死闘
遅く成りました!すみません!
ゴウが、この世界に転生して、9年の時が流れていた。
アンリー達の特訓や【灰狼の長(変異種)】の種族進化と名付き魔物化等、様々な事が上手く行き、ゴウの機嫌は大分良かった。
しかし、1つだけ不満が在った。それは、この世界に転生してから死闘を1度も経験して無い事だった。確かに、ゴウは所謂戦闘狂だが、何の利益無しに戦いを求めたりはしない。(強く成ると言う欲が有るから、殆んど変わらないが)
では何故、死闘を求めるかと言うと、戦闘の感や空気や精神的成長を促す為だ。ゴウは、前世の記憶を持ったまま転生したが、今の身体に精神が引っ張られ戦闘の感が鈍ったり退化したりした事を敏感に感じており、それを改善するためだ。
だが、その不満は今日で暫くは無くなる。
何故ならば、ゴウは自分と対等以上、いや、明らかな格上の相手を見つけたのだ。
二日前。ゴウ達は、特訓を終えて村に帰る途中の事だった。
「今日も、疲れた~。」
「・・・きつかった。」
「だが、成長してるのは確かだ。」
「うふふんっ、頑張ってるからね!」
「・・・でも、最近は知識の勉強ばかり。もっと、実戦をしたい。」
「駄目だ。良いか?戦闘に於いて知識は、勝敗を決める要素の1つだ。だから、知識を疎かにする事は勝ちを遠ざけ――」
数ヵ月、いや、1年近く繰り返される問答を何時もの様に繰り返そうとしたが、最後迄続か無かった。
何故ならば―――
「プギギヤヤヤャャャャ!!!!」
森中の全ての音を、掻き消さんばかりの絶叫が鳴り響いたからだ。
「え!?何!?この声!?」
「・・・!?・・此れは、断末魔?」
「・・あぁ。しかも、【豚頭人】のな。」
【豚頭人】。人間の身体に豚の頭が在る魔物だ。
「え!?【豚頭人】って、あの!?」
「・・・間違い無いの?」
「あぁ、間違い無い。・・・チッ。最近は、ハグレが多すぎるぞ。」
『ハグレが多すぎる』ゴウの言葉は的を射た言葉だった。
最近の村周辺は、ハグレが多く出現し、村人達の生活に少なからず影響を及ぼしていた。しかも、そのハグレの殆んどが村の周辺の魔物より、上級の魔物だった。その為、魔物でも上級に位置される【狂愛なる淫魔】のリンが居ても、その内リンでも対応出来無い魔物が現れるのでは無いか、と村人達は不安を抱いていた。
(よりによって、【豚頭人】か。どうする?このまま、殺るか?いや、駄目だ。【豚頭人】を殺る奴だぞ。今の装備じゃ、駄目だ。)
ゴウが、そこ迄警戒するのには訳が有った。【豚頭人】は魔物の中でも下級に分類されるが、平均体長1,9メートルの巨体、その身体を支える膂力から繰り出される攻撃、大量の脂肪と分厚い皮の天然の鎧、と下級魔物の中でも上位に位置する魔物で、村周辺の最強種だった。
その為、ゴウは最大限の警戒をしているのだ。
(取り合えず、情報が大事だ。)
「おい、お前等。取り合えず見てくるから、先に帰ってろ。」
「えっ!?ゴウ!?」
「・・・待って!私達も行く!」
「駄目だ!先に帰ってろ。・・分かったな。」
「うぅ~。」
「・・・無事に帰ってきて。」
「ああ。」
(さて、どんな奴だ?)
ミーセ達と別れ、【豚頭人】の断末魔が聞こえた場所に着いたゴウは、一端、木に隠れ【豚頭人】を殺した者を確認していた。
「ッ!!!・・・彼奴は・・【大鬼】。しかも、4,5メートルの体長に黄色の皮。変異亜種か・・。」
通常種の【大鬼】の外見は、体長3メートルに褐色の皮だったので、ステータスを観ずとも変異亜種と、ゴウは直ぐ様判断したのだ。
「・・・・?」
ゴウの気配を感じ取ったのか、殺した【豚頭人】を食べるのを止め、ゴウの方向を【大鬼(変異亜種:雷)】。
「・・・・・っ。」
「・・・。」
やがて気のせいと勘違いした【大鬼(変異亜種:雷)】は、再び、【豚頭人】を食べ始める。
(・・チッ。気配察知能力も高い。)
「フル装備でいくか。」
そして、1日を準備期間に宛て、【大鬼(変異亜種:雷)】を発見してから3日目の夜。ゴウは動き出した。
準備期間の間に【大鬼(変異亜種:雷)】の寝床を探し当て、今から奇襲を仕掛けるところだ。
(・・寝てるな。)
【大鬼(変異亜種:雷)】が、寝ているのを確認すると、ゴウは一気に走り出す。
その奇襲は、完璧な筈だった。
完全に気配を消し、一切の音を消し、最高速度で接近し、全身の力を余す事無く、魔法武器の一種で有る「血毒の斧槍」に集約し、【大鬼(変異亜種:雷)】の首に降り下ろす。その刃は首を胴体から離す、死の刃だった。
しかし、死の刃は完璧に死の刃と化すことは無かった。
「なっ!?避けられたっ・・・ッッ!!」
何故ならば、地べたに横たわり寝ていた【大鬼(変異亜種:雷)】が横に転がる事で、ゴウの攻撃を躱したからだ。
「ガガガガアアアアァァァァ!!!!!」
次の瞬間、飛び起きた【大鬼(変異亜種:雷)】は 己の睡眠を邪魔された事に激怒し、己の睡眠を邪魔した下手人を殺さんとゴウに迫る。
「チィッ!こんな時に「直感」が、発動しやがったのかっ!」
迫り来る拳を、地面に深々とめり込んだ「血毒の斧槍」を引き抜きながら避けるゴウ。
対象を失った剛拳は、地面に当り、地面に亀裂を走らせる。
(此奴、「魔力強化」の技術が高いっ!)
ゴウに、避けられた【大鬼(変異亜種:雷)】は一端下がり、己の武器で有る棍棒状の巨岩を手に取る。
此処で、始めて両者の目線が交差され、両者の間に沈黙が流れる。
(チッ。徹夜だと母さんに心配されるから、態々奇襲を仕掛けたのにな・・・。不運だ。)
「・・掛かってこいっ!このクソ野郎!」
「ググクガガガアアアァァァ!!!!」
「ラアアアアアァァァァァ!!!!」
「ハァーッハァーッハァーッ!・・クソッ・・きつい。」
勝者は、ゴウだった。その姿は満身創痍だったが、実力が拮抗していたので部位損失等の大きな怪我は無かった。
だが、それが、死に繋がらないとは限らない。
「チッ。駄目だ。・・「白魔法」が、効かない。」
実際には効いているのだが、ゴウの消費魔力が少なすぎて効果が低いのだ。
(駄目だ。・・今気絶したら・・・喰われる。・・どうにかして、『遮断する壁』を・・展・・開・・・。)
ゴウは、必死に抵抗するが努力報われず、意識を手離す。
「えっ!?え、え、えっと、えっと、こ、こう言う場合って、どうすればいいの!?」
「くっ!やめ、止めろぉ!・・・ッ!!ハァ・・ハアハァ・・ハァッ。・・・チッ・・・・夢か。」
途轍もない疲労を感じるゴウは、そう言い再び寝ようとする。
「違うっ。寝たら駄目だっ。状況確認を、しなくてわ。」
そう言い、自分の身体を見るゴウ。
「・・・傷が完治してる?それに、此処は・・。」
ゴウの目線の先には、大きな湖が広がっていた。
「この湖、確か・・。森の奥深く、山の手前に在った、湖だ。何故、こんな場所に?戦った場所とは、正反対だぞ?」
「あっ!あのっ!」
「ッ!!!」
いきなり声を掛けられ、驚くゴウは、警戒度を最大に上げ、振り向く。
「えっ、えっと!もう、お身体は、大丈夫何ですか!?」
「・・・・・。お前・・。」
ゴウは、一瞬停止する。それもその筈。ゴウの眼に映る光景は、木から女の上半身が飛び出して要る光景なのだから。
「はっ、はいっ!」
「・・【長寿木の宿り女】なのか・・?」
必死に思考を冷静化し、疲労困憊の頭を無理矢理動かし、知識の奥底から、発見した、情報を絞り出す、ゴウ。
「はっ、はいっ。【長寿木の宿り女】ですっ。」
【長寿木の宿り女】。長き時を過ごした木に宿る、妖精種の一種だ。
【長寿木の宿り女】は、本来自分の気に入った異性にのみ姿を現し、性交を仕掛ける種族だ。
(どう言うことだ?何故、襲わん?)
「お前、意識を持ってから、どのくらい経つ?」
「えっ?」
「速く答えろ。」
「え、え、えっと。・・太陽が沈むのが、2600回くらいです。」
(どうゆう事だ?本能が、覚醒していないのか?)
「あはは。・・此処等辺誰も居なくて。そう言う何気無い事?を、記憶するのが、日課?何ですよ。」
ゴウが、固まっているのを勘違いし、自嘲気味に話す、【長寿木の宿り女】。
「・・・。何故、襲わん?お前等は、本来そう言う種族だろ?」
「えっ?そうなんですか?」
「・・は?」
「・・・まぁ、良い。それより、何故、俺を助けた?」
「えっと。精霊さん達から、助けて上げて、とお願いされたので。」
「そうなのか・・。礼を言う。お前等も、ありがとう。」
「えっ?・・もしかして、精霊さん達が見えるんですか?」
「あぁ。俺は、魔眼を持っているからな。」
「魔眼?」
「お前、何にも知らないんだな。一体、その中途半端な知識は何処で、手に入れたんだ?」
「えっと、精霊さん達が、教えてくれました。」
「ああ、成る程。此奴等じゃそうなるよな。」
「フフフフッ。」
ゴウの回りでは、失礼ねっ!ちゃんと教えたわよ!等と、精霊達が騒ぎ立てていた。
「お前も、笑ってる場合じゃ無いぞ。・・・・そうだ。助けて貰った礼に、いろいろ教えてやろう。」
「えっ?いいんですか?」
ゴウの言葉に、【長寿木の宿り女】の眼が激しく光る。
「あぁ。」
「・・・でも、迷惑なんじゃ・・。」
【長寿木の宿り女】は、迷惑ではないかと、躊躇するが回りの精霊達が、強引に【長寿木の宿り女】を説得する。
「じゃ、宜しくな。」
「はいっ!宜しくお願いします!」
「あっ!しまった、朝だ。怒られる・・・。」




