君の名は 2
たつみん回想回です。
近衛、君。
初めてそいつに会ったのは、俺が小学校2年の時。
季節は冬で、時刻は夕方だった。
だけど、冬の夕方は日が落ちるのが早くて、辺りはもう真っ暗だった。
学校へ忘れ物をし、取りに行った自宅への帰り道、そいつは道路に立っていた。
俺と同じくらいの年のようだった。
そいつは、ぼんやりと、空を見上げていた。
何見てるんだろ、と思ったが、そのまま横を通り過ぎようとした。
その時。
「やあ、こんにちは。ん? いやもうこんばんは、かな?」
いきなりそいつが話しかけてきた。
「…………」
俺は返事はせずに、そいつを見た。
そいつは空を見上げたまま、俺に話しかけた。
「君、この辺りの子? そんなぼんやり歩いてると危ないよ?」
ぼんやり空を見上げてるお前が言うな、とそう思ったが、声には出さなかった。
「ん? 自分もだろって? いや君、真っ黒の服だからさ。そういう格好って夜は車から見えにくいんだよね。だから危ないって言ったんだよ。その点ほら、ボクは白いセーター着てるし。我はここにありーってね」
そいつはやっと俺の方を見ると、自分のセーターを引っ張ってみせた。
いや、俺、そもそも返事してないんだけど、何普通に話かけてくんの。
「……あれ? もしもーし、ボクの声聞こえない? あ、もしかしてユーレー? おお、やたっ、ボク初めて会ったよファーストコンタクト。ここで会ったが百年目、お友達になってください」
いや意味わからんし。
つかそれより。
「幽霊違うし」
「お? 喋ったね」
何こいつ、俺に喋らせるためにこんなふざけたこと言って……。
「でもユーレーじゃないのか。残念」
本気か?
「んー、まあいっか。君って無口? 口より心で語っちゃうタイプ?」
何言ってんだ?
「まあ、それならそれで良いよ。あ、ほら見てみなよ、あれ」
そいつは俺の反応おかまいなしに、空を指差した。
つられて俺は見上げた。
そこには。
ぽっかりと浮かんだ月の周りを覆うよう、光の環が出来ていた。
まるで、一枚絵のようだった。
思わず俺は、それに見入った。
「綺麗だろ」
その言葉に俺は無言のまま頷いた。
「月暈って言うんだ、あれ」
そいつは続けて言った。
「な? 普段下や前ばかり見てるとなかなか気がつかないけど、たまには視点を変えてみるって意外といいものだろ? だからほら、今日はこんな綺麗な夜空が見れる」
変な奴だった。
いきなり初対面の相手に言う内容ではない。
が、その時の俺は。
「……ああ」
そんなことを思うより何より、そのふたりで見上げた空の美しさに心を奪われていた。
それが、俺が近衛を知ったきっかけ。
近衛との、初めての出会いだった。
次回も引き続きたつみん回想回です。




