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独り言

近衛君視点です。

「ふん、ふん、ふーん……」


 静かな理事長室の中に、軽快な鼻歌が響く。


 その鼻歌の主は、軽いタッチでパソコンのキーを叩いていく。


 その鼻歌の主は、近衛君だった。


 近衛は、キリのいいところまで終わらせると、使っていたノートパソコンを閉じた。


「さて、と」


 近衛は隣の生徒会へ向かうと、手慣れた仕種でコーヒーを淹れた。


 ここに置かれているもは、ドリップ式のものだ。


 しばらくすると、芳しい香りが漂ってくる。


「さすがに良い豆を使ってる、ね。さすがお金持ち学校だ」


 ご機嫌な様子でコーヒーカップを手にしたまま、理事長室へと戻ると、近衛は愛用の手帳を開いた。


 電子手帳のが便利でしょうといくら主に言われても、近衛は革製の表紙の直にペンで字を書きいれるタイプの方が好みだった。


「んー、仕事の方は順調、と。も少し増やしてもオッケーかな? 頼まれてた弟君の教育は……、うん、ここじゃ甘えが出て駄目だね。準備が出来次第即刻隔離、と。ええと、後は……」

 

 口に出しながら必要事項を確認していくと、少しだけ開けた窓の外から学校の生徒がはしゃぐ声が聞こえてきた。


 ふとそちらに意識を向けた近衛は、うっすらと笑みを浮かべる。


 近衛自身は学業はすべて通信で大学院の課程まで終了している。


 主である御加賀見も同様だ。


 本来は今頃国から国へと空の上を飛び回る生活をしているはずなのに。


 御加賀見家は世界を相手にしたビジネスを展開しているのだから。


 しかし千草は、こんなところで一介の高校生なんて酔狂なことをしている。


 普通の学生生活をしたかったのか?


 こうして数日、学業ではないが、高校に通ってみて確かに近衛もその雰囲気は楽しめた。


 が、それだけだ。


 主も基本、同じ性質なはず。


 選べるのであれば、そして実際に選べる立場であるのだから、本来の居場所はここではない。


 なのにここにいる理由はただひとつ。


 すべてはただひとり、好いた相手、辰巳雅紀のそばにいるためだけに。


「まったく、あいつも大変な相手に好かれたもんだ。さっすがボクの辰巳」


 頭に浮かぶのは、どこか戸惑った様子の成長した親友の姿。


 しばらく会っていなかったが、変わった様子はなかった。


 それは、ちょっと嬉しかった。


 せっかくなのだから、今回この場を離れるまでにはもう少し親交を取り戻しておきたい。


 それと……。


 幸広雪路。


 近衛が学校に姿を見せた翌日から欠席が続いている。


 原因は、恐らく近衛だろう。

 

 近衛はパタンッと手帳を閉じると、コクッとコーヒーを飲んでにんまり笑みを浮かべた。






「うーん、今回はこれも、きちんとしていかないと。うん、忙しい忙しい。頑張れ、ボク」


終わりまで後少し、最後までお付き合いください。

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