続いた夢の理由
目を覚ますと見慣れた自宅では無いことがわかった
(ここは…あの時の町の外か)
前回お金がなく町の直ぐ近くのここで野宿したことは
覚えていた
まずカンナを探したが難なく見つかった
ただその目にはクマの後がくっきりと付いていた
「カンナ」
呼びかけるがカンナの体が冷たかった
心臓が跳ねた
咄嗟に腕をとり脈があるか確認した
生きていた
だがこの体の冷たさは異常だ
カンナの体をぎゅっと抱きしめた
こちらの熱が伝わったのかカンナはゆっくり目を覚ました
「お兄ちゃん……
どこ行ってたの……」
カンナは涙を零しながらそう呟いた
この目のクマもこの体の冷たさもその時理解した気がした
「俺を探していたのか…?」
返事は無かったが抱きつく力が少し強くなった
それがカンナの返答だと気付くには充分すぎた
(この世界の夢を見ないと俺はここに存在しない事になるのか?
だとしたら無理があるだろう…)
それと同時に気付いた
今のカンナの状態の悪さに
一刻も早く体を温めて休ませてやりたい
この世界で働く事が出来ない以上クエストを
こなすしかないだろう
「悪かったな一人にさせて」
そう言いカンナを背中に背負った
その体は冷えていてとても軽かった
そしてこの町のギルドに足を運んだ
大きな建物が見える
あそこが恐らくギルドだろうと思い足を進める
道中通り過ぎる人に聞いたから間違いは無いだろう
そして冒険者になる時に一通りの武器と防具が
渡される仕組みらしい
(懸念してた武器を買う金がないとかは何とかなりそうだな)
不安材料が減り少し心がほっとする
間もなくしてギルドに着いた
ガタンと重厚感溢れる扉を開くと中には
沢山の人や獣人がいた
場違い感がとても大きく思えた
そしてその場の視線を一斉に浴びる
「誰だあいつ」
「誰背負ってんだ」
「何しに来たんだ?」
等様々な声が聞こえた
真っ直ぐ進んだ突き当たりに強面の
おばさんがいた
受付だろうと思い歩を進めたが途中獣人に話しかけられた
話しかけられたよりは絡まれたという方が正しいだろう
「おいテメェ
何でテメェみたいなガキがガキを背負ってこんな所に来てんだよ?」
「ここはな、テメェみたいなガキが生きる世界じゃねぇんだよ直ぐに死んで終わりだ
今すぐに帰れ」
周りは誰一人として笑うものはいなかった
それもそうだろう
明らかに俺よりも筋肉質で体格も大きく歴戦の猛者
を感じさせるその獣人は左腕が無かった
恐らく忠告だろう
お前みたいなのが来るとすぐ死ぬぞと
怖さからか少し声が震えたがそのライオンの様な
たてがみを持つ獣人に言い返した
「それは…できない」
「俺には護らなきゃいけないやつがいるんだ
まだこの世界に来て分からないことが多過ぎるから」
その言葉を皮切りに獣人から殺気が飛ばされた
その場で身を斬られているような錯覚さえ起きる
足が竦む
今すぐ出て逃げたい
だけど背負っているカンナに気付く
ここで引く訳にはいかないと言い聞かせる
その瞬間ライオンの獣人から殺気が引いた
「おい婆さん、こいつは本気だ」
奥にいる強面の婆さんにそう話しかけた
「そうみたいだね」
「おい、ガキあそこの婆さんの所まで行ってこい
お前は合格だ
根性、あるじゃねぇか」
「悪かったな驚かせて
この世界じゃ死ぬやつが多いからな
ここで振い落しをやってんのさ」
「ほら、挨拶してこい」
そう言われて何が何だかわからないまま
婆さんの所まで進んだ
「アンタは冒険者志願か」
真っ直ぐこちらの瞳を見てそう告げるおばさんの
目を逸らすことなく返事をする
「はい」
「悪くないね
ただ…余りにも非力だ
力が無さすぎる」
お前は向いていないそう言われてる気がする
「俺は…カンナを
この子を屋根のある所で休ませたいんです
そのために俺はここで務めたいと思ってます」
「そうかい
わかったお前がここで働くことを許可しよう」
「ありがとうございます」
深く頭を下げた
働く所を見つけた安心感と不安が混ざり合う
一刻も早くカンナを休ませるために早速
クエストをこなしたい旨を伝えた
「今からは無理があるよ
そうさね…」
おばさんが防具と武器をくれた
そしてお金が入ってる袋と
「それで一ヶ月は持つだろう
貸した分は働いて返しな
期待してるよ」
そう告げておばさんは
ほら、早く休ませてやんな
とここから出るように言ってくれた
ギルドから出る時におばさんがライオンの獣人に
何かを話していた
それは俺達には聞こえることは無かったが
ライオンの獣人はこちらに手を上げ見送ってくれた
「あんたそっくりだよあの子は
どこかで無理をするだろう」
「婆さんあいつらの見守りでもしろってか?」
「気にかけてやる程度でいいさ
ハンスお前が色々教えてやんな」
「見守ってやれって言われてるようなもんだな」
そう言い大きく笑った
「婆さんの頼みは断んねぇよ。恩人だしな
それに…確に似てやがるな」
ハンスは思い出していた
初めてこのギルドに足を運んだ時のことを
「あんたも子供を背負ってこの扉を開けに
来たんだからね」
「そうだったな」
そう言葉を返しハンスはギルドから出た
ギルドから出ると雨が降っていた
道を歩くと泥や土が跳ねる
それがカンナにも跳ねて所々汚れてしまっている
カンナの体は更に冷たくなっていく
(宿屋についたら風呂入んないとな)
そうしてるうちに近くの宿屋を見つけた
「二人分お願いします」
「済まないねぇ…
今日は雨のせいもあってか一人用の
部屋しか用意出来ないが…いいかい?」
「構いません」
お金をわたしやり取りを終えたあと直ぐに
カンナを部屋へと連れていった
宿屋は格段に高い訳ではなかった
それこそいい場所に泊まろうと思えばそれなりに
金額はかかるだろうがそんな場所は求めてなかった
カンナを休ませる為だから安くても最低限
整ってれば問題はなかった
部屋に着いた所で風呂の湯を入れてからカンナを背中から下ろした
「悪かったな。寒かっただろ」
カンナから返事はない
ただ寒さからか体が震えている
「カンナ、風呂入ってこいよ」
「うご……な…ぃ」
動けない
そう聞こえた
今にも消え入りそうな声でそう呟いた
雨にも濡れているせいで体温は下がり続けている
このままだと良くないと判断した
「悪いな…
後でまた謝るからな」
そういいカンナから服を脱がせた
極力視線は外したが見えるところは見えてしまう
一糸纏わぬ姿になったカンナをささっと
頭から洗ってしまう
身体中泥だらけで冷えきっていた体温も
ゆっくりと戻っていく
湯船に付けてしばらくした所でカンナが
ゆっくりと目を開けた
「あれ……」
朧気にそう呟きいまの現状が理解出来ていない
様子だった
それもそうだろう
起きたら裸になって浴槽に入れられてるんだ
しかもそこには男がいる
「ッ……!」
瞬間カンナは顔を真っ赤に染めた
だけど説明すると状況を飲み込めたようだった
そして何となく背負われてた事と途中から
温かさを感じた事だけはうっすら覚えてたみたいだ
「ごめんね…
ありがとう…」
「まぁ、こっちも悪かったな」
そう言い風呂場から出た
カンナがお風呂から上がった後俺も風呂に入った
その後に軽くご飯をとり落ち着いた所で
出来事を話した
今のカンナは胡座をかいてる俺の上に座ってる
迎え合う形で抱きつかれている
先程の寒さから来る震えとは別の震えが伝わってる
「朝起きたらね…
お兄ちゃんがいなくなってたんだよ……」
「カンナ一日探したけど見つからなくて…
町の中も草原も……
怖かったんだよ…寂しかったんだよ……」
そう言いまた泣き出す
静かに泣いている
胸に涙の温かさが伝わっているからわかる
そっと頭を撫で背中を優しく叩く
カンナは安心したように体重を更に預けてくる
「でもね…
昨日お兄ちゃんに頭を撫でられた気がしたの…
だから生きてるって思った
また会えるって思ったの」
昨日といえば俺がカンナのお見舞いに言った日だ
(もしかして……)
(カンナに会った時のみ夢の続きを見ているのか? 初めて見たのは事故で運ばれた時
そして退院した時は一旦帰って会えなかった
そして今日会いに行って今夢の続きを見ている)
「なるほどなぁ…」
理解した気がした
あとはこれを確信に変えたいがそのためには
またカンナを一日一人にさせてしまう
「なぁカンナ」
「ん?」
抱きついたまま顔だけ少し上に向けこっちに
顔を見せてくれる
「一日だけ会うの我慢出来るか?
その後は極力毎日いるようにするからさ」
そう話すとぎゅっと抱きしめる強さが強くなった
嫌だろうことは察する事が出来るがこの夢の続きを
見るためには
いや、カンナに会うためには確かめなければならなかった
「そのかわり…今日は…絶対どこも行かない…?
一緒に…いてくれる?」
どこか懇願するような瞳でそう言われる
返事はしなかったがカンナの背中に手を伸ばし
軽く抱きしめた
返事の代わりだ
それを理解したからかカンナはベッドへ移った
そしてカンナはベッドを叩き呼んでいる
「お兄ちゃんもだよ
今日は一緒って約束したよ」
(まぁ一人部屋だからベッドは一つだしそこで寝る他ないけどな)
「あぁ」
そう短く返事をした
そして二人でベッドへ入り寝ようとする
「今日はあったかい…
安心する
お兄ちゃんがいるからだよ…
ありがとね……」
そう言い俺に抱きついて寝るカンナの髪を撫でていた
そのさらさらな感触を楽しみながら
眠りについた