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対峙

今月ラストの更新です。

 幸広の部屋へ向かおうとする俺達を慌てて止めようとしたお手伝いさんを、近衛はいつもの笑みとトークでやんわりとかわし、すたすたと歩いていく。


 その後ろを、俺、御加賀見、萌田と続く。


 しかし長いなこの廊下。


 まるで迷路のようだ。


 そして、静かだ。


 人気ひとけがなく、シンと静まり返っている。


「……おまえも昔ここに住んでたのか」


 そんな質問のような、独り言のような俺の呟きを拾い上げ、近衛は肩越しに振り向いた。


「うーん、僕は離れにいたからね。こちらの母屋で寝起きしたことはないよ。でもまあもちろん入ったことはあるし構造は知ってるから迷子になるようなことはないよ。安心して?」


 別にそんな心配をしていたわけじゃないが。


「あー、着いた。ここだね」


 そう言って近衛が立ち止まった先には、派手ではないが品のある襖があった。


 どうやらここが、幸広の私室らしい。


「やあ、雪路。ここを開けてくれるかい?」


 近衛がそう声をかけた。


 返事はない。


「困ったね。じゃあ勝手に入るよ?」


 まったく困ってはなさそうな口調でそう言うと、近衛は襖に手をかけた。


 が、開かない。


 鍵が掛かるようには見えないので、恐らくつっかえ棒でもしてあるのだろう。


「まいったね」


 そう口にはするもののまったくまいってはない様子で、近衛は頭をかいた。


「実はね、辰巳も連れてきているんだ」


「…………っ」


 近衛がそう言った途端、襖の向こうで息を呑んだ気配がした。

 

「今、ここに一緒にいるよ」


 バアンッ!


 勢いよく開かれる、その襖。


 現れた幸広は、もとより白いその顔からより血の気が引いたような様子だった。


 少し、やつれたかもしれない。


「なんで……」


 そう言いかけ、幸広は言葉を詰まらせたように黙り込んだ。


「ああ、やっぱりすごい効果だね。天の岩戸大作戦成功」


 対照的に、近衛はにこやかにそう言った。


 そして、じっと幸広を見た。


「こうやって、直接話をするのは初めてかな?」


「…………」


 幸広は応えない。


「なにをそんなに怖がってるかは知らないけど、ちょっと心外だよ? ……ああ、もしかして」


 怖がっている?


 幸広が?


「ぼ、僕は……」


「ボクの真似をすれば、ボクに成り変われると思った?」


 そう、近衛が口をした瞬間。


 その瞬間、幸広の顔が凍りついた。


「その口調、人への接し方、態度、仕種……、いくらか観察させてもらったんだけど、昔の君とは大違いだね? ボクの記憶に違いがなければ、それってボクに非常に似かよっていると思うんだ」


 それは、俺も思ったことだった。


 既視感の正体はそれだったのだ。


「そんなにボクの立場が良いとは思えないけれど、それをして君はなにが欲しかったのかな?」


 近衛は首を傾げてみせた。


「ああ、もしかして」


 近衛がポンッと手を打ってみせた。


「ボクの真似をすれば、辰巳の横にいられると思った?」


 ひゅっと、幸広が息を呑む音がした。


「残念だけど」


 近衛はにっと笑みを浮かべた。


「君は決してボクにはなれないよ」


 バチンッ!


 その言葉を近衛が発したその時、その場の空気を破る大きな音がした。


 いや、させたのは俺か。


 その音は、俺が近衛の両頬を挟み込むように両手で叩いた音だった。


 それに、御加賀見も萌田も幸広も、そして滅多に余裕の表情を崩すことがない近衛でさえも驚いたような表情をした。


 俺は、伏せていた顔を上げ、ぎっと近衛を睨んだ。


「……雅紀が本気で……怒った……」


 そう呟くような御加賀見の声が聞こえたが、それはスルーする。


 俺は腹に胆力を込めて言った。






「――――――――――――おまえが、悪い」


たつみん、キレました。

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