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第34話

 

 調理ギルドは冒険者ギルドと同じ東エリアに位置しており、お互いに小さめの広場を挟んだ対角線上に建てられていた。建物全体は錬金ギルドの本館と同じぐらいの規模をしており、一階部分には酒場兼レストランが併設され、そこでは若手の料理人とそれを指導するベテランシェフによるリーズナブルな値段で楽しめる料理が毎日のように振舞われているそうだ。また値段が安いためか、今日も食事時でも無いのに、お店の中はかなりの盛況振りであった。


 なんでも、アーネストのように独り立ちして店を構えている者以外は、ここで一旦研修をおこい、合格を言い渡されてから各地で店を開いている料理人の下へと修行に出るようになるらしい。


 錬金ギルドでいうところの職員による研修を済ませて、その後ゴールドクラスの研究員の下へ弟子入りするようなものだろう。ちなみに、アーネストの店は弟子入り希望者の競争率がとても高いらしく、独り立ちさせてもすぐに次の料理人が面接を受けに来るらしい。そういえば、あそこの厨房にいた料理人は、結構若手の子も多かった気がする。


 もちろんレストランだけではなく、ギルドとしての事務所関係も併設されており、今回自分達が用があるのもそちらの施設ということになる。まずは作戦通り、ガレットに受付にて調理ギルドのマスターとの面会を申し込んでもらい、その間に鑑定を使える者が周囲の人が幻術にかかっていないかのチェックをすることにした。



 ちなみにこの鑑定だが、実はナタクやアキナのような元プレイヤー達と、アメリアのような現地の住人とでは能力に差が設けられていることがゲーム時代から明らかとなっていた。プレイヤーが使う鑑定は、現地の住人達が使う鑑定スキルで言うところの『上位鑑定スキル』といったものに該当し、商人などから派生する上位職や検査に秀でた職に就いている者にしか、同じ情報を得ることが出来ないらしい。


 まぁ、職人系の研究者にも似たようなスキルで『解析』という特殊なものも存在するが、それはまた別の機会に説明するとしよう。


 この違いは、プレイヤー側が新しい世界に放り出されても知識のハンデで苦労しないようにと配慮されたもののようで、実はこのスキルを上手く使えば、手に職がなくても街で食べていけるほどの優秀なスキルとなっている。



 さて、その違いについてなのだが、まず現地の人々の鑑定では、下位のモノではそのアイテムの名前だけが表示され、中位の鑑定スキルになってから漸くアイテムの特定の情報が記載されるようになってくる。これを人物鑑定に当てはめると、下位では名前だけ。中位では追加で、その人が今セットしてあるレベルの高い方の職業とHPバーと状態異常。上位になって初めて追加でフィジカルレベルと職業レベル、ステータスなどの詳細が分かるようになっている。


 それに加え、上位スキルになったとしても何段階かレベルが設けられており。格が上がるにつれて、公開される情報と偽装などの妨害スキルの影響をレジストしたり出来るようになるのだが、これも今は割愛させていただこうと思う。此方もプレイヤー相手でもない限り、今のところは気にする必要がない話になっているからだ。



 また、今しがた話題に上がった隠匿や偽装といったスキルもあるので、ナタクがそれほど職業のレベルを隠そうとしていなかったのには、そういった理由が存在した。もしばれたとしても「偽装でレベルを低く見せてるんですよ、本当のレベルだと騒ぎになるので」と嘘をつく準備もしていたのだが、未だその機会に恵まれなくて、実は助かっていたりする。


 ちなみに、アメリアとガレットの鑑定スキルは『中位鑑定スキル』を所持しているようだ。ナタク自身はまだ鑑定のスキルを真面目に上げていないので、所持スキルなどそこまで詳しく判らなかったが、アキナは目指している職業柄、鑑定のスキルもちゃんと上げていたようなので、こっそりこの前教えてくれた。流石は情報収集の鬼の上忍様である。


 ざっと周辺で働く職員を鑑定してみたが、操られている人物は発見できなかったので、想定していたよりも幻術の被害は少ないのかもしれない。最悪の場合、職員全員が操られていた時は、一旦引いて領兵のマンパワーを借りて数で制圧しなくてはいけなかったので、これはかなり助かった。



 それに、ガレットのギルドマスターとの面会申請もすぐに対応してくれたようで、職員の女の子が慌てて確認を取りに走ってくれた。まぁ、同じ街の他のギルドマスターであり、公爵家の人間でもあるガレットがアポ無しで訪ねてくれば、慌てもするか・・・・


 真面目に働いている職員達には、本当に申し訳ないことをしてしまった。


 程なくして階段から恰幅のよい大柄の男性がナタク達の目の前までやってきた。どうやら彼が調理ギルドのギルドマスターのようで、態々彼自身が出迎えに来てくれたようだ。



「これはこれは錬金の!今日は訪問の予定はなかったと思うんだが、いったいどういった風の吹き回しだ?なんでも、急ぎの用があって俺に会いに来てくれたらしいが・・・・」


「突然邪魔してすまんかったな。じゃが、こっちも急に決まった話での。うちのやんちゃ坊主がこの街の特産品になりそうな作物を完成させおって、今日いきなりワシの所に持ってきたんじゃわい。


 本来なら領主に見せてからお前さんの所に調理依頼をするのが良かったんじゃが、当の本人が未だ王都の視察に行ったきりで戻っておらんからのぅ。それなら、料理をある程度完成させてから商談した方が交渉しやすいと説得されてしまって、急遽お前さんを紹介させられることになったんじゃ。


 それにワシも公爵家の人間として、こやつの作った野菜にかなり注目しておってのぅ。お前さんも見れば絶対気に入ると思うぞ。ほれ、この坊主がその野菜を作り上げた張本人じゃ」


「お初にお目にかかります、錬金ギルド所属の那戳(ナタク)と申します。本日は此方の野菜の調理研究依頼をさせていただきに参りました。


 今回、知り合いでもっとも腕の立つ料理人のアーネスト氏と共に調理研究をする予定だったのですが、特産品を目指すのならば是非調理ギルドにも参加していただけたらと思い、お二人に無理を言ってギルドマスターを紹介していただいた次第です。お忙しいところ押しかけてしまって申し訳ございません」


「ほぉ、お前が噂の錬金術師か。各地で色んな噂を耳にしているぞ。なんでも多方面でも活躍しているらしいな」


「それは・・・・この前あった商人さんにも似たような事を言われました」


「とても優秀であるとも聞いているので、期待させてもらうとしよう。それにしても、アーネストがこの時間に出歩くとは珍しいな。店の方は平気なのか?」


「仕込みは済んでいるからな、暫くは大丈夫なはずだ。それに、これが終わったらすぐに店に帰らせてもらうつもりだしな」


「出不精のお前が態々俺を紹介するなど滅多に無いことだからな、よほど面白い食材なんだろう。だが、あんまり“アイツ”に負担をかけるなよ?


 どれ、ここで立って話をすることでも無いだろうから、俺の部屋に行くとしよう。みんなこっちに付いて来てくれ」



 そういって、ギルドマスターの案内で一階の彼専用の執務室兼、料理研究室までやってきた。ちなみに、彼にもこっそり鑑定を掛けてみたのが、特に幻術にかかっているわけではなかった。ガレットは彼の事は白だと思うと言っていたが、では犯人さんはいったい誰なのか・・・・


 彼の案内で部屋に着いたので、当初の計画通りにアキナには全体を見渡せる場所へ、アメリアとアーネストに入り口付近を警戒してもらい、ナタクとガレットで交渉をすることにする。さて、どんな話が聞けるか楽しみである。



「どうした、二人以外もこっちのソファーに掛けてくれ。御茶くらいはすぐに出すぞ?」


「俺達はここでいいさ、それよりその二人との話を進めてくれ。そうしたら、なんで俺が腰掛けないのか理由がすぐに分るはずさ」


「・・・・?まぁ、お前達がいいなら構わんが。そういえば俺の自己紹介がまだだったな。俺は調理ギルドを纏めるギルドマスターのジョン・ターナーだ!まぁ、ここではギルマスとかマスターと言われてあんま名前では呼ばれないけどな。まぁ、好きに呼んでくれ」


「畏まりました、それではギルドマスターなどではガレットさんと被ってしまいますので、ジョンさんと呼ばせていただきますね」


「あぁ、問題ない。それで、さっきお前さんがチラッと見せた野菜だが、あれは最近ここに持ち込まれた『トトアの実』ってやつじゃねえのか?」


「ご推察お見事です。しかしながら、今回お持ちした野菜はその『トトアの実』を錬金術の力で“品種改良”して進化させた全く新しい野菜となります。良かったらお一つ(しょく)してみてください。元の野菜を知っているなら、きっと驚かれると思いますよ?」


「ほぉ、錬金術ってのはそんなこともできるのか。てっきり薬や便利な道具を作っているところっていうイメージしか持っていなかったぞ。それで、こいつはそのまま食っても大丈夫なのか?『トトアの実』みたいな青臭いのは勘弁だぞ?」


「そのままでも大丈夫ですよ。火を通すと更に甘みがましてより美味しくなりますが、生のままでもサラダのお供に最適ですね」


「それならさっそく・・・・・っ!」


「いかがでしょう、別物と言った意味を解かって頂けましたか?」


「あぁ、こいつは凄い。ほのかな酸味と優しいながらもしっかり主張してくる甘み、肉厚な果肉にもかかわらず数回噛むだけですぐに溶けてしまう不思議な食感、それにこいつからも少しだけ青臭さも感じるが、それがいいアクセントにまでなっていやがる・・・・


 確かにこれは別物って言って間違いないな、その“品種改良”ってのは、野菜をここまで変えてしまうものなのか?」


「種類にもよりますが、大抵の物はより美味しく進化させることができますよ。今回は此方を使った料理研究をしていただきたいのですが、一応サンプルレシピを用意してありますので、それを元に研究を手伝っていただけたら助かります。勿論、独自にレシピを考案されても構いません。美味しくしていただけるのであれば、こちらも願ったりなので」


「こいつはいい!錬金のがすぐに俺を紹介したのが良く分った。こいつは研究のし甲斐があるいい野菜だ。気に入った、是非この仕事を俺にも一枚かませてくれ!」


「それは願っても無い。是非お願いいたします。領主様も直にこの街に帰ってこられますから、みんなで彼を驚かすような料理を完成させましょう!」



 思った以上に食い付いてくれてよかった、商談は取り敢えず成功といっていいだろう。さて、ここまでは計画通りなので、これから先は少々揺さぶりを掛けさせていただこう。撒き餌の準備も終わったので、次からがいよいよ本番である!



 おっと、笑顔笑顔。まだ商談中ですので、表情を崩すわけにはいきませんからね!上げてから落とすと人ってかなり動揺してくれますから、ここからが俺の腕の見せ所です!


 って、仲間のみなさんの視線が妙に突き刺さってる気がするのですが、大丈夫ですよ?商談をしに来ただけではないのは憶えてますって!さぁ、それでは楽しい“交渉”を始めましょう!!

商談は笑顔が大事ですよ!(*´∀`*)


「「「(今、一瞬悪い顔してなかったか?)」」」

Σ( ̄△ ̄;)っ!



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