多くの者が望む物
次回は二ヶ月後の2016年2月に成ります。
「ッ―――――――」
声がした方向を向き、藤黄色の髪に、萱草色の瞳と猩猩緋色の瞳孔を持つ麗人を見た時、ヘルとボルグは思った。
―――――コイツは一体何だ、と。
その麗人、いや、生物はまるで、どうしようも無い天変地異を、世界の真理を、抗おうとも思考出来ない『創造神の力』を、無理矢理人間の形に組み換えた様な歪さと力強さを持っていた。その事を、瞬時に悟ったヘルとボルグは、状態異常〔恐怖〕に掛かりかける。
だが、ヘルとボルグは一度、この圧力を感じた事が有った。それは数年前、ヘルを筆頭とする狼達が修行へと出て、帰還した時の事。元々、ボルグの種族【黒鋼熊】は、本能的に強者を求める種族だ。その為、ヘルと言う強者を察知したボルグは、戦いを仕掛けた。戦いを仕掛けた相手が、ヘルだけなら良かったのだが、ボルグはゴウに迄、戦いを仕掛けてしまった。その時、まだ弱者だったゴウは、敗ける迄は行かずとも、大怪我を負う。そして、その場面をリンに見られてしまう。ゴウの姿を見て怒り狂ったリンは、ボルグを死の一歩手前迄、追い込む。ゴウが慌てて、スキル「眷属支配」の能力の一つ『絶対命令権』を発動させ、リンを止めたので、ボルグは死なずに済んだのだが、その時の圧力は、死すら生易しい程の未来像をヘルとボルグに見せた。その為、ヘルとボルグは、状態異常〔恐怖〕に掛かりかけながらも、跳ね返せたのだ。しかし、まだ問題が有った。
それは――――
「ッッッ・・・ぅ・・・ァ、ゥ・・っ・・・ぐ・・・ぅァゥぁ・・・っ・・・ぅ。」
ゴウが恐怖していた。いや、恐怖と言うより、絶望に限り無く、近い感情だ。その時、ヘルとボルグが抱いた感情はこうである―――有り得ない。
確かに、ゴウは世界基準で見るとまだまだ弱者である。しかし、ゴウの精神力は世界基準で見ても、最上位に組する強さである。事実、リンの精神干渉系の魔法やスキルを、全て完膚なきまでに抵抗しているのである。
そして、以上の事から判明するのは、二つ。目の前の生物が、ヘルとボルグが測っている以上の力を持つ事。ゴウが、戦闘を出来無い事。
そう理解した二体の動きは、速かった。直ぐ様、【黒剛牙狼】達に戦闘命令を出す為に、息を吸い込み―――
「止めなさいっっ!!!」
しかし、ヘルが指示を出す直前に、リンの大声が響く。
「一体何のつもりっ!?」
「?・・何の事かしら?」
リンから怒声を浴びせられた麗人は、心底分からないと言う顔をする。
「巫山戯ないでっっ!ゴウに幻影をかけ―――」
麗人の態度に、リンは更に激怒しながら詰め寄ろうとするが、突如としてゴウのを見る。リンの視線がゴウに向けられた為、必然的にヘル達の視線もゴウに向かう。
多くの視線が向けられたゴウは、先程の感情を感じさせず、それどころか、不気味と言っていい程の雰囲気を纏い俯いていた。
「殺す。」
その音は、ゴウに意識を集中させている者ですら聴こえるか聴こえないか、と言う程の音量だった。しかし、ヘル達をも越える驚異的な身体能力を持つ、リンと麗人には、聴こえていた。
ゴウは、恐怖を跳ね返し、己に恐怖を感じさせた事を侮辱と受け取り怒り狂う様に、己の身体に自己暗示を掛ける。その結果ゴウは、状態〔激怒〕や状態〔狂〕の上、状態〔怒狂乱〕に成る。
怒りにより強化された肉体を使い、ゴウは、一瞬にして麗人に駆け寄り、拳による打撃を放つ。
「ゴウッ!待ってっっ!!」
リンの制止も虚しく、ゴウの拳は、麗人の顔に迫る。
だが、次の瞬間、いや、一秒すら経たない内にゴウは、氷漬けにされる。
「ッッ!何て事をっ!!」
「大丈夫よ、中まで凍らせてないから。」
麗人が言葉を言い終わると同時に、パリッ、バリバリッ、と、氷像に次々に亀裂が入る。そして、一切大きな亀裂が氷像に入ると、周りの氷を破りゴウが出てくる。
「っっ・・・・・ッウゥ、随分な挨拶だな?吸血鬼。」
「あら?私の事知ってるの?それに、貴方が先にしてきたんでしょう?」
「はっ!よく言うぜっ。先に仕掛けたのはテメェだろうがよっ!」
「・・・ゴウ。」
冷戦の如き雰囲気を醸し出す、ゴウと麗人の間に、ミーセが入り込む。
「ん?」
「ッ・・・その人、知ってるの・・・?」
ミーセは、麗人の視線に一瞬怯むが、多くの者の思っている疑問を問い掛ける。
「あぁ、知ってる。」
一瞬、何故割り込んで来るのかと、疑問に思うゴウだったが、目の前の麗人が放つ威圧のせいと理解したゴウは、ミーセの疑問に正確に答える。
「此奴は、吸血鬼、しかも・・・・。」
ミーセは、いや、この空間に居る者達は、一筋の希望に賭けて、ゴウの声を聴いていた。
だが、現実は無情で残酷。ミーセ達の希望は、見事に打ち砕かれた。
「「「「「「「「ッッッ!!??」」」」」」」」
ゴウの言葉に、その場に居る殆んどの者が、驚愕する。それもその筈だった。吸血鬼は、世界の五大種族の一角に数えられる種族。最低でも、Bランクの強さを備える、生まれ付きの強者だ。
「・・・しかも?」
「・・・・。しかも此奴は〝真祖吸血鬼〟の一角だ。」
「・・・アリスリー・・・ヴァンパイア・・・?」
「世界に7体しか居ない吸血鬼で、限り無く神に近い実力を持っている。その上此奴は、〝真祖吸血鬼〟最強と謳われる【神聖焔界を支配する真祖吸血鬼】だ。・・・長。」
ゴウは、最後に思わずと言った風に呟く。
「仕様がないでしょうっ。種族は、どうやったって、変えれないんだからっ。」
麗人は、己の自己嫌悪部なのか、ゴウの何気無い一言に、少し声を荒げながら話す。
「・・・疲れた。そろそろ帰ろう。」
「・・ちょっと、無視?・・ん?・・・んん?・・帰るって事は・・・。」
「どうせ来るんだろうか。」
「ふっ、フフッ!やっぱりっ、私の眼に狂いは無かった見たいねっ!」
「「「「「!!!」」」」」
このやり取りに、周りの者達は、またもや、驚愕する。何せ、あの懐疑心と猜疑心の塊のゴウが、麗人の同行を許したのだから。
「ちょっと待ってっ!!その人も連れて行くのっ!?それにっ、さっきから訳が解らない事が、有り過ぎて、皆混乱してるの。説明してくれるわよね?」
幾ら話に着いていけ無いと言えど、流石に統率者たる者、不確定なままにしないアンナだった。
「・・・。あぁ、そうだったな。じゃあ、まずは、帰ってからその話をしよう。それと、此奴は、大丈夫だ。」
「・・・・・。」
「大丈夫だ。お前等には、何も起こらない。」
ゴウの言葉の前半には納得し、後半には納得していないと言う、顔をしているアンナに気付いたのだろう。ゴウは、再度、声を掛ける。
「・・解った。」
その会話を最後に、帰路の間は、会話が無かった。 様々な理由が在るだろうが、一番の要因は、やはり、ゴウが疲れているからだろう。
廃村と言っていい程荒れた村の地下壕に着き、ゴウが、説明を始めた数時間後、説明の終わりが訪れようとしていた。
「――――訳だ。解ったか?」
ゴウの問いに頷く、アンリー達。
「他に質問は?」
そう問いながら、ゴウは、再び周りを見渡す。
「無いな。だったら、さっさと飯でも喰って寝ろ。お前等、自分が思っている以上に、疲れてるからな。後、俺の分は要ら無い。疲れたから寝る。俺の部屋に入って来るなよ。特に、母さん。」
「ッッ!?何でっっ!?」
「言ったろ、疲れてるって。絶対だぞ。解ったな?」
「うぅ~~・・・。」
「解ったな?」
ゴウは、確りと承諾させなければ、忍び込んでくると、身をもって理解しているので、再度問う。
「うぅ・・・解ったわ。」
その言葉を聴いたゴウは、足早に己の部屋に去っていく。一度、視線を横に移してから。
「・・・・来たか。」
「あら?まるで、始めから私が来るの解ってたみたいじゃない?」
深夜、地下壕の一番高い位置に在るゴウの部屋に、一人の客人が訪れる。
「あぁ、解ってた。直感でな。」
「直感?」
「「超直感」。俺が、持っているスキルでも、上位のスキルだ。無論、知っていると思うが、「超直感」の能力は、100%の直感を獲られる事だ。・・・だが、それを100%、いや、200%以上を使いこなせなければ、意味が無い。」
「200%?」
「そうだ。この世界の生物の能力は、全てステータスに支配されている。例えば、力が『50』在る者は、『50』以上の力を出せない。だが、殆んど者が、その『50』の力すら出せない。」
「・・・――ッ。」
「それくらい知ってるだろう?」
「フフッ!・・・アッハハハハッ!!想定以上っっ!!!まさかっ、その歳でそこ迄、たどり着いているなんてっ!」
想定を越える結果を叩き出されれば、普通は、動揺するものだが、【真祖吸血鬼】―――ランチェルは、何が嬉しいのか声を張り上げ、嗤う。
「ふふっ・・・・それで、用は?まさか、こんな話をする為に、待ってた訳じゃ無いんでしょう?」
「無論だ。今のは、序章ですら無い。」
「ふ~ん。じゃ、さっさと話して。どんな話か、とっても気になるわ。」
「じゃあ、質問だ。女を手中に収めるには、どんな方法が在る?」
「女を手中に収める?・・・そうね。金・宝石・男、ぐらいかしら。」
「そうだ。他にも在るが、代表的なのは、その三つだ。そこで、二度目の質問だ。お前は、何を望む?」
ゴウの言葉が終わるのと同時に、ランチェルの顔が、不快の感情で満たされ尽くす。
「・・・詰まり、私を手中に収めると?・・・・解らないわね。私は、貴方の眷属に成ったのよ?貴方に、攻撃どころか、敵対すら出来ないわよ?」
「俺は、十重二十重に、保険を掛ける性質でね。眷属に成っただけじゃ、信用も信頼も出来ないんだよ。さぁ、選べ。」
(・・・・。確信が持てないのか、単なる鈍感か、それとも、確信犯なのか、解らないけど、意外と意地悪ね。)
「・・・ハァ。解ったわよ。」
観念した用に呟いた、ランチェルは、服を脱ぎ始める。
「服を脱ぐって事は、俺を選んだって事で、良いんだよな?」
ゴウは、負と正が入り雑じった、複雑な表情をしながら、話す。
「馬鹿っ、女にこんな事させるなんて。こんな事してたら、女が離れていくわよ。」
「んな、売女興味ねぇよ。」
「あら。私も同類と思わないの?」
「ハハッ・・・抜かせ。接吻すらしたこと無い奴が、売女な訳ねぇだろうが。・・・っと、そろそろ始めようか。下らねぇ―――ッッッ!?」
突如ゴウは、真青に成ると、部屋の入り口に視線を向ける。
「・・・ゴウ?」
そこには、紫黒の霧を纏うリンが居た。
「っ・・まさか、〝瘴気〟・・・?」
〝瘴気〟魔力の上級原動力にして、汎ゆる物を侵食する特性を持ち、更に、生物は、一度瘴気に侵食去れなければ、耐性を獲られないと言う特性を持つ稀有な物だ。
「・・かっ・・・さっ・・んっっ」
ゴウは、既に瘴気に侵食去れている身体で、声を絞り出す。
(何時の間に〝瘴気〟をっっ!?)
ゴウは、既に瘴気に侵食去れている身体で、声を絞り出す。
(何時の間に瘴気をっっ!?)
「何のつもり?」
ゴウの驚愕と苦痛を余所に、ランチェルは、ゴウを護る様に、リンの前に立つ。
「・・・退きなさい。」
「だから、一体―――」
「ランチェルッッ!・・っ・・・退くんだっ。」
「・・・・・っ。解ったわ。」
ゴウの言葉に、反論しようとするランチェルだったが、ゴウの表情を見て思い止まり、リンの前から退く。
「・・・何で?ゴウ。何で?ねぇ、何―――」
リンは、退くランチェルに視線すら合わせず、ゴウに問い掛けながら、詰め寄る。しかし―――
「・・ちゅるっ、ちゅぷっ、ちゅぱっ、・・・じゅるるるる。」
「んんぅ!?・・んっ・・・っっ!?・・・んっ、んんぅ、んんんっ。」
貪る様な接吻で、その口を塞がれる。
「ん、ちゅっ・・・え、ええ・・・?」
「ごめんな、母さん。母さんの気持ち、忘れてて。」
「・・・許さない。」
「ははっ。だったら、身体を張って償うよ。」
リンは、決して許した訳ではないのだが、ゴウは、何かを感じたのか、嬉しそうに語る。
「ふふっ、絶対よ。」
「あぁ。」
「ちょっと、何見せ付けてくれちゃってるのよっ。」
目の前で繰り広げられるイチャコラに流石に、我慢が効かなく成ったのか、ランチェルがリンとゴウの間に割って入る。
「それに、私を忘れてるわよ、私を。」
「・・ククッ・・・だったら、さっさと始めようか。」
そう言うと、ゴウは、移動する。
「たっ、大変だっ!皆に知らせなくちゃっっ!!」
その一部始終を見て居る者の存在に気付かず。
回数を重ねる事にご都合主義を歩んでいる気がする・・・・・・・。