待ち時間にて
たつみん思考する、の回。
広大な幸広家の屋敷の来客用の部屋へ通され、お茶と茶菓子を供された。
来客用の部屋はこれぞ見本かと思うような完璧な日本間だった。
香りのいい真新しい畳、重厚な机、厚みのある触りの良い座布団、値の張りそうな品格のある掛け軸や置物。
茶菓子は口当たりの良い生菓子で、お茶は玉露のようである。
…………落ち着かない…………。
今すぐ自室のベッドの上で煎餅でもかじりながら横になりたい気分である。
近衛は実家とのたまっただけあってすっかり寛いだ様子だし、御加賀見は場の雰囲気に完全の溶け込んでいる。
さすが日本、いや世界有数のお嬢。
萌田は落ち着かない様子でそわそわしてはいるが、これは萌田の通常運転だ。
やはり、俺は根っからの庶民であると改めて思った。
俺はゆったりとした動作で茶を口にする近衛を見やった。
近衛の背景など想像もつかなかったが、やはりいいとこの子供だったか。
貧乏家で大家族に囲まれて育った、というよりはよほど納得できる。
ふと、近衛の察しの良さに既視感を感じたのを思い出す。
ああそうか。
似ていたのだ。
幸広と、近衛の、その感じが。
外見が似ているわけではない。
どちらかと言えば全体的にやわらかい雰囲気を纏っている、というところは同じだが、外見的な特徴で親族と見極めるのは難しいだろう。
だが、こうして比較すると、驚くほど似ている部分がある。
のんびりとした話し方。
人の気持ちを察して動く、その言動。
顔に浮かべる、ゆるい笑み。
折々でみせる、オーバーリアクション。
だが、似ていると思って比較すると、明らかに異なる相違。
それは……。
「うーん、駄目そうだね、うん」
そんな近衛の言葉に、俺は思考を遮断して意識を近衛に向ける。
近衛は額に手を添え、わざとらしく首を振ってみせた。
「何が駄目なんですの、近衛」
質問を投げかけたのは、御加賀見だった。
「待ってても無駄みたいですよ、お嬢様。閉じこもった甘えったれは出てくる様子はないようですね」
「では、どうなさるの」
「あれ? ボクにお任せですか?」
「当たり前でしょう。ここはあなたのテリトリーですもの。あなたにお任せ致しますわ」
「そうですねえ……、では」
近衛は、にっと人を喰ったような笑みを浮かべて言った。
「天の岩土をこじ開けましょうか」
次回はゆっきーご対面です。




