望むもの
問題解決はお姫様自分で頑張ってもらうことにしました。
「……そう、報告ありがとう。もう今夜は下がっていいですわ」
恭弥が雅紀の家に招かれたという報告を受けた後、千草は溜め息をつき、ひとり窓辺に立って外を見た。
雅紀は、面倒事を嫌うのに、目の前で起こる面倒事を捨ててはおけないのですわね……。
わたくしとは、大違い。
少し、自嘲気味な笑みを浮かべる。
御加賀見の家は結果を出して初めてその個が認められるのだ。
御加賀見本家とはいえそれは例外ではない。
両親は常に世界中を飛び回っている。
自身も幼い頃より相応の教育を施され、その期待に外れることなく結果を出し続けてきた。
恭弥は、御加賀見の家の者だというのに、その自覚も覚悟も足りないでいるようだ。
千草がこの場を自身の居場所としていられるのは、それなりの利益を御加賀見の家にもたらしているからである。
いわば、自分の力でもぎ取った自由。
恭弥もそれが欲しければ、高みに上がればいい。
自身の力だけで。
想像はつく。
きっと、恭弥は逃げ出してきたのだ。
御加賀見という家の重圧から。
己に課される期待から。
姉である、千草がそれらから守ってくれるであろうと願って。
信じてはいないだろう。
なぜなら、千草と恭弥の間には、信じられるほどの関わりはなかったのだから。
姉弟とは言っても別々の場所で育てられてきたのだから。
言わば、御加賀見の家を継ぐ、競争相手として。
なんと、浅ましい。
千草が己の家を好きになれないのは、家が家族ではなく、繁栄させる為の道具であるとしか思えないからである。
そして、それを許容してしまう己もまた、同類なのだと。
それを、受け入れられない恭弥に、疎ましさを感じる。
姉、という事実だけで頼ってきたその事実にも。
そして、そう感じてしまう、己に。
嫌悪すら感じる。
「…………雅紀」
恭弥の姿は、雅紀を求める己の姿が被って見える。
わかってはいても、直視はしたくなかったものを見せつけられる、苦痛。
千草は雅紀が欲しいのであって、雅紀になりたいのではない。
絶対を感じられるものが欲しいのであって、他者にとっての絶対になりたいわけではないのだ。
ふと、初めて雅紀に出会った日を思い出す。
あの日の風が、髪をさらう。
記憶が急速に、あの日へと溯る。
そう、あれは。
「おまえか!」
不快な声が、辺りの空気を切り裂いた、あの十歳の、あの日――――――――。
ついでにたつみんとお姫様の関係性の起因もここで回収させたいと思います。
次回、どこかでみた回想回。
お楽しみに。




