初敗北
(ステータスが見れない。・・・予想はしていたが、これ程速く見れない奴が現れるか。不幸だな。)
ゴウは、聖職者の様な格好をした人間を見つけると、スキル「魔眼王」の能力、ステータス看破の効果範囲内に入り、ステータスを看破しようとしたが、看破出来なかった。ゴウは、この様な事が有ると前々から予想していたので、この結果に慌て無かった。
しかし、慌てる事は無くとも、その事を不幸と嘆いた。だが、その顔には、獰猛な嗤いが在った。
(ククッ・・・面白い。スキルか装備か知らないが、どちらにしろ、戦力強化に成る。)
「よお。お前が、親玉だな?・・いや、正確には依頼者、か?」
ゴウは、その人間に近付き、話し掛ける。
「貴方が・・・貴方が、あのお方が仰有られていた、魔に犯されし少年ね。」
澄んだ女の声が、響く。
「魔に犯されし少年?・・・魔とは、【狂愛なる淫魔】の事か?」
「【狂愛なる淫魔】?・・あははははっ!・・・そんな下等種族、あのお方が、気に掛ける分けないでしょう!はははっ!」
女は、心底可笑しいようで、嗤い続ける。
「・・・下等・・?」
小さく、小さく、ゴウは呟く。その小ささは、至近距離に居る女が気付かない程、小さな音量だった。
「私の名は、アビンリース・ビガンズ・ボルス。気高く崇高な、“ベーチェルナ神聖教国”の主席司教の座に就く者よ。」
“ベーチェルナ神聖教国”この世界でも珍しい、宗教国家だ。“ベーチェルナ神聖教国”は、聖女神王を神々の王と定める、ベーチェルナ神聖教が運営する国だ。“ベーチェルナ神聖教国”は、世界でも最上位の国で、人族至上主義を掲げ、人族以外を殺し廻っている。
「ベーチェルナ?・・おいおい、“ベーチェルナ神聖教国”と言えば、強国中の強国じゃないか。」
「ええ、そうよ。」
ゴウの言葉に、アビンリースは機嫌を良くする。
「だがよ。何故、こんな場所に居るんだ?お前等の総本山は、別大陸だろ?・・この大陸は、まだ、海に面してる国だけで、布教してるんだろ?」
「クッフッ・・フフフッ!言ったでしょ?魔に犯されし少年を救済する為よ。」
「そうか・・・なら、調度良い。」
「は?・・何を言ってるの?」
次の瞬間、凄まじい殺気が、辺り一帯を支配する。
「お前を殺すのに調度良いて言ったんだよ。」
「ッッ!?」
アビンリースは、驚愕する。ゴウの声が、自分の後ろから、聞こえる事に。
ゴウの声に反応したアビンリースは、直ぐ様後ろを振り向く。そして、その瞳に「血毒の斧槍」を今にも降り下ろそうとするゴウの姿を写す。
「ッー!?――――」
アビンリースは、一瞬の隙すら見せなかったのに、自分の後ろに移動された事に驚きつつ、魔法の発動言葉を紡ごうとする。
「『上段割り』×『剛斧割り』ッッッ!!」
女が発動言葉を紡ぐ前に、ゴウが発動言葉を叫ぶ。スキル「武神」LV4『剛斧割り』とLV3『上段割り』は、どちらも上段からの降り下ろしの技だ。
ゴウの膂力・スキル「原初魔法」による魔力強化・落下の重力・「血毒の斧槍」自体の重量と通常攻撃でも人間を簡単に殺せる攻撃力なのだが、ゴウは更に、とあるスキルを使い二重で技を繰り出す。
上記の全ての要素が、上手く重なり合い、LV5の技と同等の威力と成り、ゴウの格下は勿論、ゴウと同等の実力では、一撃で致死傷と成る威力を持っていた。
「甘いわ。」
先程の驚愕を全く感じさせない冷静なアビンリースの声が響く。
次の瞬間、凄まじい激突音が響き渡る。
「ッッ!クソッ!」
ゴウは、スキル「結界」で防がれた、と認識すると同時に女から距離を取る。
(チッ!此れを防ぐか・・。今ので、腕に大分負荷を掛けちまった。腕は、暫く使えないし、使えたとしても、単体じゃ意味が無い。となると、残りは――――)
「ねぇ、貴方。まさか、此れで終わり?」
「勝手にほざいてろっ!クソ女っ!・・我、紡ぎ、改変させ、顕現させるは、悪虐なる魔鬼の契約。」
“発動言葉”それは、スキル発動時に多くの者が発する言葉だ。しかし、発動言葉はスキル発動に必ずしも必要と言う事は無い。では、一体発動言葉は、何の意味を成しているかと言うと、『プレパフォーマンス・ルーティーン』の役割を果たして居るのだ。『プレパフォーマンス・ルーティーン』は、一定の動作を行う事で成立するが、この世界の者は、言葉を発する事で『プレパフォーマンス・ルーティーン』を成立させている。常に高いアビリティとコンシャスネスを持つゴウやアンリー等は、普段行う事必要は無いが、発動する技や魔法の名を発する事で、最低限の『プレパフォーマンス・ルーティーン』を行っている。
そして、ゴウが魔法の発動言葉を詠唱すると言う事は、それ程強力な『プレパフォーマンス・ルーティーン』を必要とする魔法と言う事だ。
(その余裕ぶっ壊す!)
アビンリースは、ゴウが長い魔法の発動言葉を詠唱する間何も仕掛けず、余裕を周囲に撒き散らし、傍観していた。
「―――契約に基づき、我に対し者を、持て成せっっ!!『契約をし魂を売った悪虐な人による饗宴』ッッッッ!!!!」
スキル「黒魔法」LV分類不能オリジナル魔法『契約し魂を売った悪虐な人による饗宴』。
この魔法は魔力量に関わらず、全ての魔力を消費する魔法だ。この魔法の1つ目の能力は、ゴウが今現在使用できる魔法を対象に向かって、一定時間放ち続けると言う事だ。
ゴウの魔力により、生成された色取り取りの魔法が、アビンリースに向かう。その魔法は、LV1~LV4迄と、先程のゴウの攻撃の数倍の威力を誇る。
「フフフッ・・・アハッハッハッハッ!凄いわっ!」
だが、アビンリースはその全てをスキル「結界」で、防ぐ。
「アハハハッ!これは、分類不能の魔法ね!しかも、オリジナルッ!流石は、魔に犯されし少年っ!」
この魔法は、分類不能と言う魔法の中でも希少かつ強力な魔法だ。分類不能とは、その名の通りLV分類が出来ない魔法だ。分類不能は、使用する事が出来れば宮廷魔法使に成れると言われている。
しかも、この魔法はオリジナル魔法なので、国遣えの者が見れば、是が非でも己たちの手の内に入れようとするだろう。
「あら、もう終わりかしら?・・う~ん、面白かったけど、まだまだ足りないわね。」
暫くすると、魔法の炸裂音が止む。
そして、土煙が上がるが、その中に無傷のアビンリースが立っていた。
「何が、足りないだって?」
「何がって、魔法――」
ゴウの疑問に土煙を手で、払いながら答えるアビンリースだったが、土煙が晴れ、ゴウの姿を見ると固まる。
「・・・ヴ・・ヴッ、鬼人っ!?・・・いいえっ!!そんな筈無いっ!」
この世界には、地球の人間と殆んど同一種の人の他にも亜人と呼ばれる者達が居る。
そして、アビンリースが見たゴウの姿は、頭に角が生えている亜人の一種、鬼人だった。
「・・何故っ!さっきまで、全て人の特徴だったのにっ!!」
ゴウに後ろから攻撃された時と比べ物にならならない程の動揺を見せる、アビンリース。
「『鬼人化』。・・・・一時的にだが、人を鬼人に変える技術だ。最も、俺以外には、出来ないだろうがな。」
「ッッッ!?まさか・・・まさかっ!今の魔法はっ!?」
「クククッ・・・・あぁ、そうだ。『鬼人化』は、元々一つの技術だった。だが、変化するのに時間が掛かりすぎる上、変化中は行動出来ない。だから、俺はこの魔法を考えた。」
「ッッ!・・変化中、魔法が自動発動し、貴方を守る訳ね。」
「あぁ。だが、助かった。お前が、油断していてくれて。」
(やってしまったわね。まさか、ここ迄とわ。)
「なら、私も本気をだいましょ。貴方を、殺す為に。」
アビンリースが、そう言い放つと同時に、アビンリースから膨大な殺気と神々しいと言える魔力が、溢れだす。
「ハアハアハアッ・・・ングッ!・・フウフウッ・・・ッッッッ・・ハアハアッ・・・っぅう。」
そこは、元の森の原型を留めていなかった。大地は大きく抉れ、大小様々なクレーターが無数に存在し、木々は切られ、折られ、轟々と赤熱の炎を挙げていた。
そして、その中心に2つの人間の影が在った。
1つは、左半身が無く、残った右半身も様々な傷が刻まれている人間の影。
1つは、右腕と左足が無く、残った身体に様々な傷が刻まれている人間の影。
「あ・・ッンゥゥグッ・・・あ・・危なかった。・・・右腕・・左足・・・無くし・・・ブフッ・・けど・・・・治るっ・・・・・あの方・・ご報・・・・・る。」
この戦いを征したのは、アビンリースだ。
「・・・あの方に・・・ぐうぅ・・これが、な・・けれ・・・ば。」
そう言うアビンリースの近くに散乱しているのは、巻物だった。
この巻物は、魔之巻物と言う物だ。使い捨てながら、籠められた魔法を何のデメリット無しに、使用できる最上位の魔導具だ。
「・・・カサッ・・・・・ガサッ・・。」
「ッッ!?・・・ま・・まだ・・・生き・・・・・?」
微かな音から、ゴウが生きていると、認識したアビンリースは、その並外れた生命力に驚愕しながら、ゴウの方向を見る。
だが、その音は、ゴウの物では無かった。
「・・・ゴウ?・・ねぇ、ゴウ。どうしたの?返事して。」
その音元は、【狂愛なる淫魔】―――リンの物だった。
「マッ・・・ブ・・サキュ・・・ぁ・・・ス・・・・・ワール・・を。」
慌てて懐から、魔之巻物を取り出そうとするアビンリースだったが、アビンリースを全て覆い隠す影が現れる。
その影を認識した瞬間、後ろを振り向くアビンリース。
そこには、瞳の中を怒りで燃やし、周辺に怒気と殺気を撒き散らす熊型の魔物―――【黒鋼熊(亜種:|闇
《ダーク》・炎)】が居た。
「ゴガガガアアアアアァァァァ!!!!!」
「・・あ―――」
アビンリースが、最後に見たのは、その豪腕を振り上げる【黒鋼熊(亜種:闇・|炎《フレイム
》)】の姿だった。
聖女神王は、聖なる女神の王です
下記の物は、多分本編には出ないんで、ここに書きます
名前
平民は、個人名のみ
王皇貴族は、個人名・分家名(旧家)・本家名の形
例外とし、一定以上の実力・権力を持つ者の多くは、個人名・名字となる(つまり、2つの名を持つ事は、強者の証)