君の名は 4
やっとサブタイトルと話の内容一致。
次にそいつに会ったのは小学校3年の初夏。
もうすぐ夏休み、というその日。
そいつはまた俺の前に現れた。
コンビニからの帰り道、公園の横を歩いていたら、いきなり頭上から靴が降ってきた。
「……?」
目の前に落ちた靴を拾いあげ、上を見上げると、そこには……。
「あ、ごめんごめん。大丈夫だった? ……あれ、君か」
高い木の枝から俺を見下ろしていたのは、三度目の出会いになるそいつだった。
「……なにやってんだ?」
「ん? 見てわからない? 木登りさ」
そう言って、そいつは面白そうに笑った。
どこで会っても、何をしていてもいつも愉快そうにしている。
不思議な奴だな、と思って、俺は驚いた。
そいつが愉快そうにしていることに、ではなく。
自分がそいつに、自分以外の他者に、少なからず関心を抱いたことに。
自分でも不思議なくらい、他者に対して興味など持てなかったというのに。
「ねえ、君もおいでよ。高い所は気持ちいいよ? あ、ついでに靴持ってきてくれると嬉しいな」
密かな混乱に陥っている俺に、そいつはそう声をかけてきた。
促されるまま初めてしてみた木登りは少し手間取ったが無事そいつのいるところまで上がることが出来た。
俺から靴を受け取ったそいつは、「サンキュ。これちょっと大きいんだよねえ。だからすぐぬげちゃうんだよ。困ったもんだ」と言って笑った。
木からの眺めは……、思いのほか気持ちが良かった。
年輪の経た大樹とは言え、たかが近所にある、それも子供が登れる程度の高さの木。
登ってみても、それほどの感慨はないだろうと思ったが。
少しの目線の高さの違いが、これほどの気分の高揚感をもたらすとは思いもよらなかった。
「ね? 気持ちいいよね」
問われた言葉に、俺は無言のまま頷いた。
冬の月。
春の桜。
夏の大樹。
こいつは、いつも綺麗なもの、気持ちのいい場所を探してそこにいる気がする。
「……お前の名前は?」
そう問う俺に、そいつはうっかりしてた、という表情をしてみせた。
「ああ、そうか。自己紹介もまだだったっけ。君とは、もうずっと一緒にいるような気分になるから忘れてたよ。えと、そう言えば君……」
「俺は、辰巳雅紀」
「そうか」
頷いて、そいつはすっと片手を差し出して、満面の笑みを浮かべた。
「ボクは近衛君。どうぞよろしく。ボクのことは近衛君とでも呼んでよ」
次回は一旦もとの時間軸に戻すか、たつみん回想回継続か、まだ未定。
でも4連続した同一サブタイトルは今回で終了です。




