兄
色々考えて、自嘲は辞めました。
(・・これは・・・あの時と同じだ。死の感覚。)
「・・クソッ・・・何かっ・・何か、無いのかっ・・・っっ。」
ゴウは、己がもうどうにもならない事に、一部では理解しながらも、折れずに、この状況を打開する方法を思考する。
「クソッ、駄目だっ。魔力もスキルも使えない!」
〔――そ――――慌て――〕
「ッッ!?誰だっ!?」
ゴウしか居ない空間に、突如として、声が響く。
いや、空間に響いたのでは無く、ゴウの頭の中で響いていた。
(・・?・・・この声、何処かで聴いた事が・・?)
そして、ゴウは、思い付く、この声を何処かで聴いた事が有ると言う事に。
「ッッッッ!?」
ゴウが、何処で聴いた声か思考を巡らせていると、ゴウの眼の前に人影が現れる。
「なあっ!?俺っっ!?」
その人影は、ゴウと瓜二つの姿だった。
(ッ!!影真似者の類いかっっ!)
ゴウは、直ぐに冷静さを取り戻すと、拳による攻撃を繰り出そうとする。
そして、気付く。先程まで、何の不自由無く動かせた身体が、動かせない事に。
「ッッ!?クソったれっ!」
そう叫ぶゴウの眼には、自分に手を伸ばす、自分の姿が映っていた。
「うああぁぁぁぁぁぁん!?ゴヴッッ!ゴヴッッッ!!!何でっ!?何でっ!?うあああぁぁぁ!!」
アンリーの泣き声が、瓦礫の山と成った村に木霊する。いや、アンリーの泣き声だけではない。地下壕から脱出した村人達やヘル達。更に、リンの泣き声が木霊していた。
「・・・グズッ・・何でっ?・・何でっ?ゴヴ!?」
ミーセが、泣きながらゴウの死体を激しく揺らす。
その時、揺らされた反動で、ゴウの服の中に仕舞われていた手帳の様な物が飛び出る。
「・・・ッッ!?な・・何これ・・・!?」
そう驚愕するミーセの目線の先では、手帳が激しく発光していた。
そして、光が蠢き出し、人の形に変わり出す。
「こ、こ・・これは・・・?」
「一体何が・・・・・?」
その奇抜さに、ミーセ以外の者達の意識も、全て光に移される。
『あ、ああ、テスト、テスト。・・俺を認識している者達、聴こえているか?』
そして、光が弱まると、ゴウと瓜二つの、いや、ゴウが成長したら、こうなるであろう姿が現れる。
『先に言っとくが、これは単なる映像、受け答えはしないので、宜しく。・・・取り敢えず、いきなりだが、本題に入らせてもらう。』
「・・・本題?」
剰りの異常さに、泣き止んだミーセが、思わずと言う風に呟く。
『これが発動したと言う事は、ゴウは、死んだんだろう?』
次の瞬間、辺り一体を怒気が支配する。
「・・・それが、本題?」
怒気の生産者、リンが殺気を凝れでもかと言う程込めた、言葉を発する。
『―――だが、それは、間違いだ。』
「「「「「「「「・・・・・・・・。」」」」」」」」
数十秒の間、リンだけでは無く、アンリー達も固まる。
『もう一度言う。・・ゴウは、死んでいない。』
「・・・は、はは。・・・冗談言わないで頂戴っっ!!・・・ゴウは・・・・ゴウは!死んで締まったのっ!!・・・・私は・・・ゴウを、守れなかったのぉ・・・ううぅぅ。」
『ああ、すまん。正確には、新たに生まれ変わるのだ。』
「「「「「「「「・・・・・・・・。」」」」」」」」
再度、固まるリン達。
「・・・ッッッ!?・・・生まれ変わる・・?」
一人だけ、復活したリンが呟く。
『俺の力によってな。』
「じゃ・・・・じゃ、じゃあ、ゴウは、死なないって、事?」
「・・・や・・やったーっっ!!」
「良がっだーーっっ!!!」
「ほんと、ぐずっ・・本当に、っしっくっ・・良かった。」
「うんっ!うんうんっ!良かったっ!」
映像に映る人物の発言で、リン達は歓喜に包まれる。
『ゴホンッ。・・俺が、こんな事したのは、ゴウが生まれ変わる事を伝える為じゃ無い。』
映像の人物は、態とらしい咳払いをすると、この映像を準備した理由を語り始める。
『こんな事をしたのは、お前等に警告する為だ。』
「・・警告・・・?」
『ゴウは、生まれ変わると同時に、新たな力を手に入れる。知ってると思うが、強大な力は力を引き寄せる。良くも悪くもだ。・・・だから、強大な力を得たゴウには、強者が引き寄せられるだろう。』
「・・・それが、どうしたの?」
『ゴウが負けるとわ言わん。何せ、これ迄以上に、成長力が高まるのだからな。だが、その時、お前等は、ゴウの邪魔に成るだろう。』
「「「「「「「「・・・・・・・・ッ。」」」」」」」」
リンとヘル達を除いた、全員が黙り混む。否定出来ないのだ。自分達が、ゴウの邪魔に成らないと。
『そして・・・・もしかしたら、誰かが、死ぬかもしれん。そうなったら、ゴウは間違いなく、―――。・・・それに、お前等も死にたく無いだろう?』
「・・・あ・・か・・・・だ・・・・。」
『だから――――』
「貴方に関係無いっっ!!ゴウはっ!」
映像の音が、聴こえない程の大声を、アンリーが出す。
「ゴウは、私達を護るって言ってくれた。だから、貴方が誰で在ろうと、関係無い。口を出さないで。」
今度は、静かに、しかし、真剣な表情で、凄まじい気迫を乗せて、言葉を発する。
『―――――と、言ったって、無駄だろうがな。』
「ッ・・・!?」
『だから、言ったろう?警告と。どうせ、今の俺に強制力は、無いからな。』
「・・・警告・・。」
『最後に、下の手帳に色々書いてある。ゴウにも伝えるが、一応お前等にも伝えて置く。・・・ゴウを、頼む。』
映像の人物は、そう言うと頭を下げた。
「あっ・・ちょっ、ちょっとっ!」
リンの制止も虚しく、映像は徐々に消えていった。
その後、リン達は、只立ち尽くすしか無かった。
時は、ゴウが己の姿をした者と対峙した時まで、遡る。
「安心しろ。・・と、言っても無駄か。」
ゴウの性格を熟知している者は、一応声を掛けるが、直ぐ様、自分で否定する。
「まっ、良い。取り敢えず、動くな。」
そう言いながら、ゴウの姿をした者は、ゴウの頭に触れる。
「ッッッ!?」
「分かると思うが、これは、全て事実だ。」
「・・これは・・・・情報が、流れて来る・・?」
今、ゴウの姿をした者は、ゴウの脳内に直接情報を流し込んでいた。その為、ゴウの脳内では、膨大な量の情報が処理され、目の前の者に対する警戒の思考が、無くなっていた。
「・・・・・・・。・・兄・・貴・・・・?」
やっと情報の処理が、終わりかけたゴウから、言葉が漏れる。
「んな大層なもんじゃねぇよ。・・いいか、ゴウ。これからお前は、怪物、いや、化けもんと殺り合わなきゃいけねぇ。・・・だからこそ、もっと強く成れ。そして・・『最強の王』に成って、今度こそ、幸せに成れ。・・・・それが、俺の幸せでも有るからな。」
そう言うゴウの姿をした者の顔は、嘆きの感情に満ちていた。
そして、ゴウの姿をした者が、言葉を言い終わると同時に、ゴウの姿をした者の身体が、光の粒子に分解されて行く。
「・・・・すまねぇ。俺が、もっと強ければ、お前を・・お前を、こんな目に会わせずに、済んだのに。すまねぇ。」
ゴウの姿をした者は、眼に涙を貯めながら呟く。その姿を見たゴウは―――
「あぁ。そうだな。兄貴が、ちゃんとしてれば、俺は、こんな事には、成らなかった。」
「すまねぇ、すまねぇなぁ。」
ゴウの姿をした者は、謝り続ける。
「・・・だがよ。兄貴は、兄貴だ。それに、俺の為に、滅茶苦茶頑張ってくれたじゃねぇか。」
「ッッッ!?・・お前は、俺を・・・俺を兄と呼んでくれるのか・・・?・・・・・っっ。」
「当たりめぇだろうが。・・だからよ、ゆっくり休んでくれや。」
「・・ああ。・・・有り難う。・・そして、いや・・・・俺は、何時もお前の側に・・居る。」
その言葉を最後に、ゴウの姿をした者、いや、ゴウの兄は、完全に消えた。
「・・・・・・・。道筋はたった、か。」
そう言うゴウの顔には、決意の感情で、満ち溢れていた。
(今度こそ・・・今度こそ・・・・今度こそ、必ず、『最強の王』に成る・・・。)
ゴウが、そう新たに決意していると、ゴウの意識は、段々と薄れていった。
「・・・こんな事が在ったなんて。」
映像が消えた後、暫く固まって居たリン達だったが、再び復活し、残った手帳を読んでいた。
「・・これの事はゴウには、知らせない方が良いみたいだね。」
「ええ。そうね。」
手帳を読み終えたリン達は、手帳の存在をゴウに知らせないと言う結論に至る。
「あっ!?ゴウがっっ!?」
突如として、大声を上げるアンリーに反応し、その言葉を理解すると同時に、ゴウを見るリン達。
「・・ッッ!?・・・はぁ。もう、驚き疲れたよ。」
「・・・もしかして、これが、生まれ変わる?」
今日何度目か分からない驚愕を挙げるリン達の目の前では、ゴウが黒い靄の様な物に、包まれていた。
そして、段々と靄が、晴れていく。
「・・っはぁっ。・・っあぁ、気持ち悪・・・。」
靄に包まれていたゴウは、起き上がると悪態を付く。
「っ・・痛・・・つぅ・・・だる。」
「「「「「「「「ゴウッッッ!!!」」」」」」」」
「うおっっ!?どっ、どうしたんだ!?」
いきなり叫びながら突進して来るリン達に、ゴウは驚愕を隠せ無かった。
「っよがっっだ!!私、私、ゴウがじんだがど思っだああ!!!」
「?よしよし。」
アンリーの言葉に疑問を持ちながら、色々と悲惨な事になったゴウは、取り敢えず、アンリーの頭を撫でる。
(・・・あぁ、そう言う事か。)
「えっ?ちょっ!」
ゴウに、頭を撫でられて居たアンリーは、いきなり強力な力に引っ張られ、驚きの声を挙げる。
「よかったぁ。」
アンリーを、強力な力で引っ張ったのは、リンだった。
リンは、安堵の声を挙げながら、力の限りゴウを、抱き締める。
「・・・ぶぐっ・・ぐ・・・ぇ。」
ゴウも精一杯の抵抗をするが、元々の膂力が違い過ぎる上に、疲労困憊のゴウが敵う筈も無く、リンの豊満な胸で窒息させられる。
「・・?・・・ああ!ご免なさいっ!大丈夫っ!?」
「グッフッ、ゴホッ!・・・ふうー、はあー、ふうー、はあー。だ、大丈夫。ふぅー。」
「ご、ご免ねっ!只でさえ疲れてるのに・・。」
「あら、珍しいわね。貴女が、そんなに成るなんて。」
「「「ッッッ!?」」」
いきなり響いた見知らぬ声に、ゴウ・ヘル・【黒鋼熊(亜種:闇・|炎《フレイム
》)】―――ボルグが、驚愕しながら、声の響いた方向を見る。
「貴方が、ゴウね?これから、宜しく。」
その声の主の麗人は、満面の笑みを浮かべて、言い放った。
「あなた。」