル錬成”を使って調理していたので、彼らのような一流料理人程とはいかないまでも、普通に作るよりはかなり美味しく出来ていたのではないかと思う。
ただ、作り続けるとボロが出そうだったので、最初の一つ目以降は料理人達に任せることにした。というか、ジョンの作ってるハンバーガーに至っては、他に比べても光り輝いてる気がするのだが、あれは気のせいだろうか?
そうこうしている内に、アルヴェントに結構焼いてもらったパンの在庫も少なくなってきてしまったので、無くなる前に次のレシピに移るとしよう。ここからは大道芸要素も含むので、きっとギャラリーも楽しんでくれることであろう。
「アルさん、先ほど言ってたレシピを今から作りますので、お手伝いを頼んでいいですか?たぶん生地作り以外は全部お任せすることになると思うのですが」
「おっ、いいともいいとも!存分に使ってくれたまえ。僕に頼むって事はパン関係のことだろ?」
「一応近い料理になりますね。あっ、トーマスさんには此方のレシピと材料をお渡しするので、次はこれに挑戦してみてください。『ハンバーグ』と『トマト』を使った新しいレシピになります」
「了解だ。また使ったことのない素材が含まれているな。存分に楽しませてもらうとしよう」
「アーネストさんとウィルさんには此方のレシピを。これは結構簡単なレシピなのですが、俺達の故郷でかなり人気の高い料理になりますので、是非挑戦してみてください。こちらはトマトは使わないで、香辛料を紹介するために用意した物になります」
「ふむ、確かに下準備には多少手間かかるが調理自体は簡単そうだな。ウィル、さっそく取り掛かるぞ」
「はい、師匠!」
「それで、俺は次に何を作ればいいだ?」
「ジョンさんには・・・・引き続き此方の『ホットドック』と『ハンバーガー』をお願いします。本当は他の料理を頼もうかと思ったのですが、あんなに美味しく作ったせいで、今ジョンさんを引き抜いてしまうと、みんなに恨まれてしまいそうなので。
それにあちらをご覧ください、ジョンさんを連れて行かないでっていうアテナさんの眩しい眼差しを・・・・」
「しょ・・しょうがねぇな!それじゃ、アテナの為にも俺はここに残って調理を続けるとするか!
お前達、繋いどいてやるから、早く料理を完成させて戻ってこいよ!」
(なんだろう、ジョンさんの扱い方も段々わかってきてしまった。アテナさんを使うと、領主様並に扱いやすそうだ)
パンが無くなる前にさっさと次を作ってしまおう。他の料理人達が厨房へ向かって行ったので、アルヴェントもそちらに向かおうとしたのだが、パフォーマンスも兼ねてのここで調理をする予定なので、そのことを伝えて彼にはここに残ってもらった。
「それで、ナタク君。僕は一体何をすればいいんだい?」
「今から俺が、ある“特殊な技法”を使って生地を用意しますので、アルさんはその出来た生地にトッピングと食材の焼き上げをお願いします。レシピは此方になりますね」
「ふむふむ、食材はいたってシンプルだね。了解だ、やってみるよ」
「ありがとうございます。ちなみにこれも発展系のレシピが多数存在する料理になるのですが、今から作るのはその中でも“一番シンプルで難しい”とされる料理になります。シンプル過ぎて味の誤魔化しが利かない分、職人の腕前が直に現れるレシピなんですよ。どうですか、面白そうでしょ?」
「ふっふふ!いいねいいね、そういうの嫌いじゃないよ!街一番のパン焼き職人の凄さをご覧に入れようじゃないか!生地作りは任せちゃってもいいんだね?」
「えぇ、こちらは“かなり練習”していたことがあるので足を引っ張らないと思いますので、焼き加減の方はお任せします!」
「楽しくなってきたじゃないか。他のみんなに負けないような、凄い料理を作ってやるぞ!」
アルヴェントを焚き付けることにも成功したので、さっそくナタク達も調理を開始するとする。まずは調理道具と調理場所の確保からだ。
「リリィさんすいません。今からここである調理をしますので、厨房に近い此方のテーブルを二台程使ってもいいですか?」
「大丈夫ですよ、この上で調理なさるのですか?」
「いえ。この上に調理台を設置して生地作りとトッピングを済ませ、パン焼き釜を使って仕上げていく予定です」
「分かりました。それではお好きに使ってくださって結構ですよ」
許可も取れたので、それではさっそく調理台を用意していこう。空いたテーブルを二台ほど借りてその上にインベントリから大きな木の板を取り出し設置していく。これは木工ギルドの作業場を借りていた時に作った分類的にはただの大きな木の板にになるのだが、一点だけ特徴を言うとするならば、必要以上に表面を鉋がけを施し、表面に光沢が出るほど磨き上げていることであろう。
木の板を設置した後に、台が傾いていない事も確認できたので、さっそく調理の準備に取り掛かる。まずは、ウィルにあらかじめ用意してもらっていた生地を厨房から運び出し、台に置く前に打ち粉になる小麦粉を多めに調理台の上に撒いて、生地が台にくっつかないように処置をする。その次に今度は生地を必要な大きさにカットし、粉を塗せば準備完了だ。
「アルさん、こっちの準備は整いました。これから生地作りを開始しますね」
「こっちも窯の調整とソースや食材の用意は出来ているから、いつでも始めちゃっていいよ!」
「それではさっそく!あっ、これを渡すのを忘れていました。窯に入れる時はこれを使ってください」
「おぉ、大きなスコップみたいな道具だね。分かった、やってみるよ」
(さて、それではいよいよパフォーマンスを開始させていただきましょうか!)
まずはカットした生地に再び粉を塗しながら丸くなるよう捏ねていき、丸みを帯び始めたら今度は麺棒を使ってある程度平らになるように伸ばしていく。この時、ある程度次の工程のことを考えながら伸ばさないと、後で大きな失敗に繋がるので、記憶を頼りに慎重に形成へと取り掛かる。そして、ある程度形が整ったら、いよいよパフォーマンスの開始である。
(さぁ、新歓で鍛えられた会社員の腕前、とくとご覧あれ!!)
「おぉ・・・・」
最初に誰が声を上げたかは分らないが、徐々に人々の視線が自分に集まり始めているのを周りの雰囲気から感じ取れた。
会社員時代、彼の会社では新人研修を終えたばかりの新入社員達を、各部署の先輩達が持て成すイベントが毎年おこなわれていたのだが、この“一発芸大会”へ、入社二年目にして早くもナタクはその舞台へと登る権利を獲得していた。
これは、ナタクの入社してからの成績が他に比べて“かなり”良過ぎたのが原因なのだが、そのことが面白くなかった先輩達にさっそく目を付けられてしまい、そんなに仕事が出来るのならと教育係を無理やり押し付けられたため、夏から晴れて入社したての彼らの直接の上司へとなってしまった。
そして新しく部下を持った者は、必ず最初の年に何らかの見世物をして笑いを取らなくてはいけないという暗黙のルールがこの会社には存在していた。
要は、『お前達の先輩でもミスする事はあるんだから、まぁ頑張れよ』という意味合いも大きく、大抵無茶振りに近いお題を出されて失敗込みで大勢の前で恥をかかされるという、やらされる方には堪ったものではない悪しき風習なのだが、その時自分に言い渡されたお題がこの『ピザ回し』であった。
もちろん、今まで全く料理をしてこなかった自分にピザを作るといった経験など無く。さらに入社以来、毎日忙しく仕事をこなしていたため、殆ど練習時間もまともに与えてもらえるていなかったが、自分にはリアルには無かった一つの打開策が存在した。
実はその時、既にこのゲームに出会って遊んでいたため、寝ながらにして練習することができるという、他の人にはない幸運な環境が自分には整っていた。しかも所属していたクランには職人系の人が多く在席しており、リアルでも本職“料理人”という猛者達も在席していたため、「ピザ回し?うん、出来るよ。教えてあげる」という心強い味方まで得ることにも成功していた。
それから、クランの仲間達という高度な技術指導員の下、濃密な練習に励むことができたため、リアルの練習時間なんと一時間足らずにもかかわらず、本番では大勢の前で数々の大技を披露し成功することが出来た。
その時、無茶振りのつもりでお題を出した嫌味な先輩達の悔しそうな顔は今でも忘れられない良い思い出なのだが、あんまりに上手くいき過ぎたため、その場にいた社長を含む役員一同から大層気に入られてしまい、何故か自分だけは毎年この技を披露することになってしまった。
(ただ、おかげでこの『ピザ回し』に限っては、他の料理よりもかなり自信をもって披露できる、自分の特技となったんですけどね)
「・・・・凄い凄い。生地がくるくるって!」
「ほぉ、上手いもんだな」
「兄ちゃん面白ぇな、なんだそれ!!」
「これまた凄い製法だね、それにも何か意味があるのかい?」
「よっと!もちろんありますよ。これは『ピザ回し』といった技法なんですが、遠心力を利用して生地の中に含まれる気泡を潰さずに均等に伸ばし、焼き上がり時に味と食感がより美味しく仕上げることができるんですよ。まぁ、無理せず麺棒で伸ばしてもいいのですが、こっちの方が断然美味しく焼き上がるのでお勧めです!」
「聞いといてあれだけど、よく喋りながらできるのね」
「これは結構練習しましたからね。今更簡単な技では失敗しませんよっと!」
「おぉ!背中で転がすこともできるのか!」
「俺に教えてくれた人はもっと上手でしたよ。っと、そろそろ程よい大きさになったのでトッピングの準備をお願いします」
「おっとと、了解だ!ついつい見とれて忘れてたよ」
「まぁ、パフォーマンスとして見ても面白いですからね。後で練習方法をお教えしますよ。では、此方の生地を使って焼き上げお願いします!」
「任された!せっかく君がこれだけ注目を集めてくれたんだから、パン職人の僕が焼きでしくじる訳にはいかないからね」
さて、出来た生地はアルさんに任せて、俺は次の生地作りに取り掛かるとしますかね。たぶん、この人数ですと試食といっても5枚以上は焼かないといけなくなりそうですしね。パフォーマンスを抑えてでも頑張って作っていきますか。
・・・・っえ、もっと凄いのやれって?しょうがありませんね。それでは皆さん、今日はとことん楽しんでいってください!!
ほい!それ!よいっしょ!!(´・ω・)ノ ̄ ̄
ぶらぼぉ!!ヾ(≧∇≦*)/