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第43話

 

「ナタク君、パンが焼けたから見てくれないかな?たぶんレシピ通りにはできてると思うけど?」


「アルさん、ありがとうございます。注文通り、いやそれ以上の出来栄えですね。とても美味しそうだ」


「パン種の準備も良かったからね、僕は少しだけ手を加えて焼いただけさ。しかし、こんなに柔らかく焼いてしまったら日持ちしなくなると思うんだけど、平気なのかい?」


「えぇ、この料理は出来立てを直ぐに食べてもらうモノですからね」


「そういえば、一緒に少し変わったパン種も用意されてあったけど、あっちも焼いておこうか?」


「いえ、あれはこの後俺が皆さんにある料理を披露するために、特別に用意してもらったモノなんですよ。それに、アルさんに後で教えるレシピでもあるので、楽しみにしていてください」


「おぉ、そいつは楽しみだ!みんなトマトを使って調理してるみたいだったのに、僕とトーマスだけ普通に調理してただけだったからね。見ていて凄く羨ましかったよ」


「お二人に用意してもらっていたのは、ジョンさんの作っていたソースを使って完成する料理なんですよ。残りの調理も簡単なので、広める用のレシピってやつですね」


「そうだったのか。それじゃ、僕も席に座って待たせてもらうとするよ。もう一つの方も楽しみにしているね」


「了解です。あっ、トーマスさんもお疲れ様です。凄くいい香りですね」


「こっちも今焼きあがったとこだ。しかし、クズ肉をここまで上手く調理できるレシピがあったとはな。それに、使わせてもらった調味料も中々に興味深かったぞ」


「これらの調味料は領主様との交渉で栽培をお願いする作物になりますからね。早く流通できるように、頑張らせてもらいます。此方も綺麗に出来上がってますね、流石です」


「そっちは焼くだけだからな。まぁ、俺も座って待たせてもらうとする」



 そう言って、二人は最初に座っていた席に戻ると、他の料理について話しを始めていた。二人もこれから出てくる料理が気になるようだ。



「こっちも調理が終わったぜ。とは言っても、俺のはソースだけだがな。コイツは、この後他の料理にでも使うのか?」


「ありがとうございます、綺麗な色に仕上がりましたね」


「味も試食してみたが悪くない。こっちの香辛料が多めのやつは少し辛い気もするが、これで合っているか?」


「えぇ、こちらで大丈夫ですよ。この後、トマトといったらこれ!という料理を出してご覧にいれます」


「それじゃ、期待しておこう。それで、料理はどういった順番で出すんだ?」


「まずはアーネストさんとウィルさんの作っている物から食べてもらう予定です。どれも出来立てが美味しいのですが、麺料理なので最初に食べた方がいいと思いまして。それに、空腹でお待ちの彼らなら、時間を掛けずに完食してしまうと思うので」


「てか、こんなに人がいたのかよ。冒険者も結構いたんだな・・・・・って、あそこにいるのはアテナじゃねぇか!」


「・・・・あれ?じぃじがいる。やっほ~」


「お前は何時見ても可愛いなぁ。今日はアーネストの付き添いか?」


「・・・・違うよ、護衛のお仕事。ナタクとリリィ達が依頼人だよ」


「そうかそうか、でもあんまり無茶な事はするんじゃないぞ。今日はじぃじが美味しいものを作ってあげるから、楽しみにしていなさい」


「・・・・うん!さっきから美味しそうな匂いがしてるから、凄く期待してるよ!」


「そうだろう、そうだろう!」



 結構厳格な顔をしているジョンですら、孫のアテナにかかるとデレデレであった。アル達も遠目でやれやれという顔をしているので、これはいつものことなのであろう。


 親バカならぬ爺バカか・・・・



「こっちも上がったぞ。小さい皿に人数分用意したから少し時間が掛かってしまったが、量はこれでいいのか?」


「お疲れ様です。この後も他の料理も召し上がってもらう予定なので、最初はこれくらいで大丈夫でしょう。しかし、初めて作ったとは思えないほどの出来栄えですね」


「まだレシピ通りになぞっただけだがな。ウィル辺りはもう発展型のレシピを思いついてるんじゃないか?」


「確かに、頭の中では試してみたい物がいくつか思い浮かんでいますね。ナタクさん、こちらも基本のレシピになるんですか?」


「そうですよ。他にも、麺の形を変えたり具材を変えることで、たくさんのバリエーションが産まれるレシピの雛形です。この後も、是非色々研究してみてください」


「分かりました、楽しませていただこうと思います。それでは料理を運んでいきますね」



 さて、それでは“最初”の料理が出揃ったので、さっそく試食会を始めさせていただこう。ナタク達だけでは配膳に時間が掛かるので、小さい皿に盛られたパスタを給仕のプロであるリリィとレティにも協力をしてもらい、皆が待つ席へと運んでゆく。



 (って、レティさんの服はもう完成したんですか!流石はアキです、仕事が早い)



「もう洋服を作り終えていたんですね。どうぞ、久しぶりのトマト系のパスタですよ」


「ありがとうございます!洋服は今さっき出来上がったばっかりですね。胸囲のサイズ以外が殆ど同じだったので、思ってた以上にあっという間でした。って、やっぱりこの料理の香りでしたか、二階にまで美味しそうな匂いが漂ってきてましたよ」


「それで呼びに行く前に、みんな降りてきていたんですね。では「おぉい、そろそろ開始してくれ!みんな待ちくたびれてるぞ!」っと、いけない。それではアキ、また後で!料理、楽しんでくださいね」


「はい!お腹ペコペコなので、今日はたくさん食べさせてもらいます!」



 (さて、それでは説明を始めさせてもらいますか。アテナさんもフォーク片手によだれを垂らしながら律儀に待っているので、料理が冷める前にさっそく食べていただきましょう!)



「お待たせいたしました、それでは料理の説明と試食会を始めます!」


「「「「待ってました!!」」」」


「まず最初に、アーネストさんとウィルさんにお願いして作ってもらったパスタのレシピ『ミートソースパスタ』と言う名前の料理になります。この料理にかかっているソースは挽き肉と野菜を香辛料と共に炒め、下処理をした『トマト』をワインや追加の調味料などを加えて煮込んだモノになります。


 本当はジョンさんの作ったソースも加えるとより味に深みが出て美味しくなるのですが、基本のレシピということなのであえて加えないで作ってもらいました。これでも十分に美味しいはずなので、是非ご賞味ください。レシピは料理人の方には後で配らせてもらいますね」


「おぉ、これは初めて体験する味だな。この野菜は火を通すとここまで味に変化があるのか!」


「あえて挽き肉を使うことで、そこからも旨味も引き出しているのだな」


「パスタってどれも同じような味だったから僕はあんまり好きではなかったのだけど、これは全くの別物だね!これ凄く美味しいよ!!」


「作っていて思ったが、このソースは他の料理にも合いそうだな」


「これ程の味で基本レシピというから驚きですね。実に創作意欲を刺激される食材だと思います」



 ふむ、料理人達にも好評のようだ。ちなみに、それ以外の人達は「美味い、美味い!!」を連呼していただけなので省略させていただこう。それとアテナなのだが、彼女は目をキラキラさせ口の周りにソースをつけて、ここにいる誰よりも美味しそうにパスタを食べていた。アキナが隣で顔を拭いてあげる光景は、なんだか見ていて微笑ましかった。



「さて、皆様食べ終わったみたいなので、今度は他の方達が作った料理を融合させて、新しい料理としてお出ししますね」


「おぉ、残りは一緒に使うんだね」


「あの肉料理がどうなるのか楽しみだ」


「それでは、まずはこの細長いパンを使った料理から。って、人数分を一人で用意するのは時間がかかりますので、何人かお手伝いを頼めますか?」


「はいはい!パンなら僕が手伝うよ!!」


「俺も手伝わせてもらおうか。どうやら俺の作った肉料理も使うみたいだしな」


「では、俺もやらせてもらおう。アテナの分はじぃじが作ってやるからな!」



 アシスタントが思っていた以上に豪華になってしまった。しかしこの次の料理は、彼らの作った素材を結集させて完成させるモノになるので、むしろ丁度良かったかもしれない。



「では、まず始めにこのパンを縦に包丁を使って切れ込みを入れていきます。この時完全に二つに切ってしまわない様気をつけてください。こんな感じで繋がった状態のものを使っていきます」


「了解、これでいいんだね!」


「そうですね、そうしたら切れ間にこのバターを軽く塗り込んでもらい、そこにウィルさん達に先に用意してもらっていた酢漬けたオニオンスライスを適量のせ、その上にトーマスさんが焼いてくれたソーセージも一緒に挟んでいきます。


 最後にジョンさんが作ってくれた此方の赤いソース『トマトケチャップ』を上にかければ完成ですね。お好みで、俺が予め作っておいた黄色いソースもかけてお召し上がりください。こちらは『マスタード』といって、『カラシナ』という植物から作った調味料になります。そのまま食べると辛いので注意してくださいね」


「ふむふむ、こんな感じかな?なんだか新しいサンドイッチみたいだね!」


「まぁ似たようなものですが、分類的には違う料理になりますね。料理名は『ホットドック』と言います。ちなみに、犬の名前が入っていますが別に犬の肉を使っているのではなく、ソーセージを胴長の犬に見立てて看板に描いて売り出したのが名前の由来だそうですよ」


「へぇ。それにしても確かに簡単に作れる料理だね」


「俺達の故郷では此方でいうところの屋台料理になりますからね。『安くて』『早く』『そして美味い』の三拍子が揃っていたので、忙しい人達に中々人気のあった食べ物です」


「確かにお手頃で食べれるから良さそうだね。しかもそれなりにボリュームもあるから、どちらかと言うと男性客に人気がでそうかな。こっちの丸いパンはどうするんだい?」


「それでは、せっかくなのでそのまま一緒に作ってしまいますか。此方の丸いパンの方は横に切れ目を入れて今度は完全に二つに切り分けてしまいます。本当は切り口を少し焼いてやると、食感が良くなり、より美味しくなるのですが、今日は時間の都合でそこは省略しますね。


 そうしましたら、そこに御好みの順番で、輪切りにしたトマトと葉野菜を少々、トーマスさんが作ってくれた肉料理の『ハンバーグ』とその上に薄くスライスしたチーズをのせます。最後にジョンさんが作ってくれたソースをかけて、上に切ったパンで蓋をすれば完成です。


 此方のソースは後で他の料理を作る時にメインで使いますので、その時に詳しくご説明しますね。料理名は『ハンバーガー』、今回はチーズが入っているので『チーズバーガー』と言います」


「これはさっきのより更にボリュームがある食べ物だね」


「ほぉ、この肉料理は『ハンバーグ』と言うのか。これ単体でもちゃんとした料理として楽しめそうだな」


「えぇ、トーマスさんにはこの後ハンバーグの発展レシピをお伝えしますね」


「そいつは良い、この料理だけでも十分勉強になるな」


「確かに肉料理には合いそうな味だったな。俺の作ったソースはこうやって使うのか」



 さて、それでは飢えたお客様に料理を作って運ぶとしますか。ちょっとここに立っていると、皆さんの目が段々獲物を狩る目に変わってきて恐くなってきましたし、あまり待たせるのはよくありませんからね。



 さぁ、それではお前達!空腹の彼らを満たしてきなさい!!


・・・・はやくたべたい!d(*・﹃・*)b


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