第38話1-1
『ラミアの瞳』というアイテムについて、もう少し詳しく解説をしておくとしよう。
このアイテムは、名前の由来通り“ラミア”という半人半蛇の魔族の瞳から作られた特殊なアイテムになる。しかし、ゲームで遊んでいた頃の世界には既に多くの魔族が滅んでいたためナタク自身も実物に遭遇した事は無かったのだが、文献や魔族を詳しく研究していた学者達によると、この“ラミア”種という魔族はどちらかというと魔物に近い生態を持っていたと伝えられている。
また“ラミア”種には男性個体が存在しないため、他種族の男性をその瞳の力を利用して操り、子孫を残していたのではないかと云われていることから、アイテムになる前の瞳の力はもっと強力であったとも考えられるられている。
ただ、他のゲームや御伽噺などに出てくるような美少女の姿をした蛇女という訳ではなく。残っていたミイラや文献の姿絵から察するに、見た目はゴブリン族に酷似していたと言われており、交配に使った男性はそのまま雌の食料として骨だけになるまで綺麗に食べられてしまっていたらしいので、とてもじゃないが羨ましいとは思えない悲惨な末路を、被害者達は辿っていたようだ。
それと知性もあまり良くはなかったらしく、文化レベルも低かったため、大昔にあった戦争で他の魔族によって乱獲され、マジックアイテムの材料として使われていたとも調べて判っていた。
もしかすると、今回のこのアイテムもその時代に作られた物の一つだったのかもしれない。
また、能力は強力ではあるが使用制限もしっかりとあるらしく、今ここにあるアイテムを鑑定してみると、使用回数が残り【1/5】となっているので、後一度しか使うことができないみたいである。
そのまま残しておくのも危険なので、今回の尋問で使い切ってしまう方が良いであろう。一応ガレットから許可を貰えたので、後でこのアイテムについて領主からお叱りを受ける事は無いはずだ。
ただし、操れる時間も5分と短いので、現在ガレットとジョンが質問内容を吟味してくれている。
それにしても、グスタフの現状はかなり悲惨である。まず、案の定片方の“あれ”が損傷しており、全身をきつめの紐でぐるぐる巻きにされ、口には舌を噛んで自殺しないようにと大量の布が詰められている。というか、縛り上げてる時のアメリアが実にイキイキしていたので、止めるに止められなかったのだが、ナタク自身も悪いことをしてアメリアに捕まらないように気をつけたいと心に誓った。正直、あの惨状を見てしまうと、できるだけ清く正しく生きていこうと思わずにはいられなかった。
しかし、あのままだと男としてあまりに可哀想だったので、皆を説得して尋問開始前にポーションだけは飲ませてあげることにはなった。せめて、死なないようにと・・・・
グスタフが意識を取り戻したので、さっそく事件の真相を暴く事になったのだが、操れる時間が限られるため、ここは質問者を一人に絞り効率よくおこなうこととなったのだが、何故か満場一致でナタクがその役目に選ばれた。
何でも「一番こういう事に向いてそうだから」だそうだ。確かに得意ではあるのだが、全く嬉しくない理由である。
さっそく“ラミアの瞳”を起動させて順番に質問をしていったのだが、大方の予想通り、動機は「若くて才能のある奴が許せなかった」とか「自分の稼ぎを軽く超えるこいつらが俺のことを下に見ている」などの被害妄想から、犯罪に手を染めていったようであった。
なので被害者は若手で早い段階からギルドに認められ、融資を受け取っていた人物がピンポイントで狙われていたらしく、既婚者で家族にまで被害が及びそうだったのは今回標的にされたウィルだけだったようだ。
また、借金返済が終わった二組もまだ完済が終わった直後らしく、そこまで時間が経っていなかったため、被害総額もそこまで酷い額にはいっておらず。また奪い取った金銭も事件が公にならないようこっそり貯めていた最中だったのが幸いして、彼の自宅の床下に全て埋めて隠されている事が判明した。
どうやら、ウィルの場合は、コンゴに店の経営を邪魔されていたおかげで、思った以上の収入が見込めないと判断され、それならばライバルである彼に高く売りつけてしまい、纏まった金額を得ようと欲に負けて書類を手放したらしい。
不正に作った契約書は彼が所持していたアイテムボックスが付与された指輪に隠し持たれていたので、その場で全ての契約を破棄させ奴隷にされた二人を解放することにも成功した。この被害者達については後でジョンが直接謝りに行き、事件の真相と謝罪を伝えるらしい。
ギルドマスターであるジョン自身も、このグスタフに騙されていたようなモノなのだが、組織のトップとしての責任は自分が受けるべきだと頑なに譲らなかったので、ガレットとの話し合いの結果、後は領主に丸投げにすることとなった。彼であれば上手く話を纏めてくれるであろう。
(それでは、最後の質問をさせてもらいましょうかね。これは俺個人も凄く気になっていた事なんですが・・・・)
「グスタフさん、これが最後の質問です。あなたはこの魔導具と契約書に使った紙をいったい何処で手に入れたんですか?」
「・・・・それは5年前にある旅商人の青年から購入・・・・っ!!ぐぅががが!!!」
虚ろとした表情で淡々と最後の質問にも答えようとしていたグスタフであったが、最後の質問に答え始めた途端に突然苦しみだし、縛り付けていた椅子ごと倒れこみ暴れだした。
(一体何が・・・って、この症状はもしかしてっ!!)
「アメリアさん『活殺柔拳』って使えませんか!?このままだと彼が死んでしまいます!!」
「お・・・憶えているが、成功率はかなり悪いよ!」
「構いませんので、お願いします。たぶんこの症状とタイミングからみて呪いの類なので、ポーションではどうにもならないと思いますので、一度完全に心臓が止まった後に一か八かの蘇生を試みてください」
「分かった、やってみるよ。それじゃ、縄を解いて床に寝かせてくれ」
「アーネストさん、頼めますか?」
「あぁ、了解だ」
グスタフは既にだいぶ動きが弱弱しくなっており、縄を解かれた後も軽く痙攣をしながら細く呼吸をしている程度であった。ナタクがアメリアに頼んだ『活殺柔拳』とは中位職である格闘家系統の職業が使えるスキルの一つで、成功確率はかなり低いものの、死亡して間もない者であれば蘇生することができるといった技になる。
他にも似たような魔法もあるのだが、そちらは確率がもう少し高い分、高位職の神官系の者しか扱えないので、今はアメリアの運に任せる他に選択肢がなかった。
呼吸を整え、グスタフの正面に立って右手の拳に蒼い闘気を纏わせたアメリアは、その拳をグスタフの心臓目掛けてゆっくりと振り落とした。このスキルが成功すると対象者は拳と同じ蒼い光に包まれた後に蘇生されるのだが、どうやら一回目は失敗したようで、その後もアメリアには三度挑戦してもらったのだが、途中で時間切れになってしまい、彼を助けることができなかった。
悔しそうにしているアメリアにお礼を言ってから、完全に死亡してしまったグスタフの上着を脱がして胸元を確認すると、やはりそこには『魔力紋』の呪いが作動した時に浮かぶ、独特の形をした紋章が彼の心臓の真上に刻まれていた。
ナタクがした最後の質問が、『魔力紋』の禁則事項に抵触してしまったために、彼は呪いによって命を奪われてしまったのであろう。『魅了』状態では術者に逆らうことができないので、これは自分の判断ミスといっていい失態であった。流石に、奴隷の主までが『魔力紋』に縛られてるとは思ってもみなかった。
「すいません、俺がもう少し気をつけていれば・・・・」
「いや、坊主が悪かったわけではない。それにその質問はワシらの方で考えたものじゃ、お前達が気にすることではあるまいて。アメリアもよく頑張ってくれたのぅ」
「すまない。役に立つことができなかった・・・・」
「だから嬢ちゃんも気にするなって。こういうのは俺達のような上が責任を取る問題だ。お前達はよくやったんだから、そう暗い顔をするなって」
取り敢えず、犯人死亡でこの事件はこれ以上捜査をすることができなくなってしまった。ただ、グスタフが亡くなる前に、被害者達の契約書を破棄させることが出来たのは唯一の救いかもしれない。契約内容が酷い場合は、奴隷の主が死亡した際に道連れになって奴隷も死んでしまうケースもあるからだ。
(それにしても、また“5年前の旅商人”ですか・・・・。前回のドロモンさんの事件といい、その時期に“何か”あったのは確実みたいですね、後でそちらの方も領主様にお願いして調べてもらいますか)
「それともう一つ、不正だと解っていて契約書を購入したコンゴさんについてはどうしましょうか?
一応聞き出せた情報によると金貨700枚で購入されたそうなので、今回の事件で金貨200枚の負債を抱えてはいるみたいですけど?」
「ギルドとしては、規約違反で組合登録永久抹消は決定事項だ。後は違反金の支払いも要求するつもりだが、ギルドにも責があることなので、そちらの回収には応じなさそうだがな」
「領の法律的にも、契約書自体が本物じゃったから残念ながらギルドとの金銭トラブルとして処理せにゃならん案件のため逮捕するのは難しいと思うぞ?まぁ、後ろめたい内容の契約書じゃったから訴えることまではせんとは思うがな」
「一緒に捕まえられないのは悔しいね。って、ナタク君の顔を見る限りまだ何か手がありそうだけど?」
「捕まえられないなら、まだまだ仕返しのチャンスがありますからね。彼には、二度とウィルさんに手が出そうと思えない程“酷い目”にあってもらおうかと考えています」
「素直に捕まっていた方が良かったと思わせるってことだな」
「取り敢えず、これからウィルさんに色々仕込んで今までの嫌がらせされた分を、直ぐにでも取り返させてもらいましょうかね。アーネストさんとジョンさんも一口いかがですか?きっと楽しいことになると思いますよ」
「今回は護衛のつもりが、とんだ足引っ張りをしてしまったからな。勿論協力させてもらおう」
「俺も混ぜてくれるってのか?」
「えぇ、お祭りは楽しくやらなくてはいけませんし、それにギルドにも協力してもらえれば、それこそ街興しにもなりますからね。領主様もさぞ喜ぶでしょう」
「仕事が増えて大変なことになると思うのは私だけでしょうか?」
「何時までも街に帰ってこなかったあいつも悪いからのぅ、しっかり尻は拭ってもらうとするさね。かっかか!」
後味は悪いが、ここでの事件はこれで終りのようだ。これからジョンは被害者達の下へ謝罪しに行くらしく、ガレットもグスタフの遺体を領兵に預けてからギルドへ戻って仕事の続きをしなくてはならないそうだ。
また、アーネストも一旦店に戻ってから、また落ち着いてからウィルの店まで来てくれるそうなので、そこでナタクとウィル、アーネストとジョンを加えた4人で、一日早いが、“ちょっと”した料理研究会を開くことになった。
それと、どうやらアメリアも思うところがあるらしく、ここに残って領兵と共に現場にいた当事者の一人として事件の後始末の監督をおこなってくれるらしいので、ここでいったん別れてナタクとアキナでウィルの店に戻って今後の作戦会議をすることになった。
気落ちした彼女の事は少し心配ですが、他にも扉の修理の件や護衛のために雇った冒険者達の件もあるので、ここは気持ちを切り替えてもう一働きするといたしましょう!
まだ、チャンスがあります!( ー`дー´)
「「「うわぁ・・・」」」(; ・`д・´)




