検証
チュン…チュン
鳥の鳴き声で目を覚ました
カンナは…
近くにはいなかった
「そうか向こうで夜を迎えたらこっちでの朝か」
向こうの世界で一日起きてたらどうなるんだ
等疑問に思うことはまだあったがそれよりも今日は
カンナに会わずに俺の立てた仮説が正しいかを
判断する
そうすれば向こうで会えるだろうし
(何より泣かせたくないからな…)
そう決めて今日は病院へ行かないことを決めた
寂しがる事は想像つくが予め言ったのと
いきなり消えるのでは全く違うだろう
カンナはそこまで弱くないだろう
今も病院で寝たまま頑張っている
そう自分に言い聞かして今日は学校へと向かった
学校に登校すると何人かが寄ってくる
「おいおい、孝介お前大丈夫だったのか!?」
「孝介お前ヒーローかよ!かっけぇなー!」
等と背中を叩く者まで様々だ
「まーなんてか、心配かけたな」
そうはにかむと周りの友人も安心したように
していた
「ほら、でもよ一番心配してたのはお前の
彼女だな!」
そう言い顔を向けた先に神咲桜がいた
神咲とは幼馴染だ
小さい時からよく一緒に遊んだりしてたが
中学を境に話す機会が一気に減った
お互い部活をしていたこともあって
遊ぶ事も減るのと同時に茶化されてしまったのも
あるからだろう
よくある事だ
お前あいつと付き合ってんのか~とかな
確に神咲は可愛いとは思うが
「俺と神咲は付き合ってねぇよ」
と返した
「お前も勿体ないやつだよな~
俺が女ならほっとかないぜ!」
男から貰っても嬉しくないセリフをビシッと
決めたつもりであろう顔で言った
「このハゲ龍也が」
「いや!禿げてねぇし!
野球部だから剃ってるだけだし!」
他愛ない話をしながら笑い学校生活を
送っていると平和だなと感じる
夢世界はほんとに夢で無かったかの様にさえ
思えてしまうくらいだ
だがそのせいもあってか前までは退屈でしか
無かった学校が少し楽しく思えるようになった
非現実である夢の世界へ足を運んだからか
はたまたカンナと会ったからか
それは自分自身でもいまいち掴めてはいなかった
学校での一日はあっという間に過ぎて言った
前までは長ったらしいとさえ思っていた
中学までは部活でバスケをしていたが
今では帰宅部のため放課後の予定はなく家へ
帰ろうとしてる時後ろから声を掛けられた
「孝介くん…一緒に帰らない?」
そう声をかけてきたのは桜だった
黒い髪を風にそよがせて綺麗な黒い瞳をこちらに
むけている
「何だか久しぶりだな
髪…伸びたか?」
その髪はふっくらと膨らむ胸にまでかかっている
髪は長いが一本一本丁寧にブラシ掛けされてるのか
とても綺麗な黒髪だ
俺は桜とは幼馴染みであり小さい時はよく
一緒に帰っていた
「お前から声かけてくるなんて珍しいな」
「うん、そうだね
ちょっと心配してたからかな?」
あの時桜は孝介が事故が起きたと聞いて
血の気が引いていた
頭が真っ白になり心臓がバクバクしていた事を
思い出していた
「こーくんは昔っからそそっかしかったからね」
「また随分懐かしい呼ばれ方だな」
桜はふふっと笑って隣を歩いた
「昔はよく遊んだのにね~
私達今じゃ遊ぶ機会もなかなかないもんね」
「まぁ高校入ってからは尚更そうだな
話しかけてくれたのも久しぶりだったしな」
「流石に事故って聞いた時はびっくりしたんだからねもっと体は大事にしなきゃだめだよ」
「そうだな
気を付けておくよ」
そんな会話をしていると桜の家に着いた
また学校でな、と短く伝え俺は再び歩き
自分の家へと帰った
今日も誰もいない家に帰ってきた
軽くご飯を作って食べ終わったあと一息ついた
もし今日カンナに会いに行ってたら夢の中で
会えてたのかなと考えたりもする
(どうしてここまであいつの事を)
気にしても始まらず考えも纏まらない
ベッドへ体を預けて携帯を見る
電源を入れてないその画面はつまらなさそうな
自分自身の顔を映しているだけだった
「早く会いてぇな」
そんな事を口にしたが本人は意識していないからか
その言葉が耳に残ることは無い
無意識のうちにカンナと一緒にいるのが
楽しく思っている
それどころかあの夢も一つの世界だとも思ってる
あの世界はまだわからない事が多い
人間だけがいる訳でもないが年甲斐にもなく
ドキドキと胸が高鳴る
もちろん恐怖心もある
あの夢の世界で死んでしまったらどうなるんだとか
まぁ死なないに越したことは無い
死んだらカンナは悲しむだろうし
泣かせてしまうだろう
(死にたいやつなんてそうそういないだろうしな)
そう考えたりしてるうちに時間は午後11時を示すのを確認した
瞼を閉じてゆっくりと意識を沈めていく
ピンポーン
家のチャイムの音で目が覚めた
目の前の時計を確認すると時間を8時前だった
(誰だこんな早くから)
働かない頭を動かしてみるが想像つかなかった
壁についてる除き穴を除くとそこには桜がいた
そして扉を開けるとそこには桜がいた
おはよ、と短く挨拶をして桜は少し下がった
「どうしたんだ?」
「こーくん一緒に学校行かない?」
「ん?
あぁ構わないよ、ちょい待っててくれ」
桜が来たことは予想外だったが来てくれて
待たせるのも申し訳ないから急いで支度した
「どうして今日急に来たんだ?」
ついさっきの出来事を桜に聞いた
「んん~
ほら事故にあったでしょ?
何が起こるか分からないからね」
「色々後悔しないようにしたいなってね」
「いや、なんてかすまないな心配かけて」
俺は少し申し訳ないと思い軽く謝った
「ふふ
気にしなくていいよ
それよりまた学校で話しかけるね」
そう一言残し前にいた桜は友人の元へと
小走りでかけていった
今日の桜はどこか元気な印象を受けた
(なんかあったのか?)
まるで昔に戻ったみたいだ
あの時は桜は今みたいに家に来たり一緒に
登下校したりした
その事を考えてると後ろから背中を
叩かれた
「よっ!
一緒に学校行くべ!」
坊主頭が特徴の龍也がそう話しかけてき
一緒に学校へと向かった
学校に付くと予鈴がなるまでの間友人達と
話しながら過ごしていた
最近は陽の光がきつくなってきているせいか
だらけている生徒が多数だ
俺もそのうちの一人だ
机に突っ伏して友人の会話を聞きながら
予鈴を待っていた
「席につけよー」
間延びした声で先生が生徒達をそれぞれの
席につくように促す
さっきまで賑やかだったクラスは少しだけ
静寂を取り戻した
「お前らも知ってると思うがそろそろ学園祭の時期だクラスで出し物をするんだが案はあるか?」
さっきまでの静けさが無かったかのように
教室はガヤガヤと賑やかになった
出し物の候補が黒板に書き出されていく
お化け屋敷
メイド喫茶
お好み焼き屋
チャイナ服喫茶(男子)
等定番なのが並べられていく
やっぱり定番が一番だった
そして皆がやる気になるのと言えば
これだろうと思うものが決まった
お化け屋敷だ
これに男子が沸き立ち
女子はきゃーきゃーと騒ぐ
「俺はこれを気に彼女をつくる!」
等と騒ぎ出してるやつもいるが女子が
冷水をかける
「ウチらが脅かすのにどうやってつくんのさ~」
「ウチだって彼氏欲しいわー!」
このやり取りでクラスが笑いで溢れる
学校祭までの約一ヶ月忙しくなりそうな
予感がしつつホームルームが終わった
ホームルームが終わり授業も前半を
乗り越えると昼休みに差し掛かった
昼休みは自分で作った弁当か購買を利用する
購買で買うのも悪くは無いが昼は丁度ご飯時だ
人がごった返しているから行く気にはなかなかなれない
それに料理が出来る俺は自分で作って食べることの方が圧倒的に多かった
「あ、孝介君一緒にお昼どうかな?」
そう話しかけてきたのは桜だった
「構わないけど場所移すか」
場所を移したのは訳がある
まぁ大した事ではないがクラスの連中が
騒ぐだろうからだ
最近まで話しかけてこなかった桜と一緒に
昼を食べてるとあらば妄想逞しい男女それぞれが
自由勝手に連想するだろうから
(まぁクラスから離れて二人でどっか行っても
それはそれで注目されんのかな)
移動した先は屋上だ
人が少なく風通しがいい
晴れた日はここで寝て過ごす日もある
何度か授業をサボり時間を潰した所でもある
「悪くない場所だと思ってな」
「今日は天気もいいし」
そう呟き横になった
空を見上げるとどこまでも澄んでいて
風に運ばれて揺れ動く自由な雲を見る
太陽の光が眩しく直視は出来ないが
目を瞑ると悪くない気分になる
五分程そうしてようやくご飯にした
ごろごろしてる俺を待っててか桜もご飯に手をつけてなかった
外では昼休みだから自由に遊んでる学生が多い
晴れの日だから野球してるのが多く見える
ボールをバットで打つ快音をグランドに響かせているご飯を箸でつつきながら周りの音を楽しんで休んだ
「そろそろ教室戻ろっか」
そうだな、と返し二人は教室に戻った
午後の授業はクーラーの聞いた場所での移動教室
だったからか複数人がスヤスヤと眠りについていた
眠っているクラスメイトをみてカンナの事が
気になった
寝る事=カンナと自分の中で結びついているからだろう
今日はこの後お見舞いに行く
たった一日とはいえ随分長く感じた
学校生活が嫌で長く感じた訳では無いのにだ
本日の全授業を終えた事を告げる予鈴が鳴り響き
先生は授業を終了した
最後まで寝てた生徒はもれなく先生の
プリントの束で叩かれて現実世界へと戻されていた
帰りのホームルームも特に何かあるわけじゃなく
あっという間に下校となった
「こーくん今日一緒に帰らない?」
人が少なくなると呼び方を戻して桜が誘ってきた
だが今日は予定があった
「悪い、今日は予定があるんだ
また別の日で頼む」
むぅ~っと少し唸っていたが了承してくれた
「悪いな…今度予定空けとくからその時にでも
飯奢ってやるよ」
「それなら乗った」
と笑いその場で別れを告げた
帰り道カンナの病室へと足を運んだ
病院の清潔さを示すような一面の白を所々
夕陽がオレンジ色に染めていた
「随分と久しぶりに感じるよ」
そう呟きカンナの手を握った
小さいその掌は握り返すことはない
何となく夢にいるカンナにはこの感触が
伝わるみたいだ
そのまま頭を撫でた
待たせて悪かったなと
一日だけど待っててくれてありがとうと
今日このまま家に帰り寝て夢で会えたならそれは
あと時の仮説が確信に変わるだろう
もし違ったら…
とは微塵も考えなかった
何となくだが会えるとわかってるような
気がしていた
一言で表現するなら勘ってやつだろう
まぁ女の勘と違って男の勘が当たるかは別としてもだ
そろそろ戻ろうと決め最後にカンナの頭を
ポンポンと二回軽くつついた
「また後でな」
そうして病室から出ていき自宅へ向かい
歩いた
外は日が落ち少しまた少しと光を飲み込み
闇が顔を覗かせる
家についた時は外は完全に黒に包まれていた
街路樹の点灯と家の明かりだけが黒の中に
唯一の白を生み出していた
今日は早めに寝よう
そう決めていた俺は一通り終わらせると直ぐに
ベッドへと移った
「まだ10時前か…」
時計に目を移しそう零した
まだ少し寝るには早いと思ったが疲れもある
そして早く会いたいと思い構わないかと結論付けた
じっとしていると体が宙に浮かんでいるような
錯覚に陥った
床の下に沈んで行くような不思議な感覚だ
ズキン
頭に何か痛みが出た
何かぶつかった様な痛みだった
それと共に温もりも感じた
心地良いその温かさに身を委ねて再び
意識を沈めていく
トクン、トクンとリズミカルな音が
聞こえてきた
自分の直ぐ近くからだった
口に何か柔らかい感触があった
嫌じゃないいつまでも触れていたいそんな
気がするような感じだった
そしてゆっくりと意識が覚醒していった