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爆弾発言

お待たせしました。本当。

今回ちょっとだけ長めです(当社比)。

「違う……?」


 そこで反応を示したのは、幸広だった。


 どこか呆然としたような表情のままで。


 俺は頷いた。


「違うだろ」


「……どこが?」


 幸広の返しに、俺は腕を組み二人の違いを改めて思い返した。


「……まあ、確かに雰囲気とか似てるか? とかはちょっと思ったけど、意図して似せていたのならそれも納得だよな。血縁の繋がりがあるのなら、外見で似てるとこもあるだろうし」


 色素が薄いとことか、造作が良いとことかな。


「だけど、近衛はおまえみたいに語尾をのばしてしゃべらねーし」


 やわらかい物言いを真似たんだろうが、近衛は語尾はきっちり切り上げてんだよな。


「おまえは人のことすぐ変なあだ名つけて呼ぶけど、近衛は基本苗字・名前呼びだしな」


 近衛が他人を姫や天使呼ばわりすることはまずない。


 御加賀見のことをお嬢様呼ばわりしてんのは雇用関係あるらしいから、まあ別枠だろうしな。


「それに近衛は自分の興味対象外は完全スルーだけど、おまえは八方美人の傾向あるだろ」


 さすがに無視はしないが、近衛の対応はそれに近い。


 対して、幸広はどんな相手でも基本にこやかに対応する。


「おまえ、スキンシップ激しいし。近衛は一定距離以上は絶対近寄ってこねえよ」


 近衛は親しげであるようでいて、その線引きははっきりしていた。


「なにより、近衛はまわりを引っかきまわすだけ引っかきまわして放置するが、おまえはそれをうまくまとめるだろ」


「……えらい言われ様だね、ボク……」


 近衛が溜め息をもらすような声でそう言ったが、だって事実だろ。


 実際のところ。


 それが、一番の違いかもしれない。


 近衛はいつも突然現れては消えた。


 今回はその期間が長かっただけで、それは初めて会った時からそうだった。


 自分の言いたいことだけ言って、自分のしたいことだけをする。


 相手の都合や反応はおかまいなしだ。


 だけど、幸広はその場をまとめようと動く。


 それが意識してのもとか、無意識のことかは知らないが。


 学校でも、突然昔の同級生がわいて出た時も、みんなで遊びに出た時も。


 面倒事が起きたら幸広に振れば、そう自然に思うようになったくらいに。


 これが近衛であれば、余計場を混乱させることしかしそうにない。


 何故なら、近衛の基準はいつも自分が「おもしろい」と思える状況であること、だから。


 ……ん?

 

 ふと、疑問に思う。


 なんで幸広は…………。


「近衛の真似を、しようと思ったんだ……?」


 その問いに、幸広の身体が瞬間強張った。

 

 そして、近衛をちらりと見た後、俺にまた視線を戻した。


 どこかその表情は、迷子の幼子のようなものに思えた。


「……昔、たつみんとあれが一緒にいるのを見た」


 少しの躊躇いを含んだその声は、静かに息を吐き出す。


「ずっと、僕と同じ存在だと思ってた。空虚な存在だと。だけど、君と一緒にいるその姿は、決してそんなものには思えなかった。羨ましかった。それがなんだかわからなかったけど、僕もそれが欲しかった。だから、その時に見た言動を真似れば、それが手に入るかと思った。……でもそうか、語尾か……。実際にそばで接したことはないから、そこは食い違ったんだね」


 そこで幸広は、諦めに似た笑みを浮かべる。


「……でも、言動だけを真似しても、僕の心の空虚さは変わらなかった。どれだけ周囲の人間とうまくやっていけても……、いや、うまくやれるほどにその空虚さは増していくかのようだった。……でも、高校でたつみんを見かけて、あの時のあれと同じように、たつみんの横にいることができたなら、そのそばにいる立場を手に入れられたのならきっと、そう思って……」


 その結果が、過度なスキンシップ。


 親友だと何度も繰り返し言う、その位置づけの強調。


 幸広が欲しかったものとは、本当に欲しかったものとは、それはいったいなんなのか。


「でも、真似は真似でしかない。本物が現れたら、もう駄目だと思った」


 本物とは、近衛のことか。


「……なんで、こんなに違うんだろう。僕らの違いは、母親が違うだけのはずだったのに……」


 突然、幸広が爆弾発言を落とす。


 いや、それかなり違うから。


 そこ、違うだけとかのレベルじゃないから。


 とはつっこめない空気に、「は?」と声を返したのは当事者の近衛だった。


「異母兄弟? ボクと君が?」


 訝しげな近衛の声。


 そんな反応に、俺は近衛を見た。


「違うのか?」


 違うとしたら、ずいぶんな認識の違いがそこにはあるようだが。


「いや、確かに異母兄弟だけど。ボクと君の父親は」


「……え?」


「え、ていうか、それ本気? ボクのこと君の異母兄弟だと思ってたの? 本当に知らなかった? 誰からも話聞いてないとか、…………なにをやってるんだか、みんな。ああ、ボクもか……。まいったね、これは。まず、そこからなんだ……」


 近衛は幸広の反応を受け、脱力したように言った。






「君はボクの甥っ子だよ、幸広雪路」


次回へ続きます。

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