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姉と弟 2

最近更新に非常にお時間かかりすみません。

 コンコン、と控えめにドアをノックする音に俺は顔を上げた。


「兄さん? いい? 入るよ」


「ああ」


 返事をすると、祐史がドアを開けて部屋に入ってきた。


「どうした」


 祐史は朝食を食べるよう呼びにくるということはほとんどない。


 特に休みの日には。


 俺が起きてくるとそのタイミングで用意をするといった流れがほとんどだからだ。


 案の定微妙な表情で言った。


「兄さん、千草さんが来てるんだけど」


「御加賀見が?」


「うん。……まあ、こういった状況だから、一応家にはあげたけど、どうする?」


「おまえが?」


 天敵・害虫・かつのごとく御加賀見のことを嫌っている祐史が?


 軽く驚いて問い返すと、祐史は神妙な顔をして頷いた。


 今まで御加賀見を玄関より先には決して入れなかった祐史が妥協した、となると……。


「恭弥を起こしたらすぐ行く」


「うん、わかった」


 祐史がそう言って部屋から出て行くと、俺は恭弥を起こした。


 寝ぼけ眼で目を擦りながら目を開けた恭弥は、御加賀見の来訪を告げると、瞬時に目が覚めたようだった。


「ね、姉様が……」


「ああ。とりあえず下行くぞ。いいか」


「は、はい……」


 暗い面持ちの恭弥を伴って下に下りていくと、そこには御加賀見が綺麗に背筋を伸ばした様子でソファに腰を下ろしていた。


 そして、俺達の姿を目にすると、すっと立ち上がり見本のような綺麗なお辞儀をした。


「おはようございます、雅紀。それに、恭弥も」


「ああ」


「お、おはようございます。姉様」


 御加賀見は顔を上げると、淡く微笑んだ。


「雅紀、昨夜は弟がご迷惑をおかけして、申し訳ありませんでした。感謝いたしますわ」


「いや」


「恭弥、昨夜はよく眠れて?」


「…………はい」


 恭弥は頷きながら、俺の服の裾をぎゅうっとにぎった。


 どこか、姉である御加賀見に対し恐れがあるようだ。


「ねえ、とりあえず座って話したら? お茶でもいれるからさ。兄さん達は朝食もまだだし、簡単につまめるもの用意するから」


 祐史のその言葉に、俺達は場所を移動して、ソファに座った。


 俺の横には恭弥が座る。


 服の裾を掴んだままで。


 昨日の威勢のよさが嘘のようだ。


 虚勢を張ってただけなのか。


 昨日の一件で御加賀見に恐れを抱いたのか、恭弥は御加賀見をまっすぐ見ることもできないようだった。

  

 基本、俯いているが、時折俺を縋るように見上げる。


 ……何度そう思ったがわからんが、これは、俺の弟ではないんだが。


 でも血縁は別として、実際に名前も忘れるくらいにしか会ってない関係性の薄さなら、恭弥にとって御加賀見も初めて会ったばかりの俺でも大差はないのかもしれない。


 姉、という存在に期待したら、結果はアレだった。


 その時偶然居合わせたなんか面倒みてくれる、コレでいいや、の感覚なのだろうか。


 ……つくづく面倒くさい拾いものをしてしまった。


「……ずいぶん、雅紀を慕っているようですわね。まあ、わかりますけれど」


「ええ、ずいぶん懐かれて迷惑してますよ。まあ、わかりますけど。だから、早く回収してくださいね、千草さん」


 目の前では祐史と御加賀見がわからない会話を交わしている。


 おまえら本当に仲良いよな。


 言ったら即否定が返ってきそうだが。


 御加賀見は小さく息を吐くと、恭弥をしっかりと見つめて口を開いた。


「恭弥、あなたがこちらへいきなり来た経緯は調べました」


 調べたんかい。


 つか聞けよ、昨日のうちに。本人から直接。


「あなた、家から力試しで任された取引、失敗したそうですね」


 恭弥の肩がぴくりと震えた。


 中1でもうそんな話に……、なんて嫌な家なんだ。


「失敗したから逃げ出す、では話になりませんが……」


「…………」


「けれど、あなたが望むならわたくしが力になりましょう」


「……え」


 御加賀見はにっこりと微笑んだ。






 それは、今までと同じようであり、やはりなにかどこか違う、御加賀見の微笑みだった。



御加賀見姉弟次回で終了です。

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