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解決

ゆっきー問題かいけーつ。

 近衛は深く息を吐くと、おもむろに携帯を手にした。


「…………あ、義兄さん? ボクだよ、近衛君。久しぶりだね。ああ、ちょっとですむから。近況報告は後でメールでもしておくよ。……それより、あなたの息子、そう、雪路。なんかボクと自分が腹違いの兄弟って思っていたみたいなんだけど。……知らないよ、そんなこと。自分で聞いてよ。……そこんとこ、説明責任は自分で果たしてよね。じゃ、また」


 ブチッ。


 そして、呆然とする俺たちを見ると、にっと笑みを浮かべた。


「そーゆーことで、今日は解散。お嬢様、悪いけど今日これからと明日はお休み頂きます。いいですよね? ここんとこ馬車馬のように働いたし」


 その言葉に御加賀見は眉をしかめた。


「よろしいですけれど……、これは貸しひとつ、ですわよ」


「了解です。たまりにたまってたお嬢様への貸しがひとつへった、ということでいいですよね」


「……まったく、あなたという方は……」


 御加賀見はゆるく首を振ると、萌田を振り返った。


「帰りますわよ、萌田さん」


「え、えええええええええええ」


 突然声をかけられた萌田は変な声をあげた。


「ここからは人様のお宅の私事になりますもの。それに……」


 御加賀見は今度は俺に視線を向けると微笑んだ。


「雅紀、ではわたくしたちはこれで失礼いたしますわ」


 ……つか、俺も一緒に帰るとこじゃね?


 と思ったところ、近衛が俺の腕を掴んで言った。


「悪いけど、辰巳はもう少し残ってくれる?」


 なんじゃそりゃ。


「それでは」


 軽くお辞儀をして玄関へと向かって歩き出した御加賀見に、萌田はあわあわしていたが、くるっと幸広に向き直ると、胸の前で両手をあわせた。


「幸広君、あの、その……、わ、わ、わたし……、わたし、ま、待ってますから! 学校、き、きてくださいね! ゆ、ゆ、ゆゆゆ幸広君は、た、大切な、……お、おおおおお友達ですから……!」


 そう真っ赤な顔をして、ぺこりと頭を下げるとバタバタと御加賀見の後を追っていった。


「さて」


 近衛はそう言うと、幸広にこてりと首を傾げてみせた。


「あの電話の感じからすると、義兄さんすぐ戻ってくるだろうから、たまには親子でじっくり語り合ってくださいな。ボクが言うのもなんだけど、君たち、会話がなさ過ぎだと思うよ? せめて変な誤解はといておいてね」


「…………誤解、なのか。本当に……」


「うん、もうボクもびっくりだよ。あえて公言してることじゃないけど、隠してることでもなかったからね。……安心しなよ。ボクは君の場所を奪ったりはしないからさ」


 ポンッと軽く近衛に胸をつかれた幸広は、大きく目を見開いた。


 ああ、そうか。


 俺はやっとわかった。


 幸広が近衛の真似をしようとした理由。


 その焦り。


 その不安。


 同じような存在だと思っていたものが、実は自分より上だった、と感じたなら。


 そして、その存在がいつでも自分と成り代わることができるものだったとしたら。


 きっと、幸広に自覚はなかったのだろう。


 そして、近衛はそれに気がついた。


 近衛はくるりと俺に向き直ると、すこしせつなげな表情で言った。


「……では辰巳、この後ボクにもう少し時間もらえるかな? ボクたちも……、きっと……必要だろう?」


「…………ああ」


 頷き、近衛について歩き出した俺に、「たつみん……!」と幸広の声がかかる。


 足を止め、振り向いた俺に、幸広ははもどかしげな顔をしていた。


「……ん?」


「あ……、あの……、今日は……来てくれて……、ありがとう……」


 幸広らしからぬ言葉の切れの悪さに、俺は思わず苦笑をもらす。


「いいさ。…………親友、なんだろ?」


 その俺の返しに、うつむきがちだった幸広はばっと顔をあげた。


 そして、雪がとけて春がきたかのような変化が、そこにあらわれた。


「…………うん!」






 幸広はここにきてはじめて、今までで一番の笑顔を浮かべ、頷いたのだった。


次回からはたつみんと近衛君。

それが終了したらエピローグまっしぐらー、の予定です。

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