その後の経緯
近衛君編これにて終了。
しばらくはそんな日々が近づくかと思ってたんだけどね、と苦笑気味に近衛は言った。
それは、近衛にも予想外のことだった。
辰巳の家の周辺一帯が突然買収されることになった。
買収を行ったのは、もちろんのこと、御加賀見である。
拒否する家もあっただろうが、その気持ちがあっさりグラつくほどの好条件が示された。
もとの家よりも広く利便性も良い代替地、莫大な金額の提示。
そこまでしてどうしてこの土地を欲するのかわからないほど。
そして、その中に近衛の母親の実家も含まれていた。
今なら御加賀見は単に辰巳家の横に自邸を置きたかっただけとわかるが、当時の近衛にはそれは露知らぬことだった。
仮にわかっていたとしても、納得はできなかっただろう。
妨害するつもりでいた近衛だった。
が、近衛は出会ったのだ。
その時実際に現場で支持を出していた、その少女に。
近衛の主となる、御加賀見千草に。
「まあ、いろいろあってね」
と詳細は省略しつつ、要は御加賀見の下で働くことにしたのだ、と近衛は語った。
もちろん今もそうだが当時も未成年の近衛である。
雇用関係にしても、大人のソレとは内情は異なるが。
当然保護者の位置づけである幸広の義理の兄にも話を通してのことだったが、この辺の事情は一切幸広には説明されていなかったらしい。
さっきまで気づきもしなかったことだけど、と近衛はポリポリと頭をかいた。
独立には早すぎると義兄は難色を示したが、結局は近衛の強い希望と御加賀見の責任を持つという後押しでトントン拍子に話は進んだ。
「……なんで、そんなことに?」
「だって、おもしろそうだったから」
結局のところ、近衛の行動原理はこれ一択に限られる。
おもしろそう。
おもしろい。
それが、すべて。
御加賀見は御加賀見で使える人間は大歓迎だった。
当時から大人顔負けの勢いで仕事をこなしていた御加賀見は、その片腕に成り得る人間を求めていた。
普通の子供の枠からはみ出していた近衛は、自分が自分らしく楽に呼吸できる場所を求めていた。
需要と供給。
ふたりは出会うべくして出会った主従だった。
「ちょっと残念だったのは、辰巳と気軽に会えなくなることだったんだけど」
でも、親友なんだから。
しばらくの間会えなくても、大丈夫。
それは。
間違いなく近衛の身勝手な甘え。
「……で、まあお嬢様の指示やその仕事の関係であちこち動いてて、詳しいことは省くけどいろいろあって、本当にいろいろあって、気がついたらあっという間に時間はたってて……」
しばらく、なんて期間ではなくなってて。
それでも、大丈夫だなんて、なんの保証もない自信だけはあって。
今回の御加賀見からの呼び出しで、ああ、これで久々辰巳にも会えるな、なんてのんきに思ってたりして。
「……ごめんね」
本当に、ごめん。
「……いいさ、もう」
もう、その謝罪はすでに受け取ったのだから。
もう、いい。
わかった、から。
だから、もういい。
俺はゆるく首を振ると、近衛をまっすぐ見て問いかけた。
「おまえ、今、楽しい?」
この俺といる場だけでなく。
今の環境は。
今の待遇は。
今のおまえの気持ちは。
そうであれば、いい。
それならば、いい。
近衛はきょとんとした顔をしていたが、やがて辰巳の意図を読み取ったかのように、満面の笑みを浮かべて頷いた。
「ああ、とても。とっても楽しいよ、辰巳」
いろいろを、いろいろって言葉で省略。
いろいろって便利。
次回からは〆に入ります。




