放棄
お待たせしました。
茫然と立ちつくす松江と萌田兄をそのままに、俺は祐史に促されるまま家に入った。
……アレは放置でいいのか?
「いいんだよ、放っておいて。さすがに朝まではいないはずだから。兄さんが気にかける価値もない」
と、俺の頭の中を読んだように祐史がそう言った。
いや、本当にお前って人の心読めるの? マジ怖い。
それに気はかけてるのじゃなくてかかるんだが。
「だけど、本当に困ったものだよね。姉さんが怒り心頭になるのもわかる」
祐史がため息を吐きながらそう言った。
「で、何なんだ。この状況」
問い返す俺に、祐史は少し首を傾げてみせた。
「……兄さんの所にも姉さんからメールきたんだよね?」
「ああ」
思わず見なかったことにしたメールだがな。
「僕にもきたんで、姉さんに連絡したんだよ。姉さんにしてはかなり混乱したような感じだったし。で、話をしたら……」
「したら?」
「んーと、簡単にまとめると……、兄さんを義弟にしたい思惑と、出来の良い姉さんの有用性にやっと気がついた萌田氏が一石二鳥を狙って姉さんに求婚し、姉さんがあまりの生理的嫌悪に発狂した、ってところかな?」
「…………」
いや、それ意味わからんから。
思わず渋面をした俺に、祐史は笑みを浮かべた。
「わからない? まあ、わからないならわからないでいいよ。もうこんな事起きないように対処するから」
「……どうやって」
祐史は人差し指をスッと口元にやると笑みを深くして言った。
「な・い・しょ」
……さいですか。
まあ、知らなければよかったことなんて山ほどあるからな。
うん、まあいいや。
俺はなにも知らない。
もう知らんわ。
「ん? そういえば松江は……」
「ああ、松江君? 今日はバッティングしたんで騒ぎになったけど、彼の兄さんへのストーカースレスレ行為はいつものことだよ。実害ないんでスルーでいいよ。いつか役に立ってもらうかもしれないし」
……ストーカー?
何やら今不穏なセリフを聞いた気がするんだが。
………………。
まあ、いいや。
もういい。
俺の許容量はとっくにオーバーだ。
何があってもどうせ祐史がうまくやるだろ。
うちのなんかキモくて内面ドス黒い、実は一番最恐なんじゃねーかってな弟が。
……はあ、疲れた。
あまりの面倒くささに、俺は深く考えるのを放棄したのだった。
次回もお願い致します。




