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弟 2

今回のコーナーは、再度弟君登場です。

「お帰り、兄さん。食事にする? お風呂にする?」


 それとも僕にする? といつか言われそうで怖い今日この頃。


 どこの新婚さんですか。


 学校から戻ると、かなりの高確率で弟がそう言って出迎える。


 つうかこいつ、生徒会だの部活だの俺より忙しいはずなのに。


 以前それを聞いたら、「最優先事項は兄さんだから、と言って断ったのに、それでも、と言われて生徒会も部活もしてるんだよ。みんなにもそう言ってあるし、了解はもらってる。きちんと仕事も結果も出してるんだから、責められるいわれはないよね?」と返されたので二度と聞かない。


 つか、みんなって誰だみんなって。


 そしてそんなん了解すんな、はあ。


 ちなみに生徒会の仕事は基本昼休み、部活は試合前の練習と試合だけって約束らしい。どうしても、の時だけ放課後や朝にも顔を出すが、その際は事前に俺にお伺いがくる。


 勝手にすればいいのに。


「ね、兄さんどっち?」


 ぼんやりとそんなこと考えてたら、祐史から二者択一の返答を求められた。


「ああ、じゃあ風呂」


「うん。わかった。じゃあお風呂からあがるタイミングで食事出来るよう準備しておくね」


「ああ」


「兄さん、せっかくだから背中でも流そうか」


「いらん」


 せっかくの意味がわからんわ。




 風呂上りに祐史がつくっておいた冷えた麦茶を一気飲みして人心地ついた。


「兄さん、もう食事にする?」


「ああ」


 席に座ると、目の前に出来立ての食事が用意される。


 まずは蕎麦。


 それに出汁から取った手製の蕎麦汁。


 山菜などを丁寧に揚げた繊細な味がする天麩羅。


 薬味は刻み葱と生姜が用意されてる。


 天麩羅の添え物として、塩と抹茶が少し。


 それだけでは腹が膨らまないと、炊き込みご飯の握り飯もついてる。


 それに、茶わん蒸し。上には三つ葉が添えてある。




 年々料理のグレードアップが進んでいる。


 こいつは料理人にでもなるつもりか。


「ううん、褒めてもらえるのは嬉しいけど、料理は兄さんの為だけだよ。職業にする気はないな」


 ……今俺、口に出してなかったはずだか。


「嫌だな。兄さんの考えてることはわかるよ。だって僕は、兄さんの弟だから」


 意味わからん。


「というか推察かな。兄さん、料理口にしないでじっと見てたでしょ。まあ、そこから兄さんの思考回路をたどって、こうかなっと」


 普通思考回路はたどれるもんじゃないと思うが。


「まあ、それはずっと兄さんを見てきたから、だね」


「……」


 少し、恐ろしくなったので、俺は考えを放棄して無言で食事を開始した。



 お、美味い。


「よかった」


 だからおまえ、その人の思ってることに対して返事を返すようなことやめて、まじで。




「ところで兄さん、最近兄さんと仲良くしてくれてる人がいるんだってね。同じクラスの人で、ふたりほど」


 食後の緑茶を淹れてくれながら、祐史はそう言った。


 つか、いてくれるんだってね、ってそれはどこからの情報網だ。


「んー、それは内緒。僕が兄さんのことでわからないこと、あるはずないでしょ?」


 いやいや、普通はわからないことだらけであるのが普通だ。


 実際、俺はおまえがわからない。


「でね、一度、うちに連れてきてほしいな。腕によりをかけての食事を振る舞うから」


「……なんで。面倒くせえし、必要ねえだろ」


「必要? あるよ」


 祐史はそっと俺の前に緑茶が入った湯呑を差し出した。


「だって」


 そして、祐史はなんの裏もないような爽やかな笑顔で笑った。


「兄さんがお世話になってるなら弟としては挨拶させてもらわないと。……それと、兄さんにふさわしい人達なのかも、判断させてもらわないと、でしょう?」


 でしょう? じゃねえ。


 言ってることは全然爽やかじゃない。





 …………どうして俺の弟は、こうなった。

 

なんでこうなった、には理由がありますが、それはまたいつかの時に……。

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