迷子
やっと御加賀見弟の名前披露です。
「………………どうした、こんなとこで」
とりあえず、声をかけてみた。
スルーするにはあまりにあまりな情けない表情をしていたからだ。
「…………」
返事はない。
「迎え、待ってるのか?」
「…………」
「迎え、呼ばないのか?」
「……今日は姉様の所へ泊まると断ったから今更またこいだなんてそんなこと言えない」
御加賀見弟は意外と神経が細いようだった。
「じゃあ、御加賀見の家に戻るか?」
「…………」
「……戻るんだよな?」
「……あんな啖呵切って今更戻れない」
どこまで神経細いんだ、おまえ。
少しは姉の胆の太さをわけてもらえばいいのに。
「まさか、ここで一晩夜明かしするつもりか?」
「…………」
御加賀見弟は黙り込んだまま俯いてしまった。
マジか。
放っておきたい気もするが、このままスルーして後で何かあったら寝覚め悪いしな……。
眉を寄せた俺に、それまで様子を見ていたらしい祐史が俺の肩をぽんと叩いて言った。
「大丈夫だよ、兄さん」
お、何か妙案があるのか。
「今の時期なら凍死はしないって」
「…………」
酷いな、おまえ。
はあ、と俺は溜め息を吐いた。
そして、御加賀見弟に向かって言った。
「おい、ついてこい」
「…………?」
御加賀見弟は怪訝そうに顔を上げた。
「隣は俺の家だ。仕方ないから今夜一晩泊めてやる」
本当の迷子ではないが、ある意味これも迷子だ。
面倒くせえが、仕方ない。
子供は放ってはおけないだろ。
「…………」
相変わらず返事はないが、わずかに顔色に生気が戻ったような気がする。
「俺は辰巳雅紀。こっちは弟の祐史。おまえ、名前は」
「…………御加賀見……恭弥」
こうして俺は、自分からトラブルの種を拾い上げたのだった。
あーもー、本当に長い一日だな、ったく。
祐史が酷いですが、基本祐史は兄以外どうでもいいと思ってる人です。
でも兄が決めたことなら(基本)受け入れます。




