実力(3歳)
ゴウ達が、川に着き、数時間の時が流れていた。
「ねぇねぇ~、ゴウ~。さっきから、何やってるの~?」
「あ?釣りだ。」
「・・・釣り?」
「ん?・・ああ、そうだったな。釣りっつう物が無かったな。・・・ほれ、持ってみろ。」
「えっ?う、うん。」
ゴウに釣竿を差し出され、戸惑いながら釣竿を受け取る、アンリー。
「そのままで居ろよ。」
「うん。」
「・・・あっ!」
暫くすると、アンリーが持つ釣竿が大きくしなる。
「ゴ、ゴウッ!?どどっ、どうするのっ!?」
「落ち着け。」
そう言うとゴウは、アンリーの後ろに回り、釣竿を握るアンリーの手の上に、自分の手を重ねる。
「ッッ!?ゴッ、ゴウッ!?・・・ッ!?」
「いいか?俺が合図したら全力で棒を引っ張れ。」
「えっ?うっ、うんっっ!!」
「・・・・今だ。引っ張れっ。」
「えいっ!!」
ゴウの合図と同時に、アンリーは、釣竿を力の限り引っ張る。
「・・・おお、獲れた。」
「フュー。結構な大物じゃないか。」
ゴウの言う通り、アンリーが釣り上げた魚は、三歳児が釣り上げたにしては、大きかった。
「ん?アンリー?」
何の反応も無いアンリーに、ゴウが不思議に思い、問い掛けながら、アンリーを見る。
「・・・しまった。」
ゴウは、アンリーの状態を見ると後悔の言葉を漏らす。
アンリーは、ゴウに手を重ねられた事で顔を真っ赤にして、固まっていた。
「・・・羨ましい。」
ミーセの呟きは、ゴウに聴こえ無かったが、スキル「空間把握」を持つゴウは、ミーセの口の動きで、把握していた。
「はぁ・・。ん?昼か。お前等、獲った魚焼いて昼飯にするか?」
「うん!お魚食べる!」
「・・・食べる。」
「じゃ、薪取ってくるから、じっとしてろよ。」
ゴウは、森に向かって歩き出す。
(・・・甘いな。)
「此ぐらいで良いか。」
ゴウは、集めた薪を持ちアンリー達が居る川に向かおうとしていた。
「・・・ ャーッ」
その時、何かの叫び声が響く。その声は、聞き間違えと言える程の小さな悲鳴だったが、ゴウは聞き逃さ無かった。
「ッ!?くそっ!!」
小さな悲鳴を聞いたゴウは、薪を投げ捨て、川に向かって走り出した。
ゴウが、アンリー達が居る川に着くと、アンリー達は、十四体の灰色の狼と一体の二回り程大きい狼に囲まれていた。
「グルルゥ・・。」
「・・・あぁ・・。」
(【灰狼】ッッ!?・・・ハグレかっ!しかも、彼奴は・・・。)
名前: 種族:灰狼の長(変異種) LV:14
常時発動型能力
敏捷強化LV1 統率LV2 嗅覚強化LV2
任意発動型能力
噛み付きLV1 突進LV1
特殊固有能力
固有能力
・主:ゴウ・レスタント
(やはり「長」。その上、変異種か・・。)
その時、ゴウは嗤っていた。それは、絶望の淵に立たされた自分を嘲笑する嗤いでは無く、未知の領域に巡り逢ったと言う歓喜の嗤いだった。
「・・おいっ!」
ゴウは、【灰狼の長(変異種)】達の注意を引くために態と大声を出す。
「ゴウ!・・あぁ・・ゴゥ!」
「・・・ゴウ!」
ゴウの声に、川に居た者の注意が注がれる。ゴウの声を聞いた、アンリーは泣きながら、ミーセは泣きそうになりながら、ゴウの名前を呼ぶ。
「テメェ等の相手は俺だ!!掛かってきやがれ犬っころ供!」
ゴウの言葉を理解出来ずとも、本能でバカにされていると悟った【灰狼の長(変異種)】達は、対象をアンリー達からゴウに変え、ゴウを中心とした円形の陣形を造る。
「・・グルル。」
「グルルゥ。」
此処で直ぐ様襲わないのは、やはり、低級の魔物とは言え序列社会で出来ている狼ならではだろう。
「ガアアアルルルッ!!」
その内、ゴウは大した獲物では無いと判断した【灰狼の長(変異種)】が、攻撃の合図を挙げる。
しかし、【灰狼の長(変異種)】は後に後悔する。自分達は、手を出してはいけ無い相手に手を出してしまったと。
「ガアアァァッ!」
【灰狼の長(変異種)】の合図を受け取った【灰狼】の1体がゴウに襲い掛かる。
しかし、【灰狼】の牙がゴウに突き刺さる事は無かった。
「『敵殺す炎の球』ッ!」
何故ならば、ゴウがスキル「黒魔法」を発動し、魔法を展開したからだ。
「ガヤヤアアァァッ!!」
スキル「黒魔法」LV1火属性系統魔法『敵殺す炎の球』を諸に喰らった【灰狼】は、断末魔を挙げると同時に死に絶える。
此の魔法は「黒魔法」LV1で展開した魔法だった。しかし、元のスキル「黒魔法」LV1火属性系統魔法『敵燃やす火の球』を改良した魔法だったので、【灰狼】を一撃で殺したのだ。
「ヴォゴアアァ!?」
ゴウが魔法を展開し仲間を一撃で殺した事実に、【灰狼の長(変異種)】達は驚き、一瞬動きが止まる。
その一瞬の隙を見逃す程、ゴウは甘く無かった。スキル「黒魔法」LV2風属性系統魔法『遮断する風の壁』を応用し、ゴウ達とアンリー達の間に真空の壁を造り出し、己の声に大量の魔力を乗せ、咆えた。
「ウオオオォォォッ!!」
声に大量の魔力を乗せた事で、威圧系スキルを使用した時と同じ状態に成り、【灰狼の長(変異種)】達は状態異常〔恐怖〕・〔竦み〕に成る。
しかし、ゴウの攻撃は此れでは終わら無かった。
「『敵穿つ石の弾』ッ。」
スキル「黒魔法」LV1土属性系統魔法『敵穿つ石の弾』は、通常石を魔力で飛ばすだけだが、ゴウは風属性系統魔法を応用して、速度が通常以上に成る様にしていた。
「ギャンッ!?」
「ギャ!?」
「ガガッ!?」
『敵穿つ石の弾』は、迷う事無く、【灰狼】の頭部に命中。1体残らず頭部を貫通し、計14体の【灰狼】を射殺した。
しかし、【灰狼の長(変異種)】のみはいち早く、状態異常をレジスト。高い敏捷を活かし、『敵穿つ石の弾』を躱していた。
「ガルゥ・・・。」
「ほう。此れを躱すか。【灰狼】と言えど、群れの「長」と言う訳か。・・だが、終わりだ。」
その言葉と同時に【灰狼の長(変異種)】は、突如として地に伏せる。
「グ・・ルゥ・・・?」
「即効性の神経毒だ。「黒魔法」は、直接的な攻撃しか一般的に無っていないが、毒の作製法を知っていれば毒も生成出来る。まっ、負けて死ぬお前には、関係無い話か。・・けどな、お前を此処で殺すのは惜しい。だから、お前を俺の眷属する。」
そう言いながら、ゴウは地に伏せる【灰狼の長(変異種)】に近付き、【灰狼の長(変異種)】に触れるとスキル「眷属支配」を発動させる。
「ヴォ・・・ウォ?」
「・・成功だ。・・・ぬっ!?」
ゴウが、驚きの声を挙げる。何故ならば、いきなり後ろからアンリーとミーセが抱き付いて来たからだ。
「うええぇぇぇん!!ゴヴ!!ゴウ!恐かったよー!」
「・・・ゴウッ!恐かった!!」
「あ、あぁ。もう、大丈夫だ。」
ゴウは、アンリーなら兎も角、普段無表情なミーセも泣いている事に若干驚きながらも二人を抱き締め慰める。
「落ち着いたか?」
「うん。有り難う。」
「・・・うん。それより、その狼は大丈夫なの?」
「あぁ、大丈夫だ。・・そいつは、俺の眷属に成ったからな。」
「ガウッ!
」
「えっ!?じゃあさ、撫でたりして良いの!?」
「別に言いが・・。」
「本当!?やったっ!」
(そう言えば、娯楽が少なかったな。・・・何時の間にかミーセも混じってやがる。)
「まぁ良い。俺は、剥ぎ取りでもするか。」
魔物は、強さや種類にも寄るが基本的に豊富な素材が取れる。異形の存在だけに素材は便利で、様々な物に加工され、人間社会を支えている。
蛇足だが、その有意性故に魔物狩り専用の冒険者と言う職業が在る。
「やはり、魔石・牙・爪・皮くらいしか利用価値無いか・・。喰う分が多くて良いが。」
「魔石?それ何?」
何時の間にか、ゴウの隣に居たアンリーが、ゴウに問う。
「・・・魔石は、魔物から取れる魔力の石。主に魔道具や魔導具の燃料に成る。」
問われたゴウが、答えるより速く、ミーセが答える。
「よく知ってたな。」
「へぇ~。」
「・・・フフンッ♪」
ゴウに、誉められて?普段の無表情が崩れ、小さい笑顔がミーセの顔に映っていた。
「・・剥ぎ取りも終わったし、昼飯にするか。」
「やった~♪」
「・・・でも、狼のご飯はどうするの?」
「別に【灰狼】でいいだろう。」
「・・・良いの?」
ミーセが、【灰狼の長(変異種)】に問う。
「ガウッ!!」
すると、【灰狼の長(変異種)】は、嬉しそうに吠える。
ミーセは、知らなかったが、魔物は完全な弱肉強食の生物で弱ければ、同族だろうがなんだろうが関係無いのだ。
「えぇ!?ゴウも、その狼食べるの!?」
「あぁ。俺は、スキルの能力で喰えば喰う程、強く成るからな。」
「・・・初耳。」
ミーセが、少し咎める様に言うが―――
「関係無かったろ。」
三人は、昼食を終え帰る途中だった。
「ねぇ、ゴウ。御願いが有るの。」
「あ?」
「・・・私達を、鍛えて欲しい。」
「鍛える?」
「うん。さっきさ、私達狼に囲まれたじゃない。」
「あぁ。それがどうした?」
「・・・恐かった。けど、同時に悔しかった。だから、強く成りたい。」
「はぁ?そんなの当たり前だろ。お前等、まだ、三歳だぞ?何も出来なくて、当たり前だ。」
「・・でも。・・でも、もう嫌何だ。」
「・・・但、指を加えて見てるだけ何て嫌だ。」
「・・・ぬぅ。」
「御願い!」
「・・・御願い。」
「・・・はぁ。・・分かった。鍛えてやるよ。只し!俺の特訓は、スパ――厳しいからな。」
「うん!頑張るっ!!」
「・・・頑張る!」
「期待しねぇでおくよ。」




